08香りの村
香りの村が見えてくると、例によってユディが、モノオモイの気配がすると言い出した。
「やっぱりこの閃の大陸はおかしいですね~~。部屋の中で埃が溜まりやすい場所みたいに、そういう吹き溜まり的な立ち位置なのでしょうか~~?」
胸ポケットからのリルハープの問いに、ユディは首を傾いだ。
「うーーん。まだ二例目だからなあ、こういうのって、ある程度数値が集まらないと評価価値は無いって、ライサス先生なら言うだろうね。それに、なんていうか…。気配が濃かった芸術都市と違って、逆にモノオモイの気配が、すごく薄い…感じがする」
「それは不思議ですね。しかし私としては、あの村の構造の方が不思議に感じます。まさか、周囲を囲う柵がないとは。不用心に見えて、そわそわしますね」
リコリネが目をやるのは、とても開放感にあふれた風情の村だ。
リルハープは、何かに気づいたように、思い切り息を吸い込んだ。
「でも、ここからでもいい匂いがしますよ~~!」
「確か、柵がないのはわざとなんだって。囲ってしまうと、それなりに匂いがこもってしまって、新しい香りを作る障害になるからって理由で。それに、あの香りがあるから、野生動物は集まってこないって話なんだ。食べ物の匂いも、人間の匂いもわからなくなるから、野生動物からすれば、あそこはフローラルな香りがするだけで、何もない空間に感じるらしい」
ユディの説明に、リコリネは感心したように頷いた。
「なるほど、機能的ですね。しかしそれでは、賊の類は防げないのではないでしょうか?」
「それがあの村はどうも、誰かは必ず夜通し研究しているみたいで、昼も夜も関係ない暮らしの人が多いらしく、目立たず忍び込むことができないって話だとか。それに、研究施設という場所が場所なだけに、街の方から来る騎士団の巡回も頻繁に行われているみたいだね」
「ああ、そこはなんといいますか、閃の大陸らしい理由ですね」
そうこうしているうちに、香りの村に辿り着いた。
入り口も出口もない、風通しのいい場所なので、特に身構えずに村に入る。
「……なんだあれ……」
そして、ユディたちの足は止まった。
「にゃーん」
「にゃ、にゃにゃにゃっ!」
ニャンニャの鳴き声がする。
だが、どこにもニャンニャが居ない。
ユディたちの前には、じゃれ合う一足の長靴がある。
つまり、右と左の、二つの長靴だ。
その長靴が、なぜかニャンニャの声を上げながら、どう見てもニャンニャの動きをしている。
よく見ると、ニャンニャっぽい手足と、ふわふわの尻尾が生えている。
だが、長靴だ。
どうやって発声しているのかもわからない。
長靴にはいったニャンニャかと思ったが、どうもそうではないようにしか見えない。
「奇怪な生き物ですね…。私には、不思議とあれがニャンニャ殿に見えます」
リコリネも、戸惑いながらそう口にする。
「やあ、旅人さんたちっ、香りの村へようこそ!」
横合いから声をかけられ、そちらを見ると、爽やかな感じの青年が、こちらへやってくるところだった。
ユディは、まだ驚きの抜けきっていない顔のまま、挨拶をする。
「あ、どうも…お邪魔しています。旅人のユディと言います。村の方ですか?」
「そうさっ、ボクは村一番の調香師。調香子セドリックとはボクのこと! よろしくねっ」
セドリックは優雅に帽子を脱いで、うやうやしく礼を向けてきた。
リコリネも、応じるように、騎士の礼を返す。
「私は騎士のリコリネと申します。セドリック殿、いきなりで申し訳ありませんが…」
「わかってるさっ。アレが何なのか、気になるんだろうっ? 旅人はみーんな、まずは驚くからねっ、説明だって手慣れたもんさっ、ボクに任せて! おいで、ミギくん、ダリちゃん!」
名前を呼ばれた長靴たちは、「にゃ!」と反応した後、嬉しそうにタカタカと、セドリックの足元へと駆け寄ってくる。
「紹介するよ、こっちは右長靴のミギくん。こっちは左長靴のダリちゃん。可愛いニャンニャさっ!」
「長靴って言ってますよね!!?」
長靴なのかニャンニャなのかがいよいよわからなくなり、ユディは思わず言った。
セドリックは、ひょいと帽子を被りなおす。
「しかしボクら香りの村の住人は、本物のニャンニャを見たことが無くってねっ。ボクらにとっては、この子たちがニャンニャなのさっ。そしてボクらが物心ついた頃には、既にこの子たちはこの村に居た。話によると百年以上も昔から、ミギくんとダリちゃんは、この村の住人なのさ!」
「なんと。それでこのように、ミギ殿とダリ殿は、セドリック殿に懐いていらっしゃるのですね」
リコリネの言葉に、ユディはさらに戸惑った。
どう見ても、これがモノオモイだ。
だが、共存を果たしている…?
