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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第三章 ろくにん
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15うなれ、リルハープ翻訳!

 リコリネが去った後、ユディがシュレイザを振り返ると、彼はじっとベッドに座ったまま、黙り込んでいた。

 ユディは、静かに椅子を引いてきて、シュレイザの対面に座る。

 それから、じっとシュレイザが喋るのを待った。


 シュレイザは、居心地悪そうにするでもなく、ただひたすらに渋面のまま、やはり何かを言おうとしているように見える。

 上手く言えずに、困っている…?

 そう感じた時、ユディは少し笑ってしまった。


 シュレイザは、不思議そうに顔を上げる。

 ユディは、くすくすと笑いながら、シュレイザに話しかける。


「リコリネって、いつ襲われるかわからないからって、ずっと全身鎧を着ててさ。だから僕は、鎧越しでも少しの変化も見逃さないように、聞き逃さないように過ごしてたんだ。そうしないと、すぐに無理をするから。だからかな、ちょっとだけ、相手の心の動きっていうのが、なんとなくわかるようになってきてるみたいなんだ」


 シュレイザは、ユディを睨みつけてくる。

 が、やはりそれは生来の目つきの悪さからそう見えるだけなのだろう。

 不快な様子はない。


 ユディはそこから、聞かれても居ないのに、つらつらと自分の旅の話を始める。

 モノガリのこと。

 記憶が曖昧なこと。

 故郷を滅ぼしたモノノリュウのこと。

 旅のこと。


 シュレイザは、じっとそれに聞き入っている…というよりも、『喋り方』の参考にしようと努力をしているように見える。

 やがて、ユディの話は途切れた。

 シュレイザは、微笑みを浮かべて待つユディを見て、すぐに目をそらした。


「……おれは。目つきが悪い。上背も高い」


「うん」


「だからガキは泣く。人は怖がる。言葉を選ぶ努力をした時期もあった。だが上手くいかない。ずっとイラついていた。それで……。……だったらその通りになってやると思った。敢えて怖がらせる。別にそれで困らない。そう思っていた」


 ユディは頷いて聞き続ける。

 シュレイザは、視線を合わせようとせず、話を続けた。


「おれは渡し守のシュレイザ。ずっとそれだけを言えば済む。船に乗るクソ共は話し相手を求めてくるわけじゃねエ。生活はそれで回る。確実に言葉が錆びついて行くのを感じた。おれはとっくに錆びていたのかもな。だから…。こうして今困っている」


「僕に、何か伝えたいことがあるんだね?」


 シュレイザは、「ああ…」と頷いた。

 それから、また悩むような間が空いた。

 自分のことを話して見せたユディに、シュレイザは自分のことを語って応じてくれた。

 それだけで、ユディはシュレイザに好感を持った。

 ユディは、静かに問いかける。


「ずっと前の話からでいいから、少しずつ、連なりの諸島で起きたことを言ってみて欲しい」


 シュレイザは、難しい顔をして、静かに頷いた。


「大陸ではあまり知られてねエが。何十年かに一度。連なりの諸島では妙な死産が起こる。赤子が錆びて生まれてくる。その赤子はただ真っ黒で。腐りもしないことから……人形のように抱えて一生離さない母親もいたほどだ。錆の精霊の存在は昔から知られていた」


 それを聞いて、ユディはセドリックとセエラセイラ兄妹を思い出していた。

 香りの精霊を、土着の精霊と称していた二人を。

 おそらく連なりの諸島は、錆の精霊のテリトリーなのだろう。

 ひょっとしたら、巨獣の島は命の精霊のテリトリーだったのかもしれない。

 シュレイザは話し続ける。


「それはただの畏怖の対象であり。感謝の対象では成りえない。今回のことは……いつまでたっても錆の精霊を信仰しない人間へ罰を与えに来たのだと言うクソ野郎も居る」


「そっか……。シュレイザ、答えたくなかったら、言わなくていいんだけどさ。錆の祝福は、どんな感じだった? 動けなくなる感じ?」


 シュレイザは、思い出しているのか、苦虫をかみつぶしたような顔をする。


「ぎこちなくなるといった感覚が近い。そしてその場所は何も感じなくなる。自分の一部ではなくなったかのように。やがて体の奥まった部分が熱を持ったようになり虚脱感に包まれた。徐々に息苦しくなって……」


