第76話 煤と殉職者
【56:41:07】
「ぉ、俺ェ……地図も何も…持って来てなく、ね??」
一気に、俺の血の気が引いてしまう。
だって、こんな――倉庫の中の、どの路を行けばいいのかとか、前々から思ってたんだけど、ここって1つのアトラクションでさ、迷路みたいなんだ。
みたいってか、迷路そのものか。
「《ワルツダンサー》の…時計もない…持っても、貰ってもないっっっっ‼」
慌てて、俺は来た道を戻って閉じられた扉を叩いた。
ボタンを押そうかも、悩んだんだけど。
「っくっそ!」
【54:39:12】
立体に浮き出る時計に、俺は焦ってしまう。
刻々と時間は進んでしまうのだ、当然の摂理に。
俺は振り返って、倉庫を見据えた。
ショッピングモールのような中で、しかも、本当の入り口のように。
案内所とかもあった。
森林と海と来て――現実的な場所と。
「統一制ってもんはないのかよ! この会社にゃあぁああ‼」
どうここを攻略するかを、俺も考えなきゃいけない。
「ぁ……もう、ヘアピン使えば、ぃいのか?? ひょっとして????」
多分、使えば――任務は終わりだ。
ただ、それでいいのかとも思う。
楽な方ばかりに便利なものに頼ってもいいんだろうか。
「『お兄ちゃん。遊ぼうよ…遊ぼうよ…』」
「っへ?」
悩んでいる間に、俺は人形に囲まれていた。
「『ねぇ、遊ぼう゛よ゛ォ゛ォおおッ!』」
「っひぃ‼」
俺はヘアピンの一ッ星を押した。
カッチン! と鳴った。
「《元に戻って寝ててッ!》」
キラキラと光ると、全ての人形と言えなくとも、大半の人形が地面に落ちた。
俺は、なるべく踏まない様にして走り出した。
止まっていたら危ないんだ。
(取りあえず商品は、俺で確保してから――……っつ??)
色々考えている俺の視界に、真っ黒こげの何かが映し出された。
背すじが、ぞっとしたのは分かるだろう。
真っ黒焦げと分かったことには理由がある。
臭いだ、独特のあの焦げた匂い。
見た目も煤だ。
地面に、それも伏せているから人形だとは思うけど。
何か、この場所には不釣り合いに思えた。
でも、この倉庫内は60分毎に創りが変わるって言っていた。
ような気がしなくもない。
なら、だ。
「……――《殉職者》ッッッッッ??」
俺の足が止まってしまう、目も釘づけになってしまう。
一体、いつの時間の、死体なのか。
俺も、息を飲み込んでしまう。
「――……ん? ぇ、あ゛?!」
また、俺は違う意味で、息を飲み込んでしまう。
ゆっくりと――死体が立ち上がったからだ。
スローモーション並みに、ゆっくりとだ。
「っぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ‼‼」
俺は、勢いよく脱兎の如く走った。
だって、ホラーは大嫌いで苦手分野なんだもん。
【51:09:14】




