わけがわからんうちにやってしまうのさ
いったん話を脱線させて、同じころ出会った、変わった印刷屋の主人の話。
アンドーチェーンを専務が久しぶりに振り回したおかげで、この街の市民が再び目を向け始め、この街の全盛期の写真を集めてデータアーカイブする人がアンドーチェーンで懐かし写真展をしたいと相談してきた。
懐メロっぽい話は一切断る専務だから、僕の中で話を止めていたが、僕は生まれる前のこの街の話に興味があるので飲み仲間になっていた。
集めた写真は山ほどある。自費出版してみたら市役所から相談が来た。老人ホームで写真を使ってティーパーティーをしたい。自費出版のレトロ写真集を見せたら、おじいちゃんおばあちゃんが
「あの角を曲がると佐藤さんの家でね。」
「あのビルに入る会社に勤めるのが誇りだった。」
「奥の店の店員は高校の同級生で。」
と笑顔で記憶をたぐり寄せて話が止まらないんだと。
お医者さんが言うには脳が活性化されて、普段の生活にも良いだろうと。
「なんか、アンドーチェーンの思い出は、街の役に立つんじゃないのかなあ。」
と2人で話す日があった。
小泉に話すと
「思い出を現在進行形のアイデアに出来れば専務に話せるけどね。」とぴしゃり。
「あとね、同じ老人でも専務にとって思い出は呪いだからなあ。」
思い出話のゴールが笑いものにされた苦いものだから納得だ。
小泉は後は任せたと東京に出張に行ってしまった。たぶん専務から指令が下ったんだろう。
お題は地元の産業、農業。
屋上のステージを仕切る音楽担当のヨッチも家は農家だから、タバコを吸いながら話してみると
「この喫煙所も昔はタレント呼んだ時の楽屋でな」
「セイコちゃんも我らのコイズミも使ったんだ」
「大御所のあの方には悪いことをした。機材が壊れて拡声器で歌ってもらったんだ、まるでパンクさ」
とどうでもいい話に続けて
「ようはステージに置かれたもんがホンモノの原石だったら」
「周りが担ぐわけよ、食い物も同じよ。年に1回生まれる野菜がな、お客に響く料理になれんのか?ってこと。野菜はホンモノだよ、兵士飯はなんちゃってじゃないの?」
と言うわけだ。
それも一理ある。兵士飯がホンモノになるストーリーは何だろな?考えこんだら何も浮かばない。ヨッチは言った。
「食えば戦力アップ、出世間違いなしのビジネスマンの昼メシじゃねえの?」
「戦国時代は社長とか大好きだろ、最近は少し仕事覚えたらすぐ事業家だろ。」
「そそのかすのよ、アタマ使えよ」
と僕を小突いた。
ヨッチは見ていた。Wi-Fiをビルの中でお客に使い放題にしたころから、新幹線待ちの日帰り出張族が、中学生がいなくなった広場のベンチでノートパソコンをいじりながらコンビニオニギリを食べる姿を。
「コンビニオニギリもうまいけどさ、東京でも食えんじゃん」
「地元で生まれたうちらの作品も食ってくれないかってね」
小泉は専務に
「毎日来る新幹線待ちの日帰り出張族にデコトラで戦国武将弁当を売りましょう」と言ったら
「わけがわからん」と言われ
「やるんだったら店員みんなに倉庫にある昔のイベント小道具の甲冑を着せろ、それが条件だ」とわけがわからん話になった。
販売当日、ピンクのデコトラはアンドーチェーンの伝説のロゴマークをつけて目抜き通りを走り抜け、アンドーチェーンの前に停まると中から甲冑武将が30人降り立ち、戦国弁当を担いで入口の売り場に並べ始めた。
ミユは自分のSNSで発信していた。日帰り出張族は物珍しく眺めるだけだ。着物姿の彼女は一生懸命に売り子をやった。そのうちに着物姿の一団が来てミユを囲んで騒いでいた。
「やっと叶ったんだね!」
「あたいたちも買うし売るよ!」と。
小泉は僕にたずねた。あの子たちは何もんだと。僕は「おばあちゃんの着物で町を練り歩く、あたいちゃんって言うコミュニティらしいです」タレントなのか?と聞くので
「いや、タレントみたいなふつうの人です」。
アンドーチェーンのロゴを付けたデコトラもSNSに乗って話題になった。あのロゴマークかわいいよね、Tシャツにしたら着たいとね。
次第に出張族も買い始めた。縁起物や御当地お土産に見えたんだろう。
「少し早く生まれていれば天下を取ったかもの政宗。その思いを継いで新しい天下をこの街から目指そうぞ!」
とミユが叫ぶと甲冑の男たちはビラを配り始めた。彼らは専務が声をかけた事業家たちだった。
「まだアパートで商売始めたばかりの奴らだがな」
ビラは自分たちがアパートにこもって開発した、
真面目なオリジナルソフトウェアのチラシだった。




