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第6話:敵対的買収(TOB)と外部委託。あるいは、トップギルドを『レバレッジ2倍』で沈める方法

第二層のオアシス都市、ファラシャ。私は安全地帯セーフゾーンである街の酒場のテラス席に陣取り、冷えたエールジョッキを傾けていた。


「ふむ……素晴らしい揚げ加減だ。このスパイシーなフライド・コカトリスの衣のサクサク感、そして溢れる肉汁。そこにキンキンに冷えたエールを流し込む。最高ですね」


【コメント】

:おっさん、また飲み食いしてんのかww

:こいつの配信だけ飯テロ番組になってるぞ

:さっきの戦場のハイエナから数時間、ずっとここで飲んでるだけじゃねーか!

:で、紅蓮の連中はどうなった?


 私は油で汚れた指先をナプキンで優雅に拭き取りながら、コメント欄に答えた。


「紅蓮の獅子の皆様でしたら、先ほど教会のリスポーン地点からぞろぞろと出てくるのを確認しましたよ。ボスの前で全滅ワイプしたため、デスペナルティとして装備の大半をその場にドロップしてしまったようですね。……ええ、もちろんそのドロップ品は、彼らが消えた後に私が『拾得物』としてすべて回収済みですが」


【コメント】

:鬼畜の所業wwww

:自分で回復アイテムすり取って全滅させた後、落とした本装備まで根こそぎ回収すなww

:完全に身ぐるみ剥がされてて草

:もうやめて! 紅蓮のHPはゼロよ!


 私が上機嫌でジョッキのおかわりを注文しようとした、その時だった。


「なんだぁっ!? てめえ、田宮ァァァアアアッ!」


 酒場のスイングドアが乱暴に蹴破られ、一人の大柄な剣士が血走った目で飛び込んできた。

 頭上に浮かぶプレイヤーネームは『レオン』。先ほどボス戦で全滅したトップギルド『紅蓮の獅子』のギルドマスターだ。その後ろには、初期装備の布の服に着替える羽目になった、情けない姿のギルドメンバーたちが十数人控えている。


「おや、レオン様。全滅の傷は癒えましたか? 奇遇ですね、相席なさいますか?」

「ふざけるな! しゃあけど、許せねえ……! 俺たちの回復アイテムを盗んだのはてめえだな!?」


 レオンが私の胸ぐらを掴みかかろうとするが、安全地帯のシステム障壁に阻まれて弾き返される。

 私は全く動じることなく、残っていたコカトリスの唐揚げを口に放り込んだ。


「人聞きの悪い。私は広範囲魔法の巻き添えを食らったため、システムの正当防衛判定に則り、慰謝料としてアイテムを『差し押さえ』しただけです。そして貴方たちが落とした本装備も、誰の所有権もなくなったフィールドのゴミを『清掃』したに過ぎません」

「てめえの屁理屈は聞き飽きた! 俺たちの装備を返しやがれ!」

「お返ししましょう。ただし、市場価格の『2倍』でお買い上げいただければ、ですが」


「なめるなァッ!」

 レオンは怒髪天を突き、システムウィンドウを猛烈な勢いで叩いた。


『――警告。ギルド【紅蓮の獅子】より、プレイヤー【田宮二郎】へ【ギルド間抗争ギルド・ウォー】が布告されました』


【コメント】

:うおおおおお!!

:ギルドウォーきたあああああ!!

:街の中でも合法的にPvP(対人戦)ができるシステムだ!

