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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第三章 ろくにん
82/137

01閃の大陸

「久しぶり、リコリネ」


「はい、お久しぶりです、主」


 再会は、あっさりと叶った。

 船着き場で、タラップを降りてくる全身鎧を、ユディは出迎える。

 胸ポケットの妖精は、ちょこりと顔を出し、ほんの少しだけ緊張したような面持ちで、リコリネを見ている。


「それが新しい武器?」


 ユディがリコリネの背に目をやると、リコリネは自慢げに頷く。


「はい。今回はメイスです。やはり大槌は重量のバランスも悪く、重すぎたように感じましたからね。とてもしっくりきます。本来ならば、強度の面でギミックを無くそうかという話もあったのですが、開発部はどうもその辺りに未練があるらしく、前回よりは控えめなギミックを入れることで、様子を見るそうです」


「また何か奇想天外なことをやられるのか……」


「なんですか主、その反応は! そこは『頼もしい』とか、『楽しみだ』等のことを言うべきところでしょう。ですが、仕方がないのです。私は弱体化をしていますからね。どうしても相手の不意を突く部分に頼るしかない面があるのです。マサカリを振り回せば大体のことは片付けられていた、かつての大雑把な私とは違うのです」


「いや、僕からすれば君は十分に強いけどなあ。それで、この一か月の間に、また何か君を変えたことはあった?」


「……どうでしょう、自分ではよくわかりませんが…。そうですね、強いて言えば、ちょっと食欲が増進してきたような気がします。成長期でしょうか、というのは冗句ですが、健康的になったという意味で、前進を感じます」


「ああ、それは本当によかった……!」


 ユディが本当に安堵したように胸をなでおろすのを、リコリネは不思議そうに眺める。


「……主、大事な話があります」


「うん?」


「実は、私は男だったのです」


「!!!?」


 ユディは、びっくりして三秒ほど硬直した。

 そのあと、慎重に思考を巡らせる。


「……あ。嘘が付けるようになってるってことか」


「…ふふ。サプライズ、でしたね」


 悪戯が成功したように笑うリコリネを、ユディは軽くにらみつける。


「リコリネ! もうちょっと別の言い方があっただろ!」


「さあ、立ち話もなんですし、宿に向かいましょう。こちらですか?」


「あ、こらリコリネ!」


 リコリネは楽しそうに歩き出し、ユディはすぐに追いかける。

 しかしユディの怒りは長くは続かず、結局二人で小さく笑い合うのだった。



-------------------------------------------



 早速宿の一階で食事をとりながら、ユディとリコリネは向かい合い、せんの大陸の地図とにらめっこしている。


「では主、今後のご予定をお聞かせ願えますか」


「うん。まず最終目的地は、この『不夜の街』で行こうと思うんだ。ここが一番、北の『惑乱の大陸』に近い」


「なるほど。問題は、この街に船があるかどうかですね。まあ、どの街にもちょっとしたボートくらいならあると思われますが」


「そうなるけど、この閃の大陸は、日々天啓による発明品が生み出されているって話だからさ。その中に海を渡るものがないかって期待しているんだ。ボートは最終手段かな。そもそも、重たいものを運べるかが怪しいからなあ、ボートは」


「む……。もしや、その重たいものとは、私のことではないでしょうね?」


「で、次は『香りの村』→『実験都市』のコースに行くか、『芸術都市』→『発明都市』に行くかの二択なんだけどさ」


 ユディは、リコリネの抗議を慣れたように受け流し、トントンと地図を叩いて話を進めていく。

 リコリネは、ちょっと拗ねたようにムスっとしながらも、きちんと話に加わる。


「難しい所ですが、発明都市の方が面白そうな響きがしますね」


「ああ、やっぱり? 芸術都市も、劇場があるとかで、ちょっと観光にいいかなって」


「なるほど。それはリルハープ殿が喜ばれそうです。懸想しただのなんだのという、色恋沙汰を扱った観劇は人気がありそうですからね」


「なんでリコリネはそういう時に限ってラブロマンスって言葉を使わないのかな…」


「それは刃傷沙汰になるストーリーに使われる単語ではないのですか?」


「リコリネはそこにロマンスを感じるってこと!?」


「…言われてみれば、そうかもしれません。人を傷つけたくなるほどの激しい情動というのは、普通に過ごしていると、なかなかお目にかかれないものと思われますので」


「いや、たしかに、そう…かもしれないけど…!?」


 苦悩し始めるユディを横目に、リコリネはマイペースに周囲を見渡した。


「しかし、港町はどこも同じような作りですね。私はいまいち、閃の大陸に来たという実感がわきません。偏見だという自覚はありますが、もっと奇人変人が多いものかと思っていました」


