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第16話 事件の詳細

「泉、何飲む?」

「えーと、フラペ……普通の珈琲で」


 放課後、寅野さんとスタバにて。今回こそフラペチーノってやつを頼もうと思ったのに、結局珈琲にしてしまった。なんかあれ頼むの勇気が必要なんだよな。まあ、珈琲で全然いいんだけど。ここの珈琲めちゃくちゃうまいし。


 寅野さんはキャラメルなんちゃらってのを頼んでた。フラペチーノじゃないようだ、残念。

 話の内容が内容だけに、できるだけ隅の方の席を選ぶ。相変わらず、うちの生徒が多いようだが、見る限りクラスメイトはいない。


「さてと、何から話そっかな」

「最初っから全部話してくれるとありがたいな。正直、今日なんであんなことが起きたのか全然分からん」

「あ、そう? まあ、あたしもよく分かってない部分もあるんだけどね」


 そうなのか。白波さんと一番仲が良い寅野さんさえ分かってない部分があるのなら、俺も分からなくて当然だな。


「実はさ、最近、澪のインスタに知らないアカウントから変なDMが届くようになったんだよね。2、3週間前ぐらいからかな」


 インスタ。あのおしゃれなタイプのSNSか。もちろん使ったことはないが。

 DMっていうのは、個人間でのメッセージのことだよな。twitterとかにもあるやつ。


「変なDMってどんな?」

「『ビッチが調子のんな』とか『自分のこと可愛いと思ってる?』とか。最初は澪も無視してたらしいんだけど、投稿するたびに来るから結局ブロックしたらしい」

「まあ、そりゃあそうするだろうな」

「でも、ブロックした瞬間、また別のアカウントから同じような内容のDMが来るんだって。で、そのアカウントをブロックしても、また別のアカウントから……って感じでキリがないから、もう諦めて澪は自分のアカウントを鍵垢にしたの。非公開だったら、知らないアカウントからDMくることないからさ」

「なるほど」

「そしたら次は、澪の友達とかクラスの連中に片っ端から変なDMが届いたの。『白波の鍵垢を解除させろ』って内容が、何通も何通も」

「こわ!」

「でしょ!? もちろん、あたしにも来たよ。まあみんな鍵垢にすればいいんだけどさ、中には公開しておきたいって子もいて、結局澪はみんなに迷惑かけたくないからっていう理由で鍵を解除したんだよね。その時、インスタのアカウント自体消すことも考えたんだけどさ。今度は『白波のアカウントを復活させろ』ってDMが周りの子に行きそうだからってことで、それはやめたの」

「その粘着体質だったら、全然ありえるよな」

「そうそう。澪はDMぐらい無視すればいいだけだからって言ってたけど……絶対ストレスだったと思うんだよね」


 そりゃストレスに感じたから鍵垢にしたんだろうし、そういう訳の分からない粘着って怖いだろ。


「で、その時ひとつ思ったことがあったんだけど、実はこの嫌がらせDMを送ってきてるのって知り合いなんじゃないかって」

「え、それはなんで……?」

「さっきクラスの連中に片っ端からDMが来たって言ったじゃん? それってインスタ上で澪と繋がってない奴にまでDMが送られてたんだよね」

「……なるほど」


 白波さんのフォローやフォロワーにいないのに、その犯人はクラスメイトのアカウントを突き止めたというわけか。フォロワーのフォロワーみたいな感じで辿っていくことは不可能ではないかもしれないが、ピンポイントに見つけるのは結構難しいよな。


「あと、もういっこ理由があってさ、澪に送られてるDMの内容なんだけど、段々学校生活でのことも書かれるようになってきたんだよね。『休み時間にイケメンと話すのに必死』とか『制服のスカート短すぎ』とかさ」

「それ、犯人が学校にいるってほぼ確定なんじゃないのか? ていうか、自分からバラしてるようなもんじゃんか」

「そうだよね、犯人はちょっとおつむが弱い子なんだと思う」

 寅野さんはちょっと皮肉を込めたように笑って言った。まるで誰が犯人かを知っていて、その犯人に向けて言っているような。

「それで、そっからが澪のすごいとこなんだけどさ。犯人を突き止めるって言いだしたんだよね」

「突き止めるって、どうやって?」

「ね、どうやってって思うじゃん? あの時の澪面白かったわ」


 クックックと押し殺すようにして笑う寅野さん。


「澪さ、クラスの女子達に片っ端から『あたしのこと嫌いな子いる?』って聞いて言ったんだよね」

「え!? そ、それ意味あるのか?」

「まあ、澪じゃなきゃできない技かもね。普通いきなりそんなこと言われたら、びっくりするじゃん? もし、本当に嫌いなら動揺して、取り繕うとしても反応に綻びがでる。そりゃみんな否定したみたいだけど、否定の言い方ひとつにしてもちょっとした差が出てくる。あと、意外なこともあってさ」

