誰だってあけてはイケナイ思い出がある
町のレトロ写真を集める印刷屋の主人には恩ができた。主人のおかげで戦国弁当の話が生まれ、軌道に乗ったからだ。でも専務は「思い出写真で写真展はやらないぞ」と釘を差す。
年が明けたら2011年。年末のアンドーチェーンはファッションビルになっても、大晦日の初売りに並ぶ徹夜組に豚汁を振る舞う和風な伝統を忘れない。
専務は言う
「こごえて死ぬくらいの冬の街に並ぶお客は本当のお客なのだ」と。
じゃあ中に入れてあげましょうよ。というと
「客を甘やかしてはならない」と持論を言う。
これだけは理解に苦しんだ。
屋上のオヤジバンドの集客が話題、というよりも色んな女子高生ダンス部の発表会になってきた屋上が話題になってきて東京からアイドルの仕掛け人が相談に来たと、後になって小泉から聞かされた。
東京、大阪、名古屋、福岡、札幌とアイドルのシリーズ化を考えています。各都市には専用ステージを用意して毎週コンサートをします。この街にも仕掛けたい。強いてはアンドーチェーンに専用ステージフロアを作り、共に運営しませんか?
「いい話だと思ったんだけどね。」
「専務は断ったよ」
なぜです?東京で話題じゃないですか?と聞くと
「いい話は最後の最後に東京が全部持っていくとさ。」と小泉は言った。
「トラウマなんだろうな、昔の思い出の。」
小泉は続けた。
「でね、専務は悪態ついちゃったのよ。ならばこっちは田舎もんの女の子たちで同じことをやってやる。東京からファンが会いに来るくらいのアイドルにしてやるって」
そりゃ無茶だろうと言うと
「それがね、調べてみると、新潟や色んな地方に御当地アイドルが既にいるんだよね。」
「それぞれ小さな会場で採算合わないのに頑張ってる。それを応援してるファンもいる。テレビからもめったには呼ばれない。」
小泉は笑いながら
「専務は知らないふりしてるだけなんだよ、たまに東京に行って昔の仲間に聞いてんじゃないかな、応援してた若造たちも今は結構立派だし。」
でも5万円だったらバカにすんなってなりません?
と聞くと
「そうだな、でも今回は新幹線代もホテル代も全部出すってさ、その代わり、次の新曲の使用権は頂くらしい。」
ちゃっかりしてますねと言うと
「でも目的は印税じゃなくて声なんだよ。声をコンピュータで使えるように商品化する時代が来るらしい」
「もちろん、専務は誰かから聞いた話だ。」
再び思い出話に戻る。
専務はなぜか子供たちの夢に熱心になる。自社商品のぬいぐるみがその証拠だ。
小泉にその理由を聞くと
「まああれだな、子供時代に夢を重ねてるのかな」
とそれ以上は語らなかった。
年が明けて、いつもの指示で資料整理をしていたら、資料室からごたいそうな箱が出てきた。封がされていて何か怖い。小泉からは時代ごとに一覧でまとめて社史を作るから中身をしっかり見てデータ化するようにと、僕がゴキブリ扱いにされた初日からやらされていた仕事だ。
その封印された箱
開けちゃダメそうだけど、
中身確認のために開けてしまった。
あれ?これは。世界中で売ってるあれじゃない?
中学生向けに開放していた、イベントフォトスタジオ広場。
ギャルファッションフロアのたくさんのお店からセール品を、大家であるアンドーチェーンが買い上げて、全盛期を忍ぶ荷物をしまっていた資料室を撮影スタジオに改造し、セール品を衣装に記念写真が撮れる。
しかもカメラマンは市内の写真屋。
というやつだが、好評なこともあってギャルファッションフロアの真ん中にフォトスタジオとして移動し、本格オープンしたあと、だんだん下火になってしまった。
撮影イベントは土日だから、普段はベンチを置いて広場にしてWi-Fi使い放題にしておいたら、ギャルファッションフロアに似つかわしくない新幹線待ちの日帰り出張族のWi-Fiスポットになり、ギャルファッションの店員から不満が出た。
アンドーチェーン入口で日帰り出張族を狙った歴女プロデュースの戦国弁当が好評なこともあって、ギャルファッションフロアの真ん中広場でノートパソコンを打ちながら戦国弁当を食べる風景がギャル店員の不満を爆発させていた。弁当自体はギャル店員にも美味しいと好評だったのだが、なんとかしなければならない。
これは専務を囲う毎日の会議で毎回問題になった。
東京のファッションビルが出来て、
ギャルファッションフロアはいずれスカスカになる。
近所に渋谷が本店のファッションビルが出来て、うちのド真ん中の店があっちに行ったからフォトスタジオ広場にした、というのもそのあらわれだ。
ギャルファッションの店はそのうち、もしかしたら来年度は、相当な店を東京がもらっていく。そもそも、ギャルファッションの店、全部東京の店だろうがと。
それはそうなのだが、ビルを盛り上げる大事なパートナーだから、不満はなんとかしないとと小泉は言い、そこで恐る恐る
「もう一度、中学生の女の子が来てもらえるために」
「むかし自社商品で売っていたぬいぐるみを復刻販売してみませんか?」と言った。
周りの古株8人は凍りついた。
何で凍りつくのか僕には分からなかった。
専務は話をはぐらかして今日は終わり。
と会議室から去っていった。