「息苦しい……」


 シュレイザの言葉に、ユディは頭の中で思考を巡らせる。

 そうだ、確か昔、ライサス先生が言っていた。

 人間の血液には、金属の成分も流れていることが判明してきているとか。

 だからこそ、血が流れると鉄のような臭いがするという。

 血が錆びて、循環しづらくなって、息苦しくなるのだろうか。

 錆びるという反応の過程で、熱を持つのだろうか。

 人間が錆びるというのは、理解の外にある出来事かと思ったが、ひょっとしたらそうでもないのかもしれない。


「……大変だったね、シュレイザが助かってよかったよ」


 ユディの言葉に、シュレイザは眉をしかめた。


「助かる……? まだだ。このままでは……」


 シュレイザは、ようやく自分が伝えようとしていた言葉が何かに思い至ったようだ。

 しかし表情は晴れることなく、ユディを睨みつけてくる。


「案内する。おれの住処に来てくれ。このままではマトナが危ない。あいつも錆が浮いて……」


「わかった、大切な誰かが居るんだね? 焦る気持ちはわかっているつもりだけど、船を出すのは明日だ。シュレイザには、ゆっくり体を休めて欲しい。それが、僕が協力する条件だ。いいね?」


 シュレイザは、ユディをきつく睨みつけると、チッと舌打ちをして、ゴロリとベッドに横たわった。

 よほど疲れていたのだろう、すぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。

 ユディはシュレイザを起こさないように、静かに廊下に出た。


「主、いかがでしたか」


 ちょうど、壊したサイドテーブルを弁償して戻ってきたリコリネと鉢合わせる。

 夜なので、廊下で話し込むわけにもいかず、ユディはリコリネの部屋にお邪魔させてもらった。

 リルハープは、解放されたように伸びをしながら、パタパタと部屋を飛び回る。


 ユディはリコリネに、ざっとあらましを説明した。


「…なるほど。私としては複雑ですが、根は悪い男ではないのかもしれませんね。では、申し訳ありませんが、明日は朝イチでガッディーロへの報告の手紙を出させてください。連なりの諸島に、手紙を配達する機構が充実しているとは思えません」


「ああ、そうか。僕も保存食の買い出しをやっておいた方がよさそうだ。シュレイザ、待ってくれるかなあ…見た感じ、気難しそうだから、ちょっと冷や冷やするな」


 うーんと悩んでいるユディに、リルハープが驚いたような声を出した。


「まあ~~、ご主人サマはやはり表面的な事しかおわかりではないのですね~~っ」


 ユディはきょとんとして妖精を見る。


「? 何か間違ってた?」


「何と言いますか~~…。ギュギュのパワーアップバージョンという感じですね~~。ギュギュも、わざと悪ぶってみせたり、気持ちとは裏腹な態度をしてみせたりしていましたよね~~。シュレイザはおそらく、思春期に周囲からの拒絶を受けて、性根がすさまじく捻転したのでしょうね~~」


「ええ…? 裏腹って…じゃあ、こっちに好意を持っているってこと?」


「好意どころか、命の恩人であるご主人サマに対してメロメロですよ~~。相手を傷つけるような暴言を使わないように、必死に言葉を選んでいたでしょう~~?」


「あれって説明を上手く言えなかったからじゃなくて!?」


「ご主人サマはまだまだですね~~っ。おそらく、自分にここまで優しく接してくる人と出会ったのが生まれて初めてのことだったのでしょうね~~、どう反応すればいいか困っていましたよ~~。ご主人サマを守るためなら、シュレイザは命をかける覚悟です~~!」