「意外なこと?」

「澪がそうやって聞いた時『〇〇さんが澪の陰口言ってたよ』って教えてくれる子が何人かいたの」

「マジで? なんでそんなこと教えてくれるんだ?」

「んー、女子の中には……いや、男もそうかもしれないけど『争いを見るのが好き』って奴がいるんだよね」


 え、じゃあ何か? 争いを見るために、誰かが誰かの悪口を言ってたよーってわざわざ告げ口する人種がいるってことか? こわ! そんな心が醜い人間いるのか?


「まあ、でもみんながそうって訳じゃないよ。澪の完全な味方で心配して教えてくれた子もいると思う。たとえば、泉だってもし澪がこういう状況って知ってて、誰かが澪の陰口言ってたら、教えることもあるんじゃん?」

「確かに、そうかもな」


 俺は完全に白波さんの味方だし忠誠を誓ってるので、白波さんを追い詰める犯人の手がかりがあるとしたなら、もちろんそれは白波さんに伝えるな。


「クラスの中で澪に敵意を持っている人間を絞ることはできた。で、そこからどうやって犯人を突き止めるのか。どうやったと思う?」

「全然分からん」

「はは、泉って素直だねえ! 確か、3人ぐらいに絞りこめたのかな? 澪はその3人に対して、ひとりひとりに別の情報を流した。自分とその子しか知らないような自分の嘘情報を。ほんとしょうもない内容だけど、体重とか血液型とか、そういうの」

「そんな嘘情報伝えたからって何か分かるのか?」

「犯人はおつむがちょっと弱いって言ったじゃん? 澪の流した嘘情報を信じてDMしてくるようになったんだわ。『B型だから性格悪い』とか。それ聞いた時ほんとウケた!」

「え、じゃあ」

「うん、澪の血液型はA型。3人のうちB型って伝えたのは高石さんだけ」


 白波さんすげえ。そうやって犯人をあぶりだす方法って、スパイとかが使うんじゃなかったっけ? 漫画で読んだ気がする。


「まあ、あたしは最初から高石さんが怪しいじゃないかって思ってたんだけどさ」

「……そうなのか?」


 というかそもそもなんで高石さんは、そんな嫌がらせをしようと思うほど白波さんが嫌いなんだ? 俺から見たら白波さんを嫌う要素なんてないし、逆に高石さんもすごく良い子だと思うんだが。

 こうやって犯人だって言われても、ピンとこない。毎日LINEしてるせいもあって、俺は高石さんに結構好感を持ってるし、何より高石さんって多分俺のこと好きだしな。可愛い子に好意を持たれて好感をもたない男はいないだろう。


「だってさ、高石さんってあきらかに赤嶺のこと好きじゃん? 嫌がらせのDMが来はじめたのって、ちょうど赤嶺が澪に告ったころなんだもん」

「え……」


 待て待て待て。今、ひとつのセリフに重要なワードがふたつほど入ってたぞ。高石さんが赤嶺のこと好き? 俺のことじゃなくて? それに、赤嶺が白波さんに告白したって、どういうことだ? いや、それよりも白波さんは赤嶺の告白になんて返したんだ?

 頭がついていかない。


「その顔、まさか泉知らなかったの?」

「……全然知らなかった」

「うそでしょ? クラス中の噂になってたじゃん!」

「その噂の仕入れ先がないんだよ」

「ああ……泉友達いないもんね」


 その通りだけど。そうか、友達がいないとこういったクラス内の重要情報もとり逃すことになるのか。


「それで、白波さんはなんて返事したんだ?」

「えー? なになにー? 泉気になるのー?」


 ニヤニヤとからかうより笑いながら寅野さんが言った。


「気になる!」


 はっきりと自信を持っていった。自分でも、なんでこんなに気になるのかは分からんがとにかく気になる!


