第61話 たくまvs紫陽花 準備
「じゃあ! まずがMOOの会員カードを出して下さい! もしくは、ご購入の程、よろしくお願いします!」
「あー~~……あの。俺、無一文でして……すいません。棄権しますね」
「そうなの? 《P通貨》もないの? 君」
「……ないです。今日からの勤務なので」
俺はしどろもどろに、井之頭さんに言う。
するとだ。
「じゃあ! 俺が自費で買ってやるわ!」
「ぇ、ええ?! や、いいです! 何か怖いもん!」
俺は両手を左右に大きく振った。
なのに、
「はい! 買ったった! これをメインでニックネームの登録をしてくれ!」
指先でカードを回しながら、満面の笑顔で井之頭さんが。
カードをメインのモニターへと差し込んだ。
・パスワード(必須)
・ニックネーム(必須)
パスワードは誕生日でいい。
問題はニックネームだ。
ニックネーム:
《たくま》は安易だ。
《牛男》は問題外だ。
《恵比寿》ってのも、叔父さんにバレたくないし。
ニックネーム:オジサン
武器:英雄の拳
問題は、魔法使いから貰った、アレだ。
登録しても怒られないだろうか。
でも。
登録しちゃうけどね。
武器:英雄の拳 三ツ星の霹靂
これが凶と出るか、吉と出るか。
「はい! 登録完了したね! てか、オジサンってwwww」
井之頭さんが噴き出して笑った。
俺の憧れはおじさんだ。
おじさんのように強くなりたい。
おじさんのように真っ正面から立ち向かいたい。
「本当にさぁ~~オジサンってどうなのよ! センスの欠片もねぇじゃんかwwww」
そう爆笑しながら膝を叩くのは。
俺の対戦相手だ。自信の表れなのか、アイマスクもしていない。
「よろしくな。あんた新人なの? ゲームはしたことないっての? ズブの素人ってことか?」
「今日、こっちに勤務させられたからね! それに俺、ゲーセンとか行かなかったし!」
苛立った俺も、声を荒げて、言い返してしまう。
そんな俺をニヤニヤと笑いやがる。
「まぁ、まぁ。人生の半分損しちまったねぇ~~あんたwwwwで。何を賭けんの? つぅか、俺があんたから貰いたいもんが、全っっっっくねぇし!」
膝をバンバン! と叩く様子に、
「ゲームで賭けるのは法律的にアウトだろう!」
俺が、法律的なことを言う。
「オジサン。ここは《ワルツ国》で、一般の法律は問題外なんだよwwww」
井之頭さんが、俺の頭を優しく撫ぜた。
子供扱いされたことに頬を膨らませてしまう。
「まー君も、この国の住民だ。染まって、慣れて、頑張って頂戴♪ さ。席に座って」
俺は背中を押されたから、椅子に腰を下ろした。
真っ正面にアーケードゲーム筐体。
そこに座るのが対戦相手のアイツ。
壁には三面のモニターがあって。
俺と、アイツが映っている。
「『はい! それでは対戦を行います! こちらはニックネームが《アジサイ》選手! 当店における万年4位の実力者!』」
井之頭さんが、マイクに声を張り上げて。
自己紹介をし始めた。
「『こちらの対戦相手の彼は初心者! それでいて本日勤務のド素人はニックネーム《オジサン》選手でっす! 両者は賭けの宣誓をして下さい!』」
紫陽花って奴が、手を挙げた。
「今回はなしでいいぜ! 明らかに何も持ってねぇし~~で。万が一、このド素人が俺に勝ったっちまったら、何でもやるし、隊にも入ってやるぜェ! 《隊長資格》も持ってるんだぜェ!」
「や。要らないデス」
俺は丁重にお断りをした。
俺にはおじさんと、翡翠さん。
帰化をしたらトトナもいる。
ただ。
「隊長、資格????」
その言葉に魅力を感じた。
胸もグラついた。
このときの段階で。
俺自身に《隊長資格》があるとは知らなかったからだ。
「考えておきます。さ、ゲームを殺り合いましょう」
俺は改めてアーケードゲームのレバーユニットを観た。
左のレバー。
右に八つのボタン。
(勝てる気がしねぇんですけど~~)
俺は眩暈を感じてしまう。
でもだ。
「俺だって! 役に立ちたいんだよっ」