「リコリネをして奇人変人と言わしめる人は、なかなか居ないんじゃないかなあ?」


「む……」


「おっと、こういう時に言う言葉は、『冗句』だったっけ?」


 意地悪く笑うユディに、リコリネはそっぽを向いた。


「主はお変わりないようで、と言いたかったのですが、意地悪に磨きがかかっていますね」


「あははっ! ごめんごめん、やっぱり久しぶりに会うと、はしゃいでしまうみたいだ。実は僕もあんまり実感はわかなかったんだけど、ちょっと聞き込みをした時にさ、名前が大きく違うなって思ったんだ」


「名前ですか? 変わった名が多いということでしょうか」


「そうそう。たぶんリコリネもすぐにわかるんじゃないかな。特に若い世代の人に、斬新な名前が付く傾向があるみたいだ」


「それは少し楽しみですね。他者の名乗りを楽しみに思うなどと、今までにない経験です」


 リコリネが、フルフェイスの中でわくわくとしているのが伝わってきて、ユディはふっと微笑んだ。


「…おかえり、リコリネ」


 ユディの言葉に、リコリネは驚いたように顔を上げた。

 ユディは、優しく微笑み続ける。


「前回はどさくさの再会で、言えなかったからさ。せっかくだし、言っておこうと思って。ここを逃したら、もう君と離れ離れになるなんて展開はなさそうだし。次はガッディーロの方から、武器交換の使者が来るんだろ?」


「あ、ああ、…はい、その予定です。ただ、この行程であれば、その前に惑乱の大陸に辿り着けそうですね。流石に惑乱の大陸に武器を届けてもらう気はありませんし、ひょっとしたら、使者の出番はないのかもしれません」


「そっか。そのうち、ここまで長かったな…とか、いよいよ最後か…とか、そんなふうに思う日が来るのかな」


「…ふふ、主、気が早すぎますよ。まずはそこにたどり着くまでの旅に集中をしませんと」


「そうか、そうだった。リコリネ、船旅で疲れただろう。出立は明日でいける?」


「はい、そこは問題ありません。主、先に部屋に帰ってもらっていてもよろしいですか?」


「うん?」


「船で食事をとらなかったもので、恥ずかしながら、先程食した量では足りませんでした。もうちょっとお腹に入れてから部屋へ行きます」


「ああ、なるほど。じゃあ、ちょっと見てていいかな?」


「……? 見る、とは?」


「君が食事をとるところを見ていたいんだ。改めて考えてみると、そういえばじっくりと集中して見たことが無かったなって。最初に会った頃は、力の祝福の維持のために、一生懸命ぱくぱく食べてたね。急に思い出したよ。なんだか小動物みたいで可愛かったなって。僕は結構、君が食べているところを見るのが好きみたいだ」


