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第5話:戦場のハイエナ。あるいは、広範囲魔法を利用した『当たり屋』スキーム

 第二層、荒野のフィールド。

 私は安全圏である岩陰に陣取り、屋台のNPCから買い取った丼を啜っていた。


「ふむ……ニンニクと背脂がたっぷりの極太ラーメン。仮想空間ここで似たようなジャンクな味に再会できるとは。技術の進歩は素晴らしいですね」


【コメント】

:おっさん、また飯食ってんのかww

:優雅すぎるだろ

:いや前見ろ前! とんでもない乱戦になってんぞ!


 コメントの通り、私の視線の先――荒野の中心では、数百人のプレイヤーが入り乱れる大乱戦が起きていた。

 第二層のフィールドボス『砂漠の暴君デザート・ティラノス』。

 この巨大な恐竜モンスターを巡って、アリア率いるトップギルド『蒼穹の翼』と、ライバルギルドである『紅蓮の獅子』が、互いに牽制し合いながらボスの討伐報酬ラストアタックを奪い合っているのだ。


「回復急いで! 紅蓮の連中に押し負けないで!」

 アリアの凛とした指示が飛ぶ。


「アリアちゃんたち、苦戦してますね。まあ、無理もありません」


 私はスープを飲み干し、丼をインベントリにしまった。

 私のレベルは現在『18』。第一層から継続している3人の「リース契約者(社畜)」からの上納金のおかげで、一般プレイヤーの平均レベルを優に超えている。ステータスの大半を「敏捷(AGI)」に振っているため、逃げ足と身軽さだけならこのゲームでトップクラスだろう。


【コメント】

:おっさん、アリアちゃんたちと専属契約結んだんだろ?

:助太刀しに行かなくていいのかよ

:盗賊の火力じゃ足手まといになりそうだけど


「助太刀? しませんよ。私は直接戦闘を行うようなリスクは犯しません。それに、ボスのHPを削るのは彼ら『前衛』の仕事です」


 私は岩陰から立ち上がり、スーツの埃を払った。


「私の仕事は、彼らがボスに集中しているこの『混乱』を利用して、別の場所から利益を引き抜くことです」


 私はスキル【隠密】を発動し、気配を殺して戦場のど真ん中へと駆け出した。

 巨大な恐竜の尻尾が振るわれ、プレイヤーたちが吹き飛ぶ。炎や氷の魔法が飛び交う、文字通りの地獄絵図。ボスのヘイトは完全に両ギルドのタンク(盾役)に向いており、誰も私の接近に気づかない。


 私は、ライバルギルドである『紅蓮の獅子』の後衛部隊――魔法使いや僧侶たちが固まっている場所へと忍び寄った。


「よし、紅蓮の連中、一気に広範囲魔法(AoE)でボスのHPを削り取るぞ! 詠唱開始!」

 紅蓮のギルドマスターが号令をかける。

 数人の魔法使いが杖を掲げ、巨大な炎の嵐を巻き起こそうとしていた。


 私はその魔法の『効果範囲(赤いサークル)』が地面に表示された瞬間、自らその円の端っこへとダイブした。


 ドゴォォォォンッ!!


 炎の爆発がボスを包み込む。

 円の端にいた私にも爆風が直撃し、HPバーが1割ほど減少した。


「痛っ……。よし、来ましたね」


 私の視界に、システムログが赤文字で表示される。


『警告:プレイヤー【紅蓮の魔術師A】から攻撃を受けました』

『システム:正当防衛の権利が発動。対象への反撃行為は犯罪ペナルティから免除されます』


【コメント】

:えっ

:おっさん、わざと魔法に当たった!?

:正当防衛……? あっ、まさか!


