第32話 家族に憧れて
「「……………」」
俺とおじさんは終始無言で歩いてた。
商品の《パステル46色》は、きちんとコンベアーへと乗せて。
叔父さんがいる荷受け発送所へと送った。
そんな俺とおじさんの後ろを、翡翠さんがのしのしとついて来た。
さっきのオペレーションの人が奥さんだったらしく。
◇
『帰りたくない……帰れない……』
◆
さっきまでの勢いと、どこかニヒルな格好よかった翡翠さんの。
俺の中の印象が若干崩れたけど、ま、しょうがないよ。
人間って、ONとOFFは大事だから。
こんな情けなくて格好悪くて、可愛い萎れた表情の翡翠さんも、翡翠さんなんだもん。
「奥さんに殴られちゃうよぉ? 兄ちゃんン゛ん゛!」
泣き声でおじさんに言う翡翠さん。
「知るかってんだよ! 兄さんが勝手にでしゃばったバツじゃねぇかよ!」
「っひ、ひっどぃ!」
「ヒドイも何も、事実はいつも一つなんだかんな?!」
「おじさん。翡翠さんだって悪気があって首を突っ込んだ訳じゃないんだろ――」
俺がおじさんに言うとだ、
「この人はねーいっつもこうなんだ! 横から来て、オレにばっか迷惑かけんの!」
昔のことを簡単に短く俺に言って、人差し指を翡翠さんに差した。
「オイラがいたから助かった局面だってぇ、あったと思うけどぉ?」
唇を突き出して翡翠さんも言い返した。
頭を掻きながらブツブツと。
「煩せぇな。たっくよ」
苛立った口調で吐くおじさんに。
「おじさん。お兄さんなんだから、もう少し。こぅ! なんって言えばいいのかな?! ぇえっと……だから! ぅあぉンんん?? 家族なんだから……えぇっと。仲良く、して?」
俺も言葉を一つ、一つと選んで言う。
だって、俺には曖昧なことしか言えない。
家族は縁切られてなくなったし。
母親も、兄弟もいないし。
だからだよ。
翡翠さんと、おじさんがいがみ合うのは嫌だし。
昔なんか知んないけどさ。
家族ってのを大事にして欲しいんだよね。
「生意気言ってごめんなさい」
「はぁ~~いいよ。いい」
おじさんは俺の腰を殴った。
だって、おじさんの身長は、また低くなっているんだから。
どういう構造なのかな。
「くまちゃん。まだやれるよな? 行けるよな?」
「っへ? ぁ、うぅうう??」
「今度こそ《P通貨》と《Δ硬貨》をゲットだぜ!」
おじさんが細い腕を曲げて、拳を握って喜々とした笑顔を。
引きつってた表情の俺へと向けた。
(無理。ムリムリぃ~~!)
「止しなさい。竜二君」
(! 翡翠さぁ~~んンん‼)
「今日一日で新人を酷使すんじゃねぇよ。馬鹿なんだから、本当に救えねぇわ。手前は」
「救われたくねーし。行くの? 行けないの? くまちゃん」
「ぁ゛……っと。あの」
俺が言い淀んでいると。
おじさんが大きく鼻息を吐いた。
「そっか……じゃあ――」
ぞわ!
俺は嫌な予感がした。
ひょっとして、おじさん一人で行っちゃったりするんじゃないのかって。
心臓音が高鳴って、堪らなく呼吸も荒くなってしまう。
「しょうがないなー」
「ぃ、行く! 行くから! 1人でなんかで行かないで!」
「行かないよーくまちゃんのが大事だもーん」
白い歯を向けておじさんが俺に言う。
俺の涙腺が緩んでしまう。
「う゛ん゛」
「はいはいぃ。じゃあ、帰りましょう」
パンパン! と翡翠さんが手を叩いた。
それを俺とおじさんが顔を合わせて、翡翠さんを見た。
「「??」」
「オイラのことぉ、よろしくお願いしまぁす」
そう翡翠さんが両手の人差し指をおじさんへと差した。
うん、本当に兄弟だ。
バシィイイイイ! とおじさんが手で強く叩き弾いた。
空気が読めずに、マイペースだ。
でも、俺は嬉しかった。
俺も、おじさんの家族になったような気がしたから。




