表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第三章 ろくにん
92/137

11ダンス・マカブル

 意外にも、実験都市には何の問題もなく、ユディたちは観光を終えた後、あっさりと旅立つことができた。

 リコリネが気に入ったのは、やはり食事の分野だ。

 『実験料理』と称して、多くの創作料理が開発され、屋台で少量の『試食』というものができるシステムがあり、「ちょっとずつ食べると、妙に美味しく感じるなあ」と、ユディも感銘を受けていた。


 セエラセイラに貰った獣除けの香り袋のおかげで、道中で一度も獣に襲われることもなく、ユディたちはのんびりとした旅路を続けられた。

 街道を進みながら、リコリネは首をひねる。


「しかし、平和に終わりましたね。これは僥倖と言っていいのでしょうか。やはり芸術都市だけがおかしかったのか、悩ましいですね」


「香りの村にも、可愛らしいモノオモイが居るには居ましたからね~~。どのみち次の発明都市は、不夜の街への通り道にありますし、ささっとチェックするだけしてみてはいかがでしょうか~~?」


 リルハープの言葉に、ユディは頷く。


「そうしよっか。夢なんてこっちの都合を聞いてくれるものじゃないわけだし、偏りがあってもおかしくないとは思い始めているけどさ。ただ、発明都市も実験都市と同じような人たちが居るのかなあ、ちょっと、かなりの価値観の違いに戸惑ったんだけど……」


「『埋め立て地プロジェクト』のことですね。ゴミ山を海に落として地面を作る……主は海洋汚染のみを気にされておりましたが、私としては、物に対する愛情のなさに驚きました。我が掘削の街では、資源は限られたものと考え、要らなくなったものを他者に譲る精神が広く浸透していますからね。あのようにあっさりと物を捨て去る気持ちは、いまいち理解に苦しみます」


 リコリネの言葉に、リルハープはパタパタと飛び回りながら、ふんわりと振り向いた。


「あれはおそらく、物を生み出すプロセスが歪なせいでしょうね~~。多くの物は、例えば山を登るためとか、野営のためとか、目的に沿って作られて行きます~~。ですがあの人たちは、天啓によって得た知識を実現させるためだけに、物を作り出している感じがします~~。竜の夢の中にあるものが、この世界で必要とされる道具になるとは限りませんのに~~」


「……なるほど。まるで『侵食』と表現できるような現象ですね。やはりモノノリュウとの距離が近いためか、竜の夢が染み出した影響が濃いのでしょう。そう考えると、どこかぞっとしますね…。誰も、この異常さに気づいていない部分が、特に」


 全員で、空を見上げる。

 昼間の空は翡翠色で、まだ動く月も、動かない月も見えない。

 目的地は、まだまだ遠かった。



-------------------------------------------



 ようやく、発明都市が見えてくる。

 が、ユディは眉をしかめた。


「…? なにか、聞こえてこない?」


「…本当ですね~~。音楽のような……この距離でも聞こえるというのは、おかしい気がします~~」


「うーーん、発明都市は、『アイデア・キャンプ』っていう小さな話し合いの集まりが始まりで、そこから大きくなっていったって話だから、なんらかの祭りの可能性もあるけど……」


