23修練都市
ユディたちは、修練都市でのんびりとした日々を送っていた。
祭りの後の街は、アルコールの抜けた酒のようで、人々は気の抜けたような表情で、まったりと日々を過ごしているように見える。
リコリネは、いつものように日記と手紙を送る作業をした後、さて賞金首を狩るかと出向いたところ、この街の賞金首事情を知ってがっかりしている。
なんでも、この街は見習い騎士たちの修練の一部として、賞金首を狩ることを義務付けられているそうで、たまに賞金首が発生したかと思うと、目を血走らせた見習いたちの群れが襲い掛かり、数日のうちに退治されてしまうという。
「いえ、私の出番がないのは、いいことです、きっと…」
宿の部屋で、リコリネはそう自分に言い聞かせている。
「となると、何して過ごそうかって話になるね。…そうだ、交流区もあるし、楽師みたいな活動をして、路銀を稼いでみようかな」
ユディの言葉に、リルハープはふわりとユディの肩に舞い降りる。
「それはステキですね~~、路上でオカリナを吹くのですか~~。ご主人サマは黙っているとカッコイイですし、きっとアシュアゼみたいにきゃーきゃー言われるに違いありませんよ~~! リルちゃん自慢です~~! ご主人サマはリルちゃんのアクセサリみたいなものですからね~~っ、みんなに見せびらかしたいです~~」
「えっ、リルハープ、僕のことそんな風に思ってたんだ…!?」
「! それはダメです、いけません、ラブロマンスが生まれてしまいます!」
咄嗟に止めてくるリコリネに、ユディもリルハープも驚いた。
「まあリコリネ~~、ご主人サマにラブロマンスが生まれては問題があるのですか~~?」
リルハープが、わくわくしながらリコリネを窺う。
ユディは、ちょっとドキッとしてしまった。
「はい、問題しかありません。主は、ご自分が見目麗しい部類に入る事実を、もっと自覚するべきでしょう。そして一途な女性とは、時には突っ走ってしまうものです。主に惚れ込んだ挙句、自分だけのものにしようと画策し、最終的に主を包丁で殺傷する未来がありありと浮かびます」
「それをラブロマンスと表現するのは許しませんよ~~!!?」
リルハープがキレ気味に突っかかっていく。
「リコリネはちょっと僕を殺し過ぎじゃないかな……」
ユディはがっくりと項垂れる。
リコリネは、淡々と応じた。
「しかし、必要な想定です。私は必要なことをするのに、努力を惜しむ気はありません。幸い、硬貨袋の中身に余裕はありますし、アシュアゼ殿が戻られるまで、ゆっくりと過ごしましょう」
「まあ、そうだね。きっとあっという間に過ぎていくだろうし。変だよね、リコリネを待っていた三年間は、異常なほど長く感じたのに。実はこの間、リコリネが畜産の村での出来事を『随分と前』って表現してビックリしたんだよ。僕の中では、ついこの間みたいに思っていたから」
「ご主人サマはぼんやりさんですからね~~っ」
「あははっ! なんだかそう言われるのは久しぶりな気がするなあ。リコリネ、僕らが再会してから、もうどれくらい経っているのかな?」
リコリネは、一瞬言葉に窮した。
「……すみません。まさかそのようなことを聞かれるとは思わず、まったく意識しておりませんでした。結構な時間は経っているはずですが…。主がお望みなら、ガッディーロの方へと手紙を送り、私の出立がどれくらい前に行われていたかどうか、正確な時間を送って貰う流れにもできますが、いかがでしょうか」
「ええ? いや、そこまでしなくていいよ、パっと答えられるんだったら聞いてみようかと思っただけで…!」
「いえ、しかし、考えてみれば私は、主の管理栄養士ならぬ、管理時間士を名乗ったこともありました。ですが実際は、主との旅に浮かれてこの体たらく。情けない……」
「リコリネ、大袈裟になってるから…!!」
「そんなことはありません、これは反省すべき点です。次こそは、きちんと主との時間を把握してみせましょう!」
「いいんだって、浮かれてくれていたんだったら嬉しいからさ!? むしろもっと天空まで浮いてくれていいから! ただでさえリコリネは重たいんだし」
「むかっときました」
「リコリネはご主人サマのぼんやりさんが移ったのかもしれませんね~~、リルちゃんも気を付けないと~~っ」
