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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第三章 ろくにん
88/137

07そっけない空

「どうして……?」


 目の前の娘が、ぽつりと零した言葉で、ユディはようやく我に返った。


「あ、いや、ごめん、驚かせるつもりはなかったんだ。森を散歩してたら、泣き声が聞こえたから、つい…!」


 ユディの言葉に、娘はハっとしたように、泣き濡れた頬を抑え、ぱっと赤くなる。


「そ、そんなに、大きな声で…泣いてないはず……」


 娘の声は、だんだんとか細くなった。

 自信がないのか、恥ずかしそうにうつむいている。

 ユディはその様子に、ふっと微笑んでしまう。

 久しぶりに、笑ったり喋ったりしたな、と思う。

 ユディは娘の前に片膝をつき、覗き込む。


「ひょっとして、隠れて泣いてた? だったら、見つけてしまって悪いことをしたな…」


 娘は、良いとも悪いとも言えないようで、困ったように視線を彷徨わせている。

 ユディは、しばらくじっと考え込んだ後。

 すとんと、娘の隣に座り込んだ。

 娘は、驚いてユディを見てくる。

 ユディは、優しく微笑んだ。


「多くの人は、目の前で転んで泣いている女の子が居たら、手を差し伸べたり、助け起こしたりするんじゃないかな。それは別に特別な事じゃなくって、たまたま、自分の目の前で転んだからっていうキッカケがあってのことだと思うんだ」


 急に語り出したユディに、娘はそっと首をかたむけた。

 ユディは、構わずに話し続ける。


「僕も、たまたま泣いている君を見つけてしまった。自分に何ができるかとか、そういう画期的な何かはパっとは思いつかないけど…。でも、僕にできるのは、話を聞くことくらいだと思う。そして、真剣に君の話を聞くことだけは、確約できる。話してみない?」


 娘は、零れ落ちるくらいに大きく目を見開いた。

 相当驚いているようで、二の句が継げられないでいる。


「僕は旅人のユディ。君は?」


「…ティセア…」


 ほとんど反射的に、ぽつりと名乗った…という感じだった。

 それから、しまったというように、ティセアは口元を押さえる。


「ティセアか、綺麗な名前だね」


 ユディの言葉を聞くと、ティセアは怒ったように、軽く睨みつけてくる。


「そ、そういうの、軽口って言うんですよ。それに、ユディ…さん、の、やろうとしていることは、とても無責任です」


「無責任…?」


「弱っている女の子は、優しくされてしまうと、心が簡単になびくことがあるんですよ! ユディさんは旅人で、すぐにこの街から居なくなってしまうのに、無責任です。私がもし、ユディさんを好きになってしまったら、どう責任を取ってくれるんですか!」


「ええ…?」


 いきなり三段跳びくらいを果たした展開に、ユディは驚いてしまった。

 それから、前を見て、真剣に考える。

 しばらく考えて、…それでも首を傾げる。


「ひょっとして、ティセアの中で、人を好きになるって、『悪いこと』…って認識で、あってるのかな…?」


 ティセアは、きょとんと瞬きをする。

 それから、すぐに噴き出した。


「あはっ、あはは…! 本当ですね、好きが多い方がいいのに。そういう意味じゃなかったんですが、確かに、そう返されたら、ぐうの音も出ませんね。私の負けです。追い返すには、ヘタクソすぎる理由でした」


 ティセアは笑いながらも、まだ涙の名残が頬を伝ってきていて、ぐいと乱雑にそれを手の甲で拭っている。

 ユディは静かに目を細めた。


「僕の方こそ、不躾なことを言ったと思う。君は隠れたがっているのに、気に障っていたらごめん。でもつい最近、僕の旅仲間も、そんなふうに泣いていたからさ。なんだか、放っておけなくて…」