 パタパタと飛んでいたリルハープは、念のためにユディの胸ポケットに潜り込んでおく。

 リコリネは、静かにユディを窺う。


「主、ご指示を」


「…祭りじゃなかった場合を思うと、急いだほうがよさそうだ。リコリネ、走ろう」


「はっ」


 ドン、と地を蹴立てる大きな音と共に、リコリネは一瞬でユディを追い越した。

 先に行って確かめる気なのだろう。


「リコリネ、体力は残しておいた方がいい!」


 急いで声をかけるユディに、リコリネは心なしかスピードを緩めた。

 ユディも急いで追いかける。

 リコリネの鎧のガシャガシャ音が聞こえる距離まで来たはずだが、しかしその音もかき消されるほどの音楽が、発明都市の方から流れてきている。

 近づくにつれ、音楽に合わせて、誰かが歌っていることがわかった。

 時折、合いの手のようにセリフが入る。

 ようやく、歌が聞こえる距離まで来た。


   ソソーラソーラソーラ うっさぎーのダンス~♪


「主、門番の姿がありません!」


 先に辿り着いたリコリネが、ユディを振り返って到着を待っている。


   タラッタ ラッタ ラッタ ラッタ ラッタ ラッタラ~♪


「おまたせ、行こうかリコリネ!」

「はっ!」


   脚で蹴り蹴り ビョッコピョッコ踊る~♪


「くっ、すごい音量だ…! リコリネ気を付けて、モノオモイの気配がする!」

「主、これは…!?」


 ユディもリコリネも、思わず足を止めた。

 まるでダンス会場さながら、目の前で街の人たちが、道端などで思い思いにダンスを踊っている。

 老若男女ところかまわずと言った風情だ。

 明らかに、常軌を逸した光景だった。

 よくよく見ると、疲労で朦朧とした目をしている人が多い。

 ひょっとしたら、一昼夜踊り続けている可能性もある。


   耳にハチマキ ラッタ ラッタ ラッタラ~♪


「……周囲に歌い手が居ないのに、この音量は異常だ。ひょっとして発明都市は、音を広く拡散する装置を作った……?」


 ユディが思索に集中しようとしたその時。

 唐突に、グイと腕を引っ張られた。


「ッ!?」


 警戒をしていなかったわけではない。

 だが、絶対に警戒をする必要のない方向から、その乱暴な歓迎を受けたのだ。

 ユディを引っ張り寄せた相手は、リコリネだった。


「主、申し訳……ありません…っ!!」


 リコリネは、必死に何かを我慢しようとしているが、どうしてもそれができない…という様子だ。

 リコリネはユディと指を絡め、全身鎧にユディの体を押し当てるように抱き寄せる。

 そして、くるりと優雅にターンを始めた。

 鎧の足が、ゴリゴリとユディの足に押し当てられる。

 そのくらい密着してくる。


「り、リコリネ…!? これって…っ!?」


「社交ダンスです…っ。私が踊れるものが、これしかないために、おそらく自動的にこういうことになったものと思われます…!」


「社交……」


 ユディはさっと青褪めた。

 そこまで詳しいわけではないが、海峡大橋で三年間を過ごしていた時、仮兄テリオタークが一度だけ手ほどきをしてきたため、一応は知っている。

 ユディを絶望させているのは、男性が、女性の体重を支えるパートがある、という部分だ。

 明確に、死が見える。

 いや、それなりに鍛えてきてはいる。

 十数回くらいなら、リコリコの全身鎧を支えることは可能だろう。

 だが、この奇妙な現象は、どう考えてもモノオモイを止めない限り終わらないだろう。

 踊りながらそこまで行って、リコリネを支えながら踊り切れるだろうか…!?


「重ね重ね申し訳ありません、主とリルハープ殿には、こういった精神的な攻撃は効きにくいというのに、私が足を引っ張るとは、く…っ」


 リコリネは、なんとか抗おうとしているが、どうしてもユディから手が離れないようだ。

 ユディも、力の精霊の祝福を受けたリコリネの手を、無傷で振り払うことは難しい。

 最悪、手首が折れて、戦力にならなくなってしまうだろう。


「主、私を音の祝福で眠らせていただくことはできませんか!?」


「いけませんリコリネ~~! 今、あなたの背後で踊っている老人には、もう意識がありません~~! 眠ろうが死のうが、踊り続ける可能性の方が高いです~~!」


 胸ポケットのリルハープが、くるりくるりと回る景色を見渡しながら、慌てて声を出した。

 リコリネは、悔し気に声を張り上げる。


「し、仕方ありません! 主、せめて私が男性パートを踊ります、どうかその身を私に委ねてください!」


「くそっ、不本意だけど、仕方がないか…!!」


「リードしますので、『いち、に、さん』と言葉を発しながら、とにかく足を、私に合わせて動かしてみてください!」


「わかった! リルハープ、四の五の言ってられない、君に頼らせてもらう!」


 ユディが、助けを求めるように空を見上げる。

 応えるように、ユディの胸ポケットから、妖精は羽を震わせて、ユディの視線の方へ飛び上がる。


「お任せください~~!」


「リルハープ、効率を考えると、おそらく上空に近い場所に、音を拡散する装置か何かがあるはずだ! この街の規模からいって、数個はあると思う! 僕たちはまだ後回しでいいけど、体力が無い病人や老人が死にかけていそうな気配がする地区から、優先的にその装置を止める作業を、とにかくダメモトでやってみてほしい!」


