表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/169

第35話 ラスボス父親の登場

 《ワールドルーツ》の社内規約を一部抜粋。


 ★《新人ペーペー》同行は熟練者との一日一回とし、入社後に置いて一週間は訓練及び鍛錬を徹底的に行い、三ヵ月間の研修期間とし、以後は契約更新するものとする。


 ◆


「あのさぁ。今日は、つまりはオフってことなのかなぁ?」


 座椅子に腰を据えて、宙を仰いだ翡翠さんが言う。

 俺も翡翠さんに、

「そぉー……なんじゃないんですか?」

 段ボール箱を開けながら相槌を打つ。

 

 おじさんは奥の和室の奥の浴室にいた。

 水が弾く音が聞こえるからだ。

 だから、今リビングに居るのは俺と翡翠さんの二人きりだ。

「俺は、その方が助かるかな。だって、叔父さんに拉致されてさ、なんやかんやと。おじさんと会っておっさんに会って、あべこさんや牌さんに会って、それに翡翠さんとも会ってたりして……――限界なんですって! もぉ、無理ですって! 身体がばっきばきなのっ! 俺ね! ヒキニート歴10年なんですよ!? 20年のおじさんには適いませんけど!」

 思わず、ずらずら、と翡翠さんに感情を露にしてしまう。

 思いもしなかった言葉に、思わず俺も、口許を抑えてしまう。

「へぇ。そぉなのぉ」

 なのに、翡翠さんからの反応は薄い。

 群青の人にとってみれば、俺なんか赤ん坊のように見えてうざいんだろうな。

「まぁ。よく頑張ったんじゃなぁい? 《新人ペーペー》の分際にしちゃあぁ、いい経験になってよかったじゃねぇのォ?」

 素っ気なく俺に翡翠さんが言う。

 何て、適当に言う人なんだろうか、この人は。


「オイラにしたら羨ましいよ、手前がね」


「え? 何で??」

 俺は翡翠さんの横に腰かけて、顔を見た。

 翡翠さんは、そんな俺に引くこともせずに。

「オイラは群青だから、一気に飛び級で同級生みてぇのなんかいねェの。ちなみにオイラが何歳から、ここに送られているか分かる?」

 携帯を弄りながら、逆に俺に聞いてきたから、俺は顔を横に振った。

「12歳の時から、ずっとここに勤めているの。でもね、オイラ、身体が弱くてね。だから、竜二君に父ちゃんの許可なく勝手に《獣王》を譲渡したんだ、当時10歳の竜二君に」

 少し、辺りが暗くなっていて。

 翡翠さんの顔には携帯の灯りで、不気味の雰囲気を醸し出している。

「ひっどい兄ちゃんでしょぉ、オイラってばぁ」

 へらっと笑う翡翠さん。

 でも、俺にはとっても泣きそうな顔になっているように見えた。

「うん。確かに……でも、それは――結果論ですよね? それだけ、翡翠さんも切迫していたような、感じに聞こえますよ? それに翡翠さんも、適当にやるような人間には思えないから」

 俺は思ったことを口に出してしまった。

 それに気がついたのは後の祭りでしかない。

 だって、翡翠さんの顔が携帯から俺に向けられている。

 大きく目を見開いていて、とっても怒っているようだ。


 ガタン! と翡翠さんが立ち上がると冷蔵庫へと向かった。


「ぁ、あ゛! っす、い゛ま゛ぜんっ」


 上擦った言葉で、俺は翡翠さんに謝った。

 

「何を謝んのよぉ。いいのいいの、気にしなさんなぁ」


 手をひらひら、とさせる翡翠さん。

「あ、たくまくぅん? お酒呑めるぅ?」

 にまりと、ビールと発泡酒の缶を俺に見せた。


「ゃ……分かんない、ですけど」


 ◆


「えー兄さん? 今はあっちのリビングだよ」


 ――『そうなのかい? 本当に可愛い子だね、翡翠君は』


 この《バーバーバロン》の群青竜典リョウテンの別荘の部屋には、親も知らされていない道具が、ここぞ狭しとばかりにあるのだが。それを知るのは竜二だけである。

 

 例えば、浴室の壁の防音。

 幾ら、中で誰かと会話をすればシャワー音に変わる。

 鏡を開けて、携帯を設置する箇所があって。

 差し込むだけでどんな機密情報も話すことが可能になる。


 竜二は一応、バスタオル一枚を腰に巻いて。

 祖父の竜典と話していた。


「可愛いって思うなら、引き取ってくんない? じーさん」


 ――『っは、っはっはっは! 竜之助リョウノスケに怒られちまうよぉwwwwただでさえ、儂が翡翠君の傍にいるのも快く思ってもいねェってのにwwww』 


 浴室に響き渡る竜典の笑い声に竜二も目を細めた。

 小さく舌打ちをしてしまう。


 ――『っでぇ~~? 儂にあンたの望みを教えてみなさいよ、竜二君wwww久しぶりの連絡に心が踊れるも、それが互いの利害に一致するとは思わんねぇ。あぁ、これは厭味だよぉwwww』


「俺の望みは……――変わらねぇよ、じーさん……20年間、ずっとだ」


 赤いリボンを指先で遊びながら、竜二が嗤う。

 彼の様子は壁全体に埋め込まれた小型カメラによって、向こうからは丸見えだ。


 ――『……――そっか。あンたは本当ほぉんとぉうに堕ちる気なのね。竜二君』


「っは、当然♪ そんなの覚悟の上っしょ!」


 っだっだっだっだ!


「!? じーさん! じゃ、じゃあ! またな!」


 床に伝う振動の動きが浴室だと悟った竜二は水栓を開けてシャワーを流した。

 慌てて身体を濡らして、相手を待った。

「誰だー兄さんかー~~??」

 確認するように聞くも返事はない。


「? おい、誰だ?」


「パパだよ」


 振り向いて開いた浴室の扉の前には。

 群青竜之助が腕を組んで立っていた。


「来やがったか。父さん」



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