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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第二章 ふたりめ
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31たのしいピクニック

 いよいよピクニックの日がやってきた。

 子供連れということもあり、目的地はそう遠くはない。

 短距離とはいえ、森の奥へと向かう緩やかな坂道を登っていく道筋は、ユディたちにはまだ目新しく、とても楽しい道のりだった。


 先日トビークレイに案内してもらって気づいたのだが、英雄の村周辺は、暖かな気候の土地だった。

 村の端を流れる川には、いつも籠に入った野菜や果物が冷やされていたし、村の娘たちは、足元をたくし上げて水遊びなどをするという、開放感のある風景が散見された。

 ニャンニャが増えに増えたのも、この気候が要因なのかもしれない。


「ああ……久々にニャンニャに襲われない日が味わえる……」


 村を離れた瞬間、そう口にしたユディに、ヴィッツローたちは爆笑していた。


「まぁまぁ、いいじゃねーかニーチャン、あんだけニャンニャに好かれるってのも、ある種の才能だぜ? オレぁ虫が寄ってこねー才能なら欲しいがね。花扱ってっとまぁ、来るわ来るわ」


「そうですよ主、私など、ニャンニャ殿たちが近寄ってきてもくれません。主が羨ましいです」


「次ニャンニャが来たらリコリネに分けてあげるよ……」


 ユディの気も知らずに、トビークレイの明るい声が響き渡った。


「とうちゃんかあちゃん、またアレやってくれよ!」


「またかい? ほらいくよトビー、せーの!」


 父と母に手を繋いでもらっているトビークレイは、掛け声とともに、両側からふわりと持ち上げられ、はしゃぎ声をあげている。

 リコリネは、微笑まし気にそれを眺め、呟いた。


「出立する前に、この森の外道ガラスは全滅させなければなりませんね」


「微笑まし気に何を言っているのですかリコリネ~~!?」


 パタパタとのんきに飛んでいたリルハープが、いきなりの発言におののいている。


「あんちゃん、ねえちゃん、妖精のねえちゃん、もうじき着くぞ! きっとここからの景色見たらさ、びっくりするぜ!」


 トビークレイは、自慢げに先の道を指さした。

 この道は村人もよく利用する道らしく、きちんと整備されていて、坂道と言えど、歩くのに苦痛はない。

 「なんだろう、楽しみだなあ」と、ユディは少し大げさに返答し、トビークレイはますます嬉しそうだ。


 しばらく行くと、瑠璃色の木々の楽園が終わり、開けた空間が見えてくる。

 トビークレイは、「こっちこっち!」とユディの手を取って、道案内するように走り出した。


「うわあ…!」


 目の前の景色に、ユディは息を呑む。

 崖があった。

 はるか下の方に、大きく太い大河が流れているのが見える。

 この崖の向こう側、つまり対岸にも崖があり、しかしそちらからは、滝が流れているのが見える。

 とうとうと流れ落ちる水は、飛沫を上げながら、正午の光を浴び、虹を纏って下の川へと合流していく。


「いい景色だろ。この村はなーんもないが、この景色だけは時々見たくなるんだよなぁ」


 ヴィッツローがのんびりと、後ろからそう述べた。

 ジュナライアの声が続く。


「よかった、虹が見える時間帯に間に合ったね。陽の傾き加減か何かで、決まった時間にしか見えないんだよねぇ」


「これは、本当に絶景ですね。絵師を呼んで、絵葉書を作る、という手があると思うのですが、いかがでしょう?」


「あん? ああ、そりゃいいな、観光資源になるか…。ま、めんどくせーから、提案だけして後は村の連中に任せるか」


 リコリネの言葉に、ヴィッツローは他人事のように頷いた。


「この村の大雑把ささえ何とかなれば、村は簡単に潤うと思うのですけどね~~」


 リルハープが、残念そうにつぶやく。


「なぁ、メシにしようぜ、メシ! ピクニック! ピクニック!」


「こらトビー、あんまり端っこに寄るんじゃないよ! こっちに来な!」


 スキップを始めたトビークレイを、ジュナライアはいつもの調子で叱りつける。

 ユディもリコリネも、持ってきた荷物を広げて、ピクニックの準備に取り掛かった。


「ちょっと大滝の街を思い出しますね~~。すごいです~~、なんとなく、水がたっぷりあるのはうるうの大陸だけだと思っていました~~っ。普通に考えたら、そんなことはないのですが~~」


