02芸術都市
随分と保存食が減ってしまったので、リルハープに食料がありそうな場所を教えて貰いながらの移動は、思ったよりも時間がかかる旅路となった。
保存食が減った理由は、先日の盗賊たちに渡したからだけではない。
リコリネが、暇さえあれば、もぐもぐしているからだ。
「リコリネ、本当に元気そうでよかった」
想定以上の長旅で、食料が尽きないかの焦りはあったが、それでもユディは嬉しくて仕方がなく、ニコニコしながらそう言った。
しかしリコリネは、そう言われるたびに、恥じ入るように一旦食べるのをやめてしまう。
「……あんまり、反応しないでください、主……」
「そうですよご主人サマ~~、まったく女心がわかっていませんね~~っ。大食い女と言われて喜ぶ女子は居ませんよ~~!」
「お待ちくださいリルハープ殿、主はそこまで仰っておりませんが…!?」
そんなこんなで、芸術都市が見えてきた頃には、全員でほっと一息ついた。
「よかった、リコリネの食べ物が確保できる」
「名物料理があるかどうかを一番にチェックしないといけませんね~~っ」
「……あの。大食い扱いはやめていただけませんか……? 私はただ、食の楽しさに目覚めただけです。力の祝福の使用で、どんどんエネルギー消費できますからね、ほとんど詰め込み放題ですよ。そういった意味では楽しみです」
「詰め込み放題という単語チョイスがもう手遅れ感ありますね~~…」
「あははっ!」
笑い声を上げながら進むユディの足が、ぴたりと止まった。
笑顔のまま、硬直する。
リコリネは、ユディの様子にフルフェイスをかたむけた。
「主、どうかなさいましたか?」
ユディは、芸術都市の方を睨みつける。
「……ごめんリコリネ、観光は、後回しになるみたいだ」
「まあ~~、モノオモイの気配がありましたか~~?」
リルハープの問いかけに、ユディは難しい顔で頷いた。
「ある…けど、いつもと違う感じがする。妙に、濃いような……? それも、この距離でもわかるくらいに」
「ふむ……なんでしょうか。惑乱の大陸が近いことが、原因の一端かもしれませんね」
リコリネは、思案気に、フルフェイスの頤に指を当てて考え込む。
リコリネの言葉で、ユディは今更のように、自分の立ち位置を認識した。
「そうか、そういえば、夜に浮かぶあの動かない月も近くなってる。もう、いつもと違う場所に来ているんだと思った方がよさそうだね」
「二人とも、今からそのように緊張していては、体が持ちませんよ~~っ。こういう時は、終わったらどうするかを考えましょう~~。ご主人サマ~~、無事に解決したら、リルちゃんのためにピノッキオの絵本を音読する権利を差し上げます~~!」
「ええ? また? 君ってホントにあの本が好きだよなあ、僕はもう、ほとんど内容を覚えてきているんだけど……」
ユディがげんなりと言っても、リルハープはどこ吹く風だ。
「いいんです~~、リルちゃんはいつかメガミサマになるのですから、キリキリ読んでください~~! リコリネは、全部終わったら、一日食べ放題しましょうね~~!」
「しませんっ」
結局三人で笑い合って、緊張をほぐすことができた。
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「ようこそ、芸術都市へ。代表者はここに名と滞在期間の目安を記入し、番号札を持って行ってくれ。札は別に表立ってつける必要はない、荷物の中に忍ばせる程度でいい。街を出るときに返却してくれ」
門番の指示に従い、ユディは書類に記入していきながら、世間話のように情報収集を始める。
「ずいぶんと厳重なんですね、前からこうなんですか?」
「いや、最近になってからだ。詳しくは言えないんだが、ちょっとした調査をする必要が出てきてな」
「調査…ですか? その内容は、騎士団詰め所の隊長さんに聞きに行けば、教えて貰えるんですか?」
「ああ、まあ、そうだな。こちらとしても、注意喚起の意味で情報提供をしたいのだが、まだ不確かな段階で流す情報でもないと上から止められているんだ。流石にきちんと隊長にかけあえば、直に教えて貰えるだろう」