:レオン、ガチギレじゃんww


「ほう、ギルドウォーですか」

 私は目を細めた。


 ギルドウォー。それは双方の合意のもと、街に併設された闘技場アリーナで決闘を行い、敗者から勝者へシステム上で合法的に資産を移動させる公式のPvP機能だ。


「そうだ! てめえみたいな卑怯な盗賊、闘技場なら一捻りだ! 俺が勝ったら、奪った装備とアイテムを全部タダで返せ! ついでにてめえの全財産も置いていけ!」

「なるほど。わかりやすい暴力ちからの行使ですね」


 私はエールのジョッキを置き、ゆっくりと立ち上がった。


「良いでしょう、受けますよ。しかし、ただの奪い合いでは少々面白みに欠ける。……この賭けに『2倍のレバレッジ』を効かせませんか?」

「れ、ればれっじ……?」


「ええ。もし私が負ければ、貴方たちの装備をすべて返し、私の全財産も差し上げましょう。しかし、もし貴方が負けた場合……ギルド【紅蓮の獅子】は解散し、メンバー全員が私の商会【田宮トレーディング】の『完全子会社(専属労働ギルド)』として吸収合併される。……この条件でどうですか?」


 私の提案に、酒場がシンと静まり返った。


【コメント】

:敵対的買収(TOB)キタコレwwwww

:負けたらおっさんの奴隷(社畜)になるのかよwww

:てかおっさん、ソロの盗賊だろ?

:PvPで勝てるわけなくない? 盗賊のタイマン性能なんて最弱だぞ。


「……はっ! ハッハッハ! 狂ったかおっさん! 最弱職のソロが、この俺にタイマンで勝てると思ってるのか!」

 レオンは狂喜したように笑い、即座に条件を承認した。

「いいぜ! その条件でやってやる! 闘技場へ来い、3分でミンチにしてやる!」


 レオンは意気揚々と闘技場へ向かって歩き出した。

 私はその後ろ姿を見送りながら、インベントリから一つの通信用アイテムを取り出した。


「……さて。視聴者の皆様の言う通り、私の戦闘力では彼に手も足も出ません。ですが、ビジネスにおいて『自社でまかなえないリソース』はどうするべきか、ご存知ですか?」


 私は通信アイテムを起動し、専属契約を結んでいる「太客」へとコールを入れた。


「はい、もしもし。こちら田宮トレーディング。……ええ、アリア様。至急、B2Bの『外部委託アウトソーシング』をお願いしたい案件がございまして」


     ◆ ◆ ◆


 ファラシャの街の中央闘技場。

 観客席には噂を聞きつけた数百人のプレイヤーが詰めかけ、熱気に包まれていた。

 円形のコロシアムの中央で、大剣を構えたレオンが鼻息を荒くしている。


「さあ来い、田宮! ギルドウォーの開始ボタンを押せ!」

「ええ、押しますよ。……代理人が、ですが」


 私が闘技場の入り口でそう告げた瞬間。

 私の横をすり抜け、白銀の装甲に身を包んだ美少女が、レイピアを片手に颯爽とコロシアムへと入場した。

 トップギルド『蒼穹の翼』マスター、アリアだ。


「なっ……!? ア、アリア!? なんでお前がここに!」

 レオンが目玉を飛び出させて驚愕する。


「ごめんね、レオン君。私、このおじさんと専属のスポンサー契約を結んじゃってて。今回のギルドウォー、田宮さんの『傭兵(業務委託)』として私が代理で戦うことになったから」


 アリアは小悪魔のように微笑み、レイピアの切っ先をレオンに突きつけた。


【コメント】

:ファッ!?!?

:傭兵システム使ったのかよwwww

:ズルすぎるだろwwww

:金に物を言わせて最強のPMC(民間軍事会社)雇いやがったww

:これが……圧倒的資本力……!


