第28話 未来の方向へ
「!? くまちゃん?? そういやくまちゃんはどこ??」
ようやく思い出したかのように。
竜二が言った。
それに翡翠も肩を竦めて、
「『あぁ。あの子供はさっき思いっきり拒否った人間を切り捨てて、商品確保に向かったよねぇ』」
淡々と竜二に言い返した。
「はぁ?! 拒否った?? 誰がだよっっ??」
眉間にしわをよせて翡翠に顔を向ける竜二。
唾がかかる翡翠も眉間にしわがさらに寄ってしまう。
「『正直に言うよぉ――手前だ馬鹿!』」
手を銃にさせて竜二を差した。
それに竜二の顔から血の気が引いていく。
「っく、くまちゃん! くまちゃん! たくまっっっっ‼」
慌て始めた竜二の足下から律が這い上がって来た。
「『どうする? 戦う? 逃げる? それとも――どうしますか? ボクはどちらでも許可をしますよ』」
律の口調でゆっくりと聞く。
そんな彼らの視線に竜二も頭を掻きむしった。
ガタガタと身体が震えた。
(逃げる? 戦う?? どうする、群青竜二‼)
目をつぶって、眉間にしわを寄せる竜二。
そんな彼の様子に翡翠もほくそくんだ。
そして、一歩前に出た。
「『あぁ。帰りたい。本当に面倒くさいったらないよねぇ』」
「?? ぇ、兄さん??」
「『でもさぁ。いいよねぇ、オイラも――群青の長男だ。父ちゃんのように、じいちゃんのようになりたかった!』」
がぶぅうう!
「っだ!」
突然、翡翠は竜二のうなじを噛みついた。
あまりの激痛に竜二も翡翠から身体を離そうとするも。
がっちりと抱え込まれていた。
「兄さん!? なんっで噛みつくんだよっっっっ」
うなじから流れる血の感覚と。
翡翠が舐める感覚。
「『兄ちゃんが《獣王》を借りるねぇ!』」
「はぁ?!」
「『! お主、離れるでござる‼』」
「ぁ、ああ!」
バリバリバリ――……
「――兄さん。《獣王》化が出来るんだ」
ゴリラの姿になった翡翠を見上げる竜二。
律が彼の腕を引っ張った。
「『この場は翡翠殿に任せても大丈夫でござる! お主は拙者らと商品確保でごっざー~~るぅ!』」
「ぁ、っでも! ちょっとーちょっと待ってよー」
「『兄心に甘えるでござるよ! あの者は強い、お主よりも資質も腕も抜群なのでござるよ!』」
吠える魔物はエノキのように白く畝っていて。
一体ではなかった。
果敢にも翡翠は立ち向かっていた。
ズク。
ズクズクズクズクズクズク。
痛むうなじを竜二も手で抑えた。
「うん。それは知ってるよー俺の兄さんだ。間違いないよ」
にこやかに律に竜二も言うと律から腕を離させた。
「律君。状況の報告を!」
「『……――はい! まずですが……』」
◆
【21:29:07】
俺は後方さんと一緒に商品確保に向かった。
だけど明らかに時間がヤバい。
何がヤバいってさ。
何がどうなるのか俺には分からないってことだ。
どうしてこうなったんだ。
仕事って、社蓄ってこんなにも体力を消耗することなのか。
今まで、家から出なかったことや。
何の運動もしてこなかったことを恨むほかない。
「『恵比寿君よぉ。今まで生きてきた中で何が楽しかった?』」
突然、靄の中から後方さんが俺に聞いた。
戸惑いながら俺も、
「楽しかったこと、ですか? ――今、この場面かな。すっごく楽しい!」
正直に言った。
こんなにも楽しい、アトラクションのような場所があるだろうか。
頼もしいおじさん達もいる。
「『ああ。そうだよ、仕事は楽しくなきゃ、やってらんなくなっちまうよな』」
「? 急にどうしたんですか?? 後方さん」
「『いいや。未来は――決まった。カウントダウンだぜ、恵比寿君よォ』」
後方さんの言葉に俺は時計を見た。
【19:31:49】
時間は減ってはいるけど。
そんなに慌てるような時間じゃないはずだ。
後方さん達にとってはだけど。
靄から後方さんが人間の姿に戻った。
口許には煙草が咥えられている。
すぅ。
っふ、ぅうう~~……
「今回の――《P通貨》は無しだ」
「???? ぇ、それはど――」
ブルブル! と俺の軍手が大きく震えた。
「? 蓬田さん??」
俺も首を傾げながら押した。
――あーた達! 解散しなさい。今回の商品はキャンセル。キャンセルよ!
その言葉に。
俺は絶句してしまう。
「ぎゃ、ふん」
次いで。
傍にいたおじさんの声が聞えた。
「っち。無駄骨かよっ」
「だね。あまり、群青竜二の能力を拝むことが出来なくて残念だぜ」
「後方さん。もしも、今後オレが声をかけたら、隊に入ってく――」
ガン! とおじさんの腰の骨を殴った。
「った! ってぇ~~」
「当然だぜ。不完全燃焼って堪んねぇぜ♪」
おじさんと後方さんとのやり取りを。
俺は腕を組みながら見ていたら、
「来いよ。たくま」
おじさんが手で来いとひらひらとさせた。
「邪魔なんだろ。俺なんかさ、ペーペーだもんね」
「おいおい、不貞腐れてんのかよ?? 可愛いぃなー」
「だったら何だって言うのさ」
パンパン。
手が鳴る音が聞えた。
「はいはい。帰るよぉ、子供達ぃ」
鳴らしたのは翡翠さんだ。
口許には血が滲んでいた。
どうしてだか俺には分からないけど。
《変態》化も解けていた。
俺の視線に気づいたのかな。
口許をおじさんが自身の《作業服》の袖口で拭った。
翡翠さんも、目を丸くさせたけど。
「どぅも。ありがとぉ。群青の末っ子ちゃん」
「ぅっせぇよ。馬鹿」
おじさんは翡翠さんに言いながらうなじを擦った。
よく見ると、そこには歯型と固まった血がある。
「お主ら。和気藹々もほどほどにするでござるよ」
蜘蛛から人間に変わった律さんが。
俺の時計を指差した。
【15:41:29】
「死に体のでござるか? 時間を過ぎれば路が変わり。ここの倉庫は時空封鎖に伴い、他の隊が来ない限り出られぬのでござるぞ」
「那智藤君はやっぱり隊長の資質があるよ。オイラは青いからねぇ」
「年季でござるよ。生きて来た経験の差でもござろう」
よく分かんない会話だ。
律さんに那智藤とか、どっちなんだ。
那智藤律ほむらさんなのか。
律ほむら那智藤さんなのか。
「あ。一応、《パステル46色》は必要っぽい」
辺りの空気が後方さんの言葉に。
止まってしまう。
「嘘ではないでござるか、お主」
強い口調で後方さんに聞く。
俺も、二人を見ている。
「俺を信じなさいってのよ。後方未来をさ♪」
【11:53:38】




