第22話 サウナ中編
サウナを出てからすぐに水を流し、キンキンに冷えてやがる! な水風呂に入った後、休憩スペースで身体を休めていると本当に『ととのった?』な状態になった。この整うとは簡単に言うと、めっちゃくちゃ気持ちいい状態のことだ。俺の2、3分ほどあとにサウナから出てきた木下もこの『ととのった?』を体験できたらしい。
目標時間より早く出てきてしまったのものの、この体験が出来たのなら初サウナ体験は大成功と言ってもいいんじゃないかと思う。
だが、木下の話は、なんだかもう説明を求めるような空気ではなく、あれ以上は聞けなかった。
その後、サウナ、水風呂、休憩を3巡ほど繰り返し、俺と木下はスッキリした気分で風呂を後にした。やばい、サウナはまったかも。
外に出てしばらくすると女子チームも風呂から出てきたようだった。
ここのスーパー銭湯は館内着として女子には可愛い浴衣を貸し出している。ちなみに男には甚兵衛だ。
湯上りほかほかスタイルで浴衣を着た白波さんと寅野さんは、もう言葉に出来ないぐらい可愛かった。可愛いの塊だった。
「おー、似合うじゃん」
木下がナチュラルに二人を褒める。さすがイケメン。
「あんまり見ないで」
「リサ照れてるー」
「いや、スッピンだから恥ずかしいんだって」
寅野さんは赤くなった顔をパタパタと自分の手のひらで仰いでいる。可愛い。普段かっこいい系の女子が照れてるのってめっちゃ可愛い。ああ、今この瞬間を絵に残したい。家に帰ったら絶対二人の浴衣姿を描こう。
「じゃあ飯食い行くか」
『おー!』
息ぴったり。なんかすごい仲良しっぽくね?
早速、食事処へと移動し、メニューを見ながら各々好きな料理を注文した。
木下は焼肉定食で、寅野さんは天ぷら蕎麦、白波さんと俺は湯上り御膳なるものを頼んだ。
食事が到着するまでの間、しばし談笑。
「サウナ、どうだった?」
木下が二人に尋ねる。
「めちゃくちゃ熱かったよー。びっくりしちゃった」
「そうそう! 澪、最初3分ぐらいで出たんだから」
「だってほんとに熱かったからさー」
「でも、3分は早すぎ」
「うるさいー。でも、2回目はちゃんと7分ぐらい入ったし!」
白波さんと寅野さんはキャッキャ笑いながら言い合ってる。あー可愛い女子同士の会話って癒されるなー。俺が最大6分までしか耐えられなかったことは黙っておこう。
「はじめ澪からサウナ行こって言われた時、サウナとかどうなの?って思ったけど、すごい気持ちよかったわ」
「ねー、ほんと。あたしもハマりそう」
「俺も。最初、泉から誘われた時はびっくりしたけどな」
「あは、それは確かにそうかも」
「なんだ、白波もやっぱ内心驚いてたんだ?」
「だって、泉、いきなり誘うんだもん。しかも木下と仲悪いってわけじゃないけど、一緒に遊んだりしたこととかはなかったでしょ?」
「まあな」
なんかどんどん会話が進んでいく。1対1で会話する時と違って、これどうやって入ればいいかイマイチ分からんな。とりあえず、うんうん頷きながら話聞いておくか。
「泉、なんで急にサウナ行ことか言い出したの? なんかたくらんでる?」
と思ったら、いきなり白波さんに話を振られた。ちょっと上目遣いでからかうように聞いてくる白波さん。可愛い。
ふと木下の方を見ると、なんかニヤニヤしてる。なんだなんだ。
「あれ、なんか木下ニヤニヤしてないー? てことはー?」
木下のニヤニヤに気づいた寅野さんが言った。てことは……って?
「いやいや、俺のことは気にしなくていいから。話つづけて」
「あやしー」
何が怪しいんだ? まあいいや。
「この4人で遊んでみたいなって思ったから誘っただけで何も企んでないぞ。白波さんも木下も漫画好きだろ? 気が合うんじゃないかと思って」
「なるほどねー。確かに木下って思ったより話しやすいかも」
「思ったよりってなんだよ」
すかさずツッコミを入れる木下。寅野さんは別に漫画好きじゃないと思うが、俺の計画では今日から寅野さんにも漫画好きになってもらう予定だ。寅野さんが好きそうなジャンルの漫画をいくつか考えてきたし。
「むしろ、白波はなんで泉の誘いに秒で乗ったんだよ? 普通サウナ行こって言われたら女子とか断りそうだけど」
「すっぴん見られるの嫌だもんねー」
寅野さん、なんでそんなにすっぴんにコンプレックスがあるんだ。まさかとは思うが化粧している自分のことをブスだと勘違いしているんじゃないか? だとすれば、ちゃんと教えてあげた方がいい気がする。
「寅野さん、言っとくがすっぴんでもすっぴんじゃなくても寅野さんはきれいだぞ」
「うわっ」
俺が真剣な表情で伝えると、寅野さんはめちゃくちゃ嫌そうな顔しながら顔を赤らめた。他の二人はなんか言葉を失っている。
「よく恥ずかし気もなくそんなこと言えるわー。でも口説いてきてるって感じじゃないんだよね」
「分かるわー、それ! あたしがサウナ行こって思ったのも、それなんだよね! なんか泉って下心みたいなのないじゃん? 小学生の男子に遊びに誘われてる感じ? だから、こっちが身構えるのが馬鹿らしいっていうか」
「あー、なるほどな。それは俺も分かるわ。なんかある意味堂々としてるんだよな」
下心ってまあ簡単に言うとエロい気持ちみたいなやつだよな? もちろん、そんなものは持ち合わせていない。そもそも、白波さんも寅野さんも美しすぎてそういう対象に見れない。
「泉ってさ、元隠キャなのに全然おどおどした感じがしないんだよな。高校デビューしたやつとか見た目いい感じでも言動で結構『あ、こいつ元隠キャなんだろーな』って分かったりするじゃん? でも、泉はマジでそういう部分がない」
「あ、なんかそれ分かるー」
木下の言葉に同意する寅野さん。
「泉って自分に自信があるんだよね、だから堂々としてるんだと思う。そういうとこ羨ましいな」
目を細めて笑う白波さん。いや、それは白波さんが俺に自信をつけさせてくれたから……イケメンだって言ってくれたから自信があるだけで。全部白波さんのおかげなんだが。
「自信ってさ、やっぱり日々努力してる人が持てるものなんだと思う。泉ってすごい努力家でしょ?」
「え、そうかな?」
「そうだって! ちゃんと毎日髪のセットも続けてるし、絵の練習だってすごいしてるじゃん」
「まあ、そういうのはやればやった分だけ成果がでるってわかってるからな」
「わかってても出来ない人も多いんだって! そこがすごいの!」
白波さんがそういうと、寅野さんと木下もうんうん頷いている。なんか、めっちゃ褒められた。自分ではそんなたいしたことしてないと思ってたけど、そうやって褒められるとすごい嬉しい。
俺の照れている姿を見た木下はまたさっきのニヤニヤ顔に戻り、女子二人には聞こえない小さな声で「脈ありだぞ」とぼそっと呟いた。