「わかりました~~! とにかく考えている暇もなさそうなので、まずはアタックあるのみですね~~っ!」


 リルハープはしっかりと頷くと、ぴゃーっと街の上空へと飛んで行った。

 ユディは、リコリネに向き直る。


「リコリネ、なるべく街の中心地に向けて誘導していってほしい!」


「かしこまりました! それでは、いち、に、さん、」


「いち、に、さん、いち、に、さん……」


 ダンスに集中していると、曲は一区切りついて、誰かが喋っている声がする。


「レディース&ジェントルメーン&ボーイズ&ガールズ~☆ どうピョイ、ノリに乗ってきたピョイ? 日頃の鬱憤や疲れを、イケてるダンスでスキっと爽やかに吹き飛ばすピョイ☆ 踊ってるうちに、イヤなこと忘れて楽しくなるピョイ☆ それじゃ、健康で明るい明日のために、次もイケてるナンバー踊ってみるピョイ☆」


 また、音楽が流れ始める。

 情報は耳に入ってきているのだが、ユディは今、ダンスに慣れるためにそれどころではない。


「主、そろそろ慣れてきましたか!? 次は、変に力を入れず、私にすべてを投げ出す形でステップを踏んでみてください、私が全力でフォローします! ダンスはすべて私に任せ、主は次なる一手を考えることに集中を! 今回は、モノオモイを倒すことだけが重要な目的ではありません。おそらく、被害の規模は最大級となるでしょう。我々は事後処理まで考えて動かねばなりません!」


「く……やってみる…!」


 敵と対峙しているわけでもないのに、ユディとリコリネは、真剣に戦っていた。

 焦っている暇もない、と表現できるほどに。

 そして、戦っていたのは、リルハープもだ。


「てりゃーっ、リルちゃんキーック!」


   スカーンッ!  ピーー、ガガ、ガッ―――


 上空に全力で突っ込んだ妖精の飛び蹴りは、精密機器の機能を確実にそぎ落とした。

 ダラリと首を垂れる、スピーカー機器。


「や、やりました~~っ! やはり繊細な道具は、非力なリルちゃんでも力任せで行けますね~~。あといくつあるのでしょう~~?」


 慣れないキックの衝撃にくらくらしながら、妖精はパタパタと、発明都市の空を飛び回る。

 眼下では、ダンスから解放されたように、人々がバタバタと倒れていく。

 どうか、倒れ込んだ彼らの打ち所が悪くありませんように、と妖精は祈るしかない。


   ソソラ ソラ ソラ かわいいダンス~♪


 また、曲に合わせた歌が始まった。

 ユディもリコリネもリルハープも、既に息が上がっている。

 だが、止まるわけにはいかないし、そもそも止まることができない。


   タラッタ ラッタ ラッタ ラッタ ラッタ ラッタラ~♪


「いち、に、さん、いち、に、さん、」


 リコリネは、ユディが合わせやすいように、ずっとそればかりを呟いている。

 ユディは、思考に集中しながらも、だんだん訳がわからなくなってきた。

 流れ続ける、同じリズムの音楽。

 同じようなステップ。

 キッチリとしたタイミングで、時折入るターン。

 それらすべてが、忘我の境地へといざなっていく。


   とんで跳ね跳ね ビョッコ ピョッコ 踊る~♪


「はあ、はあ…っ、あ、あと一個~~…!」


 上空を飛び回る妖精は、ふらふらしながら、大音量の流れる方向へ向かっていく。

 そして、もう叫ぶ体力もなく、ドカンと突き飛ばすように、スピーカーに体当たりをした。

 だらりと垂れるラッパ型の装置。

 ようやく、街は静かになった。


   脚に赤靴 ラッタ ラッタ ラッタラ~♪


 だが、ユディたちのダンスは、まだ続いていた。

 一ヵ所だけ、音楽が絶えない場所がある。

 それこそが、全ての元凶、音の出所だった。

 ユディたちには、既に倒すべき対象が見えてきていた。


 周囲には、まさに赤い靴を履いたように、血まみれの足を擦り減らせて踊っている人もいる。

 運悪く素足だった人もいるのだろう。


 トランス状態、とでもいうのだろうか。

 ユディとリコリネは、今なぜか、喋らずとも意識が疎通できるほどに、相手の呼吸を理解していた。

 今ならば、自分たちにできないことはないような万能感が、体中に満ち満ちている。


 ここは街の中心地で、何人が居て、どこにモノオモイが居るかがわかる。

 オルガンの音色を奏でているのは、蛍光ピンクの毛色をした、大きなウサギの着ぐるみだ。

 作り物の大きな目玉は斜視のように、片方は右上を、片方は左下を向いている。

 音の拡散用の装置に囲まれたそれは、踊りながら近づいてくるユディたちに気づきもせず、同じセリフ、同じ歌を繰り返している。

 それが永遠であると言わんばかりに。


「リコリネ!」

「はっ!」


 もはや一言で事足りる。


   ダン、タツ、タタン!


