第36・5話 群青の父親達と息子達①
群青竜之助って父ちゃんは姉ちゃんに――《竜子》と名づけた。
待望の長男、つまりオイラにも群青一族の《竜》の字を名づけるつもりだった。
『アナタ? 最初に名づけたではありませんか? ならば、この息子の名づけは母親であるアタシに権利があるはずでしょう? アナタ、アタシは間違っていますか?』
それを阻止し、無視したのが母ちゃんの――水晶。
《獣王》ともてはやされていた父ちゃんも。
家では母ちゃんの尻に敷かれていた。
だから負けたんだよねぇ。
宝石が好きな母ちゃんは、オイラに《翡翠》って名づけたんだ。
孫である竜子姉ちゃんの娘には《琥珀》と名づけた。
後の長男は無事に群青の名前を受け継いで――《竜太》
『じーちゃん……オイラ、何で嫌われるの。父ちゃんに』
物心ついた頃には、父ちゃんに嫌われていることを肌に感じていた。
見下すような視線と、物言いたそうなのに噛み殺している。
圧倒的な距離感も、目に視えてあったんだ。
『姉ちゃんとは喋るのにぃ、オイラとは目も合わせないんだよぉ?』
今は遠くにいるじーちゃんも、オイラが小学生のときまでは日本支部にいた。
今は、どこでどうしているのか、便りもないけど心配は一切していない。
心配すること自体が失礼なんだよねぇ。
『ははは! あンたは儂に似たかんなァwwww顔も容姿も、その他の全部が儂になるのが分かるから嫌悪しているんだ。全部、儂のせいだwwww息子を嫌わないでやっておくれ、翡翠君』
オイラのように《獣王》を拒否ったじーちゃん。
念願の医者に就いても、その職業で世界へと羽ばたくことを許されずに。
《ワールドルーツ》本社、お抱えの医者にならざるを得なかった。
じーちゃんの行動範囲を制限されたけど。
匙を投げずに不貞腐れることもなく。
ただただ。
会社の意向に従っていたんだよねぇ。
『じーちゃんと同じ……目も、同じなの?』
オイラは多分。
じーちゃんの家系側の血を色濃く継いだようで。
視えなくてもいいものを他よりも視えてしまう。
それは、日に日に色濃く視えていくことが。
堪らなく怖かったんだよねぇ。
『目をねぇ。見開くと……何か、いっぱい視えちゃうんだよねぇ』
初めて、その事実を親以外にカミングアウトしたときのじーちゃんは。
初めて見るような怖い形相を、オイラに向けていたんだ。
いつも細い目が大きく見開いたとき、その目が真っ赤だということを。
初めて気がついた。
そして、強い力で腕を引かれて。
オイラの瞼を上げて、眼球を調べ始めた。
眼球に映し出されるのは、涙目のじーちゃんだったな。
『 』
そう言えば。
あの後、じーちゃんは何て言ったっけかなぁ。
◆
「――……んぅ?」
翡翠はゆっくりと目を開いた、
「何だ。起きたのか――愚息1号」
彼の顔の上にあったのは竜之助の無表情の顔。
びっくりするというよりもどうこうよりも。
「父ちゃん。ちょっと、大人げないんじゃねぇのォ?」
開口1番に翡翠は竜之助を責めた。
身体をズラして起き上がると、
「あ。竜二君……っぷ! 何を不貞腐れてんのぉ? 可愛いったらないねぇ」
タオルで頭を拭きながら、唇を突き上げる竜二の顔があって。
そんな弟に翡翠も、吹き出して笑ってしまった。
「あァ。あれ? たくま君はぁ?」
見渡すと竜二の膝の上にたくまの頭があった。
「兄さん。たくまに……酒飲まさないでくれる? ヒキニートだったんだからね!」
少し、キレ気味に言う竜二を翡翠は無視をして、
「でぇ? 父ちゃんがやって来たってことわぁ、激おこぉ? なのかなぁ?」
煽るように竜之助に聞いた。
「群青翡翠。実習勤務を命ずる――《戦闘参加許可》だ」
「!? ぇえっと……え? ぇ゛……父ちゃん? オイラ……書類課の部長なんだけどぉ?」
竜之助の言葉に頬を赤らめた翡翠が。
口端を吊り上げながら聞き返した。
「無断欠勤に、無断出勤のコラボ事案が許されると思うな――《降格処分》相応だ」
「一般従業員じゃなくてぇ……《新人》だろうなァ? 父ちゃんンん??」
白い歯を見せて嗤う翡翠。
「二度も言わせるな。《降格処分》だ」
「はァい。んじゃ、まぁ。洗面台をばお借りしまぁすぅ」
◆
鏡に嗤う翡翠の背後に鏡越しに竜之助の視線とかち合う。
「!? っな、何ぃ?? 父ちゃん」
「トイレだ」
「あ! あァ。ここですねぇ、トイレぇ」
無言で行く竜之助を翡翠も目で追う。
「……――本当に親父にそっくりで腹が立つこと甚だしいんだよ。君は」
短く言い捨てる竜之助に翡翠もはにかんで言う。
「隔世遺伝ってやつかもねぇ」
ギロ! と竜之助が翡翠を睨んだ。
「君は竜二に譲度したときから息子なんかじゃない!」
低く、とても低く言われた翡翠。
「親父もそうだ! 群青に害を成す害虫だ!」
「はァ゛?? ……手前よぉ? じーちゃんを冒涜する気かァ?? あァ゛??」
一触即発になりそうになるも。
「……っと。とととっと」
翡翠は自身の頬を叩いて、顔を横に振った。
「もぉ。どうだっていい……あー死にたい……」
「ほら。餞別だ」
竜之助は腰に巻いてたポシェットから袋を取り出した。
「? ぇえ?? 何ぃ????」
受け取ったビニール袋の中には。
剃刀。
髪染め (レッド)。
煙草 (竜之助の好きな銘柄)と。
「無名の《殉職者》に成るがいいさ」
そう苦笑交じりに言いながら。
竜之助は身体をリビングへと帰って行く。
「!? あれぇ?? あ! 父ちゃん。おしっこ! うんこは?? トイレ行かないの??」
「~~……っつ! 死んでしまえっ」
中指を突き上げながら言ってしまった竜之助。
翡翠は貰ったものを洗面台に広げると、
「一丁、死んでみますかぁ」
満面の笑顔で、剃刀で鼻の下の髭を剃り落とした。