「なるほど、ありがとうございます」
ユディは行儀よく挨拶をして、トンネル状になっている入り口を通してもらった。
じっとやり取りを見ていたリコリネが、街に入ったところで話しかけてくる。
「やはり何かが起こりつつあるようですね。宿をとった後は、まずは騎士団の詰め所に行くのですか?」
「いや、今のやり取りで大体わかったから、大丈夫かな。直接、大陸情報倶楽部の方に行こう」
「なんと。今の情報でですか?」
「うん。まず、注意喚起と言うからには、僕たちのように街の外から来た人に対してのみ、何かが起こる可能性があるんだろう。そして、渡されたこの番号札」
ユディは案内板の方へと向かいながら、手元にある番号札に視線を落とす。
「街を出るときにこれを返すってことは、『芸術都市に入った旅人のうち何組が、無事にこの街を旅立てるかどうか』を測っているんだろうね。そう仮定すると、この街で起きているのは、『よそ者が行方不明になる』ことだと思う。おそらく最近になってようやく、被害者の家族か友人が、この街まで行方不明者を探しに来たことで発覚したんだろうな。つまりこの街自体は、事件が起こっていると思えないほどに平和なんだ。だからこそ、混乱を避けるため、慎重に事件性があるかどうかを見極めようとしている」
「なるほど、得心が行く内容ですね。平和となると、賞金首もめぼしいのが居ないという流れでしょうか?」
「ああ、そうか、その辺はやっぱり詰め所に寄って情報収集する必要があるのかもしれない」
「では、宿→タイジョウ→詰め所、の順番でよさそうですね。さすがにもう昼過ぎですから、本日の動きとしてはそのくらいにしておきましょう」
「あれ、食事処は予定に入れなくていいんだ?」
「主!」
「あははっ! ごめんごめん、食べ歩きできるものに目を光らせながら行こうか」
芸術都市は、その名の通り芸術的で、前衛的なオブジェが街のあちこちに飾られていたり、奇抜な色に塗られた家が佇んでいたり、家自体が変わったデザインをしていたりと、見飽きない作りになっていた。
「あとで観光をするのが楽しみですね」とリコリネが呟いている。
体感としては、きょろきょろしているうちに諸々の手続きを終えることができ、二人はタイジョウを訪れた。
「まずは依頼掲示板と伝言板を見ようか。それで大体街の様子がわかると思うから」
「はい。私は依頼掲示板の方を先に見てまいります」
「わかった。じゃあ僕は伝言板だ」
ごく自然に手分けをして、ユディは伝言板の前に立つ。
内容は芸術都市らしく、写生大会や、お茶を交えての詩会などの催しのお誘いが多い。
ほとんど週に一回の割合で、そういった催しが行われているようだ。
他の街でも行われるような、子供会や、散策への誘いも含めると、今まで訪れた中では、一番活発に伝言板を使っている街のようだ。
ざっと見ただけだが、特に引っかかる内容はなかった。
リコリネの方に目を向けると、何か考え事をするかのように、じっと依頼の一ヵ所を眺めているのが見えた。
芸術都市でもリコリネの全身鎧は珍しいようで、通りすぎる人々は、一様にリコリネの方を振り返っている。
「リコリネ、何か気になるものでもあった?」
ピクリとも動かないリコリネの方へと、ユディは歩み寄る。
リコリネは、すぐに我に返ると、慎重に言葉を選ぶような間を空けた。
「…はい。見つけました。おそらくこれが、モノオモイ関連と思われます」
「ええ? いきなり当たりがあったのか」
妙に確信めいたことを言うリコリネの示す依頼に目を向ける。
依頼主はアデリーサという人で、暇を持て余しており、話し相手や遊び相手を欲しているという内容だ。
とりわけ街の外の話に興味があるので、旅人や傭兵など、この街の者でなければ職種は問わない、という条件で、金貨レベルの報酬が書き込まれている。
話し相手になる程度でこの報酬ならば、かなり割のいい依頼なのは間違いない。
