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第60話 主役不在の主役の嘆き

 店内だけではなく。

 この辺り一帯に轟くように、響き渡るマイクアナウンス。


 ◆


「ぅ、っぎゃっわっわぁ~~‼ っみ、ミドリっすわぁああんンん??」


 身体が硬直してしまった俺の背中を。

 翡翠さんが押してくれて。

 ようやく歩ける俺は、なんてヘタレなんだろうか。

「怖くない。怖くないよぉ。たくまくぅん♪」

 肩を揉み揉みとする翡翠さんは、にこにこだった。


「翡翠さん……選手交代しませんかぁああ?!」


 本気な口調で、俺は翡翠さんに懇願するかのように。

 言ったのだが――


「ないない! ないねぇ、無理無理ぃ~~」


「無理じゃなくてぇ~~ミドリさんが参加して下さいッッッッッ」

「無理無理ぃ。ボクぅ……ゲームって好きくないのよねぇ」


「俺もですけどぉおお?! っちょ、っとぉおお‼」


 喧々囂々と、俺が一方的に翡翠さんに言い合うも。

 無情にも。


「! ぇ、っと?? エントリーNo.81でお待ちになっていた牛男たくま様……ぇ、ええっと? どちらさんがですかねぇ? 2人同時のエントリーじゃなかった……ですけど?」


 スタッフの人が苦笑交じりに。

 頭を掻きながら、翡翠さんと俺の顔を交互に見た。


「どちらがエントリーされた方でしょうかね?」


「そりゃあさぁ? 決まってんでしょおぅ? こっちの若いヤツさぁ」


 低い口調で翡翠さんがスタッフのお兄さんに。

 ほくそくんだ表情を向けると、

「あ、っそっスか。ほいほいっと……え、えぇと? 牛男君、社員証と球持って来てるか?」

 鉛筆の芯で、頭を掻きながら俺に聞く。


「?! っはい! 持ってます‼」


 俺は社員証と球をポケットから取り出した。

 それを確認をしたスタッフのお兄さんが。

 手に持った端末に、打ち込んでいく。


 タン!


 何かのボタンをスタッフの人が押すと。

 店内の照明が、映画上映するかのように。

 徐々に暗くなっていった。


「牛男選手! スタンバイをお願いします!こちらのアイマスクもつけて下さい!」


「っへ? え゛」

「あのぉう。ボクも横にいて――」

「! ミドリしゃんンん~~」


「だっめっでっす! オンリーでの対人戦なんで♪」


 腕でバツを作って、満面の笑顔をするスタッフ。


「初めてってんなら。俺が横につくしね」


 親指を突き出して、ウィンクしながら俺に言う。

 ノリについていけないのは、イケないことだろうか。

 だが。

 こういうノリがゲーセンならではの空気なのかもしれない。

 一回も、行ったことがないけど。


 多分、そんな空間なんだろう。


「ぁ、りがとうございます……ぇ、えっと……」


「俺ね~~井之頭っての。よろしこね~~」

「っは、はい」


 頷く俺を井之頭さんがゲーム筐体へと連れて行く。

 この時点で、翡翠さん達は。


 モブになってしまった。 

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