「……泉ってほんと素直だね」


 寅野さんの顔がからかうような表情、感心したようなあきれたような表情へと変わる。


「安心して、澪は赤嶺の告白断ったから。あんなイケメンもったいないよねー! まあ、澪っぽいっちゃあ澪っぽいけど」


 断ったのか……良かった。すごくほっとした。もし付き合ったとか聞いたら、泣いてたかもしれない。それぐらい、すごい不安だった。なぜそんな気持ちになったのかは、相変わらず不明だが。


「高石さん、赤嶺への猛アプローチすごかったからさー。澪に対する完全なる嫉妬じゃん?」

「なるほど……」


 俺は高石さんが俺のことを好きだと思ってたわけだが。まあ、一旦それは置いておこう。つまり、今までの話を整理すると、高石さんは赤嶺を好きだったが、赤嶺は白波さんが好きで告白した。それを知った高石さんは、嫉妬心から白波さんに嫌がらせを開始。だが、最終的には白波さんは嫌がらせの犯人を突き止めた、ということだな。ふむ、万事解決な気がする。


 だが、今日の教室のあれは、解決の空気ではなかった。むしろ問題が拡大してたよな? 高石さんだけでなくクラス全体が白波さんの敵になっていた。


 なんであんなことになってしまったんだ?


「不思議なんだけどさ、今の話聞いてたら、最低でもクラスの女子の何人かは嫌がらせのDMの犯人が高石さんだって気付いてるんじゃないのか?」


 『白波の鍵垢を解除させろ』っていうDMは白波さんの周りの女子たちにも来てたって話だし、高石さんが白波さんの陰口を言ってたって知ってる女子もいるんだろ? それに、そんなに難しく考えなくても、高石さんが嫉妬から白波さんに嫌がらせしてたってのは寅野さん以外にも気づく女子結構いそうなもんだけどな。


「おっ、泉察しがいいじゃん」

「へへ」


 ビューティフルタイガーに褒めれられた。嬉しい。


「その通り、女子どころか男子でも高石さんが犯人だって気付いてるやつ結構いるんじゃないかな。あと、最近澪の持ち物が無くなったり壊れたりってことも多かったからさー、そういうのって完全に誰にも見られないようにやるのって難しいじゃん? 女子の何人かから澪に『高石さんが澪の机の近くでなんかしてたよ』って言われたりしてたんだよね」

「いやいや、それっておかしくないか? じゃあなんで今日、白波さんはクラスの連中に責められるようなことになったんだ? みんな高石さんが犯人って分かってるんだろ?」

「そうなんだけどさ……そこが難しいとこなんだよ」


 寅野さんは、ひとつ大きくため息をついたあと、なんちゃらマキアートを飲んだ。


「理由はいくつかあるんだよね。まずひとつめ。澪の言い方が悪かった。澪ってさ、ほら、ああいう性格じゃん? 単純っていうか、まっすぐっていうか。むかつくことがあったら、はっきり本人に言っちゃう」


 ああ、それは俺に対してもそうだったな。毎日毎日、はっきり俺本人に直接文句言ってたわ。


「それでも、澪にしては今回は我慢してた方だね。高石さんにどう伝えようか悩んでたみたい。証拠らしい証拠があるわけでもなかったし、原因が嫉妬ってはっきりししてたから、あんまり傷つけないような言い方を考えてたらしい」


 そうか、白波さんが流した偽情報を知ってたっていうのは、証拠にはならないのか。高石さんが『そんなこと聞いてない』って言えば、言った言わないの水掛け論になるだけだ。


「ただ、今日、泉から描いてもらった似顔絵が破られてるの見て、相当頭にきたみたいでさ。澪って実は漫画とか読むの好きらしくて、あの漫画っぽい似顔絵相当気に入ってたからねー! 冷静さを失ってわー! って高石さんを責め立てちゃったんだわ」

「……なるほど」


 自然の顔が綻ぶ。自分が描いた絵をそれだけ大事にしてくれてるって、ほんと絵描き名利に尽きるわ。というか、白波さん漫画とか好きだったのか。知らなかった。席が近いとき、もっと漫画の話しとけばよかったな。


「泉うれしそー」


 また寅野さんの顔がニヤニヤしている。


「うん、嬉しい」

「……からかい甲斐がないわ!」

「そんなこと言われても、ほんとに嬉しいしな」

「はいはい、続けるよ? まあ、ああいう感じでみんなに見える場所できつく言うっていうのは、周りの人間からしてあんまり気分が良いものではない。しかも、高石さんのあの反応。弱いものいじめに見えるでしょ? 昔の泉みたいに何言われても完全無視みたいな反応だと、そういう風には見えにくいんだけどさ」

