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第27話 妹の作戦

「おにいちゃーん! 今日どうだったー?」


 少し興奮した様子で、妹が俺の部屋の扉を開けた。


「うわ、暗っ! なになに、どうしたの?」


 家に帰ってきてから電気も付けずにずっと高石さんに言われたことを考えていた。俺に「クズ」と言った高石さんは、そのあといつもの可愛らしいうさぎのような笑顔に戻ると「あたし先に帰るね」と言ってあっさり帰ってしまった。タピオカ屋に残された俺の頭にはずっと高石さんの言葉が反芻していた。


「……お兄ちゃん? 何かった?」


 俺が何も言わないので、心配そうな顔で俺を覗き込む妹。


「由香……」

「なに?」

「俺って人を見た目だけで判断するクズだよな?」

「え!? 急に何!?」

「はあ……」


 そうだ、俺はクズだ。人の中身を見ずにただ見た目だけで人間を醜い生き物だと罵り、自殺未遂までした。


「とりあえず、電気つけるよ?」


 妹が部屋のライトの電源を入れる。ぱっと部屋に光が灯された。ずっと暗い部屋にいたせいでかなり眩しく感じる。

 部屋が明るくなるとベッドに腰掛けていた俺の隣に妹が座った。


「高石さんに何か言われた?」


 今日高石さんと一緒に帰る予定だったことは妹に伝えてあった。


「ああ」

「なんて言われたの?」

「俺は『可愛い子には優しくて、ブスとか関わらないクズ』だって感じのことを言われたよ。でも、それって間違ってないんだよな。なんにも言い返せなかった」

「……そっか」

「分かってたことだけどさ、改めて言われると俺ってほんとクズだなって打ちのめされたというか」

「うん」

「脳のバグが起きる前の俺は、人間のことを醜い生き物だって言って関わろうとしなかった。人間が美しく見えるようになってからは手の平を返したように人と関わるようになってさ。人間ってなんて面白いんだとか、何様って感じだよな」

「……」

「そんなクズな自分が、勝利を掴む! とか調子に乗りすぎてたよ」

「……じゃあ諦めるの?」

「諦めるというか、そんなことしていい人間じゃないんだよ、俺は」

「お兄ちゃんがクズなことと、白波さんを助けることは全く関係ないと思うよ」


 ずっと優しく話を聞いてくれていた妹が、しっかりと俺の目を見て言った。


「あたしは別にお兄ちゃんのことクズだとは思ってない。でも、お兄ちゃんは自分のことクズだって思うんだ?」

「そ、そりゃあそうだろ。高石さんに改めて言われて気づいたよ」

 むしろ妹が俺のことをクズだと思っていなかったことの方が意外だ。天使のような心を持つ妹が、人を見た目で判断する俺に嫌悪感を抱いていないなんて。

「そうなんだね……。まあ価値観は人それぞれだとは思う。ただ、あたしは、見た目ってその人の中身が作ってる部分も大きいと思ってるんだよね。だから、外見で判断することって多少は仕方ないんじゃないかな?」


 妹の言いたいことは分からないでもない。髪をセットしたりだとか、体型の維持だとか、そういう日々の努力の積み重ねが見た目に影響する。だから、その人の美意識だったりとか清潔感は外見である程度分かったりするということもある。ただ、俺は多少なんてもんじゃなく、100%人を見た目で判断していた。それは、ただのクズだ。


「それにね、お兄ちゃん。もしどうしても自分のことクズだと思ったとしても、甘えちゃだめだよ」

「……甘える? どういう意味だ?」

「自分がクズだって認めるって、すごい楽なんだよね。自分はクズだから、頑張らなくていい。クズだから、何もできなくて当然だ。クズは今のままでいい。それって甘えだと思う」

「甘え……」


 確かに今の俺は白波さんを救うなんて考え自体おこがましいと思っていた。だが、それは逆に言えばただ何もしていないことを選んだだけとも言える。

 いつも優しい妹は時々こうやって俺を叱咤してくれるが、それは今まで聞いた中で一番厳しい口調だった。妹は続ける。


「だから、もしクズだって思うんならそこで甘えるんじゃなくて、変わる道を選んで欲しい」

「……クズから脱却しろってことか?」


 黙って妹はゆっくりと頷いた。


「もしお兄ちゃんがちゃんと自分と闘うって決めたなら……最後の課題は『白波さんを救う』だよ」

「いや、でも、どうすれば――」

「今日高石さんと、他に何かあった?」

「……ああ、そう言えば家に誘われた。ごめん、俺、由香に『誘いに乗れ』って言われてたのに断っちまった」

「え!? 家に誘われたの!? 今日!?」


 妹の声がひっくり返った。あ、これはさすがの妹も予想外だったらしい。


「展開早すぎじゃない!? お兄ちゃん家行っちゃったの!?」


 俺の肩を掴み食いつくように聞いてくる。こんなに動揺してるの初めて見たかもしれん。


「いや、断ったってさっき言ったぞ」

「あ、そうか……よかった。てゆうか、家に行ってもそこまで作戦に変更はなかったけど、ちょっとびっくりしちゃった」


 高石さんのスピード感は妹でも付いていけなかったか。よかった、野生の勘に従って。


「まあ、うん。なら、もうちゃんと考えたら『白波さんを救う』ための答えは出るはずだよ」

「え、うそだろ」

「ほんと」


 高石さんに誘われたことが、白波さんを救うことになる?


「全然分からん」

「大丈夫。今まであたしが説明したこととかちゃんと組み立てていったら分かるはず。そもそも、高石さんってかなり危ない橋を渡ってるんだよ? お兄ちゃんがぽんと背中を押すだけで、高石さんは窮地に立たされちゃう。そんなに難しいことじゃないよ」

「……ほんとか?」

「ほんとだって」


 それは妹にとっては難しくないだけで、コミュニケーションレベルが幼稚園児の俺にとってはめちゃくちゃ難しいことなんじゃないのか? だって、全然解決策が頭に浮かんで来ないし。

 俺があまりにも難しい顔をしていたんだろう。妹は少しだけ困ったような顔をして「そしたら一つだけヒント」と言った。


「お、ヒントくれくれ」

「んーとね、『必殺技はいつも同じ』だよ」

「それがヒントか?」

「うん」


 余計に訳が分からなくなった。必殺技はいつも同じって、少年漫画とかの話か? つまり俺が必殺技を考える、そしてその力で白波さんを救う……そういうことなのか?

 いや、そんなのめっちゃかっこいいけど、無理だろ。精神と時の部屋用意してくれよ。

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