 リルハープは手伝うでもなく、暇そうに近くに咲いている花の葉の上に座り込む。

 ユディは、同意するように頷いた。


「僕も今、同じことを思っていたよ。あの崖の向こう側にも村があったりするのかなあ?」


「さあ、どうだろうね? なんだかんだいって、人間ってその気になればどこにでも住めるからねぇ、まだまだ知られてない村なんていくらでもあるだろうさ」


 ジュナライアが、食料の入った籠の蓋を開け、中央に置きながら答えた。

 リコリネが、時々何かを思い出すように、思案気な間を空けて、ぴたりと動きを止めている。


「リコリネ?」


「…ああ、いえ。ピクニックというものを、以前もやったような気がして…?」


 リコリネが、首を傾げながら、ふと質問を重ねた。


「ヴィッツロー殿、ジュナ殿、この村に来るまでのあのトンネルとは、どのくらいの長さだったのでしょう? こちらの村へ来る時に、とても長い時間あそこを通ったような気がしていたのですが、私は用があって街に出た時、思ったよりも早くトンネルを抜けて、拍子抜けをしたことを思い出しました」


「あん? どのくらいも何も、山一つ分を直線で行くってだけだからな、んな時間はかからねーだろ」


「…あぁ、ひょっとしてリコリネさんたち、精霊様に捕まったんじゃない? 昔話みたいにあるんだよね、この村に、そういう話が」


 ジュナライアの言葉に、トビークレイはパっと顔を上げた。


「なんだそれ、カッケエ! あんちゃんもねえちゃんも、精霊様に選ばれし戦士ってことか!」


「あははっ! トビーもそのうち選ばれる日が来るかもしれないね? …けど、なんだか不思議です。僕らは普通に精霊の祝福の力を使えるのに、精霊様自体は、そんな風に昔の存在みたいな話になっているなんて」


 ユディの言葉に、ヴィッツローはのんびりと滝の方に目を向ける。


「そう言われりゃそうかもな? やっぱ旅人さんらは視点が違うぜ、んなこたぁ考えてもみんかったっつーかな…。今日もカミサンの作る飯が美味いって事実だけで、オレぁ生きていけっからよ」


