第20話 爪の甘い兄と弟と
「くっそたれがァ゛! そんな面白そうな隊に入れないなんてぇええ‼」
俺達が盛り上がる中で。
横にいた竜子さんが顔を抑えて宙を仰いでいた。
本当に心底、悔しいとかそういうレベルじゃないものが。
竜子さんの周りに渦巻いていた。
◆
おじさんと翡翠さんと俺は本社から。
《ワールドルーツ》日本支部に戻って来た。
「で! 何を注文されたお客様なんだよ!」
「えぇと? 待って、待ってぇ……ぇえと」
翡翠さんはバインダーをスライドさせていた。
何枚も、何枚も。
「ぇえっと……多分、これ? だと思うなぁ」
「多分じゃダメだろう!?」
おじさんは翡翠さんからバインダーを奪うと。
凄い手さばきでタップとスライドのターン。
「兄さんは《パステル46色セット》の商品回収だっっっっ‼」
おじさんは翡翠さんの胸元にバインダーを押し付けた。
それを翡翠も受け取って確認をした。
「よく分かったなぁ。ここんところは相変わらず早いよ。手前は」
「誉めてんの? それ!」
「ぅんにゃ。出来て当然のことだしねぇ。誉められたかったのかなぁ、竜二君は」
ぶるぶる、と震え出すおじさん。
さっきまでのほんわか雰囲気をもなく。
苦虫を噛んだような表情だ。
「ぉ、おじさん。ちょっと落ち着こう? な??」
俺はおじさんの腕を掴んだ。
すると、おじさんも、
「! ぁ、あぁーそうだねーうんうん」
ようやくにこやかに笑った。
「たくまちゃんさぁ。お荷物になんないでよぉ」
冷淡に言う翡翠さんに俺も息を飲んだ。
「っわ、分かってますっっっっ!」
◆
通常の隊は6人体制で行くのか常識だ。
確か、あべこさんがそう言っていた気がする。
「あのー~~すいませんが。本気ですかぁ~~??」
思わず俺は手を挙げて聞いてしまう。
だって、これが聞かずにいられるかってんだよ。
「ああ。群青の長男と末っ子次男の二人なら容易い作業だしねぇ」
「まぁーまぁー昔からそうだったよなぁ? 何でか知らんけどー」
首を傾げて言うおじさんと俺を乗せた倉庫車の蜘蛛が奔って行く。
左右の六本の足がカタカタと鳴る。
(俺、蜘蛛ダメだから、ちょっとした拷問なんですけどォ!)
この趣味は、翡翠さんだった。
「てかさぁ。オレ達だけっての出動って……ヤバくねぇかー? 兄さん」
「? 兄ちゃんの分かりやすく言ってもらえると嬉しいなぁ」
「ぇえと……確か、ほら。会社の規則で《単独での行動及び隊長クラスを同行しない場合、罰則並び《P通貨》《Δ:硬貨》の獲得も社の上層部に委ねるものとす》ってあるじゃねぇか。兄さんってさー隊長クラスじゃないでしょ?」
ぴし。
そんな音が鳴ったような気がする。
「オレー《Δ硬貨》が欲しいんだよ、兄さん」
俺は聞いたことのない言葉に首を捻った。
(デルタ……コイン??)
でも、翡翠さんの表情は違った。
竜子さんのように鬼のような形相だ。
「手前はその為に戻って来やがったのかァ゛!」
「うん。そゆこと♪」
肩を揺らして笑うおじさんに。
ついには翡翠さんも、表情を無気力なものに戻った。
髪を掻きむしりながら。
「あーもーめんどくさい。もー帰りたい」
「はっはっはっは! 兄さんが誘っておいてーそれはないよねー」
末っ子のおじさんに負けてしまったのか。
翡翠さんも、帰りたいと駄々をごね始めた。
そりゃあないだろう。
仕事放棄をするな。
「あの~~それで隊長はどうするの? 発注注文受注状況とか、そこんところ見ないと組めなくないですか?」
「「‼」」
俺の言葉におじさんと翡翠さんの人差し指がくっついた。
ああ、こりゃあ間違いなく兄弟だ。
何も考えていないんだ。




