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第24話 抗えない高石さん

 みんなとスーパー銭湯に行ってから、学校でもちょいちょい4人で連むようになった。これは妹から出された『これからは学校で、4人で過ごす時間を増やすこと』という緩めの課題でもあったが、俺が意識せずともなんとなくそういう流れになった。というのも、4人の間でお互い持っている漫画を貸し合ったりすることが多くなり、そうなると必ず漫画の感想を言い合うことになるので、自然と会話も増える。


 寅野さんも漫画の面白さに気づいてくれたようで、どんどんヤンキー漫画を進めた結果、今寅野さんは少し前のヤンキー事情にめちゃくちゃ詳しいギャルとなっている。全く必要のない知識をドヤ顔でひけらかす寅野さん、可愛い。


 あ、ちなみに妹に課題をクリアできなかったことを謝ると共にスーパー銭湯であった出来事を詳しく話すと、妹曰く、なんと俺は課題をクリアできていたらしい。


 俺は「白波さんが好き」という秘密を打ち明け、それによってちょっとだけ心を開いた木下が「高石さんの話」と「自分の秘密」を打ち明けてくれた、とのこと。


 いや、白波さんが好きって俺にとっては全然秘密でも何でもないし、木下の秘密を聞いた覚えもないんだが。まあ、高石さんの話は聞いたけど、サウナが熱すぎるのもあってよくわからなかったしな。


 ただ、妹的には欲しかった情報が得られたというので、結果オーライだ! 俺的にはただのラッキーだったけど!


 そんなわけで今は、これと言った大きい課題もないし、ただただ毎日を楽しく過ごしている。

 学校では毎日美男美女に囲まれ、漫画の話をする友達もでき、時々白波さんと秘密の絵の特訓や漫画の描き方講座などをしている。白波さんは、ちょっとずつ絵が上達しているし、トーンやGペンとかの漫画の基礎知識もついたので、前に見せてくれた漫画をもう一度描き直しているそうだ。もちろん、ページ数も増やすとのこと。俺も負けてられない。


 もし完成させたら、一度妹にも見せたいな、と考えている。妹には編集者の才能があると思っているので、意見を聞いてみたい。


 あ、そういえば妹には、学校生活で何か変化があればすぐに教えてくれ、とも言われている。といっても、今のところとくに変わったところはない。


 強いてひとつあげるとするならば学校で、4人で連むことが増えてから、なんとなくクラスの雰囲気が変わったようにも感じる。ほんの少しだけ、若干白波さんの陰口を言う女子が減ったような。いや、それでもまだ言ってくるやつは言ってくるけども。まあ、そんな感じでとくに大きな変化はなし。

 と思っていたのに、変化とやらは突然やってきた。


「ねえねえ、泉くんっ!」


 昼休み、いつものように4人で漫画談議に花を咲かせていると、後ろから声をかけられた。久しぶりに聞く、鼻にかかる声。


「うお! 高石さん!?」


 振り向くとそこには、高石さんがきゅるんとした上目遣いで俺を見上げていた。

 4人で楽しくしていた会話は高石さんによって、強制停止される。あの事件があってから、白波さんと高石さんが話しているところは見たことがないので、なんだか気まずい空気流れる。

 それを察してか、高石さんは急に申し訳なさそうな顔になった。


「あっ、ごめんね? 邪魔しちゃったかな?」

「いや、邪魔ってわけじゃないけど。どうしたんだ?」

「ねえー! その言い方! なんか、冷たくない?」


 全然普通に言ったつもりだったのに、高石さんはちょっと拗ねた感じで可愛らしく睨んでくる。


「ごめん、冷たくしたつもりじゃなかったんだけど」

「あ、もしかして、この前のことで泉くんも怒ってる……? ごめんね? ねえねえ、澪ちゃんからも泉くんにもう許してもいいよって言ってよぉ」


 高石さんはあっさりと白波さんに謝ると、駄々を捏ねる子供のような甘えた声を出した。

 なんかこの言い方だと、白波さんが俺に高石さんに冷たくするように言ってるみたいじゃないか? 全然そんなことないのに。なんか自然と白波さんが悪者みたいな雰囲気になっている。


「別にあたしは……関係ないし」


 気まずそうに白波さんが顔を背けた。


「ほんと? もう怒ってない? よかったあ」


 反面、高石さんはほっこり笑顔。何、この感じ。とにかく、早くこの場を終わらせたい。


「で、高石さん、何か用か?」

「もー! だから、その言い方が冷たいのー! 泉くん、きらい!」


 う、確かに今のは若干冷たかったかもしれない。早く用件を聞いて、高石さんを退散させたいという気持ちが強すぎた。

 多分、このままだとこの会話を永遠にループしてしまう。

 早く終わらせるためには、高石さんを満足させるような言い方をしなければ。


「ごめん、確かに今のは冷たい言い方だったかも。よかったら、高石さんの用事が何か聞かせてくれないか?」


 俺はなるべくゆっくり優しく包み込むような声で、高石さんに尋ねた。


「えへ、合格!」

「ありがとうございます」


 高石さんはクスクス楽しそうに笑っている。可愛いけど、早く用件を言ってくれないかな。

 白波さん、寅野さん、木下の白けた雰囲気が居た堪れない。


「あのねー! あー、でもどうしよっかなー。よく考えたら今言うの恥ずかしいかも!」

「え?」

「今日の夜、LINEする! 絶対返信してね?」

「あ、ああ……」

「約束だよー?」


 なんて言いながら、高石さんは去って言った。いや、まじで何だったんだ? 意味がわからん。

 ふと、白波さんの方を見ると、こうなんだろ……悔しそうな顔になっている。こっちをちらっと見たあと何か言いたそうにして、だけどすぐに口を閉じた。


 ええ、何か言いたいことがあるなら言ってほしいんだけど。気になる。

 俺、別に何もしてないのに、なんかすごい罪悪感が湧く。白波さんの前で、高石さんの機嫌を取るような真似をしたからだろうか? そうだよな、白波さんに忠誠を誓ってると言っておいて、敵に塩を送るようなことしたんだもんな。


 でも、高石さんのあの雰囲気……なんか抗えない感じ。あれは一体なんだろうか。

 なんていえばいいか分からずにいると、ちょうど昼休憩終了のチャイムが鳴りほっとする。


「じゃあ」なんて言いながら自分の席へと戻ると、木下がいきなり俺の肩に腕を乗せ小さい声で「気を付けろよ」と言った。

 「気を付けろ」って一体何に気をつければいいんだ……?

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