ところが、そこから意識的に過ごしてみても、やはり時間はあっという間に過ぎた、としか表現できない。
結局ユディの装備を新調することにしたり、リコリネは鍛冶屋に大槌の調整を頼んだりと、なんだかんだでやることがあった。
「やはりギミックを入れると強度に問題が出てきますね、武器の改良点を実家に送る必要が出てきました」
「リコリネの家はなんでそんな武器商人みたいなことになっているの?」
「新しい事業に枝葉を伸ばすのが、繁栄の秘訣ですよ。元々、材料となる鉱石は山ほど掘り出せる土壌ですからね。一度だけガッディーロの方に帰る必要がある、とお伝えしましたね。あれも、新しい試作武器の交換に行く必要があるためです。その次からは、ガッディーロの方から使者をこちらに送ってもらう予定ですが」
「ええ…? 随分と先を見通した予定を立てているんだね」
「長旅ですからね。私も援助が受けられ、実家もデータを得られる、一石二鳥です」
そんな話をしたりした。
リルハープは、その日の気分で、リコリネの部屋で寝たり、ユディの部屋で寝たりと自由に過ごしている。
しかし、ユディの部屋で寝るときには、必ずピノッキオの絵本を読むのをせがまれた。
「リルハープ、よっぽどこの本が気に入ったんだね?」
「リルちゃんはそのメガミサマみたいになりたいのです~~っ、癒し系ですから~~」
「その癒し系の妖精に、僕は何度心を抉られたかしれないんだけど?」
とはいえ、なんだかんだで、ユディもその時間を楽しんでいた。
姉のことは、いつものように、なんとなく思い出せそうで、思い出せない。
だが、記憶の切れ端みたいなものは、やはり自分の中の果ての方に、確かにあるような気がする。
姉のことを思い出せたら、自分の本当の名前も思い出せるのだろうか。
大陸情報倶楽部の掲示板で、すぐに終わらせられそうな短期の依頼を見つけたり、「三年階段」と呼ばれるくらい長い階段に挑戦してみたり、修練都市を隅々まで楽しんでいたある日。
宿の戸がノックされ、サラルディンが顔を出した時には、「え、もう?」と口に出してしまった。
サラルディンは、思わず笑う。
「どうやら日常を満喫したようだな。俺からすれば、ユディエル殿も、リコリネ殿も、こうした穏やかな生活の方が向いているように見えるが。待ち受けているのは過酷な旅路とは、なかなか難しいものだな」
そう言ってから、前と同じく、次の日に七翼用の宿舎で待つという伝言を残して去って行った。
「…だそうですよ。主、旅を終えたら、穏やかな生活を満喫しましょうね」
リコリネはそう言って、フルフェイスの中で微笑んでいる。
リルハープは、自由時間を満喫するようにパタパタしながら、ユディの方を見ている。
ユディは頷いた。
「…そうだね。でも、困ったな。やりたいことも、行きたい場所も、どんどんと増えていっているよ」
「それは、嬉しい困りごとではないですか~~?」
「確かに。リコリネとリルハープが居れば、どこでだって僕は幸せなんだろうからね」
「……ええ」
「そうですね~~っ」
ユディは窓の外に目を向ける。
時折思い出す、ライサスライガの顔。
ユディアールとシグナディルのコンビ。
もう会えないジャンティオール。
記憶の中のウェイスノーは、いつも軽い笑顔だ。
そこに、テリオタークの後姿や、片目をつむったギュギュの顔も浮かんでくる。
このまま大事なものが増えて行けば、いつか破裂してしまうのではないだろうかと、そんな馬鹿なことを考えた。
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「待ちくたびれたぞユディエル、なんだ、普通は朝イチで来るものではないのか!」
「アシュアゼさん、結果の方はどうでしたか?」
ユディとリコリネは、前と同じように、アシュアゼの対面に座る。
リルハープは、彼女なりにアシュアゼが気に入っているようで、ちょこっと胸ポケットから顔を出している。
「おいっ、どういうことだ、いきなり結論から入るとは! お前は会話の妙も知らないのか、そんなにワタシとの会話を楽しむ気が無いのか!」
「嫌だなあ、これから騎士国家までアシュアゼさんと行動を共にしなきゃならないんですから、余計な会話はその時に否応なしに発生するじゃないですか」
