26トンネルの中のパルカティナ(上)
あれから一週間。
ユディたちは、初代騎士王の像があるという英雄の村を目指して旅をしている。
その間中、リルハープはふさぎ込んでしまったかのように、ずっとユディの胸ポケットで眠りについている。
ユディもリコリネも、返事が無いとわかっていながらも、綺麗な景色や気になる場所が見えるたびに、リルハープに話しかけて過ごした。
「やはりリルハープ殿が眠っておられますと、野宿の場所決めや進路の方針に困りますね。ここまで来るのに、思ったよりも時間を要してしまったように思います」
「そうだね。僕も、こんなに長くリルハープと会話がないのは初めてだから、ちょっと落ち着かないなあ…。早く起きてよ、なんて子供じみたことを言う気はないんだけどね」
「…ふふ。本人も寝溜めすると宣言してから眠りにつかれたわけですし、そのうち目が覚めるだろうという意味では安心ですね。…しかし、本当に英雄の村はこの方角であっているのでしょうか…という辺りが気になり始めてきました」
「リコリネも? 実は僕も同じことを言おうと思っていたんだよ…地図の読み方は合っていると思うし、順路とかいう看板もあったから間違いはないと思うんだけど」
ユディはそう言って、目の前にそびえているものを見上げる。
平野の向こうに、ドーンと巨大な山が見えるのだ。
ユディは首を傾げる。
「さすがに観光地みたいだから、山を越えさせる、なんて苦行をやらせるとは思えないんだけど…。でも、山だよねえ」
「ええ、まごうことなき山ですね…。もう少し近づけばわかるのでしょうか?」
二人が半信半疑で歩を進めていくと、ようやく真相がわかり、ユディは思わず声を上げる。
「すごい、トンネルだ!」
「この巨大な山に穴をあけるとは、なかなか豪胆な発想ですね」
「石碑が見える、行ってみよう」
すぐそばまで行くと、文字の刻まれた石碑を読んでいく。
夕暮れが近づいてはいたが、読めないほどの暗さではなかった。
どうやらこのトンネルの由来について書かれているようで、これも観光案内の一種なのだとわかる。
なんでも、初代騎士王が最初は一人で掘り始め、半分ほど進んだところで、感化を受けた村人が、一人、また一人と協力をして切り開いたトンネルだという話だ。
一通り読み終えると、リコリネは感嘆の息を吐いた。
「素晴らしい…まさか初代騎士王がほとんど一人で掘り進んだとは」
「普通考えないよね、これは」
「ですが、ご出身の村からの交通の便を良くするためという意味では、正しい試みに思います。さぞやお優しい方だったのでしょうね」
「確かに。この間会った騎士王と同じで、みんなに慕われた王様だったんだろうなあ」
「…さて、主。さすがにこの時間帯から暗がりの中へ突貫するのは、あまり良い選択とは言えないと思われますが、いかがしましょうか」
「うーーん…。今日はこの辺りにキャンプを張って、明日の朝から挑戦しようか。見るからに長そうなトンネルだし」
「ふふ、いくらなんでも一日かがりで挑まなければならないほどとは思えませんが。ですが、かしこまりました。通り道ですから、人に見つからない場所を探しましょう」
「じゃあ、リルハープ―――」
と声を発して、ユディはしまったと口元に手を当てた。
リコリネは、フルフェイスの奥で、恥じらうような気配をにじませる。
「私も今、リルハープ殿に案内をして貰う気で居ました。リルハープ殿……早くお目覚めにならないと、私も主も、あなたの役割を奪ってしまうくらい、こういった作業が得意になってしまいますよ」
そう告げるリコリネの声は、とても優しげな響きを持っていた。
-------------------------------------------
翌日。
簡単な準備を終え、ユディもリコリネも、気持ちを弾ませながらトンネルの中へと入った。
「リルハープ、残念だったね、いつもの君だったら、一番乗りって言っていただろうに」
もはや癖みたいなもので、返事のない語り掛けをしてしまいながら、ユディは物珍し気にトンネルの壁を見上げる。
「思ったよりも大きなトンネルだね。後々の世代で広げていったのかな?」
「そうかもしれませんね。鳥車程度なら通過できるように思えます」
リコリネの相槌を聞きながら、ユディはまだ、火をつけておいたカンテラのシャッターを上げずに進む。
「真っすぐなトンネルだと思うんだけど、物凄く長いのかな、出口の光が見えないけど…」
