第45話 肉喰のイカ
夥しく流れる血液の量に、俺にだって分かるさ。
また、またなんだ。
恐らく――諸星さんがイカによって負傷をした。
【20:48:00】
「『っふ! っふ! っふ! 大丈夫じゃ! さ。中に行くぞ‼』」
空気の中に入ると、至って普通の倉庫の棚があった。
どた、と倒れ込む音に俺は目を向けると。
「!?」
両腕のない諸星さんが、アバも解けた姿で転がっている。
その横で顔面蒼白の津軽さんがアバを解いて。
寄り添いながら、泣きじゃくっていた。
「『トトナ君! 牛男君‼ 一緒に来てもらえるかい?』」
雷神の姿のままの源さんが、俺とトトナに声を掛けた。
「っは、はい!」
「ああ!」
源さんに賛同しながら、俺とトトナも頷いた。
とりあえず、二人を残してでも。
俺達は仕事を完遂しなければなんない。
それは、負傷した諸星さんの為でもある。
このまま確保もなしに帰れば。
リーダーとしての諸星さんは、剥奪かなんかされると思うし。
体裁を、職務を全うすることが。
《社蓄魂》ってヤツだろう。
【17:49:18】
「ぁったー~~っっ‼」
何とか俺達は《訳アリ乾物6点せセット》を確保して。
ポシェットへと仕舞ったんだけど。
時間はギリギリなものだと思う。
「『よし! 戻ろう!』」
「っも、戻るも…また、泳いでですか??」
俺は、しどろもどろに言う。
「だって、諸星さんの血液がさらに流れてしまう、じゃ……ないですか」
そんな俺に源さんが応えた。
「『ここが《海中》の倉庫で助かったと思うよ、僕は』」
源さんの言葉の意味が、俺は分かっていなかったんだ。
でもすぐに、その意味が分かった。
ぶくぶくぶくく――……
「泡ジェットって奴ですね」
丸く空気を切って。
風船状にして、中に5人が入り。
勢いよく、出入り口へと一直線に向かう。
100キロ以上があるだろうと思うくらいに。
辺りの光景が、光りの速さで進んで行くんだ。
でも。
ガッツン!
ガッツン! と。
イカの群れが体当りをしてきているのか。
大きく左右に弾けてしまう。
徐々に、勢いが弱まっていくのも分かる。
「っこ、のまま! っか、帰れそうなんですか?? 源さん?!」
俺は源さんに聞いた。
風船内には諸星さんの負傷による血が溜まっている。
怪我を負っている諸星さんは、
「……っのままでは、止まるのは時間の問題じゃ」
荒く息を吐きながら、真っ直ぐ前を見据えていて。
貫禄が違うと、思った。
おじさんと同じ――従業員の目だ。
「『はい。そうです、止まります……間違いなく』」
源さんが目を細めて諸星さんに言う。
「ぇ」
俺は小さく聞き返してしまう。
それに、
「あのイカは最下位で、頭の弱い者じゃから、鉄砲玉のように向かって来るのじゃ」
トトナが俺に薄ら怖いことを言う。
「獰猛な肉食でな、従業員を喰うのが好きなのじゃよ」
「っに、肉食?!」
「うむ」
腕を組んで頷くトトナを、俺は二度見ぐらいしてしまう。
そんな、ことがあっていいんだろうか。
「《殉職者》って……」
「うむ。言葉のまま――食われた従業員の名称じゃよ、タクマ」
ぶくぶくぶくく――……
【15:31:09】