「視聴者の皆様。このゲームのPKプレイヤーキル仕様はよくできています。自分から攻撃すれば犯罪者クリミナルになりますが、相手から広範囲魔法の『巻き添え』を食らった場合、システム上、相手は『加害者』となり、私は『被害者』になります」


 私はニヤリと笑い、魔法を撃ち終わって隙だらけになっている魔術師たちの背後へと回り込んだ。


「正当防衛が認められているのは、何も『武器での反撃』だけではありません」


 私はボスの咆哮に紛れて、彼らの背後から手を伸ばした。


『――【スリ】発動』


 シュバッ、という軽い音と共に、私の手が彼らの腰のポーチに触れる。

 彼らはボスの挙動と魔法のクールタイムに全神経を集中させており、背後の私に全く気づいていない。戦闘中という「無防備状態」が重なり、スリの成功率は劇的に跳ね上がっていた。


『対象から【上級マナポーション】を3個スリ取りました』

『対象から【紅蓮の予備杖レア】をスリ取りました』


「はい、回収。次はこちらの方から」

「こっちの僧侶さんからは、蘇生アイテムを頂いておきましょう。これも正当防衛に基づく『慰謝料の差し押さえ』です」


【コメント】

:うわああああああああああ!!!

:当たり屋だ!!! 当たり屋がいるぞ!!!!

:広範囲魔法にわざと当たって、それを口実にスリしてんのかよwww

:エグすぎるwwwww

:乱戦でみんなボスしか見てないからマジで気づいてないぞwww


 私は戦場を縦横無尽に駆け抜け、ボスの攻撃やプレイヤーの魔法の余波にわざとカスりながら、「正当防衛」のフラグを次々と立てて回った。

 そしてフラグが立ったプレイヤーの後ろに回り込み、彼らがボス戦のために買い込んだ貴重な回復アイテムや、高価な予備装備を次々と【スリ】でインベントリへと収納していく。


「回復! MPが切れた! ポーションを……あれっ!?」

「おい、どうした!」

「ポ、ポーションがない! さっきまでポーチに入ってたのに!」

「馬鹿野郎、落としたのか!? 早く蘇生アイテムを……って、俺のアイテム欄からも消えてるぞ!?」


 最前線でボスと殴り合っていた『紅蓮の獅子』の陣形が、突如として崩壊し始めた。

 当然だ。彼らの生命線である回復アイテムの大半は、すでに私のインベントリの中で温められているのだから。


「な、なんだ!? バグか!? アイテムがねえぞ!」

「タンクのHPが保たない! 前線崩壊する!」


 回復を絶たれた紅蓮の獅子は、あっという間にボスの猛攻に飲み込まれ、次々と光の粒子となってデス(全滅)していった。


 ライバルが勝手に自滅していくのを見たアリアたちは、一瞬呆気にとられたものの、好機を見逃さなかった。

「紅蓮が崩れたわ! 私たちがヘイトを取る! 総攻撃!」


 残されたボスのHPを、アリアたちが一気に削り切る。


『――フィールドボス討伐に成功しました』

『ラストアタックボーナス:ギルド【蒼穹の翼】』


 歓声が上がる戦場を背に、私は誰にも気づかれることなく、再び岩陰の安全地帯へと戻ってきていた。


「さて、視聴者の皆様。本日の収穫です」


 私はインベントリを開き、カメラ(視界)に見せびらかした。

 そこには、数百個に及ぶ上級ポーション、高価な予備武器、さらには他プレイヤーが事前にドロップしていたレア素材の数々が、山のように積まれていた。


【コメント】

:戦場のハイエナwwww

:おっさん一人でライバルギルド壊滅させやがったwwww

:ボスの報酬より、スッたアイテムの方が絶対価値高いだろww

:これぞ盗賊シーフの完全なる最適解

:やってること真っ黒すぎて草


「ボスと直接戦って消耗するのは、体力のある若い方々にお任せしましょう」


 私は奪い取ったばかりの上級マナポーションの蓋を開け、祝杯のように一口飲んだ。


「私はただ、転がっている利益を『合法的に』拾い集めるだけです。……さあ、彼らが街に戻ってアイテムを失ったことに絶望し、新たに物資を買い求めに来る前に、この品々を私の店舗に陳列しておきましょうか。もちろん、プレミア価格でね」


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