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2/12

痛い目に合うと、さらに辛い目にあうのさ

私が開拓した漫画家との広告企画は、

新作ピザを買った人にだけあげるおまけとして書き下ろし漫画本を制作、

バンドとは、YouTubeのPVで宅配ピザのマーク入りTシャツやジャンパーを着てくれたら年間食べ放題、

広告デザイナーにはピザボックスのフタを宣伝に使える商売を任せる、といったアイデアが生まれて創業者も喜んでいたが、お互いの周りがそれを許さなかった。


漫画家のマネージャーはバカ高い制作料金を示し、バンドの事務所はコラボとしてバカ高いタレント料金を示し、ピザボックスの広告はデザイナーが世話になる広告代理店が新サービスとして業界2位のライバルへ売ってしまう。


ようはもっと名の通ったメジャーと付き合いたい。

と言うのだ。


店の方も「このアイデアは確実な売上に繋がるのか?」と突き上げる。


結局手堅く地味な、ネット売上を軌道にのせる定番策の「2500円以上お買い上げで」缶チューハイプレゼントや広告バナージャックで簡単に結果が出た。


新しい事は何も実らず、新しい人もいらないねと、

私の契約は終わった。


小泉に話すと

「ロマンとソロバンですね。みんな夢は高く売りたいですからね。」と返され、


「それはそうと、あなたは40年前のアンドーチェーンのオマケをヤフオクで買い集めましたね」と言い当てた。


びっくりして聞いたらそれは小泉が出品したもので、小泉はボスから、そんなくだらないモノを集めるそいつを連れて来いと言われたらしい。


小泉は謝って続けた。

「あなたが今まで話したアンドーチェーンの思い出のイベントは全てボスの指令のもと、私が采配した仕事です。騙すつもりはなかったのですが黙っていました」。

では、お連れしましょう、というのでそのままついていった先に、あの爺さんがいたのだった。


爺さんは黙っていちばん奥の席に鎮座していた。

いちばん手前の私との間には8人の面々がいた。お前がボスと話すには10年早いと言わんばかりだ。


小泉は圧倒された僕を背中から突きだし、僕はボスの前に転げ出した。

「今まで私に話したことを全部、話すんだ」


すかさずボスは「何しに来た!呼んではない!小泉、何をこいつにそそのかした!」と切り返す。


「若林、その言葉はお前を試しているだけだ。専務は聞きたがっている」

小泉の言葉を信じてアンドーチェーンの思い出を話した。順序なんて覚えていない。


あの頃のこの街は若者がやりたいことにチャレンジしていた。アンドーチェーンの成功が気持ちの拠り所だった。なのに今の若い子はそれを知らない。僕はアンドーチェーンの成功の秘密をひもといて、仕事に活かしたいと、そんな話だ。


ボスで専務らしい爺さんは言った。

「小泉、こいつは頭がおかしいのか?こいつが仕事に活かしたところで、うちには関係ないじゃないか」。


小泉はしばらく黙っていた。


周りの7人は下を向いていた。小泉は

「今こそ、紐解くべきです。若林の言葉はこの街の若者の声です。若林も自力で痛い目に遭いながら街の現実を知り、仕事から離れています。勉強させてくれませんか?」

「そもそも専務が久しぶりに私たちを呼んだのも、若林と同じ理由では?」


専務は黙って震え始めた。

手に鉛筆を持っている。

鉛筆でメモ帳に三角を描き始めた。7人は

「三角は決まりってことですね」

「私たちはもう歳だから、あの頃みたいに専務と仕事をしたら死んでしまいます。この人に叩き込む形でなら仕事をしても良いかと。」


専務は「分かった、ただし小僧、お前の席はこの部屋の端っこのゴキブリホイホイの脇だからな。そして小泉が雇う部下だ。」

小泉と7人は、ゴキブリから人間になれるか勝負だなと笑う。


帰りに僕は、あんまりじゃないかと怒ったが小泉はひょうひょうと話した。

「いや、あれは専務は喜んでいるよ。若林を呼べと去年から言われていたんだ、これは本当だ。だけど失敗して苦さを分かってからじゃないと専務には会わせないと私が止めていた。」


じゃあなんで、あんな言い方なんだと聞くと

「あれは演技なんだ。私を含めて全盛期を作った8人を呼んで仕事を相談したら、みなやんわり断わった。挨拶にはくるけどね。諦めモードなんだな、年寄りなんだな、やっぱり。

専務のやり口なんだが、初対面には罵倒して怒らせて本当の気持ちかどうか試すんだよ。

それで若林の気持ちが引っ込んだら8人まとめて挨拶で終わりだった。

君はボスの図星をついたよ。

街を見て、最後に仕事を通じて伝えたいことがあるんだよ。」


最後?って何ですかと聞くと

「専務は病気なんだよ、これは小泉しか知らない。同席した周りも知らない。」


時間がないけど、素直になれない専務は小泉に何かを託している。小泉は嬉しい半面、専務に振り回されたら体がもたない、だから道連れというか、負担の分散というか、ややこしい話に巻き込まれたと思ったが、ゴキブリと言われたまま引き下がってもいられない。


僕は小泉と専務の友情のエピローグに付き合うことにした。


聞けば、今のアンドーチェーンはビルにテナントを入れて、昔のような店員はいない。ビルは昔のまま。色んなお店が入るビルの大家さんというわけだが、うまいことファッションビルとして賑わっている。


でも築50年。市役所からは駅前再開発のプロジェクトに参加して建て替えるか更地にして売り渡してくれませんか?と言われている。


買うのはもちろん東京の大手だ。


専務も、まあそれが現実のオチだと思っているが、ならば最後は昔の仲間と仕事をしながら同窓会をしようか?と言う話らしい。でもそれが簡単にはいかない。


アンドーチェーンは東京のデパート進出に屈して消えたことが、街の笑いものにされてしまった。僕は子供の頃にいただけだから詳しくは知らないが、

「東京にはかなわない」

の諦めモードが始まるきっかけになり、成功に嫉妬していた一部から、あらぬ噂を立てられて専務は迷惑をこうむり、しばらく原宿に住んでいたが東京は合わないらしく、町外れの島のひとつを買って隠居したという。


だから最後の最後にアンドーチェーンの名誉回復がしたいのだろう、専務はね。と小泉は言う。

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