第33話 群青の角弁護士と、群青の兄弟
「……だと。思った」
そうおじさんが家の前で、そう呆れた口調で。
ほんの少し、ため息を吐いた。
「父ちゃんだよねぇ。この幼稚な嫌がらせぇ」
「いや。幼稚っていうか……これが普通の対応だと思うなーオレー」
仲良く肩を並べながら言う群青兄弟。
そんな二人を俺は後ろから見ている。
さっき入った部屋の扉には、紙が貼ってあった。
《家の名義変更により、『群青竜二』の入室は不可とする。以後は、群青直属の角円弁護士と連絡をするものとする。》
「ああ。こんなん職権乱用じゃないかぁ。オイラが父ちゃんに交渉する他な――」
「いい。この社寮なんかで住まなくたって通勤をすればいいんだしー」
「や! おじさん! おじさん?? ちょっと、待って!」
「? 何ーくまちゃ~~ん」
俺はおじさんの言葉に、つかさずに手を挙げていった。
だって、そうじゃないか。
山の麓から都心に行く区間。
マンションもアパートもない。
ペンション程度も数が知れている。
恐らくは従業員以上の正社員級の人達の所有物。
多分、恐らくは。
造られないような地域となっているか。
この辺り全部が《ワールドルーツ》日本支部の私用地だ。
「通勤時間を考えても。効率が悪くなって、その……遅刻とかしちゃいますよ? そんなんじゃあ」
「! っそ、それは何とかなるって! 何なら、キリちゃんに――」
「何でもかんでも。鯨ヶ浜室長補佐様を頼ってはいけませんねぇ、群青の末っ子ちゃん♪」
「「「!?」」」
背後から聞こえた声に。
俺達が後ろに振り返ると、キリちゃんさんにように糊の効いたスーツに身を固めた。
眼鏡が下にズリ下がっている男の人が立っていた。
おでこは広く、髪は後ろに後退していて。
どことなく草臥れた表情をしている。
「「角さん」」
「! ぇ……き、ちゃったんだ……」
思わず、率直な感想が口から漏れてしまった。
「そちらの君は。末っ子ちゃんのお子様かな? 初めまして、私は角円と言います、見ての通り弁護士です。群青一族のね」
腕を伸ばされたから、俺も腕を伸ばして握手をした。
すると思いのほか、手はとても冷たかった。
「初めまして。恵比寿たくまって言います」
「あ! あーあー~~恵比寿さんの! 息子さん??」
「……――甥っ子です」
「あ! っそ、そっか! そっか! うんうん! じゃ、ま~~始めましょうか♪ 群青兄弟ちゃん」
◆
角さんが言うにはこうだ。
◇
『20年前と、今では社の規則は大きく変化しているのは。ご理解下さいね』
俺達は、また社内車に乗せられていた。
形は鰐だ。
とは言え、この社内の土地は歩くには向いてない。
倉庫から社内でも行き交っている。
俺は迷子になってしまったら。
もう、そこで死ぬ覚悟をしなければならないとさえ思う。
『分かってるってーオレも出戻りの復帰だから。あそこには住めないとは分かっていたもん』
『あ。分かってたのねぇ、すっごいねぇ、竜二君』
業とらしく言う翡翠さんが、
『《新人》でもないのにねぇ。可哀想になってきちゃったよぉ』
ほんわかと笑う。いや、本当に空気読んで下さいって。
『あ。角さぁん。3LDKがいいなぁ、オイラぁ』
運転をする角さんに翡翠さんが手を合わせた。
『いや。相手にしないでいいっすから、角さん。オレぁ、くまちゃんと一緒に住めればどこだっていいんだし。1DKでも構いませんよ』
手を左右に振っておじさんも角さんに言う。
すると、にこやかに角さんが、
『うん。末っ子ちゃんならそう言うと思ったから。先に手配しておいたよ♪ 私は敏腕なのでね』
白い歯をバックミラー越しに見せた。
『もう少し落ち着いたら、酒でもどうだい? 末っ子ちゃん』
『焼酎なら喜んでお付き合いするぜ!』
和気藹々とする二人に。
『で? 父ちゃんは……何を条件とすんだぁ? 角弁護士さんよォ』
低い口調で翡翠さんが言う。
少し苛立っているようだ。
『手前を竜二君に差し向けるたァ、よっぽどのことじゃねぇのさぁ? 本当に気に入らねぇなァ!』
◆
「まぁ……何か。キリちゃんに騙された気分だぜ」
角さんの話しを聞いた後に。
そうおじさんが、呟いた。
「もー復帰も面倒になってきちまったよ」
「おじさん……」
「冗談だって、たくま」




