第42話 状況、悪し。
「こっちに曲がったんだよなー?? あの馬鹿は‼」
竜二がたくまが間違って曲がった方向へと足を走らせた。
そこからは道は多数にあって。
どこをどうとも、検討もつかないほどだった。
「あー~~もぅ゛!」
歯痒く言う竜二に翡翠も横に立った。
「本当に親子みてぇだなぁ。君とたくま君は」
っふ、ぅううう~~……
すぅうう――……
「あの頃みてぇになるんじゃねぇぞぉ。群青の末っ子君??」
っふぅうう~~……
煙草の白い煙を竜二の顔に吹きかける翡翠。
「っか! っは、ごっふ! っこ、のぉ゛! けっむでぇ゛!」
手で煙を振り払う様子に、
「ボクが行こぉうかぁ? たくま君、探しにぃ」
翡翠が首を傾げて言うのだが、
「兄さん……何か、企んでるの? いや、こう~~なんつぅかさーこっから逃げようとしてないか?」
彼の顔色に何かを感じた竜二が聞いた。
聞かれた方はと言うと。
「まさかぁ。そんな訳ないじゃないかぁ」
平常に言っているのだが。
小刻みに翡翠の身体が揺れ出していた。
「? 何、なんか――《視た》?」
竜二は翡翠の顔を覗き込むと肩を殴った。
「……どうなんだよ。兄さん」
翡翠は眼鏡を指先でたくし上げた。
「秘密だよぉ」
眼鏡の奥の目は涙で光っていた。
長い開眼時間に、目も疲れているようだった。
「そんなところまでじーさんに似なくたっていいんだぞ?! 兄さんっ」
「でもさぁ? どうするぅ? たくま君……捜索願いでも出すぅ?」
「ぅんなもん必要なんか無い! いい歳した男だ、どうにかするのも従業員ではないか!」
ミザリアが腕を組みながら、鬼のような形相で言い放った。
確かに、それはそうなのだが。
如何せん。
「これが黙っていられるかってんだよ!」
群青竜二改め早乙女リュージは心配症で。
顔面を百面相のように感情を露わにさせている。
「過保護にして、箱入りにしてだよ。それは彼にとっていい局面をも、体験もさせないつもりなのかな?」
冷静な口調で小田切が竜二に聞く。
「リュージ君。お前さんは最も、残酷なことをしているんだよ? まだ、理解は出来ないかな? 若いものね」
カイゼル髭を指先でなぞりながら、彼はため息を吐いた。
真剣で、真っ直ぐな竜二の目を見てしまったからだ。
「捜索願いでも頼むか~~」
頭を掻きながら言う小田切に、
「もう出したから心配ない! さぁ、さぁ! 《模擬体験》を始めようではないか! ようやく、来たからな!」
ミザリアが手を叩きながら言う。
「はァ? 行っちまったら、たくまの奴どうすんのよ? 路頭に迷ちゃうだろぉう?」
彼女に竜二は唇を突き出しながら言う。
「暇そうな従業員を捕まえて立たせておけばいいだろうッ!」
苛立ったミザリアが口を大きく広げ、鋭い牙をむけた。
◆
【41:20:14】
ぶくぶくぶくく――……
「そぅ言えば。今回の発注商品ってなんなんですか?」
ぎこちない動きで俺は津軽さんに聞いた。
「『言ってなかった? 《訳アリ乾物6点セット》よ』」
海の中だと言うのに、貫禄ある飛び方をする津軽さん。
「ぅ、海の中なのに乾物なんですか?」
生ものを想像していた俺は呆気に取られていた。
「『海鮮物は乾物であろうとも、解凍品でも。全部、倉庫にある商品よ』」
津軽さんに聞かされていた俺にトトナも言う。
「給料泥棒。メモを取らなくていいのか? 社会人には必須アイテムではないのか?」
常識ある言葉に俺は、
「ありませんンん!」
思いっきり言い返してしまう。
「ほら。主にわしのを貸してやろう。お気に入りのメモ帳じゃぞ! きっちり返すんじゃぞ!?」
ポケットから取り出して投げると。
メモ帳には泡がまとい濡れることはなかった。
「……ん。あんがと、トトナ」
「『丸く収まったところ悪いんじゃが~~強敵の出現じゃ! 各自、戦闘態勢を取れ!』」
海中に諸星さんの声が地鳴りのように響いた。
俺も、それに目を向けた。
「な、んだ……あれ、は」