「あらやだ、急に誉めないでよ、何かと思うじゃない?」


 ジュナライアは、恥ずかしそうに頬を染めた。

 ヴィッツローは、ニっと笑う。


「たまには嫁さんの角と牙を抜いておかねーとな?」


「アンタ!」


 怒ったような反応をするジュナライアに、ユディたちは笑ってしまった。

 本当に幸せそうな家族でしかない彼らを見ていると、幸せをおすそ分けして貰った気分で、ユディは幸福な気分で食事を終える。

 だが、そろそろ出立の時期を決めなければならない。

 そう思った時だ。


「見~つけたっ♪」


 いきなり、知らない人の声が響いた。


「…??」


 ヴィッツローたちは、驚きよりも戸惑いの方が濃いような表情で、きょろきょろと辺りを見渡す。

 が、誰も居ない。


「主、どうされました…!?」


 リコリネは、緊迫した声で、青褪めた表情で立ち上がるユディを窺う。


「リルハープ、僕の胸ポケットへ! リコリネ、ヴィッツローさんたちを守って! この気配……モノオモイだ!」


「キャハハハハハ!!」


 甲高い女の声が響き渡る。

 その時、場の全員が、声の出所を理解した。

 周囲を見渡しても誰も居なかったのは当然だ。

 その女は、はるか上の空中に居た。



-------------------------------------------



 箒に横座りした女は、すいっと移動して、少しだけ高度を下げてきた。

 とんがり帽子に、たっぷりとした袖のある、おしゃれなローブ。

 そんな服装をした人を、ユディは生まれて初めて見た。

 だが、初めてなのは、それだけではない。

 大きい。

 その女の身長はスラリと高く、2メートルはあるのではないかと思えた。

 とんがり帽子を含めれば、さらに高くなるだろう。


 リルハープは、ぴゃっとユディの胸ポケットに隠れた。

 ユディは、全員を守るように、腰元から精霊道具の本を取り出しながら、一歩前に出る。


「モノオモイ、何しに来た。見つけたとは、なんのことだ」


「モノ…? なぁにそれ、そんなダッサイ名前でアタシチャンを呼ばないで? アタシチャンは、大魔女! 大魔女トオン・テッド・ニールなんだから♪」


「え……?」


 不思議そうな顔をした面々の中で、唯一その名に反応したのは、なぜかトビークレイだった。


「だいまじょ、って……カレットじいちゃんが書くって言ってた、新しい話の……?」


「…なんだって?」


 ユディが鋭く聞きとがめる。

 カレットガフトの書斎に置かれた本が目に浮かぶ。

 『溢れるように、』と、そう書かれたまま、放置されたあの本が。

 いや、本と言っていいのかすらわからない。

 最早文字を書き込む者が居ない今、埃が積もっていくだけの、ただのモノだ。


 大魔女と名乗った女は、箒の上で長い足を組み、そっと片手を掲げる。

 すると、次の瞬間には、大きめのワイングラスが握られていた。


「キャハ♪ そうよ、魔力も体も大きな魔女の、新しい物語! 名を与えられた。力も与えられた。魔法は凄いの、なんだってできるのよ!」


 魔女がワイングラスを傾けると、空から黒い銀河がひとすじ、チャポンと降ってきてグラスを満たした。

 魔女は満足げに、星のまたたく銀河を一口飲んで、喉を潤す。


「だけどね、溢れるような物語だけが、まだないの。このお腹の中は、ずっとからっぽ。だからね、アタシチャンは、自分で物語を探しに出ることにしたの! そうしたらきっと、マスターは戻ってきて、アタシチャンの続きを書いてくれるのだわ♪」


 ヴィッツローもジュナライアも、何が起こっているのか理解ができていないようで、立ち上がりながらも、どうすればいいかわからない表情だ。

 ただ、彼らを庇うように立ち塞がるリコリネの背から、ただならない事態を感じているようで、親子三人で身を寄せ合っている。

 魔女は、その親子三人に、キラキラと目を向けた。


「ああ、愛ね、いいわ、愛よ! たくさんの人が大好きなテーマ! 愛と、勇気と、希望と、夢と、勝利! あなたたち親子が、この近辺で、最も多くの幸せオーラを発していたの! なぜかしら、なぜかしらっ♪」


 魔女は、ひょいとワイングラスを放り投げた。

 すると、ワイングラスは瞬く間に球体になり、内側に銀河を宿した水晶玉になる。

 魔女は水晶玉を持ち、興味深く覗き込む。


「キャハッ♪ そう、父親がたまにしか帰ってこないのね? きっと会える時間の圧縮が、幸せオーラも圧縮したのだわ。まるでタナバタの話ね! オリヒメと、ヒコボシと…あとは牛?」


「な、なんでぇ、あのネーチャンは……」

「まさか、本当にマホウ……? 嘘でしょ、本の中の話じゃなかったの?」


 自分たちの事情をあっさりと察した魔女の言葉に、ヴィッツローとジュナライアは困惑を深めるばかりだ。

 ユディは急いでヴィッツローたちを振り返る。


「ヴィッツローさん、ジュナさん、トビーを連れて逃げてください! アイツの狙いはあなたたちみたいだ、リコリネ、はやく案内を!」

「はっ!」


 リコリネがヴィッツローたちを先導して走ろうとした瞬間、魔女は鋭く悲鳴を上げた。


「きゃあ、ダメよ! そこから一歩でも動いたら、アタシチャンが呪いをかけちゃうんだから! そこのボウヤで見本を見せてあげる、見ててごらんなさい!」


 魔女は箒に横座りしたまま、水晶玉を掲げてユディの方を向く。

 ひょいと水晶玉を一振りすると、それは銀河色の杖となる。


「ちちんぷいぷいっ♪」


「っ!?」


   ―――シュドッ!