「……私を身代わりにしないで、って。そんなふうに、あなたを冷たく突き放せたらいいのに。今、そういう気分だったらよかったのに」


 ティセアは前を見ながら、抱えた膝に顔を埋めるようにして、ぽつりと零した。


「ティセア…。かえって辛くなるんだったら、話さなくていい。でも、仲間でも何でもない、見も知らぬ他人だからこそ、穴に埋めるように吐き出せることって、やっぱりあると思うんだ。少しでもそれで君が楽になるんだったら、僕にその手助けをさせて欲しい」


 ユディは、とても真剣に話を続けた。

 ティセアは、口元だけで、ちょっと笑う。


「…ユディさんは、変わってますね。聞いて楽しい話じゃないっていうのは、想像がついているでしょうに。誰だって、楽しいか楽しくないかで言えば、楽しいことをしていたいと思うんです。進んで他人の背負ったものを分かち合いに来るのは、変わってます」


「そうかな。…そうだとしても、僕はちゃんとやりたいことをやっているよ。君もやりたいことをやればいいんだ。それだけの話だと思う」


「じゃあ、私がユディさんをべしっと叩きたいって言ったら、叩かせてくれるんですか?」


「ええ…? 手で受け止めるくらいは、やるかもしれないな。叩かれたら痛いし。でもそれで君がスッキリするんだったら、やっぱりちょっとは嬉しいなと思うよ」


「あは…、変な人」


 そう言ったきり、ティセアはしばらく黙り込んでしまった。

 ユディはじっと待つ。

 ティセアは何度か口を開けたり閉じたりした後、独り言のように話し始めた。


「私、小さい頃、飢え死にしかけたんです。なんでかわからないけど、私はお父さんとお母さんと、街外れの森に住んでいました。買い出しに出るのは、家にある鳥車に乗って、一週間に一度。私が一人遊びを覚えるくらい、手のかからない年頃になってからは、お父さんとお母さんは、二人で買い出しに出かけてました。私は家で、お絵かきをして過ごしました。数時間くらいのお留守番だったので、簡単でした」


「うん、」


 ユディは、真剣に相槌を打つ。

 ティセアは、よどみなく続けた。


「でもある日、お父さんとお母さんが帰ってこなかったんです。でも街までは遠くて、そもそも防犯のためにカギがかけられていて、私は家に居るしかない。備蓄してあった果物はすぐに底をつきて、私は死にかけました。意識を失ってから、気が付くと、大人の人に囲まれていて、よくわからないまま、私は助かったそうです」


 ティセアは、手慰みに落ち葉を手に取り、くるりとその茎を回す。


「あとで聞いた話では、お父さんとお母さんの乗った鳥車は、前日の雨で車輪がぬかるんだか何かで、崖下に…。騎士団の人が、近くの街の人から何とか遺体の身元を聞き出して、それで私の存在に気づいて、助けに来てくれたそうです。私はそれらの事情を、施設の中で聞きました。私が預けられたのは、『命の家』っていう施設だったんです」


 くるり、くるりと青い葉が回る。

 ユディも静かにその落ち葉を見ている。


「『命の家』は、お兄ちゃんみたいな人と、お姉さんみたいな人と、お母さんみたいな人が、三人で切り盛りをしている場所でした。そこでは、お腹一杯ご飯を食べることができました。他にも私みたいな子供がたくさんいて、友達もできて、みんな優しくて、…私の大事な場所です。第二の家って言ってもいいくらいに。でも…」


 ティセアは一度言葉を詰まらせた。

 すぐに、話を続ける。


「ようやく、私が恩を返せるくらいの年になったのに。お兄ちゃんが、自分から危ない所へ突っ込んで行って、それで…。死んじゃったって……」


 ティセアは、もう一度言葉を詰まらせた。

 続く声は震えている。


「お姉さんは、お兄ちゃんが死んだあとのアレコレを、全部きっちりとやり遂げた後に、後を追うように死んじゃって…。お姉さんは、あんまり体の丈夫な人じゃなかったから。大好きな人たちなのに。それで、それで…私は、どうしようって……」