 リルハープの言葉に、リコリネがピクリと反応した。


「む……。ライバルですね。主をお守りするのは、騎士である私の仕事ですのに」


「というか、内面を第三者によって赤裸々に暴露されてるシュレイザが可哀想なんだけど…?」


 ユディはシュレイザにちょっと同情しながら言った。

 リルハープは悪びれずに、きゃらきゃらと鈴を転がすような笑い声をあげている。


「リルちゃんにかかればこんなものですよ~~! ご主人サマも、相手が不快に思っていないとわかって安心したのではありませんか~~?」


「まったく……と言いたいところだけど、確かにその通りだ。やっぱりちょっと怒ってるのかなって思ってたし」


「そういうわけで、シュレイザはご主人サマの要望なら、何だって聞いてくれると思いますよ~~。ただ、暴言がクセになっていると、難しいでしょうね~~。なんならリルちゃんがしばらく翻訳を行いますよ~~」


「言葉が通じない扱いってますます可哀想だな!?」


 翻訳という言語チョイスに思わず言うが、リコリネはリルハープに賛成のようだ。


「それはぜひともお願いしたいです。私も無駄に彼と争いたいわけではありませんので。主に対し、礼の一つもないのはどうかと思っていましたが、礼の仕方を知らないのであれば、納得がいきました。私にも、かつて知らないことはたくさんありましたからね」


「うーーん、リコリネがそう言うなら…。じゃあ、試しにしばらくやってみて貰っていいかな、リルハープ」


「合点承知の助です~~!」


 こうして、ユディたちの中で、シュレイザへの接し方が決まった。



-------------------------------------------



 まだ外が暗い明け方に、シュレイザは目を覚ます。


「…ッ!?」


 体を起こして、我が目を疑う。

 ユディが、自分の居るベッドに顔を伏せるようにして眠っていた。

 看病のようなスタイルだ。


(この女まさか。ずっとおれと同じ部屋に居たのか…!? クソが。舐められたもんだ。男を何だと思ってやがる…ッ)


 混乱しながら周囲を見渡すが、部屋の中にはユディだけだ。


(あの鎧の男を呼ぶべきか? いや起こすのが手っ取り早いか。だが…。コイツは恩人だし出航は今日だ。睡眠不足だと不味いか)


 シュレイザが頭を押さえて悩んでいると、ユディは「んん…」と小さく唸りながら、ゆっくりと起き上がった。


「…あれ、おはようシュレイザ。早いね?」


「ああ!?」


 ついケンカ腰のように声を荒げたシュレイザに、ユディはびっくりした。

 シュレイザは、ハッと一度口を閉じる。

 沈黙の時間が流れたが、ユディは早くもそれに慣れた。

 何事もなかったかのように、部屋の窓を開けに行く。


「でもちょうどよかった、『天からの贈り物』が見られる時間だし、一緒に見ようよ」


「……ああ? んなもん見てなんか得でもあんのか?」


 シュレイザは、変な顔をしてユディを見返す。

 ユディは、また驚いた。


「得って、面白いふうに言うなあ、考えたこともなかったけど……でも綺麗な景色を見たら、お得って感じがしない?」


 ユディは微笑んで、返事も聞かずに窓の外を見上げる。

 シュレイザは、調子を崩したように、じっとユディの横顔を見ていた。


 やがて、シャラシャラと空から降り注いでいた、天からの贈り物が終わる。

 もう、昔みたいに涙が出たりはしないが、やはりユディにとってこの光景は特別だった。


「おい」


 シュレイザに声をかけられて、ユディは慌てて窓を閉める。


「ごめんごめん、ぼーっとしてた」


「…どうしてこの部屋に居た?」


「え? ああ、それがシュレイザの部屋を取ろうとしたんだけど、満室らしくってさ。一日くらいいいかなって思ったんだけど、嫌だった?」


「そういう話じゃねエ…」


 ユディはきょとんとしてシュレイザを見返す。

 しかし、そこから話が続くことはなかった。

 ユディは沈黙に耐え兼ねて、シュレイザの額に向けて手を伸ばす。


「そうだ、調子よくなった? 熱がないか測るよ」


「さわんな!」


 ユディの手が乱暴に振り払われる。

 何故か、シュレイザは気まずそうに顔を赤らめている。

 その大声で、胸ポケットに入ったままだったリルハープが目を覚ましたようだ。

 もぞもぞと動く気配がする。


(リルハープ、頼むよ…!)