「…あの、セドリックさん。この村で、不自然に人が死んだり、何か事故が起こったりとか、そういう事例はないんですか?」
「まさか! この村は、ミギくんとダリちゃんのおかげで、平和そのものさっ。ついこの間だって、調香に夢中になって食事を忘れ、倒れた住民がいるのを、二人が知らせに来てくれてねっ。他にも、村人が間違った調香をして有毒な香が流れそうになった時も、ミギくんとダリちゃんが頑張って扉を開けてくれたおかげで、事なきを得た事例もあったのさ!」
「………」
ユディは、言葉に詰まった。
いや、頭のどこかではわかっていたはずだ。
山菜の村のおじじさんに、そういう例があると言われたことは忘れられない。
そもそも、世の中にモノガリが自分一人だとするならば、とてもすべては処理しきれない。
悪意ある竜の夢ばかりが充満していたら、世界はとっくに滅びてしまっていただろう。
つまり、害のないモノもいるのだ。
(モノというのは、持ち主のことが大好きなんです)
あの日、最初に還した竜の夢の時にそう言ったのは、ユディ自身だ。
リコリネは、じっとユディの反応を見ていたが、さりげなく話の続きをする。
「セドリック殿。この村では、ミギ殿とダリ殿をどう捉えていらっしゃるのですか?」
「村に伝わる話だけどねっ。かつてこの村に居た、命の精霊の祝福を受けた少女が、ニャンニャに一目会いたいという願いを叶えたって話だねっ」
「なるほど」
リコリネは、とても納得した。
確かに、モノオモイを知らない人々にとっては、それが一番しっくりくる話だろう。
「さて、他に質問が無ければ、ボクが村を案内してあげよう! 今日はうちに泊まっていくといいのさ!」
「…えっ、いいんですか? いきなりそんな…」
ユディは、我に返るようにセドリックを窺う。
セドリックは、その質問がわかっていたかのように、自慢げに胸を張った。
「ボクがどうして自分から君たちに話しかけたと思っているんだい! 旅の話さ! 旅の話を聞かせて欲しいんだ! ボクはとても研究熱心でねっ、知らない場所、知らない音、知らない匂いにとっても興味があるんだっ。ちょうど新しい香りの開発が煮詰まっていて、カケラでもヒントが欲しいのさ!」
「にゃー!」
「にゃーにゃー」
セドリックに呼応するように、長靴がぴょんぴょん跳ねる。
セドリックは、「よしよし」と言いながら、愛しげに二つの長靴を抱き上げた。
リコリネは、ついその雰囲気に見入ってしまいながら、うわの空で口を開く。
「…では、お言葉に甘えて、お世話になるとしましょうか、主」
「ああ、うん、そうだね。セドリックさん、僕に答えられる話なら、何でも協力しますよ」
「よーし話は決まりだね! おいで二人ともっ、まずは村を案内しよう!」
颯爽と案内を始めるセドリックに、ユディたちは大人しくついていく。
村の建物は、全体的に四角い感じで、研究施設が並んでいる、と説明されても納得がいくような印象だ。
「といっても、この村の見所なんて、ほとんどないんだけどさ! じゃーん!」
セドリックが指し示したのは、どことなく透明感のある、美しい建物だった。
窓はひときわ大きく、その窓辺に、様々な形の香水瓶が陳列されている。
それらは陽の光をキラキラと反射して、存在を主張していた。
「うわあ、綺麗ですね!」
思わず窓を覗き込むユディに、セドリックは自慢げに頷いた。
「ここが村で唯一の、ガラス工房さ! 見ての通り、いろいろな香水瓶を作っているよっ。香水瓶は、香りの家だからねっ、切り離して考えることはできないのさ! ボクたち調香師は、手ずから瓶のデザインまで手掛けて、それでやっと一つの作品が出来上がるんだ!」
「なるほど。それは確かに、セドリック殿が様々なアイデアを求めるだけあります。芸術都市にも勝るとも劣らない、芸術家の村ですね」
「やあ、リコリネクンは褒め上手だ、ありがとう! 本当ならガラス工房の中でも案内したいのだけど、さすがに繊細な場所でねっ、こうして外から眺めるだけで許してほしいなっ」
「それはもちろんです。これで十分です」
「おや! 欲がないね、案内すべき場所はまだあるというのに! さあ、こっちへおいでよっ」
セドリックは、芝居がかった仕草でガラス工房を離れると、一直線に村の外れの方へと向かう。
