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なんでも5万円でできると思うなよ

小泉が呼ばれたのは、市役所からの再開発をうまく使ってアンドーチェーンを復活出来ないか?という相談だった。


小泉は全盛期、アンドーチェーンの取引先をうまく懐柔する役割。アンドーチェーンを復活するには街へ新しいストーリーを示す必要があるし、デパートが未来に必要か?という疑問がある。新しい取引先を開拓して復活するにも、昔の噂話がデジタルタトゥーのように検索に出てしまったら、取引先はよって来ないだろう。


このままでは勝算はない。


そこで噂を消し散らす役目を僕に背負わせようというわけだ。成功の秘密を紐解いて作る新しい話題で、古い噂を塗りつぶせると小泉は考えた。


「だけど本当にアンドーチェーンの昔話は、元気になる思い出話に変わったのか?」

小泉は僕が思っているだけでは?と思っていた。


僕は確かに飲み屋で懐かしくアンドーチェーン話をする人と会っている。

小泉から「新しい噂話は何がいいと思う?」そう言われると何も思いつかない。頭に浮かぶのはレトロな思い出話、それではダメだ。


そんな時、専務から小泉に電話が鳴った。


アルパカを5頭買い取った。屋上にドッグランを作る。5万円で話をつけろ。なんだそれ!と思う矢先、小泉は分かりました、と急いで消えた。次に会った3日後「3万5000円で話をつけたよ」と言っていた。 


「そこで初仕事なんだが、仙台でドッグランを経営したい人たちを探してほしい。アルパカは半年後に動物園にプレゼントで話をつけた」


僕は飲み屋で出会った友達に話を持ちかけたが、相手にされない。

夜中に店を変えてバーで話をしてみたら「面白いじゃないか。屋上をタダで借りれて、夏にビヤガーデンさせてくれるなら近所のバーを巻き込んで経営できるかも」


小泉は「なかなかやるじゃないか、この町も」と笑った。それを聞いた専務は、じゃあやらないと言う。とてもややこしい。言い分はこうだ。


「酒を売るならトイレもキレイにしないといけない。この築60年のトイレを見たか?磨いたところであんなもんだぞ。結果残念な店だった、だから昔つぶれたんだと言われるだけだ、分かってんのか!」というわけだ。


小泉は切り返した。

「ならば有料トイレを作って、誰かに運営させましょう」。

専務は誰にやらす?と聞くと「地元の清掃会社です。この町は今では目ぼしいビルのほとんどが大手のものであり、清掃も警備も東京で大手同士が話を決めています。地元清掃会社は存続が危うい。彼らを助けるのです。施工費は無理なくのんびり回収すれば良いですな。」


専務は僕に「ここまで考えろ」と言って去っていった。


ドッグランは2ヶ月後オープンした。


ドッグランに立って周りを見渡すと、この町にもタワマンが何件かある。そうか、この町にはペットを遊ばす公園がない。

ドッグランはだんだん人が増えていった。どのタワマンからも遊ばす風景が丸見えだからだ。


ビルの中にあるギャルファッションの店員も昼休みにやってきた。アルパカはモテていた。子供を連れたママさんも来て、ギャルファッションの店に立ち寄って帰った。


夏になると昼のビヤガーデンが始まった。

小泉が率いる7人のうち、音楽担当のヨッチが土日にオヤジバンドを連れてきてライブをやらせたら、バンドメンバーの子供の高校生がダンス部で踊りたいと言うので、専務は屋上にステージを作らせた。


小泉は楽器屋を東京から連れてきて、ステージはお客様に自由に使わせて良いから出店しないか?と持ちかけた。ちょうど一区画、今人気のギャルファッション店が近所に出来た東京のファッションビルに移るからだ。


だんだんアンドーチェーンは変わり始めた。


専務が次は何を言い出すのか?


周りがヒヤヒヤする間、僕は独り奥にある倉庫で全盛期の商品や広告ポスター、ノベルティの山を整理していた。アンドーチェーンはなぜか、ぬいぐるみばかり自社商品を作っていた。


ぬいぐるみのデザインは東京の下町メーカーに任せて、専務は当時、何回も直しを入れて完成させたらしい。


次の指令が来た。テナントの店からやりたいことをまとめよ。

ギャルファッションからはビルをキレイにしてほしい。有料トイレはキレイになって嬉しいが従業員は無料にしてくれないか?と現実的な不満だったが、


本屋からの声は違った。

「スジコ先生のサイン会をしたい。トキワ荘の部屋をネット画像や資料を集めて原寸大で作ったんです。そこでサイン会をするのが夢なんです。」 

専務は小泉に言った。

「5万円でサイン会をやれ。」


こりゃ失礼だし無茶だろうと僕は言ったが

「できるとしたら、5万円を何に使う?」

と小泉は聞き返してきた。


招待の新幹線代で消えちゃうなあと答えたら、じゃあ本人に手紙を書こうとなり、本屋の店員全員で考えたトキワ荘の部屋が原寸大でできるまでを書い綴った後に、サイン会の企画書をつけて小泉から出版社に送った。


専務はうまくいくわけないだろうと悪態をついた。

専務からの指令が下る。


ギャルファッションの店、合計25店からセール品を全部買いきって中学生に好きに着てもらい、ファッション写真を撮ってやれ。カメラマンは街の写真屋から呼べ。セール品は衣装、気に入れば買ってもらえばいいだろうと言った。

スタジオはどうします?と小泉が聞くと、昔の資料室から荷物全部出して空にするんだ。荷物はぬいぐるみだから小道具に使ってもらえばいい。そんくらい思いつけ!


だってさと小泉は言い、僕を誘って2人で大量の荷物を外に出していた。全盛期の荷物を出していくと、古民家にありそうな道具が出てきた。

「それは創業者たちが最初に住んでいた家の家具とかだよ」

と小泉が教えてくれた。

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