第68話 賑やかなテーブルで
「はァ~~い♥ お待たせしましたぁ~~ミートスパゲッティでっす♥」
俺達が紫陽花に連れて来られたのは。
ここのゲーセンの中のテナントで。
《チロローレ》ってパスタの店だった。
「激盛りMAXの客様~~どちらでしょうかぁ~~♥」
店員さんの言葉に、俺は手を挙げた。
「っは、はい!」
ホカホカな湯気の立ち上るミートスパ。
「はい。それでは失礼しっまぁ~~すぅ♥」
シャーとローラースケートで走る様子に。
「あっぶねぇなぁ~~あの店員さん……」
「慣れてんの! それが仕事なの! ほら! とっとと食えってんだよ!」
バンバン! とテーブルを叩いて、大口をたたく紫陽花。
俺の横だから、唾も飛んでくる飛んでくる。
「すっかり仲良くなったねぇ、オジサンってば♪」
「っな、仲良くな――」
「っど、っこが仲良く見えんの? 何、あんたのその眼鏡は伊達がなんかなんですかあ~~?? レンズは入ってるんですかぁ~~????」
怖いモノ知らずの紫陽花が。
翡翠さんの眼鏡へと指を伸ばした。
ぱし!
「!?」
「……止めろ。触んなっ」
紫陽花の腕を掴んだのはおじさんだった。
顔色は悪いけど、やっと起き上がったんだ。
「――……? えっとーあのーンんン???? ぇ、えぇと????」
腕を掴んだ相手の顔を見て。
おじさんは硬直して、翡翠さんの顔と俺の顔を見た。
俺と翡翠さんも、大きく頷いた。
「「知らない人でっす」」
「ぅお――~~ィいい! っざけんじゃねぇええよォおおッッッッッ‼」
大声で泣き喚いた紫陽花に、
「ぅ~~んと? 初めましてーオレーくまちゃんの相棒の早乙女リュージってのー」
腕を掴んでいた手を、そのまま手へとやり、握手をした。
「くま? ……――くまちゃんって言うんだァ~~オジサンは~~♪」
にやりと俺を見る紫陽花。
思わず、背中もざわついてしまう。
「えー~~オジサンって、おじさんのこふょ~~??」
おじさんが気がつけば、勝手にフォークを握り。
皿も、いつの間にか自身の前に置いて。
口ン中、いっぱいにミートスパを頬張っていた。
リスのようにパンパンな頬が、もぐもぐと動く。
だから、あっという間に皿も空っぽになっている。
「もーない……少ないの? この店ってー」
口許が真っ赤にトマトソースまみれのおじさんが。
唇を突き出しながら言う様子に、
「おい! っざっけんじゃねぇよ! このミートスパの量は4人前だぞっっっっ‼」
紫陽花は、また怖いモノ知らずから。
おじさんの頭を、乱暴に撫ぜた。
ぱし!
「!?」
その腕を掴んだのは。
「あんた、こんなところで和気藹々として! 悔しくないの??」
まさかの。
「ぁ、べこ……さん」
「? あれ、え? 牛男じゃないの」
君島あべこさん。
「って……ことは?」
あべこさんがおじさんの顔を見た。
「あー~~やっぱり! 乙女じゃない!」
「……あべこさん……どもどもー」
あべこさんとのテンションとは違い。
おじさんのテンションは低い。
多分、まだ、足りないんだろうな。
「口のトマトソースすっごいついてるわよ~~あんた」
フォークの入っていた紙ナプキンを取り出すと。
口を拭こうとする彼女に、おじさんの背後から。
とてつもない威圧感を醸し出す、翡翠さんが低い口調で聞いたんだ。
「――……手前は誰だよ。あァ゛?」
「私は君島あべこ。今日、私の部隊にこいつらがやって来て掻き乱して大変だったのなんなのって! そういうあんたは誰なのよ??」
眼鏡の中の目が一瞬、細くなったような感じだったけど。
すぐに目を大きくさせて、ほくそくんだ。
「――……ボクぅ、リュージ君の兄ちゃんのミドリでぇっす♪」
おじさんみたく両手の人差し指を差して自己紹介をするも。
あべこさんが、ドン引きをした。
「っに、似てないっ! 嘘を吐くなァ‼」
「え」
翡翠さんの口がへの字に変わっていく。
見てる俺も、そんな顔になっちゃったよ。
「っこ、こんな可愛い顔の男の兄が! そんな邪で怖い顔をするわきゃないでしょうが‼」
「「「ぇ」」」
思わず、俺と紫陽花とおじさんの声が同調してしまう。
「ぃ、いい度胸してんじゃなぁ~~いぃ?? あの娘を思い出しちゃうんですけどぉ~~兄ちゃんンん‼」
口端を引きつかせながら、翡翠さんがおじさんに言う。
一体、誰のことを言っているのかなんか俺には分からない。
「……似てないよ。全然」
苦笑交じりに言うおじさんの表情に。
俺の胸も痛くなってしまう。
「はァ――~~い♥ お待たせしましたぁ~~シュリンポロッソとデミカツカレーでごっざいまっす♥」