「うわあ……」


「それはどういう反応!!?」


「いえ…。主、そろそろご自分が砂糖を吐きだす体質であることを、自覚した方がいいものと思われます」


「どういう意味!?」


「…部屋に戻って、ご自分で考えてください。いいですか、私にだって恥じらいという感情があるのです。今日のところは、私の食事シーンを見るのは禁止です」


 リコリネはユディを優しくメっと叱りつけるように言うと、しっしと追い払う仕草をする。

 ユディは、ますます楽しげに笑った。


「なんだ、怒っているんじゃなくって、照れていたってことなら、僕は喜んで退散しよう。それじゃあ、あとでまた」


「ああ、主、」


 宿の階段に向かうところを呼び止められて、ユディは顔だけで振り向いた。


「うん?」


「……ただいま戻りました」


 驚きに目を見開いたユディから顔を逸らし、すぐにリコリネは追加注文のために店員を呼び寄せ、そちらに集中を始める。

 ユディはむずむずとする口元を見られないように、慌てて階段を駆け上がったのだった。



-------------------------------------------



 翌日。

 出立前の港街で、リコリネが今までになく保存食を大量に買い込んでいるのを、ユディは不思議そうに見る。

 オジャガという野菜を細揚げにしたものを、砂糖で薄くコーティングしたものだ。

 買い物を終え、街の開閉門に向けて歩く途中で、ユディはつい聞いてみる。


「それ、オジャガポリポリ?」


「はい。主は以前、『考え事をするときに、野菜スティックをポリポリ齧っていた』と仰っていたのを覚えていますか?」


「ええ? そういえばそんなことを言ったような…? よく覚えてるね、リコリネ」


「もちろんです。本当なら、ここで『主の発言は一言一句覚えています』と言いたいところなのですが…流石に印象に残ったものしか覚えてはいないのでしょうね。個人的には、余すところなく拾いたいのですが」


「あははっ! その気持ちはわかるなあ、僕もそう思っているからさ。ただ、覚える気が無くても、どっかの妖精の暴言は嫌ってほど記憶に残ってるんだけど」


「まったくご主人サマは寂しがりですね~~、いちいちリルちゃんを引き合いに出さないと会話が進められないのですから~~っ」


 胸ポケットの妖精は、悪びれずにそう返している。

 リルハープは昨日、リコリネの部屋で一晩を過ごし、すっかりいつも通りに戻っている。

 ユディはすぐに話が逸れたことに気づいた。


「っとと、ごめん、それで野菜スティックが何だって?」


「いえ、要するにあの言葉が妙に印象に残っておりまして、私もこの一ヵ月、何かとポリポリしていたのです。すると、その、若干、ハマってしまい……」


「ああ、なるほど、口寂しいわけだ」


「おしゃぶりみたいに言わないでくださいませんか……? とにかく、歯ごたえのあるものを欲しているのです。保存食の中では、オジャガポリポリが最も噛み応えを感じますからね。今更ですが、ニャンニャの村のカリコリの実を食してみればよかったと思っているほどです」


「あ、それなら僕は食べたな」


「!? 初耳です、どんな感じでしたか…!」


 身を乗り出すリコリネに気おされるように、ユディは一歩引いた。


「いや、トビーが食べてみたけど不味いって言うから、僕も気になってさ。なんていうか、味があんまりなくって、煙たい感じの印象を受けたよ。あれは本当に、人間にとっては歯応えだけだったなあ」


「ああ、それならよかったです……これで得も言われぬ美味だったと聞いてしまうと、私は悔やんでも悔やみきれなかったでしょう」


「いきなり食いしん坊みたいなことを…。前は食に頓着しない方って言ってたのに、君って本当に極端だよなあ」


「いえ、ある意味頓着はしていないのかもしれません。同じものを食べ続けても平気ですので」


「なるほど、それは旅人の必須条件かもしれないな。…ところで、トビーのことなんだけど……」


 ふと、ユディは聞き辛そうにその名を口にする。

 リコリネは、すぐにすべてを察して、口を開いた。


「申し訳ありません。私の方もバタバタしておりまして、トビー殿たちが我がガッディーロの孤児院に到着したという知らせを受けてはいたのですが、確認のために出向く時間はありませんでした。ただ、ヴィッツロー殿は、引く手あまたのようです。我が掘削の街では、街の性質上、あまり植物の手入れができる人材に恵まれてはいませんでしたので」


「ああ……それならよかった……本当に」


 長く、安堵の息を吐くユディを、リコリネはじっと見つめる。


「……主。そういうわけですので、私には世の情勢を把握する時間が無く。昨日、聞き込みを行ったと話されていらっしゃいましたが、他に何か、気になる事象はありましたか?」


「そうだなあ…。あ、そうだ、『第一次調達屋ブーム』が巻き起こってるんだってさ」


「……? 調達屋というと、ギュギュ殿の職種ですよね?」


「そうそう! 要するに、ギュギュの成功に憧れた人たちが、一斉に調達屋って職を目指したみたいなんだ。だから活動時期もかぶってしまって、今物価がとんでもないことになってるって」


「物価? …ああ、なるほど。今まで手に入りにくかったレアな物品が大量に調達されでもした場合、市場は荒れますね」


「そうそう。しばらくは安定しないんじゃないかって、商人さんがボヤいてたんだ」


「ふふ、つくづくギュギュ殿は罪作りな方ですね。乱獲が無いように祈っておきましょう。しかし、なぜ『第一次』という言葉が付くのでしょうか。第二次・三次が来るという確信でもあるのでしょうか?」


