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第30話 秘密の魔法使い

「ふっざけんな! 兄さん! 中に入れてくれ!」


 そう竜二が翡翠の胸倉を掴み寄せながら。

 噛みつくように言う。

「たくまのところに行く! 行かせろよっっ‼」 

「無理ぃー」

 ぱしっと翡翠が竜二の手を握ると引きはがした。

 そして、おもむろに竜二の身体を回して、腕をがっちりと抑えた。


「っだ! 兄さん?! ぃ、ってぇ~~よッッ‼」


「ま。痛くしてるしねぇ。少しは頭を冷やしなさいよぉっと」

「いいから! オレを倉庫に戻せってんだよ‼」


 ジタバタとする竜二に、

「《強制退場リストラ》された者は。同じ倉庫内には入れぬよ。竜二殿」

 律が言う。正確には那智藤だが。

「っはぁ~~?! 何だってぇ~~?? んなのオレぁ、聞いたことねぇっつぅの!」

 今までエリート街道をまい進してきていた竜二には寝耳に水だった。


「《強制退場リストラ》はする癖にさぁ。都合のいいことだよねぇ」


「いいから! 戻るんだよ! たくまぁ~~‼」


 ◆


 俺に後方さんが煙草の箱から一本出させて向けた。

 

「や。あの、煙草とは吸いたいとか思ったことはないんで」


 俺は手を振って、それを辞退した。

 それに後方さんが苦笑しながら煙草を仕舞った。


 【06:29:00】


 こんなことをしている場合なんかじゃない。

 なのに、

「後方さん。本当に時間が……」

 俺は後方さんに急かすように言う。

 心臓音も大きくて五月蠅いんだ。


「ああ。んなのどうだっていいよ」


「はぁ?? どうでもよくなんかないでしょうよ‼」

「俺は魔法使いだから♪ にひひ♪」


 親指を立てながら俺に言うもんだから。

 ばっち~~ん! と後方さんの頬を叩いてしまった。


 ぉ、俺は何て真似をしちまったんだろうか。


「俺が《新人ペーペー》だからからかってんですか?! 後方さんはっっ」


 叩いてしまった頬を後方さんが手で抑えながら。

「活きがいいこった。本当に懐かしいわ」

 にこやかに、何かを思い出したようだった。


「言ってごらんよ。あンたの願いをさ」


 真剣な表情を俺に向ける後方さん。

 そんなんだから俺は息を飲んでしまう。

「ほら。ほらほら! 早く言えっての!」


「――言わないよ。願い事は自分で、自力で勝ち取らないといけないんだから」


 本当は言おうと思った。

 思ったんだけど。


 親父の顔が、叔父さんの顔が。


 おじさんの顔が頭に浮き上がっちゃって。


「お手軽に叶ったものなんかに意味も価値もないよ」


 言うに言えない。

 でも。

 後悔はない。


 うん。多分。


「俺。何か間違ったことでも言ってるかな?」


「ぅんにゃ。あンたが言ってること。一問一句として間違いはないぜ」


 すぅ。


 っふぅうう~~……


「これ。社会復帰祝いに俺からあンたにやるよ」

「?」

 握り拳を俺に差し出す後方さん。

 俺も手を指し出して受け取った。


「三つ星の髪留めを、ですか?」


 指先で持ち上げるとキラキラと三つの星が光った。

 銀色の髪留めを俺にどうしろと言うのか。

 髪につけろと言うことなのか。

 パワハラってやつじゃないのかな。それは。


「普通。この型って二個セットじゃないですか?」


「うん。もう一個はね、もうないんだ。ごめんな」

「ぃ、いいや。別に要らないんですけど」

 俺は胸元に髪留めを留めた。

「んなのいいから! 時間がっっ‼」


「俺は魔法使いだってことは皆にゃあ黙っていてくれよな?」


 【――:――:――】


「?!」


 時計の数字がなくなっている。

 俺は驚愕だった。


「ぉ、終わったのか? もう、ゲームオーバーなの?!」


 何度も、何度も時計を叩いてしまう。

 それに後方さんも、

「違げぇよ、馬鹿。異空間を亜空間に創り変えた訳よ」

 また、意味の分からないことを言った。


「で。こちらが《パステル46色》な」


 後方さんの持ち上げたのは確かに商品が持たれている。

 これじゃあ、俺が残った意味がないじゃないかよ。

 俺の視界が涙で揺れてしまう。


 あんまりじゃないか。

 おじさんに逆らってまで残ったってのにさ。

 弄ばれたんだ。


「泣くなっての。本当にあンたは子供だな。昔の俺のようで初々しいわ」


 眼鏡を指先で上げて後方さんが笑った。

 俺は悔しい気分だ。

 皆が皆、俺を見下して、除け者にする。


「あンたはあのおじさんと一緒に居ない方がいいな。やっぱり、危ないわ」


「‼ そんなこと後方さんに言われる筋合いなんかない!」

「まぁ。いいか、でも、こんだけは覚えておけな」

「何をですか!」


「視てるよ」


「はぁ?!」


 言い終えると後方さんが靄に戻った。

 かと、思った瞬間。


 バッタン!


「った!」


 俺の身体が前に突き出されて。

 顔に何かが当たった。


「?」


 俺は視線を上げると。

 翡翠さんの顔があった。


「お帰り。で、商品は?」

「あー~~」


 言い淀む俺の横から。

 にょっきと腕が伸びた。


「ほら。翡翠さん! 商品これな!」


 にこやかな後方さんの頬に。


 バッチ――ン‼


 ついでに。

 同じ音が俺の頬にも鳴って。

 激痛に襲われた。


「ふ、っざけんじゃねぇよ! お前らッッッッ‼」


 眉をひそめて顔を真っ赤にさせたおじさんが。

 俺達の頬を勢いよく叩いたからだ。

 


 

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