第17話 相関図と助言
いつもなら家に帰ってすぐに絵の練習を始める俺だったが、今日は違った。スケッチブックを開き、今日の事件の相関図っぽいものを書いていく。
そしてなんとかそこから解決策を見つけようと試みる。俺が見る限り、やはりどう考えても高石さんが悪い。だから、高石さんがみんなの前で自分の罪を認めて、白波さんに謝ればこれで万事解決だ! よし! 問題は、どうやって高石さんに罪を認めてもらうかだが……。これは、やっぱり高石さんに直接言うのがいいんじゃないか? 高石さんは俺のこと好きではなかったが、毎日LINEしてるし嫌いってわけでもないと思う。だから、俺から高石さんに『白波さんに謝ってくれないか?』って頼めば、高石さんも心を改めるんじゃないか? ふむ、どこからどうみても完璧な作戦な気がする。
……だが、一抹の不安。ほんとにこれでいいのか? と心のどこかで声がする。何しろ俺は人間に関しては、全くの素人。人間関係のこととか全然分からない。俺から見たら完璧な作戦だが……もしかすると、間違っている部分もあるかもしれない。作戦の大筋に間違いはないとは思うが、もっとブラッシュアップできる可能性もある。
と、なれば、念には念をだ。ここは人間として大先輩に聞くしかない。
俺はスケッチブックを手にし、隣の妹の部屋へと向かった。扉をコンコンと2回ノックする。
「はーい?」
「俺だ」
「え、お兄ちゃん? 珍しいね! どうぞー」
入室の許可を得た俺は、妹の扉の部屋を開ける。妹は薄いピンクのベッドカバーがついたベッドの上で、ゴロゴロしながら漫画を読んでいるようだった。漫画は……ちらりと表紙の方に目を向ける。『凪のお暇』を読んでいるようだった。女子っぽいけれども、センスのあるチョイス。さすがだ、妹よ。
それにしても、実は妹の部屋って物心がついてから初めて来たかもしれない。俺の部屋と違って整理整頓されてるし、ベッドの脇にはいろんなぬいぐるみとか置かれてる。何よりなんか良い匂いがする。漫画で良く女子の部屋は良い匂いみたいなの見るが、あれってほんとだったんだな。
「どうしたの? あ、漫画できた?」
「あ、すまん……漫画はまだなんだ」
「そうなの」
しょぼんという表現がぴったりの表情になる妹。
「実は緊急事態が起きてな。由香に力を借りたいんだ」
「緊急事態? なになに?」
由香は読んでいた漫画を閉じて、身を起こした。
俺は今日あった事件の詳細をスケッチブックの相関図を見せながら、事細かに由香に話した。もちろん寅野さんから聞いた情報を交えながら。由香はその間、うんうんと可愛らしく聞いていた。
「……なるほど」
由香は全て聞き終わると、眉間に皴を寄せながら言った。
「俺は白波さんの力になりたいって考えてる」
「そうなんだね。うん、いいと思う。白波さん、いい人だし今の状況かわいそすぎる。それに、お兄ちゃんの人と関わるっていう目標も達成されるし」
あ、忘れてた……。い、いや結果オーライだ! この事件を解決できれば、白波さんを救えるし、そのためにはきっと人と関わるっていうのは必須だろうから、結果的に目標も達成される! 一石二鳥の作戦というわけだ。
「それで、この事件を解決する方法なんだが、高石さんに直接『白波さんに謝ってくれ』って頼むっていう作戦を考えてる。自分では、ほぼほぼ完璧な作戦だとは思ってるんだが、由香はどう思う?」
俺がそう聞くと、由香は口をあんぐりと開けた。おお、そういう顔してても可愛いんだな。
「お兄ちゃん、それ本気?」
「本気だ」
「……お兄ちゃんのコミュ力舐めてたよ。幼稚園児の喧嘩ならそれで解決かもだけど!」
「え、だめか……?」
「ダメに決まってるでしょ!」
あの優しい妹がこんなにはっきりダメだししてくるってことは……相当だめってことみたいだな。びっくり。