 力が抜けたように、ティセアの指から持っていた落ち葉が落ちる。

 ティセアは感情を隠し切れなくなったように、ボロボロと涙をこぼした。


「ど、どうしよう、って…! いつか、こうなるってわかってた部分はあったはずなのに、本当は、絶対、一個ずつなら、耐えてみせた! でも、いっぺんに、こんな風に…! どうしよう、次は、私が、お姉さんみたいにしっかりと施設を切り盛りして、しっかりしなくちゃダメなのに、気持ちが全然言うことを聞いてくれなくて…!!」


 ティセアは、桃色の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。


「それで、ずっと、『なんで』とか『どうして』って言葉しか浮かばなくなってて、こんなの絶対おかしい、私はちゃんと命の家で教育を受けて来たし、もう大人なのに、この程度で乱れちゃダメなのに、でも、やっぱり、なんだろう、世の中に、どうしようもなく大きな、悲しい歯車みたいなものがあって、私とか、人間は小さすぎて、その歯車に立ち向かっても弾かれて、それが、どうしても悔しくて、なんでって思って…!!」


「ティセア…」


 ユディは、ゆっくりとティセアの背中を撫でた。


「ティセア、大丈夫だよ。今この瞬間だけは、しっかりしなくちゃダメなんてことはないんだ。今は、泣いていいし、気持ちが乱れてもいい」


 ユディは、優しく声をかけ続ける。


「ティセア。君は今、気持ちがいっぺんに混ざってしまっている状態なんだと思う。一個ずつ考えればいいんだ。…僕もさ、前にウェイスノーって人に言われたんだ。誰かのせいとか、そういうのは関係なしに、ただ相手が居なくなったことを悲しめばいいって。それが一番大事なことだと、僕も今では思う」


 ティセアは、涙に濡れた顔を上げて、驚いたような目でユディを見てくる。

 ユディは静かに続けた。


「それに、ティセアを大事に思っている人たちは、ティセアがしっかりしなくちゃダメなんて、絶対に言わない。泣いたらダメなんてのも言わない。それを言って、ティセアを責めているのは、ティセア自身でしかない。君はまず、それに気づくべきだ」


「………」


「もちろん、ティセアと関係のない人が、君を責めることはあるだろう。いい年をしてみっともないと、そう評価する人も居るだろう。だから、そういうのは、そういう人たちに任せておけばいいんだ。そういう人たちが勝手にやってくれるから。ティセアくらいは、もうちょっと、自分を大事にすることに集中した方がいい。我慢しなくてもいいんだ。一個ずつやって行こう」


「~~~っ、う、うあああっ、うわあああああっ!!」


 ティセアは弾かれたように、ユディの胸の中に飛び込んできた。

 そこでわんわんと泣き始める。

 ユディは、ゆっくりとティセアの頭を撫で続けた。

 どこにこんなに水分があるのだろうかと心配になるくらい、その涙はとめどなかった。

 彼女は声にならない言葉で、さみしい、とか、かなしい、とか、胸の内を吐露し続けている。


 ティセアの肩は細く、すっぽりとユディの腕の中に入る。

 ユディはしばらくそれをじっと見つめた後。

 片手で、隠すように目を抑えた。


 ティセアは、震え始めたユディに気づき、不思議そうに顔を上げる。

 ユディは、焦ったように、取り繕った声を出した。


「いや、ごめん…。なんか…初対面のクセに何言ってるんだって思うかもしれないけど…。ちょっと…」


 ティセアは泣くことを忘れてしまったように、腕の中でじっと、ユディを見上げている。

 ユディは、必死に話題を探した。


「…僕は、ここ数日、ちょっと、旅仲間と別行動してて。一人になったら、急に、街並みや、空の色が…あんなに親しげだったものが全部、『そっけないな』って…。隣に居るべき人が居ないっていうのは、日常の全部がそっけなくなるんだなって。それで…君が…」


 ユディは、赤くなった目を見られないように、そっぽを向きながら、たどたどしく答えた。


「君にこれから待っているのも、そっけない空なのかもしれないと思ったら…。もらい泣きしそうになったみたいで…ごめん、いきなり、こんな…。僕まで泣いてどうするんだろうな、超かっこ悪い」