「ですが、怖いというよりも、幻想的に感じます。この、吹き抜ける風の音のせいでしょうか?」
「リコリネの声も反響して、一瞬どこに居るんだろうかと思ってしまうね」
「…ふふ。主、リコリネはお傍に居りますよ」
そう言われて、ユディはまた子供のような不安を口にしてしまったことに気が付き、赤くなった。
すぐに話を逸らすように、何事もなかったかの様子で前を見る。
「……影。影が大きく見えるね、別人のものみたいだ」
まだ、出入り口からの光が届いているため、背後からの明かりで、二人の影は長く伸びて、トンネルの壁に映っている。
リコリネは、不満げにそれを見た。
「…全身鎧の輪郭だけ見ると、化け物じみていて嫌ですね」
「あははっ! リコリネって意外にそういうの気にするんだね?」
「む……。私とて、可愛いか可愛くないかで言えば、可愛いもののほうが好きなのですよ」
「可愛い影っていうのも、なかなか難しいと思うけどね」
話しながら進んで行くうちに、どんどんと奥へときていた。
だんだんと、周囲が暗くなってきたため、ユディはカンテラのシャッターを上げて、明かりを出現させる。
暖かな色合いの明かりが、トンネル内にくっきりと三人分の影を作った。
暗闇に慣れつつあった瞳にはそれは眩しく、ユディは思わず目を細める。
「パルカは可愛い影の作り方、知ってるぞ!」
素足の少女は、細い指をにゅっと横合いから近づけ、ユディのカンテラの側面に当てるように伸ばした。
「ほら、こうするんだ、影絵っていうんだぞ、キツネだ!」
そう言って、少女は壁に映る影へと目を向ける。
リコリネが、感心したように呟いた。
「本当です、生き物のように愛らしく動いて見えます。よくご存じでしたね、パルカティナ殿」
「パルカティナって、昔から色々と変なことを知っているよね」
「ムッ。ユディ、変な事ってなんだ! 今実際に役に立ったんだから、役に立つこと、だぞ!」
抗議してくる少女に、ユディは面白そうに笑う。
「ごめんごめん、そうだね、確かに、おかげで和やかな気持ちになったよ。パルカティナ、その影絵っていうのは、他にも種類があるのかい?」
「あるぞ! ほら、こうしたら……鳥だ、ばさばさ~!」
「素晴らしい…!」
リコリネは、思わず手を叩いている。
ユディが、困ったような声を出した。
「楽しすぎて、先に進まずに過ごしてしまいそうになるなあ、これは」
「わは! ユディ、それは気に入りすぎだ! だが、パルカはそんなのんびり屋のお前も、素直なリコリネも愛してやるぞ、心が広いからな!」
「ふふ、ありがとうございます、パルカティナ殿」
少女は、先へと導くようなステップを踏んで、トントンとトンネルを進み始めた。
ユディもリコリネも、トンネルの壁に映る影の名残を見ながら、後に続いていく。
ユディは、先を行く華奢な背に、やはり眩し気に目を細める。
「トンネルって、光を照り返すから、地面も壁も潤っているみたいだ」
「確かに、言われてみれば、我々は水の上を歩いているかのようです。このトンネル自体が、磨き上げられていると感じるくらい、大事に手入れされているからでしょうね」
ユディとリコリネの言葉に、先を行く少女は、くるりと振り向いて、後ろ歩きをしながら進んでいく。
「わは、面白いことを言うな! 光は水で、水は光か。たしかに、海の上を照らす月明かりは、黄色い煉瓦の道に見える時がある。煉瓦の道の先は、エメラルドの都がある」
「ほんとに?」
「パルカは見たことがないけどな!」
「また適当言って!」
「ふふ、いいではありませんか、主。そんな夢のような光景は、少なくとも私の頭では思いつきません。パルカティナ殿の頭の中にあるものを、おすそ分けして貰った気分です」
リコリネの言葉に、少女はにひひと笑う。
「だが、リコリネ。パルカの頭の中は、あまり見ない方がいいかもしれない。例えば、四角、という言葉で、ユディは何を思い浮かべる?」
「ええ…? そうだなあ、普通に、紙に書かれた、四つの点を繋ぐ線かな」
「そうか。だが、パルカにとっては、それと同じものがたくさんある。鳥の死骸を四つ並べて作った四角と、紙の上に書かれた四角の線。そこに大きな違いは感じない。どちらも四角だ。だが、ユディの中ではそれは違うのだろう?」
「そう…だね。鳥の死骸、というものに付随してくる感情が、それらを違うものに至らしめると思う。あくまでも、僕の中ではね」
リコリネは驚いたように、フルフェイスの中で瞬きをした。
