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9/12

いったん終わってガラガラポン

「ぬいぐるみのアイデア、良いと思いますよ。アパレルフロアで小さくグッズ売ってるの流行りだし。」


と僕が言ったら小泉も

「そうだね、中学生がポーズして撮影しながら、小道具のこのぬいぐるみ、売ってたら欲しいって言ってたから。」


「やはり専務のセンスは一流だと思う、だってあれ40年前のやつだよ、東京のクリエイターだって40年もつ作品作ったやつはそうはいない。」


と小泉は語った。

で、僕は気になって、こないだ開けてみた箱のことを聞いてみた。「ついにあの箱が出てきたか」と小泉は言い、箱の中の話をした。僕が2歳の頃の話だ。


2011年も2月になり、年度区切りで考えるから残ることあと1ヶ月くらい。余り予算もそこを尽きてきた。

と言っても小泉と僕に対しては毎回5万円なのだが。


専務が東京のアイドルプロデューサーにたんかを切っちゃって、全国の御当地アイドルを毎週屋上ステージにご招待ライブのプランを練る仕事が残っていた。

このプランは結構簡単で、スケジュール調整が合えば決まりだからパズルを解くような作業だった。

地方アイドルも全国を飛び回るので、この街に来るタイミングでアンドーチェーンの屋上を提供するからぜひいらしてくれませんか?と伝え、


全盛期に毎週開催したアイドルミニライブの年表や

「新人アイドルミニライブの聖地復活」

のタイトルを入れた企画書を送るのである。


ステージ担当のヨッチは

「音楽性が良いのよ、地方アイドルは。」

「一曲入魂よ、やりがいがある。」

と乗り気だ。


全盛期のぬいぐるみを復刻販売する話の方が難しかった。

デザインが今では有名アニメスタジオ、製造が今や大手の玩具メーカーだ。昔、アンドーチェーンはアイデアを両社に伝えて完成品を全て買い上げて自社商品として販売していた。


アンドーチェーンの商品なんだけれども、権利関係の許可を再び得る必要があり、また、あの頃のように全て買い上げる莫大な予算は今はないのだ。

というわけでコラボ販売で協業提案となる。

すると東京側で「今さら売れるかね?」という話になり話が止まってしまうのだ。


専務との長い会議にうんざりして、僕はうっかり言ってしまった。


「いっそのこと、最後に試作段階で終わったおサルさんのキャラを」

「オリジナルで地元デザイナーが描き直して」

「ネットで小ロット製造で限定販売してうけるか試しませんか?」


「専務も作りたかったのではないですか?」

と言ってしまったのだ。


小泉が「いかん、それを言ってはいかん!」と僕を制した。周りの8人は会議室から逃げた。

専務は

「あの箱を開けたのか?」

と顔を怒らせた。

「しっかり封印していただろうに。」


小泉は

「すいません、資料リストを作るために中身を詳しく全部見るように言ったのは私です」


「言い訳はいらん!」と専務は言い、

「そもそもお前は呼んどらん!この街のために成功の秘密を知りたいとか上手いこと言ってスルスルスキマから入って来やがって、やっぱりゴキブリ以下だな!」


と罵倒し、

「お前はクビだ。今から出てけ」

と僕の仕事は終わったのだった。


2011年2月の中頃、僕はまたこの街で宙ぶらりんになった。


あっさり僕はクビになった。


もともとは埼玉が実家だから、借りていたマンションを引き払う手続きをして荷物をまとめていた退屈な毎日のなか、突然、体験したことがないほどの地震が起こった。


3月11日だった。

マンションは壁がかしいで天井板が落っこちた。玄関ドアは蹴り倒さないと開かない。


僕は必要な荷物だけ持って近所の広場へ逃げた。そこには大学生がいて海を見ていた。マンションは山を削って造成した住宅地だから広場から海が見える。


「津波が来るみたいですよ」と大学生は言った。


4日間くらい避難生活をして、日本海経由で東京行きのバスが出ると聞きつけそれに乗る。実家の川越に着いて6日ぶりにお風呂に入ったら爆睡してしまった。


テレビで震災のニュースを毎日見ながら、避難生活で隣だったおばあちゃんとの会話を思い出していた。


「電気もガスも車の排気ガスも止まって、夜空が毎晩きれいだね」

「オリオン座があの高さに見えるでしょ、東京とはちがってね」


「この街は長いこと自分が東京だと思っていた。でも東京とは違うんだよ、オリオン座の高さを見てまた昔みたいに気づくよ。」


「この街をどのようにすべきか、若者から考えるだろうね」


あともうひとつ、目にしたことを思い出していた。

バス乗り場へ向かう途中、アンドーチェーンの前を通ったら、アンドーチェーンの一角が崩れていた。


かなり古いビルだからしょうがない。


夏になった。震災から5カ月たって、やっとこの街への交通インフラが一部復旧したので、出会った飲み仲間に別れの挨拶をしようと戻った。


震災の弔いの花火が上がる夏祭りの会場。

飲み仲間の一人が

「3か月後に帰っちゃうのか、残念。」

「僕は震災でお先真っ暗だけど、念願のお店をやろうと思う。ダメだと諦めないで敢えて進めるんだ」


そこで相談されたのは

「宣伝でフリーペーパーを作りたいんだけど、3か月でいいからデザイン編集してくれない?」


僕が東京で雑誌やパンフレットを作っていた経歴を知っていたからだろう。

僕はうれしかった。じゃあやってみよう、ノーギャラでいいよ。


その代わり、作ったフリーペーパーは、

東京で仕事見つける時に見せるポートフォリオに使わせてもらうよと。

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