第34話 父親からの条件
1DKのアパート。
ここが俺達の住居になった。
◇
『《バーバーバロン》を拠点として住むこと』
◆
ま、正直なところこういうアパートには憧れていたから。
ちょっとだけ、胸が高鳴っちゃうよね。
「荷物。何であんの? これ」
俺達が入った玄関や、その奥にも段ボールの箱がある。
ゆうに10箱はある。
てか、家電は付属なのかな。社宅って扱いなのかも。
「角さんのー優しさだとおじさんは思うよー」
おじさんが俺に言う、
「あの人ねーいい人だからー」
にこやかに言うんだから、きっといい人なんだろうな。
そうとしか思わなかった。
「あのねぇ。おかしいんだけど、オイラの荷物はないよぉ?」
首を傾げながら、腕を組んだ翡翠さんが。
アパートの中から俺達のいる居間に来た。
「おや。姿も、もとのおじさんに戻っちゃったんだねぇ。良かった、良かった」
どかり、と胡坐を掻いて大きく宙を仰いだ。
「本当に回りくどいことをすんのな。父ちゃんは」
「そう? 父さんはそんな人じゃんか」
おじさんと翡翠さんが苦笑いをしている。
俺だけが記憶の中の蚊帳の外だ。
「どういうことなの? おじさん」
それはあんまりにあんまりじゃないのか。
俺だって、今ここにいて。
一緒にいるんだから。
俺も仲間に入れてよ。
「ここぁさーじーさんの家なの。ま、あの人にとっちゃあ数ある別荘みたいなもんで。ここは初期の別荘でさ。子供の頃から嫌なことがあったら逃げて来て。勝手に1週間ぐれぇ住んで怒られたっけかなー~~」
「あ。それ、オイラ初耳なんですけどぉ」
「姉さんも知らないよ? 知ってんのは父さんと母さんだけだもん」
「あとで姉ちゃんにも言っておくかんねぇ」
和気藹々とする二人に、俺は苛立っていくような気分にもなる。
だって、おじさんは翡翠さんとばっか話しているし。
「チクったら、今後一切、兄さんとは口を聞かねぇからなぁ??」
歯を剥き出しに、感情も露に剥き出しのおじさん。
「あ。たくま君。醜い兄弟喧嘩見せてごめんねぇ?」
「……あ、はい」
「面白くはねぇとか思うけどさぁ。これからもよろしくねぇ?」
腕を伸ばして翡翠さんが手を指し伸ばした。
俺の心の中が見えるかのように。
目を見開いている。
普段は、眠そうな目をしているのに。
「あ。はい……よろしくお願いします」
俺も手を伸ばして握手をした。
◇
『1からのリスタートとして研修生らと学を共有し。彼らを鍛える講師とする』
◆
「そういやさー《変態》って群青だけ変更不可じゃなかったー? オレのゴリラって群青のだけのだからバレちまうよ?」
ガッパン! とおじさんが冷蔵庫を勝手に開けた。
にこやかに珈琲の缶を3缶持ち上げた。
それを俺に手渡して、翡翠さんには渡さずに机の上に置いた。
俺は、その缶を見かねて翡翠さんに手渡した。
「ありがとうぉ。いや。今は申請したら許可されて、最大3体まで可能よぉ。時代は時代で、会社に寛容に、いいように感化されるもんなのさ。竜二君」
プルを開けて、喉を鳴らして飲んでいく。
「遊び場と遊び相手のLVに合わせないと遊べねぇってんならよォ~~こっちが同じラインに立たなきゃお話になんねぇじゃなぁ~~い? ねぇ。たくま君?」
俺に同意を求めないで欲しいし。
早く、奥さんに引き取ってもらいたいほどに。
段々と、翡翠さんに苛立っていくのが分かる。
これは厄介な感情だ。
飲み込まれそうなほどに――重い。
「遊びじゃない。仕事の話しなんだよ、翡翠さん」
少し上擦った言葉さったかもしれない。
少し、苛立った感情もバレてしまったかもしれない。
ただ。分かって欲しいのは。
「《殉職者》なんかに誰もしたくない」
これから出会う研修生って人達の。
活躍や挫折や、安否などを――この兄弟が管理するってことだ。
もちろん、この俺もその中の一人だけど。
そんな裏事情を知るのは俺だけなんだ。
だから、どうか翡翠さん。
「茶化さないでくれ」
◇
『期間は以下の活躍の元に解除され。現場復帰の許可とする』
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「おじさんの為にも。お願い、ですから」




