第69話 紫陽花の災難
「っはー~おじさん生き返ったよー」
おじさんがお腹を擦りながら、満面の上機嫌な笑顔だ。
それとは裏腹なのは――紫陽花だ。
俺に奪われただけではなく、会計もさせられたから。
顔からは生気がなく、小刻みに身体を震えさせている。
「っほ、本当に……っこ、こんな新人に恩を着せれば……いぃことがあるってんっすかぁあ?!」
「うんうんんン♪ あるあるってぇ、本当、本当ぉwwww」
紫陽花の奴の背中には、翡翠さんの手が置かれている。
(――……オイラは忘れないってのよぉ)
低い口調の地が出てる翡翠さんが呟く声が。
俺には聞こえた気がした。
「え?」
聞き返す紫陽花の奴から、身体を離すと翡翠さんは。
「いやいやwwwwっはっはっは! ゴチっしったァあ‼」
押忍とばかりにお辞儀をした。
俺も御礼をしなきゃなと思ったから、
「あっざっしったぁァ!」
翡翠さんの横に立って、同じ、仕草をした。
「んな感謝の仕方があっか! っざけんじゃねぇぞぉ?? たくま君??」
手で額を強く掴んでくる紫陽花によって、頭もミシミシと鳴る。
「あ゛、っだっだっだ!」
「あのーだからーおじさんねーまだー食べたいのー」
「はァ?? あんた、あんなハイカロリーなもんばっか食べたってのに、まだ食べる気でいる訳??」
驚くあべこさんに、
「おじさんの胃袋は宇宙だよー」
両手の人差し指を差すのが見えた。
「家はどこなの? 作るわよ?」
さっきまでの《作業着》ではない私服のあべこさん。
夏で少し大胆に、肌が露出している。
モノトーンのタンクトップに、太ももまでしかない短いデニムのパンツ姿。
背中にバックが背負われていた。
◆
「……――なんでだよ……俺が何をしたってんだよぉ~~」
どっすん、マイバックを段ボールの上に置かれた。
萎れている紫陽花の奴が泣き出しているよ、翡翠さん。
「わぁ。ごっめんねぇ、助かっちゃったよぉwwww」
これも彼に驕らせて買ったものだ。
見かねたあべこさんも払っていた。
◇
『ボク達ぃ。貧乏なのよぉ。来月の給料日までぇ、お金が全くないのぉ。たくま君もだよねぇ?』
◆
翡翠さんの言葉に。
紫陽花の奴が、俺を鋭い目で見たのを思い出した。
「バーバーバロンって1DKな上に狭っ! てか、この段ボールも解きなさいよ! 全く、してないでしょう!?」
「後でするからー早く作ってよーあべこさー~~ん!」
「……無理」
「えぇ~~何でなのー」
「無理ったら無理……」
「だから。何でって――聞いてんじゃん!」
「料理道具一式もないからよ! 調味料も、なんかもかんもねっ‼」
「「「「あ゛~~……」」」」
二手に縛った髪の毛を掴み、前で顔に合わせる仕草をする。
ちょっと可愛いなと思っちゃったけど。
◆
「やっぱりピザだよねーうっまぁ~~!」
宅配ピザ4枚と、サイドメニューのポテトとチキンのコンボ。
他にラーメンと炒飯。
を。
紫陽花が支払った。
「無理無理無理ムリぃ――~~っつ……ぅ゛、うう゛う゛~~」
床に顔を仰向け寝っ転んでしまう。
帰ればたかられないのに、こいつは馬鹿なのかな。
いや、逆にいい奴なのかも。
「もしも、紫陽花に何かあったら。必ず、俺は駆けつけるからな」
チキンを頬張りながら、俺は力強く頷いた。
「んなときなんか起きるか! 馬鹿野郎っっっっ‼」
「あるかもしんないじゃんか」
「ないない!」
言い合う俺達を他所に。
ビールとワインも飲み始めたあべこさんが。
おじさんに指を差して聞いた。
「乙女。あんた、何歳なのよ! おじさんって言ってるけど!」
「オレぁ。よんじゅ――」
「20歳になったっばっかりなんだよぉう。ボクぅ、22歳だよぉう」
口を抑え込んで翡翠さんが言うと、
「あんたのは聞いてない」
真顔で翡翠さんを拒否をした。