「それは…。パルカティナ殿は、とても大きな視点をお持ちなのですね。まるでこの世界を、はるか高みから俯瞰されているようです」
「わは! 言い得て妙だな、リコリネ」
「じゃあ、パルカティナにとっては、僕もリコリネも、同じく人間って生き物であって、同じものに感じる?」
ユディの問いに、少女は難しい顔をして、くるりと前に向き直る。
「りろんてきには、そのはずなのだが。しかし、この論理的思考が上手くいかない。例えばパルカに、人の意識の中に潜む能力があったとする。乗り移る、という感覚でもいい。パルカは戯れに、リコリネの意識の裏側に潜んでみたとする。そして、リコリネの過ごす日常をパルカも経験してみる。だが、何度シミュレーションしてみても…最終的には、パルカは発狂するだろう」
「私の意識は正気を保って居られないほどのものという意味でしょうか!?」
ショックを受けているリコリネを、少女は笑い飛ばした。
「わは! 違う違う。人間というものを、よくよくカンサツしてみると、わかるぞ。こうして歩いているだけで、同じ場所にじっと視点を定めていられる人間はほとんどいない。一瞬のうちに、あちこちに視線は動き続ける。特に、警戒をしながら進む場合は顕著だ。同じように、思考の中身も、忙しい。一瞬のうちに、二個も三個も同時に考えたりする。極度の緊張の中で、なぜか晩御飯のメニューを考えたり、死の間際に、あたたかな思い出を振り返ったり。感情も忙しい。もちろん、無意識下でのことなのかもしれないが」
ユディは、それらを想像するように、少し考えこんだ。
「…言われてみれば、そうだね。僕の意識はどこについていけばいいかわからなくなって、置いてきぼりになる…どころか、意識の波に流されて、溺れ死んでしまいそうになるかもしれない」
「そうだ。同一人物であれば発狂はしないのだろうが、どうしても溺れ死ぬ、という結論になる。人間は果てしなく、途方もなく、感情にひとつとして同じものはなく、ゆえに一人として同じ者は居ない。だから、ユディとリコリネは、パルカにとっては同一人物にはなりえないのだろう。パルカが、パルカという個を持つように」
少女は、平均台の上を歩くかのように両手を広げて、素足を慎重に前に出す。
遊ぶような歩き方。
「だが、それに気づいた時、わかったことがある。なぜ人は、近しいものが死んだ時に悲しむのか。パルカには、それはずっとわからないことのひとつだった。死ねば精霊の元に還ることができるのに、何を悲しむのか。…死ねば、個が失われるからなのだな。もう二度とその者と話せなくなるのは、確かに悲しむべき事柄なのだろう」
少女は、すぐに何かを思いついた様に、くるりとまたユディたちの方を向いて、カンテラの明かりの方へと寄ってくる。
「だが、面白いと感じる部分もやはりある。自分の背中を正しく見ることができないように、自分の死というものは、死んでしまった時点で、自分ではきっと認識できない。人間には、他者の死しか、把握できない。他者を鏡として、ようやく死というものを把握できるというのなら、認識できる死は自分には無いもので、他人のものでしかない。これは少しだけ面白く感じる」
少女は、またカンテラの前で、手を合わせて影絵を作り始める。
「がおー、オオカミだ!」と楽し気に笑っては、壁の方を見て、出来具合を確かめている。
リコリネは、申し訳なさそうに項垂れている。
「確かに、返す言葉もありません。私の場合は、完全にそのようにできておりますね。自分の死は見えないため、それに無頓着になっています。私は私の命を惜しみません。主とリルハープ殿が惜しんでくださるから、今を繋いでいるだけです」
「ほらリコリネ、落ち込まないで。別に責められているわけじゃないから…。僕だって、なんとなく自分は死なないって思っているわけだし、死は遠いものだと思っていたよ。いつも、他人のものでしか感じられなかったから、っていうのが原因だったんだね。パルカティナの視点こそ、僕にとっては面白く感じるよ。やっぱり精霊教の巫女をやっているから、視点が精霊に近づくとか、そういう感じなのかな」
ユディは、壁に映るオオカミの影絵を見ながら問いかける。
少女は、こくんと頷いた。
「それはある。パルカは精霊を、とてもよく知っている。彼らは高次元の存在だから、ユディたちの視点とは見えているものが違う。例えば精霊にとって、『赤ちゃんが生まれた』と認識していたものが、人間の視点では、『双子が生まれた』となる場合がある。だからたまにだが、見逃されて、祝福を与えられない子ができる」