 もはやシュレイザとの対話に手詰まりを感じつつあったユディは、小声でそう言いながら胸ポケットを抑える。

 リルハープは、寝起きでうにゃうにゃしながらも、大体事情は察知した。

 ユディはお守りを手に入れた気分で、めげずにシュレイザに話しかけてみる。


「ごめんシュレイザ、ちょっと慣れ慣れしかったかもしれない…」


「…テメエ。そんなことでよく今まで生きてこれたな。付き合ってらんねエ(訳:あなたが無防備過ぎて心配です。見ず知らずの私にそんなに人懐こくしてこられても、対応に困ってしまいます。)」


「え?」


 思わずユディは聞き返した。


「なんだ」


 シュレイザは怪訝な顔を向けてくる。


「あ、いや、なんでもない、こっちの話…! ちょっと、びっくりして…」


 ユディの返事に、シュレイザはじっと考え込む。


「……、……。テメエは、おれが怖くねエのか(訳:あなたのような人に会えたことで、私の心が豊かになっていく気がします。)」


「いやその、ちょっと詳しくは言えないんだけど、諸事情で全然怖くはなくなったかな!?」


「…チッ。迷惑だ(訳:嬉しいです。あなたに好感を抱くことを、私は止められそうもありません。)」


「ええと…! そうそうシュレイザ、今日は出立前に、保存食を買い込んだり、旅の準備をしておきたいんだけど、いいかな? 急ぎたいのは山々なんだろうけど…」


「クソが。勝手にしろ(訳:もちろんです。私には荷物持ちくらいしかできませんが、好きに使ってやってください。)」


「うん、わかった、ありがとう。じゃあリコリネに知らせてくるから。朝食までゆっくりしてて?」


 ユディはそそくさと部屋を出る。

 シュレイザの返事も聞かず、パタンとドアを閉めて、一呼吸置く。


(さすがに適当すぎるだろ!!?)

(ホントにあんな感じですってば~~!)


 小声でリルハープとギャーギャーやった。




 ちなみに買い出しの間、リルハープにはリコリネの鎧の内側に移動して貰う。

 言葉少なに悪態をつくシュレイザとのやり取りを終え、彼が船の準備に行っている間に、リコリネにこっそりと聞いてみる。


「リコリネ、どうだった?」


「何と言いますか……裏腹とかいうレベルではありませんでしたね」


 その感想がツボにはまって、ユディはしばらく笑っていた。

 「いたたまれなくなるので、もう翻訳はやめよう」という結論に至り、ちょっと楽しんでいたらしいリルハープだけが不満げだった。



-------------------------------------------



 丁寧に出立の準備を終えると、シュレイザに促されるままに船に乗りこむ。

 彼は慣れた手つきで、もやいを解きながら宣言をした。


「ここからは飛ばすぞ」


 ユディは首を傾げる。


「飛ばすって…見たところ、船に動力がついてるとかじゃなさそうだけど…?」


 シュレイザは特に返事をせず、帆を張るためのロープの具合を確かめた。

 そして、息を吸う。


「―――知覚の精霊、エティナイの祝福を!」


 シュレイザの周囲に、黄色い光が舞う。

 シュレイザは、鋭くなった五感を駆使して、風を読み始めた。

 即座に風向きを掴み、ロープを駆使して帆で風を受け止める角度を作る。

 まるで滑るような走り出しで、船は進み始めた。


 リコリネが、驚いたようにシュレイザを見る。


「シュレイザ殿は、智の精霊の祝福持ちだったのですね」


「…叡智の街では。研究のために感覚を鋭くする必要があるからなのか。そう呼ぶらしいな。連なりの諸島では知覚の精霊として認識している。智は知だからだ。船乗りは風を読まねば生きていけない」