「余計だと…!!」
「アシュアゼ様、とっとと話を進めてください、日が暮れてしまいます」
サラルディンが、抑揚のない声でそう告げると、アシュアゼは足を組んでソファに凭れた。
「フン、まあいい。制の翼と話をしてきたぞ。結論としては、案の定、ヤツはあっさりとモノガリを諦めた。まったく、大変だったぞ、自慢話を装うのは」
アシュアゼは大袈裟に首を振って話を続ける。
「ここだけの話だが、と念を押されて、ヤツは畜産の村にモノガリが出没したと語ってきた。それを公に晒さずにいたのは、至の翼を警戒してのことらしい。制の翼のヤツは、我々七翼のパワーバランスが崩れるのを憂慮している節があってな。そして、力の精霊の祝福を受けている至の翼は、常に七翼の中で最強であろうとする悪癖がある。それも、騎士王のためではなく、自分のためにだ。まったく、野蛮なことだよ」
アシュアゼは、やれやれとため息をついた。
「とりあえず、モノガリは潤の大陸の方へ行ったと伝えておいた。お前たちは安心して閃の大陸へと行くがいい。制の翼のヤツは、別の目当てにターゲットを変えると言っていたからな。もはや約束されたようなものだ、安全は」
「別の目当てとは?」
リコリネの質問に、アシュアゼはどうでもよさそうに答えた。
「なんでも、大陸情報倶楽部の創始者、ディエルという男をスカウトしたいらしい。あのような組織を即座に創り上げた手腕と頭脳をかなり高く評価しているとかで、何度もディエルに面会を求めているそうだ。鉄壁の守護らしく、なかなか叶わないらしいが」
「………」
ユディは、内心で冷や汗をかいた。
アシュアゼはそれには気づかずに語り続ける。
「お前達は知っているか、タイジョウを。あれはなかなかいいぞ、あそこで得た節約術がどれほど役に立っているか!」
「七翼がそんなことを調べているのですか~~!?」
リルハープの言葉に、アシュアゼは自慢げに胸を張る。
「そんなこととはなんだ。これだから妖精は人間社会の世知辛さをわかっていないのだ。自慢じゃないが、ワタシはファンの女の子からの差し入れで食いつないでいるのだぞ!」
「毒殺を警戒しないのですか…!?」
リコリネが驚いている。
ユディも続いて質問をした。
「待ってください、七翼ってそんなに給料が少ないんですか…!?」
「少ないわけではないが、多すぎもしない、といったところか。そもそも、我らが王のモットーは、『清貧』だからな。が、一番の原因は、収入に対して支出が多すぎるところにある。どこぞの守銭奴に加えて、多いのだ、弟や妹が……。そして仁の大陸は、『世界で一番安全な大陸』を自称しているからな、そのぶん税が重い面もある。まあ、騎士は税を免除してもらってはいるが、ワタシに何かあった時のために、少しでも蓄えは残しておきたい…」
アシュアゼは、苦痛に満ちた表情で額を抑える。
実際に、アシュアゼをあと一歩で殺してしまいそうだったユディは、罪悪感で視線を逸らした。
「それに加えて、アシュアゼ様は処罰として、生涯にわたり給料を減らされているという部分もある。これが一番身に堪えると読まれているためだろう」
「サラルディン、それは言うべきことではない!」
アシュアゼは、鋭くサラルディンを咎めた。
ユディは一瞬何の話かわからなかったが……、処罰と言うからには、報告を隠蔽したことに対するものだろう。
ユディは気づいた。
アシュアゼは、この件について、まったく言い訳をしない。
「というわけで、実はお前たちの滞在費についても失念していたわけではないが、どうか見逃してほしい……」
「……。さすがにそこまで聞いて取りませんよ滞在費なんて。安心してください、僕らはアシュアゼさんよりはお金持ちですから。むしろ情報料とか協力費を渡したいくらいです」
「くっ、なめるな、そこまで落ちぶれてはいない…!!」
ユディの言葉に、アシュアゼは辛そうにしている。
「アシュアゼ~~、リルちゃんの飴を一個分けてあげますよ~~?」
リルハープはとても同情している。
「うるさいうるさい、飴百個なら貰ってやる! 一番下の妹が喜ぶからな!」
アシュアゼはやけくそ気味に叫んだあと、同情を振り払うように、だーッと腕を振った。