「それは、なんといいますか、なかなか大雑把な視点なのですね。先程パルカティナ殿が言っていた、四角が同じ、という言葉の意味がわかったような気がします。観念的な視点とでもいうのでしょうか」
リコリネが、興味深げに感想を述べる。
その間にも、少女は影絵に満足して、また素足でぺたぺたとトンネルを進み始める。
まだ、出口は見えない。
「じゃあ、パルカティナ。精霊を良く知ってるってことは、腐食の精霊が暴走したとか、そういう話は聞いてない?」
ふと、ユディが問いかける。
少女は前を見たまま、ごく普通に返事をした。
「あれは、さっき言ったことと同じだ。『最終的に、発狂をするだろう』と、そう言ったのと同じ。技術や知識は一度知ってしまえば、知らなかった頃には戻れない。便利さも同じくだ。つまり、エメラルドの都だ。黄色い煉瓦を辿って行けば、エメラルドの都に辿り着く。この話を、パルカはもう知ってしまっている。知ってしまったからには、黄色い道を見ると、いつだってそれを連想してしまうだろう」
少女は、一度言葉を千切り、また話し始める。
「ずっとずっと、そういった知識が、文化が、望む望まないにかかわらず、無作為に、なんの意味もなく、流れ込み続けるのだとしたら? 百年、千年と、それが続いていったとしたら?」
リコリネは、恐れるように息を呑んだ。
「それは…想像もつかないのにこう言ってしまうのは気が引けますが、…たしかに気が狂ってしまいそうですね…」
「そうだ。そして、力の少ないものから、徐々に限界が訪れる。次は、錆の精霊あたりだろうか。ユディたちも気をつけろ」
「うーーん、気を付けて何とかなるのなら、そりゃいくらでも気を付けるんだけどなあ…」
少女の言葉を聞き、ユディは悩ましげにそう述べた。
「それは精霊側には、どうしようもならないのですか?」
リコリネの質問に、少女は少し唸った。
「精霊は人間と違い、肉体というガードが無いからな。割とダイレクトに概念が蓄積していく。しかし…。おそらく、本気でどうにかしようとすれば、なんとかできたのだろうと思う。だが、どうしても、それができない」
「それはどうして?」
不思議そうなユディの問いかけに、少女の背は、痛ましげに肩を落とす。
「…来訪者が訪れるまで、この世界は、かつてとても優しい世界だったからだ。はるか昔には、憎しみも争いもない世界だった。負の概念がなかったのだから、それらは心の中のどこにも存在しなかった。弱り切った者には必ず手を差し伸べる、そういった者であふれていたのだ。つまり、精霊は、あの者達を、拒絶することはできない。どうしても、あの哀れな者どもを、愛してしまうのだ…人間に対する感情と同じように。精霊とは、そういうものだ」
「哀れな…者? …そうか、確かに、どこか別の場所からの文化が染み出してきているのだとするのなら、…文化を生み出してきた人間が存在するって話になるのか。なぜか、そこに思い至らなかったな…」
「そもそも、あれらは既にただの現象と言える。悪意も何もない、ただの現象だ。現象を憎むのは、難しい」
「現象……」
思案するユディを邪魔しないように、リコリネがそっと、最小限の動きで周囲を見渡した。
「…それにしても、まだ出口が見えないのですね。坑道でもありませんのに。これほどまでに長いトンネルというものは、あり得るのでしょうか?」
リコリネの言葉に、少女は顔だけで振り向く。
「わは! ひょっとしたら、ユディとリコリネは、この場所を好いている精霊に気に入られたのではないか? 二人とも、普通の人間よりも、精霊の存在を感じやすくなっているのだろう?」
「え……そうだっけ?」
ユディが首を傾げると、リコリネは「ああ、」と思い立ったようにフルフェイスを向ける。
「ひょっとして、約束の民のヒニア殿がおっしゃっていたことでは? 妖精と長く過ごすと、精霊の存在を感じやすくなる可能性があると」
「それだ。だが、少し違う。『妖精が心を許した人間』でないとならない。パルカたち四人は仲が良いからな、そういうことなのだろう」
「なるほど…。トンネルから出られなくなるのは困るけど、精霊と接触できるんだとしたら、ちょっと興味があるなあ。パルカティナ、何の精霊がこの場所を好いてるって?」
ユディの問いに、少女は当たり前のように答える。
「明暗の精霊だ」
「明暗…? 聞いたことがありませんね」
首を傾げるリコリネに、少女は笑う。