 シュレイザは、前を見たまま、うっとうしそうに返事をする。


「じゃあ、エティナイの祝福を受けた人が多いんだ? 懐かしいなあ、僕たちの先生も、エティナイの祝福持ちだったんだ」


「……どうでもいい」


 ユディの言葉に、シュレイザはぽつりとそう言った。

 そっけない態度でも、もうリコリネは怒らない。


 シュレイザは常に手を動かして、風を帆に集め続け、海流に乗っていく。

 いつもユディたちが乗ってきた大型船とは違い、せわしないような、繊細な操作が必要なその光景はとても面白く、ユディもリコリネも楽しげにシュレイザを観察していた。

 船のへりにオールが備え付けられているが、風が凪いだ時にでも使うのだろうか。

 最初の内は、ユディたちの視線に少し居心地悪そうにしていたシュレイザも、すぐに操船に集中をする。


 海の向こうには、ぽつぽつと島々が浮いている。

 島の端が見えてきたと思ったら、気が付けば遠くに追い越している。


「すごいなあシュレイザ、まるで水の上を駆け抜けて行ってるみたいだ! さすが渡し守だね」


「…黙ってろ。気が散る」


 ユディの言葉に、ぶっきらぼうな返事がくる。

 しかし構わずに、リコリネが問いを続ける。


「シュレイザ殿、目的地はかなり遠いのですか?」


「……島の最南端に。『孤立島』と呼ばれる離れ小島がある。いつも天気がどんよりした薄気味悪い島だ。村の噂では錆の精霊はそこから来たと言われていたが。そこまでは行かないものの。目的地ははるか南だ」


 なんだかんだいって、シュレイザはちゃんと返事をしてくれる。

 ユディも続いた。


「さすがにこの船の上で夜を明かすのは無理だよね?」


「…チッ。飛ばすと言ったはずだ。夕方には着く」


「なるほど。やはり大型船とは違い、スピードが出るのですね」


 シュレイザは、態度を変えずに話しかけてくる二人に、困惑していた。

 こんなことは初めてだった。

 少なくともリコリネには嫌われていると思っていたが、今ではそうでもないように見える。

 どうしていいかわからず、もやもやとする。

 もやもやとした船旅だった。

 それも、初めての体験だった。


 リコリネは、そんなシュレイザに気づかず、ユディと話し込んでいる。


「主は連なりの諸島について、何かご存じのことがありますか?」


「うーん、まさか行くとは思わなかったから、実はノーチェックなんだ。ただ、思ったよりも風が肌寒いね」


 シュレイザは海流を読みながら、仕方なく喋る。


「……この辺りは。海流によっては温度が低い場所がある。島の一つに『竜ノ口』と呼ばれる鍾乳洞があり。そこでは氷が作られる。大陸にそれを出荷する業者もいる。大陸は温暖なんだろう?」


「ああ、じゃあ氷って連なりの諸島から来てたのか! 元は水だから、それがお金になるって、なかなかいいね」


「チッ。舐めんな。湧水を運ぶのも一苦労だと聞いている。人件費がそこそこかかる」


 ユディの言葉にシュレイザが返し、リコリネが口を挟んでくる。


「しかし、なぜ竜ノ口という名なのですか?」


「……鍾乳石が牙のように生えているからだ」


「なるほど、実に興味深いですね。シュレイザ殿、こんな時にこのようなことを聞くのも気が引けますが、他にも絶景スポットなどはありますか?」


「……、……産卵を終えたヒカリイカが波打ち際に打ち上げられる。『ヒカリイカの身投げ』というものがある。夜に見ると絶景だ」


「名前だけ聞くと絶景っていうか、壮絶スポットだね!?」


 ユディが大袈裟に驚いている。


「! 主、今、大きな魚が跳ねましたよ!」


「えっ、どこどこ? …ホントだ、背びれがある、かわいい!」


「……あれはイルカだ」


 わいわいと、沈黙することのないユディとリコリネに、シュレイザは辛抱強く付き合っていく。

 こんな賑やかな船旅は初めてだ。


 シュレイザは…。

 少しだけ、口の端を上げた。

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