第72話 朝からのアラーム
過ぎ去った嵐の後の新たな嵐の前触れは。
突発的に発生して、突如として進路を変える。
それはまるで――人生の一幕と劇のように。
開幕の音を立てて。
始まるようだ。
◆
ピピピィいいい――……ッッッッッ‼‼
「!? んぁあ??」
けたたましく鳴った音で。
俺は目を覚ました。
「?」
「ひゃん!」
俺の胸の上には、トトナが腰を下ろしていて。
顔に肉球を押しつけていた。
「ぉ、はよぉ~~ぅうう~~」
「『寝起きが悪いのは、普段の運動不足の為による筋肉痛と――』」
「はいはい! 起きる、起きるからっ」
俺が起きると、
「? えぇっと?」
周りに誰もいない。
「‼ えぇっと??」
俺は慌てて置き上がってリビングの方へと走った。
「あーおはよー今日はきちんと、模擬体験に参加しょーねー」
「おはよぉ。昨日、無花果君に買わ――買って貰った食材で作ってみたよぉ」
にこやかにめちゃくちゃに段ボールを漁ったことを伺わせる。
しっちゃっかめっちゃかな、室内は。
まるで、
(泥棒が浸入したかのような有様だ)
俺は唖然と、失笑してしまう。
机の上には皿の上に置かれた食パン。
間に、間にハムと卵がはみ出ている。
さらに、コーヒーが3缶置かれているじゃないか。
(『料理道具を探して、このような有様になったのだ。察してやればいい』)
トトナがそんな有様のリビングに向かう。
どうも、腹は減っているようだな。
「ひゃん! ひゃん!」
「「…………」」
「ひゃん! ひゃん! ひゃん!」
おじさんと翡翠さんが、互いを見つめ合わせ。
「「ドッグフードはないなぁー」」
声を合せた。
確かに、トトナは犬だ。
確かに、人間と同じものを与えることは出来ない。
俺はトトナを見た。
「じゃあ。俺、コンビニに行ってきますね。スタートトナの散歩もかねて」
俺は目の前の食事に喉を鳴らしたが。
《作業着》のままで寝ていたから。
そのまま行くことが出来る。
だって、私服ないし。
叔父さんに剥ぎ取られたまんまなんだもん。
「や。食べてから行けばいいじゃねぇかよっ」
「そうだ。それが礼儀ってやつなんじゃねぇのかァ゛??」
◆
「あー~~腹減ったぁ」
「『わしも腹が減ったんだぞ。この姿のままで食事も抜きで放置だれたからな!』」
「それはきちんと言ってくれないと~~」
「『気づけ! 主達はいいものを食していたなぁ!』」
嫌味に次ぐ、嫌味と苛立ったトトナの声の棘に。
「頑張ったんだから! いいじゃないかよ!」
俺だって、いい加減に苛立ったって。
少しばかし、言い返したっていいはずだ。
叔父さんである恵比寿吾妻に部屋を襲撃されて。
親父からは親子を絶縁された。
そして。
今、いる山中内部――《ワールドルーツ》王国に拉致され。
強制収容における労働を強要されて。
おじさんと出会って。
会社と、親父に認められたいから頑張ることを決意して。
「あんなに頑張ったんだ! 俺……俺っっっっ‼」
おじさんの正体と家庭事情を知り。
おじさんの兄さんの翡翠さんと出会って。
他の従業員と――魔法使いに出会った。
「あんたを含めて、殺してまで! ゲーセンの勝敗を不正染みた真似をしてまでッ!」
何かの変わったヘアピンを貰って。
何とか――無事を装って仕事をし終えた。
後味が悪いんだ。
何もかもが。
それを俺は平静を装って。
おじさんを誤魔化して嗤ってる。
「『どうした。混乱しているぞ、たくま』」
「分かってる……こんなの八つ当たりだ。ごめん、トトナ」
「『いい。そんな不可解で繊細な主に惹かれ、惚れたのだからな』」
「………ん? え? ……よく分かんないけど。トトナ、人間の姿に戻れば。何でも食べれるよな?」
俺が顎に手をやってトトナを見た。
「『帰化申請が終わらないと戻れないのだ。事実、今は半ば失踪中になっているのだからな』」
淡々と言うトトナ。
俺には正直、理解が出来ない。
異人を捨ててまで、どうして地球人になりたいのかが。
しかも、俺なんかと一緒にいたいだとか。
「じゃあ。コンビニの行く間に、名前とか考えようか?」
このとき俺は気づいていなかったんだ。
俺を起こした音が。
出勤要請だったなんて。