 ティセアは、大きく目を見開いて、瞬きをした。

 疲れ切った声で、それでも噴き出した。


「あは……。ユディさんは、やっぱり、変な人ですね。私、全然、笑う気分じゃなかったはずなのに」


 ティセアは一度笑い終わるが、しかしすぐに思い出し笑いのように、何度かくすくすと、ささやかな笑い声を上げ続けた。

 それから、大きく深呼吸をする。

 ユディからそろりと体を離すと、改めて向かい合った。


「ありがとうございました、ユディさん。スッキリしました。たぶん、何も解決はしてないんでしょうけど、スッキリしたのは本当。それから…」


 ティセアは、夕暮れが近い空を見上げる。

 空の端っこから、セピアがかった色合いになっていた。


「それから、きっと、空を見上げる度に、今日を思い出すんだろうなって、思いました。空はどこにでもあるから、助かります」


「…助かるんだ?」


 ユディの問いに、ティセアははにかむように笑うだけで、返事はしない。


「…ユディさん。甘えついでに、一つだけ、お願いがあるんです」


 ユディは、ようやく引っ込んだ涙を誤魔化すように目を擦り、ティセアに向き直る。


「なんだろう?」


「…ティセって、たくさん呼んでくださいませんか? これから先、お兄ちゃんや、お姉さんが呼んでくれる予定だった分まで、たくさん…」


 ユディは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにふっと微笑んだ。


「…ティセ」


「はい」


「ティセ」


「…うん」


「ティセ…」


 ティセアは、気がすむまで、何度も何度も返事をする。

 ユディも、心を込めて名前を呼び続けた。


 気が付けば、とっぷりと日が暮れていて、それでも二人は、名残を惜しむように、どちらからも別れを切り出さなかった。

 この出会いが、今日限りのものだと、お互いにわかっていたからだ。


「ユディさん…これ、あげます。お疲れのようですから。ちゃんと食べないとダメですよ」


 ティセアは、唐突に思い立ったようにウィッシュベルの実を取り出して、ユディの手の上に置いた。


「あ、これ、ウイッシュベルだ、久しぶりだなあ」


「はい。ここに来るまでに、オールドマンズツリーがあって。つい、たくさん採ってしまいました。なんとなく、食料は採れる時にとっておく癖がついているみたいで。おすそわけです。よかったら食べてください」


「…ありがとう」


「いえ、こちらこそ。たくさん、貰いました」


「それは僕も同じだよ。僕もなんだかモヤモヤしていたから、それがスッキリした。君のおかげだ」


「あは…。おせっかいで、変な人。……。私、今日のこと、忘れません。いきなり出会った、よく知らない誰かが、とても真剣に私に向き合って、話を聞いてくれた、変な日です。他人にこんなに甘えたのなんて、生まれて初めて」


「僕も、どん詰まりになりながら、それでも立ち上がろうとしている君を、忘れない。…なんだかさ、君のおかげで、また一つ、世界のことがわかった気がするんだ」


「世界のこと…?」


「うん。当たり前の話なんだろうけど。それでも、僕がこうして毎日を過ごしている間に、世界の、どこか他の場所で、街を解放するための戦いがあったり、誰かが泣いているときに、誰かが笑っていたり。毎日が、どこかの誰かの特別な日で、人が生まれて死んでいって…。僕は世界の中心じゃなくて、結局切れ端の一つで、でも目の前しか見えてなかった」


「…それがわかって、なにか、感覚が変わったりしました?」


「ぜーんぜん。でも、なんとなく、わかってないよりも、これはわかっていた方がいいことのように思うんだ」


「ああ…そうですね。ふわっとした答えになってしまうけど、なんとなく、わかります」


 お互いに、笑い合った。


「ティセア、もうすっかり暗い。街まで送るよ」


「ううん、必要ないです。もう少し、余韻を味わっていたいから。ユディさんは気を利かせて、先に帰ってください」


「ええ? 危ないだろう」


「この辺りは平和なものですよ。それに…。これも、なんとなくですが。私は、ユディさんの背中を見送りたい気分なんです。二つ目になってしまいますが、このお願いも、聞いてくださいますか?」


