第73話 訪れた仕事の時間
むしゃ。
むちゃむちゃ。
「ったく! 何、あれー反抗期なの? 反抗期なのー~~っ」
食パンはきちんと焼かれ、こんがりときつね色。
それを大きく口を開けて。
たくまをおかずに、もちゃもちゃと竜二ががっついている。
「食事んときぐれぇ。黙って食えってんだよっ」
苛立っているのは翡翠も、そうだ。
本当に久しぶりに焼いたパン。
しかも、初めての料理――ハムが焼け、卵も殻を入れずに済んだ奇跡。
それを味わうことなく、たくまが出かけてしまったのだ。
ムカっ腹も立っているのは翡翠も同じな訳だ。
珈琲をぐぃい~~と煽るように飲んだ。
「っはぁ! っあんの餓鬼ぃ」
朝から凶悪な表情を浮かべる二人。
そして、はたと。
「「さっき。呼び出し音……鳴らなかったぁ??」」
翡翠と竜二の声が重なった。
首も、一緒になって横に折れるのだった。
まさか、たくまの隊長勤務とは。
二人は夢にも思っていないだろう。
◆
「……ぅん~~かずま、とか?」
「『それでいい。呼びやすそうだしな』」
トトナがそう言うんだけど。
俺的には、他にいい名前があると思った。
何気に言ったアニメの主人公の名前なんだけど。
「いいの?! こっから先、そう呼ばれるんだよ??」
「『構わん。どうせ、呼ばすのは主だけだ』」
ギュイぃイぃイインンンンッッッッッ‼
「ん?」
ギュイぃイぃイインンンンッッッッッ‼
荒々しい運転をした車のタイヤの音が聞えた。
「ンんん??」
パァアアアアンんんっっっっっ‼
クラクションが鳴らされた。
そして、俺のまん前で回転して止まった。
前を塞がれた格好に、俺は唖然に呆然となってしまう。
「手前が《牛男たくま》だな?!」
窓を下ろした中の運転手の男が。
俺の名前を、俺に確認させるかように聞くもんだから。
(本名の方を名乗っちゃおうかな……)
躊躇った俺に男は、
「うっし! 今から連行すっから!」
応えない俺に頷くと、車から出て来やがった。
「っちょ!」
「暴れんなっ」
がし、っと俺を脇に挟むと、後部座席に乗せた。
「ひゃん! ひゃん!」
「……手前もだ。トトナ」
顔で乗れと合図をする男に、ぴょん、とトトナが乗り込んだ。
そして、扉が締められた。
だら。
だらだらだらだら――……
「手っ取り早く言うとっだ! よぉおおっと‼」
乱暴な運転には馴染みがある。
少し、嫌な予感がするのはどうしてだろうか。
「僕は鯨ヶ浜霧の向日葵室長補佐の依頼で、手前を拉致しに来たってんだよぉおお! っとぉおお‼」
「っひ!」
「これから一丁、働いてもらうっぜぇええっっっっ‼ 《死星のたくま》さんよォおお‼」
きょとん、となってしまう。
何、その二つ名的な――微妙な、名前は。
◆
「どうして! 出勤要請に反応出来ないんだ! 馬鹿糞野郎っ!」
着いた早々に、俺は襟足を掴まれてしまった。
徐々に持ち上げられる俺の身体。
「っく、るしぃっ」
「っふん!」
キリちゃんさんが腕を振り払って。
俺の身体を飛ばし捨てた。
「っぎゃん!」
「早く商品を取りに行け!」
「まぁ、まぁ。鯨ヶ浜室長補佐官」
「ジャン。あんたが倉庫に案内をしてやってくれるか?」
「ええ。喜んで」
2人のやり取りを、俺は床に腰をつけたまんま見ていた。
どうやら俺は、これから1時間帰れそうになれないよ。
ごめん、おじさん。