貼られている他の依頼を見ると、絵のモデルの募集や、彫刻作業の助手を募っていたりする。
その中でも、このアデリーサが依頼する報酬額はひときわ高い。
しかし、ユディは首を傾げた。
「確かに、僕が言った条件には合うけど、確定に足る要素も特にないような…?」
「いいえ。主、私はこれまでの旅路を余すことなく、日記に記していますよね。そのため、このアデリーサという名に見覚えがあることに気が付いたのです」
「アデリーサ……。確かに、どこかで聞いたような名前だな、とは一瞬思ったけど……」
「はい。我々がこの名を初めて聞いたのは、ネーヤ殿がもたらした、青い鳥の世界を終えた時です。主は商人殿へ、ライサス先生からいただいた大金貨を差し出しましたよね」
「…ああ! 『アデリーサの大金貨』! なるほど、これは偶然にしてはきな臭いな」
「もちろん、過去に偉業を成し遂げた人物の名をあやかることは珍しくはありませんが、アデリーサは傾国の美姫ですからね。流石に親が子に対し、そのようにふしだらな名をつけるとは考えにくい」
「となると、面白半分に自分で名乗っているか、アデリーサ本人という妄想家なのか。俄然怪しいな、この依頼を受けに行ってみようか。さすがに準備が必要だから、明日辺りに」
「…ふふ、主が冷静で安心しました。今すぐ乗り込むともなれば、私がお止めしていたところです」
「さすがにもう、僕一人だけの焦りに付き合わせる気はないよ。君は絶対についてくるだろうし、無茶はできない」
「もちろん、どこまでもお供しますよ。では、念のため騎士団の詰め所に行きましょうか。今のうちに、できることはやっておきましょう」
「わかった」
騎士団の詰め所は、人が出払っているようで、事務仕事の男が一人いるだけなのが見える。
とりあえず、外に貼られた賞金首の似姿に、二人で目を通していく。
リコリネが、思わずと言ったように声を漏らした。
「これは珍しい、一等級が居ますね。しかも他所の街ではなく、この街に。『キズナシ』ですか…。似姿はありませんね。傷のない遺体が数体見つかったことから、その名がつけられたということですが、賞金首になる経緯は『皆殺しのキルゼム』と似ていますね」
「じゃあ騎士が出払っているのは、見回りを強化しているためってことか…」
「しかし、他は詐欺師などの小粒ぞろいですね。その割には、数が多いような…?」
「確かに、発生時期も古いのに、これだけ居てまだ捕まっていないっていうのは変だ。ちょっと聞いてみよう」
詰め所に足を踏み入れると、意外にも中に居た男は暇そうにしており、すぐにユディの問いに応じてくれた。
「最近の街の様子? ああ、ちょっとな…異質なものであることは間違いないんだが、それは俺たち騎士にだけわかる不気味さというか…」
言葉にしづらそうにしている男に、ユディは問いを続けた。
「それはつまり、街の人たちは特に不審がってはいない、ということでしょうか?」
「まさにそれだ。というのも、この街は芸術都市だからな。大体の人はみんな、自分が表現する芸術分野にだけ興味があるようで、よっぽど大きな爆発のような事件でも起きない限り、ほとんど我関せずなんだ。マイペースと言ってもいい」
「ですが、キズナシは一等級じゃないですか。一等級は、何人かの死者を出してる賞金首に与えられるものですよね? 流石に人死にが出ているのに、そんな風に居られるんですか?」
「もちろん、張り出された当初はざわめきがあった。だが、キズナシに殺されたのは、全員旅人や流れ者で、この街の住民じゃないことから、自分たちは大丈夫だろうと警戒心を解いていった感じだったな。冷たいと思われるかもしれんが、かといって四六時中緊張をしていては体を壊してしまうだろう? これはある種の自己防衛本能のようなものだと思ってほしい」
「なるほど…。詐欺師などの賞金首の活動は、どうなっているんですか?」
「それが…このところ、全員がなりを潜めていてな。おかげで毎日、表面的には平和なんだ」