「それは完全に語感らしいよ。覚えやすいからって」


「それは……微妙に、わかるような、わからないような……?」


 リコリネが悩んでいる間に、港街の門へとたどり着く。

 ユディはそのまま門を通り抜けようとしたところで、ぴたりと立ち止まっているリコリネを不思議そうに振り向いた。

 リコリネは、じっと外と中との境界線を見ている。


「リコリネ?」


「……ああ、いえ、ここから、外の世界なのですね。また主との旅が始まるのかと思うと、感慨深く思いまして……」


 ユディは思わず噴き出した。


「まさか改めてそう言われるとは思わなかった、冥利に尽きると言っておこうかな。おいで。手を引こうか?」


「む……。子供扱いしないでください」


 リコリネは、怒ったような大股で、ガシャガシャと鎧を鳴らしながら、ユディの隣を通りすぎる。

 ユディは差し伸べた手をすぐに引っ込めて、リコリネを追いかけた。


「リコリネって、たまによくわからないところで怒るね」


「私からすれば、主のほうが良くわかりません。子供のような、大人のような…」


「そっか。じゃあ、またお互いを知っていけたらいいな」


「………」


 なぜか、リコリネは答えなかった。



-------------------------------------------



「それで、主はこのひと月の間、何か興味深く思われたことはありましたか?」


   ドゴオオン!!


 リコリネの問いと同時に、数人の人間がメイスの一撃で空を舞う。


「あったあった、移動図書館っていうのにハマってたんだ。本が詰まれた鳥車なんだけど、この仕組みが良くできていて、まず、本の代金を支払って、本を買う。読み終わって本を返したら、その代金が丸ごと戻ってくるんだ」


「それは面白いですね。しかし、それはどうやって儲けが出る商売なんでしょうか? ちょっと想像がつきませんね」


   ズガアアンッ!!


「僕もそう思って聞いてみたんだけど、実は意外に世の中には借りたことを忘れたり、紛失したり、乱暴に扱って汚してしまったり…って人が多いみたいで、弁償代でそこそこ利益が出るらしいんだ。あとは、お試しで読んで、気に入ったら結局そのまま購入する人も居るんだって」


「なるほど。そういった合理的なシステムには、美しさすら感じる時があります。何か興味深い本はありましたか?」


「な、なんだこの鎧、数人相手を同時に、化け物か!?」


   ドガアアン!!


 リコリネにとびかかってきた盗賊は、あっさりとメイスの一撃に弾かれて、地面に転がった。

 リコリネの周囲には、力の精霊の赤いオーラと、音の精霊の緑の祝福が漂っている。

 ユディは精霊道具の本を開いたまま、油断なく戦況を見据えながら、問われた質問への答えを考える。


「そうだなあ…。実は、騎士王が書いた本が一冊あって、読んでみたんだ。残念ながら『地上最強の騎士』の方じゃなくって、君主論みたいな固い内容だったんだけどさ」


「こうなったら…よし、フォーメーション・スリーでいくぞ!」

「「応!!」」


   ガガガガッ!


 盗賊たちのナイフは、小気味よい音を立ててはいたが、刃先ひとすじすらリコリネの鎧の内側には届かず、表面を滑るだけだ。


「それは確かに面白そうですね。印象に残った箇所がありましたら、ぜひお聞かせ願いたいです」


「手慰みに物語本を書いてみて、騎士王はこう思ったそうなんだ。『騎士の強さ、平和の尊さを書きたかったはずが、気が付けば、凶悪で強大な敵について思考を巡らせていた。善を語るには必ずしも悪が必要では無いはずとは思いながらも、それを持ち出さざるを得なかったことに、自らの未熟を感じる。しかし、白を行うには黒を語ることが必要であると仮定すると、黒は白になる方法も知っているのではないか。だからこそ自分は、犯罪者という黒が、白くなれるための一助として、騎士団を維持し続けるだろう』」