 反撃の間どころか、避ける間もなかった。

 杖から発せられた一条の光……いや、一条の闇が、矢よりも早く、一直線にユディの左目を貫いた。

 まるで黒い稲妻のようだった。

 バサリと、精霊道具の本が、ユディの手から落ちる。


「主!?」

「ユディあんちゃん!?」


 ユディはのけぞったまま、衝撃にヨロリと一歩下がって、そこでしばらく耐えるような間を空ける。


「お、おい、大丈夫か…!?」


 ヴィッツローたちは、固唾を飲んでユディを見守ることしかできない。

 やがてユディは、不思議そうな顔で左目を抑え、仰け反っていた体を戻した。


「痛くない……? でも、左目が、見えない……」


「キャハッ、光を失う呪いよ♪ でもね、安心して? アタシチャンの呪いは、ぜーんぶ、愛する人のキスでとけるの! ああ、これぞ愛よ、愛の物語……」


 魔女はうっとりと指を組み、空を見上げていたかと思うと、すぐにヴィッツローたちに向き直る。


「見たでしょ、アタシチャンの呪いの速さ! そこから一歩でも動いて、アタシチャンの邪魔をしてみなさいな。『即死の呪い』をかけてあ・げ・る♪」


「くっ、卑怯な……!!」


 リコリネが、動くに動けず、ただ唸った。

 ユディも、胸ポケットを大事に抑えながら、精霊道具の本を拾おうとしていた動きを止める。

 トビークレイは足が竦んでいるのか、必死にぎゅうぎゅうとヴィッツローにしがみついている。


「キャハッ♪ 安心して、即死なんて、そんなツマラナイことはやりたくないの。アタシチャンが紡ぐのは、愛の物語! お前たち家族の愛の力が、アタシチャンの呪いなんて打ち滅ぼす、その瞬間が見たいだけなの! だって、アタシチャンはなんだってできるけど、物語を作るのだけは、自分一人じゃできないのだから……」


 魔女は、頬に手を添えて、物憂い顔でため息をついた。


「おいっ、だったらオレだけでいいだろ、家内と息子は見逃せ! 愛の力だか何だか知らねーが、要するにネーチャンをオレがぶっとばしゃいいんだろ!」


 ずいっと前に出るヴィッツローに、魔女は箒に横座りしたまま、足をぷらぷらと振った。


「やーね、野蛮~。わかってないわね、そういう汗くさい話が見たいわけじゃないのよ。それっ、ちちんぷいぷいっ♪」


 杖先から、ふわりと色とりどりのあぶくが舞い、トビークレイを取り囲んだかと思うと、すーっと空中に持ちあげていく。


「う、うわあっ!!? やだやだやだーー!?」


「トビー!?」

「トビー殿!」


 場の全員がトビークレイの名を呼び、手を伸ばそうとした。


「こらっ♪ ―――動いたらダメって、言ったわよね?」


 しかし、場を制するように、魔女の冷たい声が落とされる。

 全員、それに支配されたかのように、苦しげな表情で動きを止めた。


「キャハッ♪ いいコね! それっ!」


「わああーーー!? とうちゃん、かあちゃんーー!!」


 魔女が杖を一振りすると、トビークレイの小さな体は、ポーンとボールのように放物線を描き、崖の方へと飛んで行く。


「……っ、トビー!!」


 ただ一人。

 ジュナライアが、耐えきれないというように、トビークレイの後を追って走り出す。


「はいアウトーっ、ちちんぷいぷいっ♪」


「ジュナさん、逃げて!」

「ジュナ殿!」


   バシィーーーッ!


「ぐあ…っ!!」


 魔女が放った闇の稲妻を受けたのは、体を張ってジュナライアを守った、ヴィッツローだ。


 ジュナライアは、目の前のことしか見えていないように、ただトビークレイだけを見て、落ちてきた姿に両手を伸ばした。

 トビークレイは、崖のギリギリ手前で落ちて、ジュナライアはそれをスライディングするように受け止める。


「きゃあ!?」


 だが、そこは崖の端すぎた。

 ガラガラと落ちる小石とともに、ジュナライアの体も落ちかけた。


   ガッ!