途中ですれ違う村人たちが、セドリックへと丁寧に頭を下げていくところをみると、村一番の調香師という自己紹介は本当の話のようだ。
村の周囲に囲いが無いので、辿りつく前に、その光景は既に見えてきていた。
ユディは歓声を上げる。
「すごい、花畑だ! 自然に生えているのは何度か見て来たけど、人の手が入ると、こんなに美しく区分けできるんですね…!」
紫の花ばかりが咲いている区画の隣には、きちっと線を引いた様に、黄色い野花が咲き乱れる区画がある。
しかし遠目に見れば、ここに無い色など無いのではないかと思ってしまうくらい、多種多様な色合いが見て取れた。
「にゃー!」
「にゃにゃー!」
「こらこらミギくん、ダリちゃん、ここは駆けまわってはいけない区画だよっ、ボクの腕の中で大人しくしておくんだ」
セドリックは、腕の中の長靴たちを優しくたしなめながら、ユディたちの方を向く。
「ユディクン、ちょっとミギくんとダリちゃんを持っていてくれたまえ! ボクの仕事のひとつを見せてあげようっ」
「あ、はい」
ユディは言われるままに長靴を受け取ると、ニャンニャたちと過ごした時の癖のようなもので、反射的に長靴を撫でていく。
長靴たちは嬉しそうにピンと立てた尻尾を、小刻みに震わせている。
セドリックは、腰元から、二本の四角い棒きれを出して、花畑に近づいて行った。
よくよく見ると、花畑にはクチバシが細く長い小さな鳥たちがパタパタと飛び回っている。
あまりにも小さいので、最初は虫かと思ったほどだ。
カチン、カチン!
セドリックは、おもむろに棒切れを打ち鳴らした。
バサーーッ! ぱさぱさぱさっ
すると、その音を嫌うように、鳥たちの半分ほどが、花畑から逃げるように飛び去っていく。
セドリックは花畑の色々な場所で、何度かそれを繰り返しているが、やはり毎回、半分ほどしか飛び去って行かない。
ある程度の巡回を終えると、満足げに戻ってきた。
「セドリック殿、なぜ鳥を追い払うのですか? 可愛らしいではないですか」
可愛い生き物が好きなリコリネが、不思議そうに問いかける。
「甘いねリコリネクン! あれはマメドリと言って、花食い鳥と、蜜食い鳥の二種類が居てねっ。花食い鳥の方だけが嫌がる拍子木の音で、ああやって追い払っているのさ! 花びらは香水の原料になるだけじゃなく、布染めの染料にもなるからねっ。と言っても、係があるわけではなく、手の空いている者が定期的にやる感じで回っているよっ」
「蜜食い鳥はいいんですか?」
ユディの質問に、セドリックは頷いた。
「もちろん! あのように小さな鳥たちは、一日に大量の蜜の摂取を必要としないからねっ、彼らは巣に蜜を溜め込む習性があるんだよっ。その蜜を拝借して、この村の名産である、トリミツができるってわけさ! トリミツはハチミツよりも栄養価が高く、殺菌作用もあるため、この村に住む人の寿命は長いんだよっ。なんと、平均で七十年!」
「それは素晴らしいですね、世の中での普通は六十年平均と言われていますのに。仁の大陸の医療都市でも需要がありそうですね」
リコリネが感心の声を上げる。
「その通りっ。うちの両親は今、出来上がった商品を売り込むために、医療都市に遠征中さ! 研究が進めばそのうち、世界中で平均寿命が伸びるかもしれないよっ。最近は文明の発展が目に見えて早くなっているし、そう遠くない未来かもしれないねっ」
セドリックの言葉に、ユディは少し驚いた。
「そうか、文明が発展するのは、良い側面もあるんだ…。なんだか、急速な発展を、いけないものだとばかり思っていました」
「ユディクンの不安もわからないでもないけどねっ。たまーに、異界からもたらされた面妖な知識なんじゃないかって騒ぎ立てる年寄りもいるからさっ」
「異界…」
考え込むユディを気にせず、セドリックはすらすらと話を続ける。
「そうそう、この村の売りはそれだけじゃない。先ほどのガラス工房で時折出る失敗作のガラス瓶を、トリミツ用の瓶として活躍させているのさ! リサイクルシステムっていうのかな、よくできているだろう!」
リコリネが、なるほどと相槌をうつ。
「それは…確かに美しいシステムですね。ミギ殿とダリ殿も、トリミツを食べるのですか?」