   ドゴオオッ!! 「ぐわっ」「ギャア!」


 リコリネの最後の一振りで、盗賊団はすべて地に伏した。

 リコリネはメイスを肩に担ぎ、満足げにそれらを見下ろす。


「…ふむ。いいですね、私の弱体化具合が、実にちょうどいいです。全員、息があります。白くなれるチャンスが残っていますよ。さすが騎士王です、良いことをおっしゃる」


「……まあ、確かに、マサカリだったら真っ二つだっただろうからな…。かなり痛そうではあるけど…」


 ユディは複雑な表情で、殴打された箇所を抑えてうずくまっている盗賊たちを見下ろしている。


「やはり主にかけていただく祝福は頼りになりますね。おかげで実に身軽に動けました。…とはいえ…。この賊たちの方にも問題があったことは間違いないでしょうね。弱すぎました」


「やっぱり? 傍から見ていても、あまりにも手応えが無さすぎるように感じたし、線の細い体型が多い。この閃の大陸の特性を考えると、研究者が借金苦で泣く泣く賊になった可能性が高いな」


「主もそう思われましたか。私としても、この賊たちは全員、フォーメーションだなんだのと、攻撃方法が頭でっかちなように感じました。しかし、そうなると、困りましたね……騎士団に突き出しにくいです」


「うん……僕もライサス先生を思い出して、ちょっと憎めないでいるかな……。研究者って、熱中すると周りどころか、現状すら見えなくなるからなあ」


「はい…。主、彼らもこれで痛い目を見たでしょうし、このままここに転がしておくという案で、手打ちにしませんか?」


「わかった、僕としてもそれに異論はないよ。ただ、なんだろう…もう、先生のナレノハテにしか見えないから、もうちょっと手厚くしてもいいかな? パーティー資金を使ってしまうことになるけど…」


「ふふ、パーティー資金といっても、このひと月の間に、主は依頼などを介し、ご自分で路銀を調達されていたではありませんか。どうぞご自由にお使いください。私としても、彼らにはメイスを振るうための良い実験台になっていただきましたので、お礼をしたい気分ですね」


 リコリネが首肯するのを確認すると、ユディは司令塔だった盗賊の一人の前に片膝をつく。


「余計なお世話かもしれませんが、もし食うに困って嫌々ながらこのようなことをしたのであれば、うるうの大陸の、希望の街という場所へ訪れてみてください。ユディからの紹介と言えば、前科があろうが何だろうが、町長さんが受け入れてくれます。もちろん、この人数が全員で向かっても大丈夫ですよ。旅費として、金貨を数枚置いていきます。それと、食料も」


 ユディはそう語りながら、小分けにした保存食と金貨を、直接地べたに置いていく。

 盗賊たちは、信じられないものでも見るような目をユディに向けて、何かを言いたそうにしているが、痛みが強くて喋ることもできないようだ。

 無理もない。

 クロゼットの角に小指を思い切りぶつけるだけでも、喋れなくなるくらい痛い時があることを思うと、鈍器で殴打されるというのは、どれほどの痛みになるだろう。


「ただし、僕に対する復讐と称して、希望の街を傷つけるようなことがあれば、どんな手段を使っても首を落としに行きますからね?」


 ユディが、ぞっとするほど冷酷な視線を落としてきたのを見て、盗賊たちは震えあがった。

 すぐに、リコリネが何かに気づいて、笑い始める。


「…ふふ、ふふふっ…! 主、この者達が襲ってきたときのセリフを覚えていらっしゃいますか?」


「うん? …確か…『食料と金を置いていけ』だったかな。…あ、」


「はい、面白いことに、彼らの要求をそのまま呑んでしまっています。もしこれが彼らの計画の内であれば、とても素晴らしい頭脳犯ということになりますね。思わず笑ってしまいました」


「あははっ! それはしてやられてしまったなあ。そこまで行くと、いっそ清々しい。それじゃ、僕らはこれにて失礼しますね」


 ユディは楽しそうに立ち上がると、横たわる盗賊たちに背を向けて、歩き始めた。

 リコリネは、静かにその後ろに付き従う。

 盗賊たちは、ユディたちが見えなくなるまで、茫然とその背を見送った。




 しばらくして、リルハープがひょこりとユディの胸ポケットから顔を出す。


「ライサスが今の話を聞いたら、絶対不本意だと思いますけどね~~…」


 ほとんど独り言に近い呟きで、勝手に犯罪者と面影を重ねられた、遠くのライサスライガに同情をするのだった。

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