「大体高石さんってみんなの前で泣きながら謝ったんでしょ?」
あれが謝ったうちに入るなら謝ったのかもしれない。ごめんなさい、とは言ってなかったが。
「そうでなくても、お兄ちゃんが謝れって言っても『泉くんもあたしが悪いっていうんだね、ひどい』とか言って泣かれて
終わりだよ」
「ええ、そんなことで泣くか……?」
首を傾げる俺を見て、妹は大きくため息をついた。
「はあ、だめだ! だめだめ! この問題はお兄ちゃんにとってレベルが高すぎる難問だよ」
「いや、でも俺白波さんを助けたいんだ!」
「それは、あたしもそうだよ? お兄ちゃんが陰口言われてる時、解決してくれたんだし! 今度はこっちが助けにならなきゃ!」
「そうだよな? それは俺でも分かる!」
「うん、だから今回はあたしが手を貸す」
「え?」
「あたしが司令塔! お兄ちゃんは動く係! でも、自分でも考えてもらうために簡単な課題も与える!」
「え? え?」
なんか次々と決まって行く。妹は完全にやる気って顔してる。いつもハの字眉毛が、ビシーっとなってる。あの編集者さんっぽい時の雰囲気と若干似てる。あれだな、妹は普段優しいがスイッチが入ると熱いタイプなんだな。少年漫画の主人公っぽいわ。
まあ、でも確かに妹が手伝ってくれるなら百人力な気がする。
「まず、お兄ちゃん!」
「はい!」
俺はビシッと気をつけをした。
「お兄ちゃんはクラスで男友達を作ること! ひとりでいいから!」
「は? そ、それ関係あるのか?」
「あるの! あのね、今回の事件、確かに高石さんの味方になった人たちもたくさんいたかもしれない。でも、絶対『自分には関係ない』って思ってる人が結構な数いるはずだよ。その中の一人とお兄ちゃんは友達になること! これが課題だよ! そうだな、なるべくカースト上位の男子がいいと思う」
「と、友達になるってどうやって?」
「それはお兄ちゃんが考えるんだよ! 課題なんだから!」
「い、いえっさー!」
ビシっと妹に指をさされて、俺は敬礼する。
「だ、だけど司令塔ひとつよろしいでしょうか?」
「ふむ、許可する」
ちょっとした茶番に乗ってくれる妹。やさかわ。優しいし可愛いの意。
「カースト上位の男子って言ってたけどさ、ほんとにカーストなんていう恐ろしい制度あるのか?」
「あるよ」
即答する妹。マジか。現代日本の学校生活に身分制度が導入されているとは。
「でも、お兄ちゃんが考えてるほど怖い制度ってわけでもないと思うよ」
「そうなのか?」
「うん、どうしても人が大勢いたら、いくつかのグループに分かれちゃうんだよね。そこでなんとなーくおしゃれなグループや騒がしいグループが上位と位置づけられてるってだけだから、はっきりこのグループはこの階層! とか決まってるわけじゃないよ」
「ほほう」
「だからね、お兄ちゃんがカーストとかわかんなかったとしても、おしゃれっぽい男子の中から見つけたらいいと思うよ。お兄ちゃんみたいに髪のセットしてたりね」
なるほど、それなら出来そうだ。なにしろ俺はあれからずっと髪のセットを続けているため、髪のセットについては他人のセットの上手い下手も見分けられるようになってきた。ちょっと髪が伸びてきたので、この前米山さんのところにひとりで髪切りに行けるくらいにはレベルアップ。
「分かった。由香の言う通り、やってみるわ」
「よろしい! あ、あと出来るだけ白波さんにも話しかけてあげてね? 白波さん辛いと思うし、白波さんと仲良くなることは作戦にも関わってくるから」
「お、おう! 分かった! 任せろ!」
「任せた!」
妹は指でブイサインを作って、勝気そうに笑った。というわけで、俺には心強い司令官がついた。これなら、白波さんを救うのも時間の問題かもしれない。しかも、この問題を解決すれば面白い漫画が描けるようになるかもしれないという特典付き。