 二人で同じステップを踏みながら、ウサギの着ぐるみの方へと、文字通り躍りかかる。


「ターン!」

「はい!」


 片手を繋いだまま、くるりと回り、あいた片手でユディは細剣を、リコリネはメイスを抜き放つ。


「「はああああああっ!!」」


   ザスン!!

   ドゴン!!


 リコリネはオルガンにメイスを打ち付け、ユディはウサギを真っ向から両断した。


   ヴーーーーーーーーーーーーッ


 耳障りな音を立てながら、オルガンの潰れた鍵盤から、音が抜けていく。

 やがてそれは徐々に小さくなっていき、切り捨てられたウサギと共に、キラキラと白い光を発し始める。

 フッ、と呼吸が抜けるように、間もなくその光は消え失せた。

 後に残ったのは、壊れたオルガンの残骸。

 オルガンの端には、子供の落書きのような、ウサギの絵が描き込まれていた。


 ユディとリコリネは、ダンスの呪縛から解き放たれると、肩で息をしながら、武器を仕舞う。

 ユディはすぐに腰元に下げた精霊道具の本を取り出し、ぱらりとめくる。

 リコリネは、即座に空を見上げた。

 妖精がふらふらと、疲れ切った様子で飛んできており、リコリネは両手を受け皿にして、リルハープの着地点へ向けて駆ける。


「リルハープ殿、こちらです!」


 妖精はもう何も喋れず、力を振り絞って、ぽてんとリコリネの手の平の上へと落ちてきた。

 同時に、ユディの声が凛と響き渡る。


「<この声が届く範囲すべてに、音の精霊タールトットの祝福が降り注ぎ、見えない指揮者が言うだろう。眠気を誘う毒薬の香りは通りすぎたと。深い眠りから覚めるように、海の底から上がるように、僕たちの心と体はまっさらになっていく。傷は癒え、疲労は消え去り、呼吸は正しく心音と手をつなぐ。今、新しい一日が始まったような、爽快な瞬間が訪れた―――!>」


 サア、と緑の淡い燐光を含んだ風が、周囲一帯を駆け抜ける。

 音の祝福が、倒れた人々や、ユディたちの体を迅速に癒した。


「うにゃ~~~、たすかりました~~っ」


 リコリネの手の上に倒れ込んだリルハープが、むくりと起き上がる。

 が、一息つく間もなく、ユディは鋭く辺りを見渡す。


「リコリネ、騎士団へと向かう!」

「はっ!」


 ユディはまだ興奮冷めやらぬ表情で、全力で街を駆け抜ける。

 リコリネも、疲労を感じさせない足取りで、妖精を大事に包み込んだまま、ユディの後をついていく。


 発明都市に訪れるのは初めてのはずだが、ユディの足取りは確たるもので、迷いがなかった。

 通りすぎる景色にも見覚えはないはずなのに。

 走りながら、ユディは思い出した。


(そうだ、大陸情報倶楽部を、この街に設置するときに、見取り図を見たんだ)


 たったそれだけの、過去の記憶。

 だが、万能感に支配された今なら、簡単にすべてが思い出せる。

 人と人との営みを、叡智を、受け継ぐための大事な要素。

 記憶とは、なんて素晴らしいのだろう!

 記憶も経験も、他の誰よりも頼れる、自分だけの味方なんだ!

 どうして自分は、過去をあやふやなままにしていられるのかがわからないくらいだ!