「いいや、二匹とも物は食べないのさっ。なかなか経済的だろっ? ボクらとしては、いろーんな方法で可愛がりたいから、美味しいものをたくさん食べてくれてもいいんだけどね!」
「…仲がいいんですね」
ユディは、複雑な気持ちのせいで、口元だけが微笑む。
セドリックは自慢げに頷きながら、長靴たちを受け取った。
長靴たちは、にゃーにゃー鳴きながら、セドリックの衣服に爪を立てていく。
「物心ついた時から一緒に過ごしてきたからねっ。村のみんなも、この子たちを家族同然に思っているのさっ。さて! あとは染物工房や園芸工房など、まあ工房ばかりがある村だからねっ。旅人サンからすれば、変わり映えのない景色になってしまうかなっ」
「…先程から思っておりましたが、ここは村と言うにはかなり大きな規模ですね?」
リコリネの問いに、セドリックは興味なさげに周囲を見渡す。
「ああ、前に来た学者さんが言っていたよ、おそらく世界にある村の中では最大規模だろうってねっ。でもみーんな、好き勝手に好きなものを突き詰めて行ったら、気が付けば工房だらけになっていたって感じで、イマイチ実感がないのさ! 将来的には、工房の村と呼ばれる日が来るかもしれないねっ。さ、二人ともそろそろ行くよ、ボクの家へ!」
セドリックは、早く旅の話が聞きたいのか、興奮を隠すこともせず、足取り軽くユディたちを案内し始める。
辿り着いたのは、そこそこ大きなたたずまいの家だった。
庭には果物の生っている樹が数本あり、みずみずしい香りが漂ってくる。
離れのような専用の工房もあり、村一番の調香師という意味を、ここでも理解する。
入り口のアーチには家紋のような模様も見受けられ、由緒正しい家柄だと思われた。
「たっだいまー、マイスイートっ」
鍵を開ける素振りもなく、セドリックは普通に扉を開けて入っていく。
大きな規模とは言っても、顔見知りばかりの村社会である部分は変わらないようだ。
扉をくぐった瞬間に、外の匂いとはまた違う、良い匂いが漂ってくる。
案内されたリビングには、ソファに寝そべった少女が、だらだらと本を読みながら過ごしていた。
あられもない、と表現できるくらいラフな服装で、足も素足だ。
「お兄、おかえりー。…また旅の人連れてきたん?」
「そうさっ。紹介するよ、こちらはユディクンと、リコリネクンだ。マイスイート、可憐な挨拶を!」
少女は、だるそうにもぞもぞと体を動かして、結局立ち上がるのを諦めたように、本を閉じて顔だけをユディに向ける。
「うち、調香女セエラセイラっての。セエラでいいよ、よろしくー」
「妹さんが居たんですね?」
初耳情報に、ユディは驚いてセドリックを見る。
「ああ話してなかったかなっ、ボクたちの両親はよく家を留守にしているから、基本的にこの家は、ボクとセエラの二人だけさっ。遠慮なく泊まって行ってくれたまえ!」
「不用心な…と言いたいところですが、それだけ私たちを信用してくださったということですね、ありがとうございます」
リコリネが喋ると、セエラセイラは初めてその全身鎧に気づいたかのように、むくりと起き上がる。
「すごいそのヒト、女の子なのに鎧とかマジうける。確かにこれはいい刺激になりそうだわー」
「そうだろう? それじゃボクは村の人たちに、旅人さんのことを報告してくるから、二人とも、しばらくセエラの相手を頼むよっ」
セドリックはそう言いながら、二匹の長靴を家の床に置き、早々にその場を後にした。
「にゃー!」
「にゃにゃーん!」
長靴は、弾んだ足取りで、トトトっとセエラセイラの膝に乗っかりに行った。
セエラセイラは、二匹を撫でるときだけ、面倒くさそうではなかった。
「ユディ、リコリネ、その辺に座って。あと、敬語とかいらないから。リコリネの顔までは見えないけど、同い年くらいっしょ、タメグチでいいよ」
「…ありがとう、じゃあ、そうさせてもらおうかな」
ユディは頷いて、ソファの対面に腰かけた。
セエラセイラは、気持ち整える感じで、片手で自分の髪を撫でつける。
「二人とも、お兄みたいな変なのに捕まって大変だったっしょー」
「いえいえ、確かにセドリック殿は芝居がかった口調が鼻につきますが、善人でしかないのは流石にわかります」
「リコリネちょっと黙ろうか!!?」