 咄嗟に、ジュナライアは崖の端を片手で掴む。

 しかし、片手にトビークレイを抱いた状態で、ぶら下がるだけで精いっぱいな状態だ。


「ジュナさん、ヴィッツローさん!」

「ジュナ殿、今助けます!」


 ユディもリコリネも、逡巡の末、見かねて走り出す。


「うわっ!?」


 しかしユディは、片目が見えないという、いつもとは違う距離感にうまく走れず、転んでしまう。


 一方でヴィッツローは、不思議そうに自分の身体を見下ろした。


「死んでねぇだと…?」


「キャーハハハハッ! これで場は完成ねーーっ、全て予定通りなのだわ! それっ、ちちんぷいぷいっ♪」


 ヴィッツローたち家族と、遅れて駆けつけようとしているユディたちの間を分かつように、いきなりその場に半透明の壁が張られた。


   ガツーーーン!!


 全身鎧のリコリネが、思い切りその壁にぶつかってしまった。

 全力で走っていたことが、仇となった。


「………ッ」


 あまりの衝撃に、リコリネはくらくらしながら片膝をつく。


 たった数瞬のうちに、その場で無事に立っていられる人間は、ヴィッツロー一人になったのだった。


「キャハッ。説明してあげるわ。ヴィッツロー? お前に今かけた呪いは、『この世で最も愛する者に触れた瞬間、大爆発する』って呪いよ♪」


「………マジか」


 ヴィッツローは、目を見開いて、自分の手の平を見る。

 魔女は、とても嬉しそうだ。


「マジよ、マジ! だって、青い空の世界ではね、『りあじゅう』は爆発しなければならない運命なんだから! 伝統芸なのよ、キャハハハ♪」


 ジュナライアやトビークレイにもその言葉は聞こえているが、二人とも、崖から落ちないようにする以外に、声も思考も使えない。

 ぱらりと、頬を掠めるように小石が落ちてきて、トビークレイは小さく「ひっ」と悲鳴を上げた。


 ユディは這うようにしてその隔たれた半透明の壁までたどり着くと、「くそっ!」と拳でそれを叩くことしかできない。


「く……主、すみません……おそらく軽い脳震盪か何かを起こしています……立てません…、私を回復させてください…! そして、それに加えて……」


 リコリネは、小声で何かを提案した。




 魔女は、出来上がった状況にとても満足そうにしている。


「キャハッ♪ さあ、ヴィッツローお父さん、選ぶがいいわ? 奥さんと息子を助けるか、逃げ出すか。ああでも、どうやったら助けられるのかしらね? 触れたら爆発しちゃうかもしれないし、そもそもどちらに触れたら爆発するかもわからない。呪いを解くためのキスだって、そもそも触れることすらできないのに!」


 丁寧に説明をされて、ヴィッツローはようやく現状を理解し、青褪める。

 魔女はますます嬉しそうだ。


「意外に選択肢は無数にあるのだわ! どちらが爆発するかを見極めて、奥さんだけ助けるか、息子だけ助けるか、ああ、早くしないと二人とも落ちちゃう! でもね、潔く逃げちゃえば、お前だけは助かるわね? ごちゃごちゃと難しく考えずに済むわ!」


「……くそ、マジかよ…!!」


 ヴィッツローは、一瞬期待を込めてリコリネたちの方に目を向けるが、すぐにジュナライアの状況を見て、待っている時間が無いと悟る。


「でも大丈夫! だって、アタシチャンの魔法はなんでもできるけど、愛だって万能だもの! ね、真実の愛があれば、そんな呪いだって打ち滅ぼせるのだわ! さあヴィッツロー、選んで! 愛を取るか、自分を取るか! ああ、楽しみ、きっと感動の結末が待ってるわ! 愛、勇気、希望、夢、勝利! お願い、アタシチャンの空虚を、いっぱいに満たして!」


 ピクニック用の敷物。

 食料が少しだけ残っている籠の中。

 それらはまだ広げられていて、午後の強い日差しの下で、変わらずそこにある。


 なのに、この場を取り巻く状況だけが、大きく変わってしまっていた。


「キャハハッ、キャーーッハハハハ!!」


 魔女の歓喜の笑いが、狂ったようにこの場を満たしている。

 それは、聞くものの胸の中に、絶望と共に積もっていくような響きを持っていた。

 選択の時は、すぐそこだった。

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