第36話 模擬体験への招待状
竜二が浴室の扉を開けると。
そこには居ないはずの人物である自身の父親でもある。
群青竜之助が腕を組んで佇んでいた。
「愚息の帰還か」
◆
「あァ~~何だ。この下手くそなヘアカットは」
浴室の中に入って来たかと思えば。
竜二を浴槽の蓋に座らせて、髪を確認した。
乱雑な有様に、竜之助も唖然として様子で
「ハサミ。持ってくるんだったな、こりゃあ。あまりにあんまりだぞ」
「はい、その犯人。あんたの子供な。しかも2児の母親舐めんなとか言ってましたよー」
面と面向かって竜二も言い返した。
頬を膨らませながら。
竜之助も大きくため息を吐く。
「20年か、そりゃあ老けるよな。竜二も」
優しく竜二の頭を撫ぜる竜之助の大きな手。
「それで。今日は、何だって来たんだよ。あんたが家族と会うなんか確変……いや。プレミアレベルなんですけど? 母さんはボーナス確定レベルだかんな」
竜二がスロットで例え話しをする。
嫌味でもあるのだが、
「竜二と翡翠、後、あの少年の身分証を持って来た訳だ」
全くもってスルーされてしまう。
「……つぅか。父さん、どうやってこの部屋に入って来たの?? 兄さんの悲鳴も何も……」
竜二の言葉に竜之助が人差し指を左右に振った。
◇
『じゃあさぁ。たくま君♪ 一本をコップに半々で、杯を交わそうよぉ』
飲みたい翡翠と、飲んだことのないたくま。
『ふぁいぃ』
半ば、強制と興味に負けたたくまも顔を縦に振って。
コップに半々で飲み合った。
そして、飲み合った瞬間。
ガタ。
ガタタン、と二人の身体が落ちた。
◆
「この部屋の使用物には全て細工をしてあるんだ」
「!? 怖いわ! ばっかじゃねぇの?? あんたって本当におかしいかんな??」
あまりに恐ろしいことを。
誇らしげに言う竜之助に竜二も立ち上がると。
彼の身体を押し退けて、浴室から出て行こうとした。
「父さんの、この別荘には色々と仕掛けがあるって話しを。ついさっき、角さんから聞かされた。今でも通じるようなハイテクなものまで装備していて。本社のような要塞だともだ。てことは、だ。ここから、この部屋から職場へと移動も一通で可能って、ことだろう?」
背中越しに聞こえる竜之助の言葉が続く。
「……翡翠にはペナルティーで、これからは君と一緒に同様に働いてもらうつもりだ」
竜二の眉間に深いしわが寄ってしまう。
「何だよ、それ! 体臭で化け物を引き寄せる男を連れて、《新人》を教育しながら、危険に晒せってのかよ?! あんたはっっっっ‼」
勢いよく、歯を剥き出しに竜二が竜之助に叫んだ。
「契約には危険有とあり、覚悟の上での契約だろう? 何が問題なんだか分からないな」
冷淡に、事実でもあることを竜之助が言う。
ぐぅの音も出ない言葉に。
「てか。なんで、兄さんを眠らせたんだよ。たくま君だけでよかったんじゃないのかよ」
竜二が頬を膨らませて、話しを反らした。
「え。顔を見たくないからだよ、彼とはね。君以上に」
「ぁ……そぉですかー大人げないことで……」
群青竜之助は、長男の群青翡翠を毛嫌いをしていた。その一番の原因は。
勝手に相談もなく《獣王》を末っ子次男の竜二の彼に、譲度したからでも何でもなく。
「たかだが、容姿がじーさんに似てるからって。そこまで、子供を憎みますかー本当に、呆れちゃいますよーオレェー」
本当に仲違いをしている自身の父親でもある。
群青竜典に、瓜二つだからであった。
「子供の君に分かられてもね」
「っあ、そーっですかー~~」
「仕事の準備をしたまえ、竜二」
目を細めて。
自信を見つめる息子を見た。
口端を吊り上げながら言う。
「群青の末っ子次男。出社及び出動を許可する!」
「ああ! 了解だぜっ!」
竜之助の言葉に竜二も力強く頷いた。
「……兄さんと。あの、たくま君も一緒にってことはな――」
「二度は言わない。さ、とっとと、醜い身体に服を着なさい。風邪を引いて休んでしまったら……竜子を看病に寄越すよ」
「!? 冗談でもねぇこと言うなってんだよ! つぅか、本気だろう、あんたさァ!」
慌てて着替える竜二の背中を。
竜之助も腕を組んでほくそくんだ。
「お手並み拝見といこうか」
「ああ。そぅだ! 《変態》って、どうやって増やせるのー」
「……今回は、その必要は無い」
「んなことはないだろう?? 商品をと――」
「《模擬体験》に参加するだけだからな」
すっとぼけた言い様に竜二も、
「半休の申請をするわ。おやすみー~~」
大欠伸をして歩き出した。




