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第23話 サウナ後編

 食事を終えた俺たちは、二階の漫画コーナーへとやってきた。ちなみに、サウナ後のご飯は噂以上にめちゃくちゃうまかった。やっぱりサウナはまりそう。

 漫画コーナーは4万冊と謳ってることもあって、結構量があるようだ。


「さて、何読むか。泉、なんかおすすめある?」

「そうだな。木下におすすめしたいのはやっぱ『少女終末旅行』だな。最近のSF漫画の中では、絶対読んでおいた方がいい名作だ」

「おっけー。じゃあ、それ読んでみるわ」


 木下は早速棚から漫画を取ると適当な椅子に座って読み始めた。


「ねー、あたしは何読めばいいわけ? ほとんど、漫画とか読んだことないんだけど」

「おう! ちゃんと寅野さんにおすすめしたい漫画も考えてきたぞ」

「なになに?」

「これだ」


 俺は本棚に入っている『今日から俺は!!』を指差した。伝説のヤンキー漫画だ。ギャルとヤンキーの本質は同じ、と何かの漫画で読んだことがある。基本はギャグ漫画だし熱い展開もあって、読みやすいと思う。少し古い漫画だが最近ドラマ化したり映画化したりしたので、普段漫画を読まない人でもタイトルぐらいは聞いたことあるんじゃないかと思う。


「あー、これドラマでやってたやつ?」

「そうそう」

「へー、ドラマ観てなかったけど読んでみるわ! さんきゅー」


 寅野さんは、3巻ほど手に取ると木下の横に座り読み始めた。

 残るは俺と白波さん。白波さんは何の漫画を読むのか気になり、ふと目をやるとバチッと視線が合った。白波さんの大きな瞳がぱちぱちと瞬きする。


「あのさ」


 そわそわとした態度で、白波さんが小さな声で言った。


「ん?」

「相談に乗ってほしいことがあるって言ってたでしょ? あれ、今いい?」

「え、ああ。いいけど」

「二人には秘密にしたいからさ、ちょっと移動しない?」

「わ、わかった」


 秘密ってことは寅野さんにも相談してないってことだよな。え、なんか緊張してきたぞ。一体どんな相談されるんだ?

 言われるがまま、別の場所へと移動する。ちょっと人気のない休憩スペースに到着すると、白波さんは「ちょっと待ってて!」と言ってどこかに消えてしまった。

 なんでわざわざ、こんな人気のない場所へ?

 俺も緊張しているが、白波さんもなんか緊張してるっぽかったし。それに俺は緊張以外にも、なんか変な気持ちになってる。胸が高鳴るような、期待するような。この感情の正体が何かは全くわからないけれど。


「ごめん、お待たせ」


 若干息を切らせた白波さんが戻ってきた。先ほどと変わったところといえば、手に鞄が持たれているところ。荷物を取りに行ったのか。

 白波さんは鞄から茶封筒を取り出すと「あー」とか「うー」とか恥ずかしそうに唸りながら、おずおずと言った様子でそれを渡してきた。


「これさ、中身見てみてくれない?」

「なんだこれ?」

「見れば分かるから!」

「お、おう」


 若干白波さんの勢いに押されながらも、俺は茶封筒の中身を取り出した。


「こ、これは……」


 中から出てきたものを見て驚いた。それは、漫画の原稿用紙だった。


「それ、描いてみたの。どうかな?」

「え、これ白波さんが描いたのか!?」

「そ、そう!」


 顔を真っ赤にしながら白波さんが頷いた。まさか、白波さんが漫画を描いたなんて予想外の展開だ。こんなの……こんなの読みたすぎるに決まってる!


「よ、読んでもみてもいいか?」

「うん、読んでみて!」


 俺は焦る気持ちを抑えながら、白波さんが描いた漫画を読み始めた。正直、絵はお世辞にもうまいとは言えない。小学生低学年のお絵かきレベルかもしれない。だが、内容は犬と猫が飼い主をめぐって喧嘩するものの、いつもオチでは仲良く和解するといった四コマ漫画で、拙いながらもどこかキラリと光る部分がある。ほっこりしつつも毒があり、そこがクスリと笑える。数ページしかない原稿を俺は一瞬で読んでしまった。