 震えるほどの興奮の中で、ユディは走り続ける。


 人々が倒れ込んだ景色が続く中、ユディは角を曲がった。


「この先に、…うっ!?」


 ユディもリコリネも、思わず足を止めてしまった。

 血の海が広がっている。

 一般人も騎士も、分け隔てなく斬り殺されていた。


 その血だまりの中で、うつろな目をして泣き濡れているのは、胸に隊長格の勲章を飾っている男だ。

 ただ一人生き残ったその男へと、ユディは走り寄って行く。


「なにがあったんですか!!?」


 男は、「ああ、あああ…」と、後悔という言葉では当てはめきれないような、地の底から響く声を上げながら、ユディを見た。


「剣舞で…!! 騎士の剣舞を、俺は…こんなことのために使うものではないのに!!」


 リコリネが、息を呑んだ。


「……騎士団の剣舞は、剣での打ち合いの美麗さを追求する目的として習得するものです。彼が踊れるものが、それしかなかったために、こうなったのでしょう。相手が無手であれば、斬られるしかない。主、もうここは手遅れです、酷なことを言いますが、次の手を」


「…わかった、使える手はすべて使う! 次はタイジョウへ行き、僕は創始者を名乗る!」

「はっ!」


   ダッ!


 また走り出す。

 通りすぎる景色には、まだまだ倒れ込んだ人々が居る。

 だがユディは、この街中全てを癒す力は持ち合わせていない。

 皮肉なことに、街中に音を届ける装置は、先程リルハープが壊したばかりだ。

 とにかく他の手段で、この街を救うための応援を呼ぶしかない。

 やがて、タイジョウの建物が見えてきた。


   バタン!


 乱暴に扉を開ける。

 中では、従業員や一般人たちが、疲れ切ったようにぐったりと倒れている。

 ユディは、大きく声を張り上げた。


「私はこの大陸情報俱楽部の創始者、ディエルだ! この街の惨状を救いに来た!」


 そう言ってから、先程と同じように音の祝福を使って、この場のすべてを癒した。

 ユディには、少しでも説得力を増すために、そして即席の信用をかき集めるために、偉そうにふるまう必要があった。

 だが、身近でそれなりに風格のある人物が、仮兄テリオタークしか思い浮かばない。

 そのため、無意識に彼の口調を真似ていた。


 従業員たちは、疑う様子もなく、感謝の瞳をユディに向けながら、立ち上がる。

 ユディは関係者にだけ通じる、星マークのコインをかざしながら、畳みかけるように言葉を告げる。


「他の街に救援要請を行いたい! 袋鳥にて書簡を出す! 準備を!」


「「「はい!」」」


 従業員たちは、背筋を伸ばして動き始める。

 ユディはすぐに、ポカンとこちらを見ている一般人たちに目を向けた。


「どうか貴殿らの手を貸してほしい! 街にはまだ倒れている者が多く存在しており、私の力だけではすべてを回復できない! 貴殿らには、彼らの手当てをお願いしたい! あまり順序をつけたくはないが、都市機能は回復させねばならない。手紙の配達所と、鳥車の手配所から優先的に回ってほしい!」


 まだ理解の追い付いていない一般人たちは、お互いに顔を見合わせて、さわさわと囁き合っている。

 ユディは了承も聞かずに、とにかく指示を出すことにした。


「重傷者をこのタイジョウへと運びこみ、軽症者にはとにかく水分補給を! 非常事態だ、飲食店や宿屋から、ありったけの水を持ち出して配ってほしい! すべて私が責任を持つ! 我が名はディエル、この大陸情報俱楽部の創始者だ! 身元はこのタイジョウが保証する!」


 とにかく言ったもん勝ちとばかりに、ユディは次々に言葉を被せた。

 背を押すように、リコリネが一歩前に出る。


「我が殿のご要望、拙が先陣を切って叶えてごらんにいれましょう! おのおのがた、であえ、であえ!! 我が名は音に響く圧殺鎧鬼、殿に勝利を運ぶ鬼ぞ!」


(リコリネは演技する必要ないだろ!!!!?)


 ユディの心の叫びは、圧殺鎧鬼には届かなかった。

 リルハープは、二人の豹変を受けて、リコリネの手の中で、静かに笑い死にしかけている。


 リコリネは、自然な動きでリルハープをユディに渡すと、ダっとタイジョウを出て行った。

 一般人たちは、勢いに押されて、ワっとリコリネに続いて出て行く。

 無事に生き残れた高揚感と、使命感にも似た、よくわからない興奮が彼らを包んでいた。


「いざいざ、我らでこの街を救い、勝鬨を上げようぞ!」


「「「おおーー!!」」」


 ユディは色々と言いたい表情のまま、リコリネたちの背を見送るしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