第43話 諸星日向 負傷。
トイレに行って迷った挙句に、知らない従業員にまた拉致されて、商品確保の隊に巻き込まれて《訳アリ乾物6点セット》なる商品確保をする羽目になった。
本当に何て日なんだよ。
◆
目の前に現れた怪物は《イカ》だった。
そこはやっぱり、場所になんとなくあった人材が配属されるものなのか。
俺は冷静に思ってしまう。
「主は。わしら異人との《遊戯》の経験はどうじゃ?」
「ぁ、ふたぁ~~?? 何だよ。ソレはどゆう意味なんだ??」
俺が首を捻ると、トトナは細い目をさらに細めた。
口はへの字になっていくのが見える。
恐らくは、俺を軽蔑か何かしたんだろう。
だから、さっきからペーペーだって言っているじゃんか。
その耳は節穴か、何かなのかな。
『ギョぉオオオッッッッ‼』
怪物の声に俺は、視線を前に戻した。
大量の墨が噴き出された。
「『っは!』」
そのスミを、津軽さんが羽根で海水を前へと仕向けた。
諸星さんへの向かったスミも掻き消されていく。
逆に向かって来た墨にイカも泳ぎ逃げて行った。
「『津軽ちゃん。助かったわ!』」
にかやかに諸星さんが尻尾を大きく揺らした。
「『諸星隊長っ! 先に進みましょう!』」
源さんが諸星さんに言うと諸星さんは俺に確認をしてきた。
「『牛男君! 時間は??』」
突然のことに、俺も時計を慌てて見た。
【36:12:40】
「っさ! 36分です‼」
「よし! 行くぞ‼」
腕を伸ばした瞬間だった。
ブッシュゥううう‼
「っへ」
頭上からスミが諸星さんの肩へと噴き出された。
俺の目の前で諸星さんの右腕が剥がれ落ちた。
真っ赤な血が辺りの海水を染め上げていく。
「『っぐ、ぉおおおおッッッッ‼』」
突然の衝撃と痛みに、諸星さんの口からもくぐもった声が漏れた。
それはもちろん。
「『っい、いやぁああああッッッッ‼』」
婚約者の津軽さんの口からも絶叫は迸った。
「っへ??」
俺は殺伐とした状況を、呑み込めないでいた。
横にいたトトナも、俺の身体を後ろへと突き放した。
「ヒナタ!」
顔を真っ赤に、さっきまでの無表情は想像も出来ない。
「そいつは変化系だ! 見えないぞ‼」
今さらな助言に、俺はまぬけな顔しか出来ない。
「……もっと。早くに言えよ……お前」
惚けた俺の声に、トトナも絞り出すように言う。
「敵側への留学生のわしには手は出せんのじゃ! どんなに親しくなろうが、所詮はわしじゃて、主らんにとっては敵なんじゃぞ!? じゃからっ! 敵に塩も、手助けも出来んのじゃ‼」
とても、悔しそうな彼の表情に。
「っ、源さん! 何かで――」
「『……今回は僕の《雷神》とは相性が悪いんだ‼ 最悪……お前らも巻き込むぞっっっっ』」
「源さん」
「『くっそったれが‼』」
「わしが……規約を破ろう! そんで、主らを守るとしょう!」
口を噛み締めながら、覚悟を決めたとばかりにトトナも言う。
とても、勇ましくカッコいいとさえ思った。
「『トトナ! 儂は許可せんぞ! 止すんじゃぁ‼』」
剥がれ落ちてしまった腕と、傷口をそのままに。
諸星さんが激昂した。
「っし、しかし! ヒナタ! 主はっ! 主がっっっっ‼」
「『いい! 儂よか、あんたの将来じゃ! ささ! 行くぞ‼』」
真っ赤な血が辺りを漂い。
そのおかげで、イカの生息位置も把握することが出来た。
見つけたイカを津軽さんが羽根で切り刻んでいく。
鬼気迫る表情と、真っ赤な目でイカをせん滅していく様を。
俺は忘れることは出来ないだろう。