「表面的と表現するということは、騎士団としては、水面下で何かが起こっているという考えなんでしょうか」
「うーん…。何とも、断定はできんな。嵐の前の静けさだと解釈する者も居れば、すでに何かが起こっていると言っている者もいる。楽観的な者は、賞金首はこの街から出て行ったのではないかと言い出してすらいる。我々の間でも意見が割れているといった感じで、現状はひとまず、手がかりをつかむための調査中だという回答しかできない。その調査にしても、おとり捜査をするべきだという意見もあれば、様子見を主張する者もいる」
「当たりをつけているという部分もないということですか?」
「そこは、残念ながら漏らせないんだ。下手にそういった情報を流してしまうと、風評が立ってしまうからな。こちらが間違っていた場合に取り返しがつかなくなる可能性を考えると、慎重にならざるを得ないし、慎重であるべきだと思っている」
「……確かにそうですね。ありがとうございます、参考になりました」
「ああ。こちらとしても、賞金首が捕まるのはありがたいから、君たち賞金稼ぎには期待をしている。また何かがあったら来たまえ。こちらからも協力できる何かがあれば、遠慮なく言ってほしい。今は本当に手詰まりだからな」
「わかりました。それでは失礼します」
ユディは頭を下げて、詰め所から離れていく。
宿に戻る道で、リコリネはさらに混乱を深めているようだ。
「何と言いますか、すべてが怪しく見えてきてしまいますね」
「本当にね。一つだけ言えるのは、今回の相手は、かなり狡猾な部類に入るんじゃないかってことだ」
「ああ、そうなりますね。すぐに活動せず、随分と入念な準備をしてきた上で動き出したという流れでしたら、あまり表立った動きが無いのも納得がいきます。明日の準備の中に、タイジョウ窓口での入念な情報収集も、念のために行っておいた方がよさそうですね。主、今回も私が窓口に行きます」
「もちろん。君がタイジョウを気に入ったようで良かった。のんびりするのも好きな方だと思っていたけど、こうやってやるべきことがどんどん積み重なって行くのも、意外に好きかもしれないなあ」
「…ふふ。ぼんやりさんだった頃の主に聞かせてあげたい言葉ですね」
お互いに笑い合いながら、着々とやるべきことを済ませ、次の日を迎えた。
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「ここが、好事家のダリゴーギャン邸ですか」
リコリネは、大きな屋敷を見上げる。
ユディは、先程タイジョウで得てきた情報整理がてら、頷いた。
「その貴族であるダリゴーギャンさんが亡くなって、今は息子さんのドラクロアミレーさんがここの主。で、件のアデリーサはドラクロアミレーさんのお嫁さん…だったかな?」
「あってますよ、ご主人サマ~~っ」
リルハープが、いつものように胸ポケットからこそっと顔を出して言う。
リコリネも、復習のように情報を続けた。
「夫のドラクロアミレー殿の出張中に、暇を持て余したアデリーサが好き放題に壁紙を張り替えたり、建築家に頼んで別邸を作らせたり…という辺りは、タイジョウに頼らずとも、この街では有名な出来事だそうですね」
「うーん、それだけ聞くと、財布の紐の緩いお金持ちってだけで、そんなに変な話でもなさそうなんだけどなあ…」
「どの道、直に確かめるしかなさそうですね~~」
「しかし、やはり主の仰っていた通り、閃の大陸に住まう人は、耳慣れない名前の方が多いですね。アデリーサが浮いて聞こえるほどです」
「いやいや、これは序の口だよリコリネ。商人の『タナカヤマダ』さんとか、『クタバテイシメイ』さんとかが、僕の中では印象深い名前だったなあ」
「それは確かに面白い響きの名ですね、どこからやってきたのでしょうか…」
そんな世間話をしながら、リコリネは大きくノッカーを鳴らした。
しばらくすると、中から執事らしき男性が出てくる。
「いらっしゃいませ。どちら様でしょうか?」
執事は、どう見ても一般人の格好をしていない全身鎧のリコリネを見ても、動揺を表に出さなかった。
