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無理なことは言ってみてから無理と知れ

やれるだけの事をやったからスジコ先生の件はあきらめて、ギャルファッションで中学生のファッション撮影イベントの準備を進めていると、


8人のひとり、ジジイ広告デザイナー、広瀬がふらっと来て「あの頃の「街を沸かせた」40年前の雰囲気で新聞折込みチラシ作ることになったよ」と言った。

今さらチラシかい、と思ったが専務がやれというんだからしょうがない。


「でも今さら、あの頃風は無理だよ、俺だって多少はアップデートしてんだから」と笑う。


小泉は僕にやらせたら?と言った。僕は毎日、あの頃の全盛期のチラシの現物を見ていたからだ。

持ち込んだMacで古ぼけたビルの中で作ってみた。

専務が口出しをする。だんだん目線が分かってくる。「あの頃とはほど遠いけど、今の若もんはこれが良いってことなんだろ。」と悪態をついた。


小泉と広瀬は

「あの頃と同じだな、専務は気に入ってるぞ」

と笑った。


いきなり新聞に折り込まれたレトロチラシは老人の家を中心に話題を呼んだらしい。

おじいちゃんやおばあちゃんがお金を出すと言って孫をつれて家族がどんどんやってきた。

おじいちゃんおばあちゃんはセール品も新作もどんどん買ってくれた。

中学生向けのファッション撮影イベント(モデルごっこイベント)は、しまいには家族写真イベントになった。


子供たちは全盛期に作った自社商品のぬいぐるみを持ちながら「これほしいかも、何ていうの?」と言っていた。


レトロはまんざら悪くない。


屋上は家族とペットの動物園、ファッションフロアは中学生のたまり場になってきた。


渋谷みたいな以前の雰囲気を喜んでいた20代は隣に出来た東京のファッションビルにくら替えした。そこにスジコ先生からサイン会をしましょうと知らせが来た。


誰が僕の知らないところで話をつけたのかは知らないが、サイン会とトークショーもしたい。この街には思い出があるからという。

小泉はやっぱりなな顔をしている。

「誰かのために頑張った全盛期の思い出は、利息がついて帰ってくるものだ」と言った。


専務は僕を呼んでスマホを見せた。

「知ってるか?これ。昔、手のひらサイズのテレビあったよな、アレみたいだよな小泉」

「懐かしいですね、あれはかなり売れました。」

「昔と違うのは見るだけじゃなくて、自分からテレビ中継できるらしいじゃないか。それ本当か?」

と専務は聞いてきた。


小泉は「あの話をしろ」という顔をしている。

僕は宅配ピザの課長をしていた時、東京でデビューを控えるバンドに宅配ピザのロゴTシャツや制服を着てYouTubeで歌うPVタイアップ企画を考えて、バンドは乗り気だったけど周りの大人の事情でポシャったことを話した。専務はうがった目でこちらを見ていた。


「それでな、このスマホってやつはカメラにもなるから、自分でテレビ中継するときはこれ1個で済むって本当か?」

「それはそのとおりです。生放送みたいに自分で番組もできるでしょう。でもテレビ電波じゃなくて電話回線を使います。まあ、今は電話回線も携帯電波が主流なんでしょうけど」と僕。


専務は小泉を見ながら

「なあ、やっぱり若造ひとり拾っといて良かったな。チョロチョロしてるだけに、ゴキブリはよく知っている。」

と悪態をつく。気がつけば専務と直接話していた。僕も思わず苦笑いした。


「じゃあ決まりだ、お前がスジコ先生のサイン会を仕切れ。そしてトークショーをスマホで生中継しろ。」


著名人の許可、権利関係の取り巻き、その後の動画の扱い。ややこしいことばかりだ。しかも専務は5万円しか出さない。でもこの頃にはその意味がわかっていた。


お前の知恵でどこまでできるか、やってみろ。


冷静に考えると、スマホは電波が繋がりにくいと何の役にも立たない。


この築古レトロビルに来るお客さんは、電話するとき入口か外に出てしまう。たまにアンケートを取ると「携帯が繋がりにくい」と書いてあったりする。


飲み屋の仲間に携帯電話会社で働く人がいて、これからはWi-Fiだよと言っていた。そいつに電話して相談してみたら、すぐ行くから専務に会わせてくれと言う。彼の勤め先の社長はワンマンのクセモノだから、専務みたいな人に提案するのは社内報告で慣れているらしい。

まずは小泉にプランを話した。「ソロバンはどうなってる?」採算はなんとかなりそうですと答えておいた。


日をあらためて専務の前に小泉と僕、携帯電話会社の飲み仲間の冨塚が並んだ。

専務は意外と優しい態度だった。冨塚は結論から言った。

「このアンドーチェーンの屋上に弊社の携帯電話アンテナを置かせてください、家賃のように設置代は弊社が払います。」


続けて、スマホの威力をいかんなく発揮するには電波が最大限行き渡ること、ライバル会社は先を行って携帯アンテナを張り巡らせているが、東京で話をつけた東京資本のビルやお店ばかり。弊社は市民が集う地元の広場にアンテナを集中したい。アンテナを屋上に立てれば、それにWi-Fiを繋げてスジコ先生のトークショーを生中継できると冨塚は話した。


専務は下を向きながら聞いてそして聞いた。

「そのアンテナは東京で1番大きいやつでできるか?」


もちろんと冨塚は言った。

「でも電気代はアンドーチェーン持ちになります。」

「じぁあソーラーパネルをこのオンボロビルを隠すくらい貼ってやったら電気代はタダだな」


きょとんとする冨塚。専務は全盛期の頃に作った名刺を渡した。

「君のボスに渡しなさい、40年前あの時の相談には乗れなかった、私がハイテクに無知で理解出来なかったから。久しぶりに仕事をしよう。君の携帯会社はソーラーパネルについて投資しているね、その会社に日本初の事例としてニュースになるようなギラギラしたビルにしてくれとお願いしてくれ。」


冨塚は少し震えていた。

小泉と僕は「とどめのひと言、言うんだろうな」と顔を合わせた。


「うちが出せるのは5万円までだ」

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