「うわズルいなあ、ティセアは。そんな言い方されたら、聞くに決まってるじゃないか」


「あは…。ありがとうございます」


「でも、くれぐれも気を付けるように。僕は先に帰ったことを後悔したくないんだからね?」


「わかってます。それに、私って意外に強いんですよ。お兄ちゃんに鍛えて貰いましたから。精霊様の祝福がある限り、どんな人も、ある一定の安全は確保されている気がするんです。つくづく、いい世界に生まれたなって思います」


「あははっ! 面白い言い方をするなあ。わかった、それじゃ大人しく退散しようかな」


 ユディは立ち上がると、色々な事の返事の代わりにするかのように、カシュリとウィッシュベルの実に歯を立てる。

 そういえば、久しぶりに食事をした気がする。

 甘酸っぱい匂いが辺りに漂って、ティセアは少し驚いた顔をした後、笑った。


 そのままユディは、果実を齧りながら、森を後にする。

 これも、なんとなくだが…振り返らないようにした。


 ティセアは、ずっとずっと、ユディの背を眺めていた。

 見えなくなっても、ずっとずっと。


 しばらく経って、紫苑に染まった夜を見上げる。

 そっと微笑んだ。


「大丈夫。そっけなくなんて、ありませんよ、ユディさん。…あーあ。ズルいのはどっちでしょうね。こんな気持ちにさせて。世の中って本当に、何が起こるかわからない」



-------------------------------------------



   コンコン。


 数日後、ユディが泊まる宿の扉がノックされた。

 ユディは飛び出したい気持ちを抑えて、冷静を保ちながら、カチャリと静かに扉を開けた。

 全身鎧のリコリネが、そこに居る。


「リコリネ。リルハープはどう?」


 ユディはリコリネを部屋に招き入れる。

 リコリネの手の平に乗った妖精が、いつも通りの表情で、ユディを見上げていた。


「ご主人サマ、ご心配をおかけしました~~っ」


 ひゅーんと羽を震わせて飛んでくる妖精を、ユディは笑顔で受け止める。


「リルハープ! よかった、頑張ったね、つらかったろう。あんまり役に立てなくてごめんよ」


「こちらこそ、美しくて繊細なリルちゃんの扱いに困らせてしまいましたね~~! もうすっかり復活ですから、ご主人サマはどどーんとリルちゃんに、用意しておいた楽しい話を聞かせてください~~!」


「え……?」


 ユディは、きょとんとしてしまう。

 すぐに、ハっと焦りを露にした。


「あ、そういえばそういう話だったっけ!? ごめん、実はあんまりここ数日何をしたか覚えてないというか、ぼんやりと過ごしたというか……!」


「まあ~~! またぼんやりモードに戻っていたという流れですか~~! まったく、ご主人サマはリルちゃんが居ないと本当にダメダメなんですから~~っ。一週間あれば、簡単な依頼をこなすことだってできたでしょうに~~!」


 妖精は、腰に手を当てて、ぷんぷんと怒っているふりをしている。

 リコリネは、二人の様子を微笑ましげに見守った。


「ふふ…。しかし、主らしいと言えば、主らしい結果になりましたね。今日は調子を取り戻すためにも、話に花を咲かせましょうか」


「その花の種が無いっていう話ですから~~っ!」


 話のネタと聞いて、ユディの脳裏に一瞬、ティセアの泣き顔が浮かんだ。

 だが、それはなんとなく、大事にしまっておくことにする。


「よし、こういう時は、未来の話をしよう。僕があらかじめ調べておいた、香りの村の情報を放出するときが来たかな」


「ああ、そうですね、次が待っているんでした。保存食の買い出しもしなければ」


 場が華やぐように、一気にワイワイと話に花が咲く。

 ようやくユディは、心から笑顔になれたのだった。

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