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第71話 事情と情事

 熱い波も過ぎてしまえば――後悔に変わることは。

 ざらにあるものだ。


 ◆


 酔いも覚めてしまった。

 夢の中から目が冴えてしまった。

 それこそ。

 ヤメ時も、引き時もあったはずなのに。


 食欲が済めば、性欲が顔を出す。

 溜まってしまったものが、乗せられて。

 腰を激しく、何度となく振って、奥へと突き上げてしまった。


「っしゃ……シャワーにぃ、行くかな」


 身体に衣服を軽く羽織って、寝っ転がっている君島を横目に。

 鼻息と、ため息を漏らしてこっそりと行く。

 閉じていた目を、君島も薄く開け。

 竜二の背中を見据えて、居なくったのを確認して。

 大きく息を吐いた。


 彼女は真っ裸の状態で、あっちこっちと。

 歯型やら、キスマークなどがあった。


「っや、っば~~……めっちゃくちゃ、ぃ、たい……」


「んぅと? 愉しんだのかなぁ?」

「! っきゃ! ……ミドリっ」


「あぁ゛ん?? 呼び捨てかよ……っち!」


 目を細めて舌打ちをするも、

「気が済んだってんなら、とっとと失せな」

 冷たく彼女に言い放った。

「はぁ?!」

 思わず、君島も聞き返してしまう。


「お役御免だよぉう」


 淡々と。

 翡翠も君島に言葉を続ける。


「キミとはただの性処理に過ぎないもぉん」

 見る見ると。

 君島の表情も真っ赤に染まっていくのが分かる。

 ぶるぶる、と身体も小刻みに、怒りの為か震えて出していた。


「肉欲と性欲の掃き溜めをしたに過ぎないんだよ――……雌豚が」


「ミドリ……教えて。あの人の奥さんは……いるの? どこに?」

「リュージくぅんの奥さん? それは――ここん中だよぉう」


 トントン、と指先で。

 翡翠が自身の胸を、指先で軽く突いた。


「もういい! 帰るわよ! 覚えてなさい! 次に勤務が一緒になったら――あんたを真っ先に殺してやるっ!」


 手早く着替えると。

 怠そうな足取りで君島は部屋から出て行った。


「おぉう。怖っ」

 

 シャワー室から漏れる音に、翡翠ははにかみ。

 大欠伸をすると目を擦り、

「寝ようっと♪」

 和室のたくまの横に寝っ転がって毛布を被った。


 翡翠が、正直に言うことはしないが。

 別に煽りたくて、ああ言った訳ではない。


(……あの女のことを早く忘れちまえってんだよ……)


 20年もの間、燻った分。

 早く、彼を支える、彼が支えたくなるような存在を見つけたかった。

 そうじゃなければ。

 子供が儲けずに、このまま独身で死んでしまえば。


 《獣王》は途絶えるのである。


 群青家の存亡にも関わるのだ。

 いくら姉と兄に子供がいようとも。

 翡翠のように譲度をしなければ――大きな財産が失われるのだ。


「あぁ゛~~メンドくせぇったらねェなぁ゛っ!」

 

「んぁ?! んぅ~~……」


 思わず叫んでしまった彼に、たくまも目を覚ましたが。

 すぐに目を閉じた。

 むくり、と翡翠が起き上がり、顔を掌で覆った。


「後悔なんかしねぇよ! んな、オイラだって! 譲度なんざしたくなんかなかったさぁっ! ただ! ただ――……無理だったんだ! オイラじゃ……無理だったんだよっっ‼」


 ひどく狼狽した表情で。

 顔色も真っ青になっているのだが。

 真っ暗な室内からは見えない。


「そんな業を――子供に背わせたくもなかったんだ!」


「あれー兄さん。寝てなかったの?」

「!?」

「っはぁ~~あの人を起こさなきゃー」

 深いため息を吐いて、リビングに行こうとする彼に、

「君島くぅんなら帰ったみたいだぜ?」

 そう言う。


「そっかー帰った、んだ……あべこさん」


 安堵の息を吐くような竜二に。


「オイラ寝てたんだけどさぁ。ナニかあったのぉ?」


 嘘八百で。

 弟をからかう翡翠。


「っな、ない! 何もない――~~っ!」


 その様子を、パグになっているトトナが。

 ずっと見ていた。

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