「わは! それはそうだろう。例えば、ちょっとそこまで買い物に行くという用事があったとして、いちいち足元にちゃんとした地面があるかどうかを、一歩ずつ確認しながら進む人間は居ない。それほどまでに、あって当たり前のものだからだ。そして、外が明るいのも、暗くなるのも、当たり前だ。誰も、そこに精霊が居るとは考えない」
「でも、実際は居るのだとしたら、それって、寂しいことだね…」
ユディが、もどかしそうにそう言うと、少女は少し嬉しそうにした。
「だが、仕方がない。認識されないということは、そんなに大きな力も無いということだ。力が無いということは、人間に祝福を与える余力もないということだ。だから、余計に認識されなくなる。自然な話だ」
少女の言葉に、リコリネは思案を続ける。
「前から疑問に思っていたのですが。…例えばその明暗の精霊がお亡くなりになると、世界から明かりが消えてしまうというのでしょうか? 精霊に死の概念があるのかどうかはわかりませんが」
「それはないな。1+1=2である、という数式を考えた学者が居たとして。その学者が死ぬと、その数式は消滅するかというと、そんなことはないだろう。明暗の精霊が消えても、世界は今まで通り、続いていくのだろう。…だが、それならば、なぜ、弱い精霊は発生してくるのだろうな。まるで意味が無いように感じるが。大精霊様のお考えは、よくわからないな」
少女の言葉に、今度はユディが首を傾げた。
「それは、人間と同じなんじゃないかな? 世界的に大きな意味を持って生まれてくる人間って、そんなにいないような気がするし。ギュギュだって、生きているだけで偉いって言ってたじゃないか。ちょっと言い方が悪い表現になってしまうけど、きっと、そこにいるだけでいいってこともあるんじゃないかな。だって、たくさん居る方が、楽しいじゃない? 人の数だけ、色々な考え方も生まれて、笑い声も増えて。拍手は一つよりも、たくさんあったほうが、音が賑やかで楽しいのと同じで」
「楽しい…」
少女は、ぴたりと足を止めた。
ユディたちも、釣られたように足を止める。
少女はもじもじと、素足の親指で落書きをするように、地面をうりうりとつついている。
「……。……ユディ、リコリネ。他に、聞きたい話はないか? 何でも答えてやるぞ! その代わり…。パルカと、遊ばないか?」
ユディもリコリネも、きょとんと瞬きをした。
「なんだ、パルカティナは遊びたかったの?」
「ふふ。それならそうと、早く言ってくださればよろしいのに」
「いいよ、何して遊ぼっか」
「ですが、場所が場所ですからね。狭い場所で、道具もない遊びなど、限られてしまいますよ」
ユディとリコリネが、どんどんと話し込んで行っているのを見て、少女は面食らったような顔をする。
ユディは、微笑みながら少女の方を見る。
「パルカティナ、何して遊びたいーとか、リクエストはある?」
「…い、いいのか?」
「もちろんですよ、パルカティナ殿」
二人の言葉に、少女はもじもじしながら向き直った。
「その…。パルカは巫女だから、遊びなどは、あまり、知らないのだ。そして、物質を触ったりもできないから…。提案はできない」
「へええ、巫女って色々と制約があって大変そうだね? じゃあ、ハンドフリーで、簡単に遊べるものがいいのかな」
ユディはちょっと悩むと、名案を思いついたと言いたげに、顔を上げた。
「そうだ、秒当てゲームとかはどうかな? リコリネが頭の中で秒数を数えて、ストップっていった時に、パルカティナが何秒だったかを当てるゲーム」
「……主、それは……」
「ユディ、地味すぎるな…」
「主はそれをやって楽しいのですか?」
「ユディはもうちょっと派手な遊びを考えた方がいいぞ、ストレスが溜まるだろう」
「畳みかけるように心を抉ってくるのやめてくれない!!?」
ユディは一人で心にダメージを負っている。
「ふふ、冗句ですよ、主。しかし、狭い場所で、道具も使えないともなると、地味な遊びになるのは必然かもしれませんね」
リコリネが、フォローするように言葉を添えた。
少女は、「そうか…」と残念そうにうつむいている。
だが、ユディは諦めなかった。
「いいや、制限が多いほど、工夫を凝らすことができる。僕はこの方が俄然燃えるね。そうだな……」
考え込むユディを、少女とリコリネはじっと見つめた。
やがて、ユディは顔を上げる。
「…思いついた! 何も、競い合うゲーム風にするだけが遊びじゃない。ごっこ遊びをしよう!」