「白波さん……」

「……ど、どうだった?」

「どうもこうもない! めちゃくちゃ面白かった!」

「え、ほんと!?」

「ああ。白波さん、天才だわ」

「褒めすぎだって」


 白波さんは照れながらも嬉しそうにもじもじしている。


「これ、なんか賞とかに応募するのか?」

「いや、全然考えてなかった。ただ、前から漫画とか描いてみたかったんだけど、勇気が出なくて描けなかったんだよね……絵も下手だし。でも、泉が毎日絵の練習してるの見て影響されてさ。勇気出して描いてみたんだ」

「じゃあこれが初めて描いた漫画なのか?」

「うん、初めてだよ」


 初めてでこの出来……。完全に抜かされた。確かに絵はまだまだかもしれないが、内容は俺の漫画より全然面白いと思う。そして、初めて描いた漫画を最初に俺に読ませてくれたという事実がすごく嬉しい。そうか、さっきの期待の胸の高鳴りはこの嬉しい出来事を潜在的に予想してたからか? 納得した。


「白波さん、これなんかの賞に応募した方がいいと思う。ページ数の追加は必要だけど」

「えーむりだよ。だってめちゃくちゃ絵下手でしょ?」

「いや、でも絵は練習すれば絶対うまくなるから。なんなら俺が教えるし」

「え!? いいの?」

「全然いいよ。この漫画の続きが読めるなら」


 俺は漫画を描くのも好きだが読むのも好きだからな。この世にひとつでも名作が増えるなら、なんでも協力するわ。


「あ、あと白波さん、トーンとかGペンとか知ってる?」

「聞いたことはあるけど、よくわかんなくて」


 そう、他に欠点をあげるとするなら、白波さんの漫画は普通のボールペンのみで描かれていた。賞に応募するなら、そういった知識も必要だ。


「じゃあまずはそこからだな。まずGペンっていうのは……」

「うんうん」


 俺はまず漫画の基本知識を白波さんに説明することにした。白波さんは、俺の話を時にメモを取りながら、うんうん頷きながら可愛らしく聞いていた。




「いやー、今日は良いリフレッシュができたわ」


 木下が伸びをしながら言った。時刻は夕方、そろそろお開きにしようかとスーパー銭湯を出た。


「ほんとほんと、意外に楽しかったわー。ただ漫画途中までしか読めなかったから、続きが気になる……」


 寅野さんが若干しょんぼりしている。まあ38巻あるから数時間では読みきれないよな。ただ、予想通りハマってくれたようで嬉しい。


「俺、全巻持ってるから今度貸すぞ」

「え、マジ? ラッキー!」


 途端に元気になる寅野さん、可愛い。

 白波さんと俺は、あれから漫画談議に花を咲かせ、ほとんど漫画を読まずにお開きとなった。漫画はあまり読めなかったが、白波さんとの会話がすごく楽しかったから良しとする。白波さんの新たな一面も知れたし。

 駅までの帰り道、なんとなく女子二人が前を歩き、俺たちが後ろを歩く運びとなる。4人横に並んで歩くと邪魔だからな。楽しそうに漫画の感想を言い合う白波さんと寅野さん。

 そんな二人を見ながら木下が「白波とどこ行ってたんだよ?」とニヤニヤしながら聞いてきた。


 一応、白波さんは漫画のことは二人には恥ずかしくて知られたくないようだったので、秘密にしなければならない。


「秘密だ」

「なんだよ、それー。教えろよー」

 木下がニヤニヤしながら肘でうりうりしてくる。何、この攻撃?

「俺は全然誇らしいことだと思うが、白波さんは恥ずかしいみたいだからな」

「うわっ、それって……付き合ったってことか?」

「はっ? なんでそうなる?」

「いや、普通そう思うだろ」


 そういうもんなのか……? 全然検討違いなんだが。


「付き合ったとかじゃない。まあ、いずれ知ることになると思うから、今は焦るなって」

 白波さんがプロになった暁には、木下もあの漫画を読むことができるはずだからな。

「……おけ。まあ、気になるけど、あんま詮索するのもアレだしな。俺的にも、寅野と二人きりなれてラッキーだったし」

「え、どういう意味だ?」

「寅野かわいくね?」

「可愛い」

「だから、そういうこと」


 なるほど、寅野さんが可愛いから二人きりになれて眼福だったということか。それはそうだろうな。分かる。

 そんなこんなで、その後も適当に雑談しながら無事に帰路へと着いた。妹の課題はクリアできなかったが、俺としては純粋にすごく楽しい日となった。みんなも結構楽しめたんじゃないかと思う。


 よく考えれば友達と遊びに出かけるって初めてだし。……もう、友達って言っていいよな?

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