第38話 これから始まる悲劇の前触れ
《新人》研修。
《模擬体験》てのに参加をしなきゃいけないようだ。
場所は、沢山の従業員達の慌ただしい群れはない。
◆
「おっそいではないか! 大馬鹿者共がッッッッ‼」
着くや否や、俺達は怒られた。
角が生えた女の人に。
俺の視線は、その左右から伸びている角に釘付けだった。
「何なのだ!? 貴様は‼」
つかつか、とその人が俺の前に勢いよく向かって来た。
「貴様! 名前は何だ?!」
「!? ぅ、牛男たくまです‼」
「牛なのか熊なのかどっちなのだ!」
「え゛」
「冗談だ! そこの二名! 貴様らの名前も言うがいい!」
おじさんと翡翠さんが視線だけを合わせた。
たくしまくる女の人は、
「何を見つめ合っているのだ! 気色の悪いッッッッ‼」
さらに、二人に怒鳴った。
何、この人。怖いんだけど。
「ボクぅ、早乙女翡翠でぇす」
翡翠さんが手を軽く上げて名乗った。
次いでおじさんも、
「その前に、お前が名乗るのが礼儀じゃないのかぁ? 聞く前によォ!」
名乗らないかった、逆に聞いていた。
「止しなさい。ぇえっと……早乙女リュージ君」
そこに、もう一人の男の人が来た。
「その方は。本社務めのミザリア=ナリゥリォさんだ。今回の研修に同行される為に、日本支部に来られているんだ。ああ。それと、私はヒゲダンディの小田切鬼怒である!」
確かに、立派なカイゼル髭だ。
翡翠さんの髭なんかよりも立派な形だから。
手入れも大変そうだなって思った。
「どこがヒゲダンディだっつんだよ! 兄さんのがよっぽ――」
ドン!
「!?」
翡翠さんがおじさんの脇腹に肘打ちをした。
つまりはいらんことを言うな、と暗に怒られたってことだ。
「ぁ……あの。他の従業員の、新人の方はいないんですか?」
俺は、そんな二人よりもそのことが気になった。
だって、誰もいないなら。
翡翠さんや、おじさんには《模擬体験》を積む必要がない。
必要なのは俺だけだ。
(いや。俺のせいで呼ばれたのかな??)
悪い方向に俺は考えてしまう。
それが顔に出ていたのか。
「おい。たくま、平気か?」
おじさんが俺の顔を伺うように見ていた。
「うん。平気。大丈夫だよ、おじさん」
「? おじさん??」
ミザリヤさんが怪訝な表情を向けた。
そして、バインダーに視線をやる。
「リュージは。貴様よりも1歳下ではないか、牛男」
「!?」
ビクつく俺を他所に翡翠さんが頭を掻きながら聞く。
「んでよぉ。ボク達ぃ、一体、いつまで待機なのよぉ」
それに、
「来ないんだから、来るまで待機だ!」
半ギレにミザリヤさんが怒鳴った。
それに翡翠さんもぼやいた。
「あぁ。帰りたい……」
「あ。じゃあ、俺。トイレに行って来ますね!」
俺が手を挙げて言う。
「ああ。漏らされたら堪ったものではない。許可する」
手で、とっとと行けと指図された。
「すぐ戻りますね!」
このときの俺はどうかしていたんだ。
自分が方向音痴だということを。
頭からすっぽりと抜け落ちていたんだ。