「ふ、ふざけるな! そんなのありかよ!」

「ルール上、何の問題もありませんよ」


 私は観客席の特等席に腰を下ろし、再びエールを飲みながら高みの見物を決め込んだ。


「レオン様。貴方は怒りに身を任せ、ルールの確認や私の背後関係の調査というリスクヘッジを怠った。いわば『勇を失った』状態でしたね。事前のデューデリジェンス(資産査定)を怠った者の末路です。……アリア様、やっておしまいなさい」


「了解、社長スポンサーさん。……いくわよ!」


 アリアが地を蹴り、白銀の閃光となってレオンに肉薄する。

 初期装備の布の服しか着ていないレオンに対し、第一層、第二層のボス素材をふんだんに使った最新装備のアリア。しかもプレイスキルは同等以上。

 結果は火を見るよりも明らかだった。


「が、あああああっ……!」


 開始わずか15秒。

 アリアのレイピアがレオンの急所を的確に貫き、レオンのHPゲージは一瞬でゼロに吹き飛んだ。


『――勝者、田宮二郎(代理:アリア)』

『規定の契約に基づき、ギルド【紅蓮の獅子】の全メンバーは、【田宮トレーディング】の傘下に移行します』


 闘技場に冷酷なシステムアナウンスが響き渡る。

 リスポーンして膝から崩れ落ちるレオンと、絶望に顔を覆う紅蓮のメンバーたち。


「お見事です、アリア様。報酬の金貨は後ほどギルド口座に振り込んでおきますね」

「まいどあり。……それにしても、本当にエグいこと考えるわね、田宮さん」

 アリアは肩をすくめながら、私の元へと戻ってきた。


「さて、レオン様。契約通り、貴方たちは本日から我が商会の専属労働部隊です」

 私は闘技場に降り立ち、這いつくばるレオンを見下ろした。


「くそっ……こんな、こんな横暴が許されてたまるか……! だが、俺たちのドロップした装備はまだお前のインベントリにあるはずだ。傘下に入った以上、最低限それくらいは返して……」


「おや?」

 私はわざとらしく首を傾げた。

「装備? ああ、あの回収した貴方たちの武具ですか。あれなら、もう手元にはありませんよ」


「……は?」


「ギルドウォーを受ける前、すでにNPCの武具屋にすべて『売却(利確)』済みです」


 私の言葉に、レオンの思考が完全に停止した。


【コメント】

:えっ

:売ったの!?

:じゃあ手元にないものを賭けて勝負受けてたのかよww

:詐欺じゃねーかwwww


「詐欺ではありません。現時点で手元になくとも、将来買い戻すことを前提とした取引……いわゆる『空売り(ショート)』です」


 私はシステムウィンドウを開き、街の武具屋の在庫状況を空中に投影した。


「貴方たちの高レベル装備が一気に市場に流れたことで、現在この街の武具の供給過多オーバーサプライが起きています。結果、相場は一気に暴落し、底値へと向かっている。私は高値で全売りして利益を確定させた後、相場が下がり切った『底値』での買い戻し待ちをしている状態です」


「な……な……」


「私が武具を底値で買い戻した後、貴方たちにそれを『リース』しましょう。もちろん、稼ぎの60%は私がピンハネしますがね。貴方たちは自ら落とした装備を、私から借金をして使い、私のために永遠に労働し続けるのです」


 完全なる搾取のループ。

 自分たちの装備で市場を暴落させられ、それを底値で買い叩いた私から高金利で借り直す。


「鬼……悪魔……!」

 レオンはついに心がへし折れ、闘技場の床に突っ伏して慟哭し始めた。


【コメント】

:人の心とかないんか?

:エグすぎるwwwww

:レオンたちが不憫でならない……

:トップギルドを空売りとレバレッジで沈める男www

:もうこのゲーム、おっさんが魔王だろ


「さて、視聴者の皆様」


 私は泣き崩れる紅蓮の元メンバーたちを背に、カメラに向かって優雅に一礼した。


「これにて、強力な労働集約型ギルドの『敵対的買収』は完了です。彼らには明日から、第二層の鉱山で24時間体制の素材集め(マイニング)に従事していただきましょう」


 戦わずして勝つ。

 法と資本の力を極限まで悪用した最弱の盗賊は、今日も剣と魔法の世界に冷酷な資本主義の雨を降らせていた。


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