どうやらプロ意識の高い人らしい。
ユディは、一歩前に出る。
「お初にお目にかかります。旅人のユディと言います。こちらに住まうアデリーサさんが出した依頼を、大陸情報倶楽部で拝見しまして…」
みなまで言わずとも、執事は「ああ、左様ですか」と頷き、手慣れた調子でユディたちを招き入れる。
「こちらへどうぞ。奥様へ報告に参りますので、しばしお待ちいただくことになります。その間、テーブルにある注意書きをお読みいただき、了承いただけましたら、そちらへサインをお願いします」
「……? 案内に従って行けば、わかるということですよね?」
「左様にございます」
ユディたちは静かに執事の後ろに付き従い、案内された部屋のソファに腰かける。
執事はすぐに姿を消し、ユディたちは、テーブルに置かれた書類を覗き込んだ。
代表者がサインをする形式らしく、人数分の書類を用意されてはいない。
リコリネが、ユディを窺う。
「主、概要を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「わかった。ええと…。どうやら採用試験を設けているらしい。たぶん、応募者が殺到したんだろう」
「試験ですか。ちょっと楽しそうと思ってしまいました」
書類にさっと目を通していくユディは、ふと片眉をしかめた。
「……いや、少し物騒な話みたいだ。アデリーサさんの趣味で、物語に出てくるダンジョンのようなものを、別邸に作ったらしい。それをクリアした先にアデリーサさんの部屋があるみたいで、サインが必要な理由は、『この試験で怪我をしても文句は言いません』という誓約をさせられるからだ」
「なんと。では、主にとってはかなりの好条件ではありませんか。薔薇園の迷路どころではありませんよ!」
「それは…! そりゃ僕一人だったら小躍りしてたかもしれないけど、君が怪我をする可能性があるのかと思うと、さすがに素直に喜べないな…」
「ふふ、大丈夫ですよ、主。私と主のコンビネーションで、どんな試練もちょちょいのちょいです。さあ、サインをしましょう!」
リコリネがかなり乗り気なので、ユディは困ったように笑いながら、サインをした。
待ち時間は、この後に備えて、リコリネがオジャガポリポリを無言で齧っている。
ユディはリルハープに、胸ポケットから出てきてはダメだと念を押して過ごした。
しばらく経って、先程の執事が戻ってくる。
「お待たせしました。お客人の準備が整いしだい、挑戦していただく流れになりますが、よろしいでしょうか?」
「はい、よろしくお願いします。こちらが、サインになります」
ユディは立ち上がり、執事に書類を差し出した。
執事はざっと目を通すと、しっかりと頷いて、「お預かりします。ではこちらへ」と案内を始める。
移動しながら、執事はついでのようにルール説明を行う。
「さて、試験内容についてですが。『奥様を待たせないこと』というのが、合格の条件となります。普通に考えて、攻略に丸一日かけられては、こちらが困りますからね」
「なるほど。早ければ早いほどいいんですね?」
「そうなります。何か質問などはありますでしょうか?」
執事の問いに、今度はリコリネが続いた。
「では一つだけ。私の予想では、トラップなどが待ち構えている可能性があるのですが、その場合、『器物破損が不合格になる』などと言われてしまうと、攻略法を変えねばなりません。いかがでしょうか」
「ああ、それならご心配なさらず。奥様が嫌うのは暇な時間だけですので、多少の破壊行為は黙認なさるでしょう」
「それを聞いて安心しました」
リコリネが安堵の息を吐くと同時に、執事が足を止め、中庭に続く扉を開けた。
「それでは、いってらっしゃいませ」
ユディたちが中庭に出ると、採用試験会場、という看板がある別邸の扉が、すぐ目の前にあった。
執事が本邸の方に戻ると、ユディたちは気合を入れて目の前の扉を見る。
「よし、リコリネ、行くよ!」
「はいっ」
かくして、扉は開かれた。