「はい、すみません」


 確かにあの時の俺は白波さんの言葉を完全に無視していた。


「次に、ふたつめ。赤嶺が高石さんを庇った。それに続くようにして、男子たちも何故か高石さんを庇った。普通、こういう女子間の争いって男子は入ってこないんだけどね。赤嶺は澪に振られた腹いせにって理由があるから、分からないでもないんだけど、他の男子たちがなんでそれに続いたのか……そこは完全に謎」

「ふむ」


 こういう女子間の争いに男子は入らないもんなのか。そこは、なんでかは分からんが、ここでなんで? とか聞いたら話が脱線しそうなので、今度妹に聞いてみよう。俺は妹に頼るタイプの兄だからな。


「そんで、みっつめ。実は女子たちのなかに、澪に嫉妬心を持ってる子が結構いた。澪ってすごいモテるからさ。赤嶺だけじゃなくて、あきらかに澪のこと好きでしょって男子多いんだよね。で、男子たちが澪を責めるのをみて、これ幸いと嫉妬心を爆発させた女子たちがそれに乗っかったってわけ」

「はー、なるほどなー」

「どう? 分かった?」

「分かった。丁寧な説明、どうもありがとう」

「どういたしまして」


 そういうと、寅野さんはキャラメルマキアートをごくごく飲んだ。これだけ、話したらそりゃ喉も乾くよな。ほとんど寅野さんしか喋ってないし。

 だけど、おかげで大体の状況は掴めた。


「でもさ、話聞く限り悪いのは高石さんだし、すぐ元のクラスの雰囲気に戻るよな?」


 今日白波さんが教室に戻ってきたあとも、クラスの空気は最悪だった。誰も白波さんに話しかけない。あの人気者だった白波さんが、だ。話しかけないどころか、小さい声で『調子乗ってるから』みたいな馬鹿にする笑い声も聞こえた。

 白波さんのそばにいたのは寅野さんだけ。

 でも、こんなことっておかしいと思う。嫌がらせを受けていた白波さんが、なぜかクラス中から孤立する側になるなんて。絶対みんな本当は誰が悪いかってことに気付いて、元の状態に戻るはずだ。


 だが、寅野さんは煮え切らない様子で

「どうだろ……すぐには難しいかもね。しばらくこの状況が続くかも」

と言った。


「なんでだ? だって白波さんは悪くないだろ」

「うん、でも、みんなが見て嫌な気分になったのは『澪が白波さんをいじめたこと』なわけじゃん? 嫌がらせのDMとか物がなくなるとか、そういうのは基本的に澪が受けた嫌がらせであって、他のみんなにとってはどうでもいいことだし」

「そんな……。でも嫌がらせのDMはクラスメイトにも送られてきたんだろ?」

「そうだけど、それも澪が鍵垢にしなければ来なかったわけでしょ。澪のせいで迷惑を受けたってイメージなんじゃん?」

「なんでそうなるんだ……」

「マジ、それ! あたしもなんでこうなるのか、全然わかんないわ」


 はあ、また大きくため息をつく寅野さん。その様子から、寅野さんが白波さんのことを本気で心配していることが分かる。


「まあ、いつかは終わると思うからさ。それまでは、あたしは澪のそばにいるつもり」

「うん……寅野さん、めっちゃいい奴だな」

「は!?」

「白波さん、今すごく辛い状況だろうけど、寅野さんがいてくれてるおかげでだいぶ救われてると思う。二人は、親友なんだな!」

「……なんか、あんたの言葉むずむずするう」


 寅野さんは、顔を赤くして両手で自分の肩をさすっている。照れてるんだな! 恥ずかしがらなくていいのに!


 二人は、少年漫画で言うところの友情で結ばれてるってわけだ! 俺のめっちゃ好きなやつ! 努力、友情、勝利! はからずしも俺は、少年漫画の世界に飛び込んできたらしい。

 白波さんの努力で犯人を見つけて、寅野さんの友情でカバー! ときたら、俺のやることは? もちろん勝利だろ!


 寅野さんは、この状況がしばらくう続くかもしれないと言ったが、俺がそんなことはさせない! 今のところどうやってこの問題を解決するかは全く思い浮かんでいないが、大丈夫だ! 俺が絶対、問題を解決して勝利を掴んでみせる! それが忠誠を誓ったものの役目だ。

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