いきなり心中を吐露しすぎているリコリネに、ユディは慌てて待ったをかけた。
しかし、セエラセイラは、ぷっと噴き出す。
「なんそれ、うける。珍しいねー、お兄って顔だけはいいから、女の子はメロメロなことが多いのに。リコリネって面白いんね」
「そうですか? 自分ではよくわかりませんが、好意的に受け取ってもらえるのは助かります」
「お兄のアレはね、前に一度、家族で芸術都市に観劇に行ってから、ああなったんよ。うちらのダディもマミィも、お兄が本当は役者になりたいのかって心配してるけど、単にミーハーなんよねー。考えすぎ」
セエラセイラとリコリネとのやり取りに、ユディは安堵の息を吐く。
「セエラは、いきなり赤の他人が家に上がって不快じゃないんだ?」
「あー、もう慣れたわー。それに、ミギくんとダリちゃんが、ユディたちを警戒してないっしょ。そうは見えないかもしれないけど、この子たちは悪意に敏感だから、悪い奴だったらすぐにわかるんよ。そういった意味では、ユディもリコリネもイイ人なんだろうなって思ってる。ただ…。うちの期待を満たせる存在かどうか、ちょっと試してみてもいい?」
「なんだろう? 興味があるから、ぜひやってみて欲しいな」
ユディの笑顔を見ると、セエラセイラはソファに凭れなおしながら口を開いた。
「見てわかるっしょ、ヒマしてるんよ。なんか面白い遊びとか、知らない? この本だって、もう三回は読み返したしー」
「…私はそういったことが不得手ですので、主に任せます」
リコリネの言葉を受け、ユディは任せろとばかりに頷いた。
「じゃあ、セエラが考えていることを当てるゲームをしようか」
「なんそれ、おもしろそー」
セエラセイラは、ソファの上で両膝を立て、リラックスするように座る。
「じゃあセエラ、まず頭の中に、何でもいいから思い浮かべて。で、僕の質問に、『はい』か『いいえ』か『どちらでもない』の三つで答えて欲しい。十回以内の質問で僕が当てられたら、僕の勝ち。当てられなかったら、セエラの勝ち」
「…いいよー、思ったより単純そうだし、やってみて」
セエラセイラは、少しの間何かを思い浮かべるような間をあけてから、ユディを見た。
ユディは少し勿体つけるようにしてから、質問を始める。
「じゃあ行くよ。『それは、男性ですか?』」
「どちらでもない」
「『それは、手ごろなサイズの箱に入るくらいの大きさですか?』」
「はい」
「『それはあなたにとって、多くの人が好ましいと感じるものですか?』」
「んー…。はい」
「『それは、とてもいい匂いがしますか?』」
「はい。…って、もうわかってるじゃん」
セエラセイラは、目を丸くしてユディを見た。
ユディは思わず吹き出す。
「あははっ! このゲームのコツは、ある程度アタリをつけてから質問することかな。答えは、『香水』だろう?」
「ちぇ、うちの負けかー。でも、面白いねコレ、楽しい。ユディ、いつもこんなふうに考えて過ごしてるん?」
「いや、なんでだかわからないけど、こういう時のために、ある程度手ぶらで遊べるゲームをストックしておこうと思ったんだ。じゃないと、誰かに馬鹿にされたことがあったような気がして…?」
ユディの言葉に、リコリネは首を傾けた。
「なんでしょうね? いずれにしろ、とても面白い遊びであるのは間違いありません。セエラ殿、次は私とそのゲームで遊びましょう!」
「いいよ、じゃあ今度はうちが当てに入る番ねー。はいリコリネ、頭の中になんかを浮かべて?」
セエラセイラからは、めんどくさそうな気配が消え、目をキラキラさせながら、遊びに興じ始めた。
二つの長靴たちは、飽きたように部屋の中をにゃーにゃーとウロつき始める。
セドリックが帰ってきた頃には、セエラセイラはすっかり遊びにハマっており、「お兄、もう帰ってくるとか早すぎ、マジ空気読んでよ、ありえない」と追い払うレベルだった。
セドリックは、拗ねたように口をとがらせる。
「なんだいなんだい、すっかり打ち解けちゃってさっ。ユディクン、ボクにもタメ口でいてくれよ、そして一緒に遊ぼう!」
「もちろん! 多人数で遊ぶときは、一人一個ずつ順番に質問をする形でやっていけるんだ」
セドリックも瞬く間に遊びに加わり、旅の話などそっちのけで、その日はワイワイと盛り上がった。