「とにかく! まあ、報告は以上だ。上々の結果と自負しているぞ」
「…そうですね、ありがとうございます。それにしても、七翼でも人間関係があるんですね?」
ユディの言葉に、アシュアゼはフンと鼻を鳴らす。
「そりゃそうだろう、騎士と言っても、所詮人間だからな。制の翼は裁の翼と仲が良かったり、至の翼は誠の翼と張り合っていたりと、色々あるぞ」
「それは興味深い。アシュアゼ殿はどなたと仲がよろしいのですか?」
「………」
リコリネの質問に、場がシンと静まりかえった。
沈黙に耐え兼ねて、リコリネが小さく言葉を添える。
「あの…。…申し訳ありません、忘れてください」
「ええい謝るな! それでユディエル、騎士国家へは明日にでも出立できるのだろうな?」
「はい、おかげさまでゆっくりできました。アシュアゼさん、道中で変わった話はありませんでしたか? 一応、モノオモイのものと思わしき事件があったら、僕は行かなければならなくて」
「はっは、バカを言うな。あったとしても、お前のような一般人に話すわけが無かろう。仁の大陸のことは心配するな、我ら七翼が居るのだからな。それよりも、お前はとっととモノノリュウとやらを倒しに行くがいい。それはおそらく、お前にしかできないのだろう。まあ、万全の準備が必要だろうからな、急かすつもりはないが」
「そう…ですね。最初は急いでいたんですけど、最近はモノオモイを探しながら、旅を楽しんで進むようにしています。…あ、ちなみに僕たちは徒歩なんですけど、いいですか?」
「なんだと!? ちっ、仕方がない、ワタシの騎乗鳥に乗せてやる…。サラルディン、お前はリコリネを乗せてやれ!」
アシュアゼの言葉に、サラルディンは、言葉少なに動揺をしている。
そして、物言いたげに、全身鎧のリコリネの方を見た。
ユディもリルハープもアシュアゼも、順番に、重装備の上に大槌を背負ったリコリネに目を向けていく。
「……そうだったな、リコリネは無理か。ならば行くしかないか、徒歩で……」
「お待ちください、どういう意味でしょうか。この鎧は見た目には頑健に見えましょうが、重さは普通のものよりも軽いのですよ!」
「アシュアゼ様、たまには徒歩で行くのも一興かと」
「フン、ワタシは体力バカと違って繊細なんだ、ユディエル、お前は私の騎乗鳥の手綱を引くように。私は乗っていくからな!」
「まあ、仕方ないですね、こちらに付き合ってもらうわけですし…」
「お待ちください!」
リコリネは最後まで抵抗したが、結局リコリネ以外で話が進んで行き、徒歩で行く流れとなった。
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「ふーむ、小鳥のさえずりが聞こえるな。幾年ぶりだろうか、このようにくつろいだ旅路など」
アシュアゼが、騎乗鳥にまたがったまま、物珍し気に周囲を見渡している。
前を歩くリコリネが頷いた。
「わかります。私も、主との旅を経験していなければ、このような時間は、ただの移動時間にしか過ぎなかったでしょう。しかし今や花の造形の美しさにまで感銘を受ける始末。随分と心が豊かになったように感じます」
「お前……随分と乾いた人生を送ってきていたのだな……。さすがのワタシも花をめでる程度の感受性くらいは、生まれながらに有しているぞ…」
アシュアゼが、ちょっと同情したようにリコリネを見る。
最初はユディがアシュアゼの騎乗鳥の手綱を引く予定だったが、リコリネはちょっとでも騎乗鳥と関わりたいらしく、率先してその役を買って出ていた。
サラルディンは、自分の騎乗鳥の手綱を引き、前を見たまま喋る。
「こちらとしては、アシュアゼ様は少々鈍いくらいが助かるのですが。そのうち砂が目に入った程度で騎士をやめると言い出しそうで、気が気じゃありません」
「サラルディン、お前は目に異物が入った時の痛みを知らないからそう言えるのだ! ワタシは逆まつげでな、その上長いから、困る」
「アシュアゼは地味な苦労話をさせると右に出る者がいませんね~~っ」
リルハープは、珍しいことに、アシュアゼの肩に座っている。
同情がきっかけとはいえ、どうやらかなりアシュアゼを気に入っているようだ。
野営の時も、先輩風を吹かせて、あーだこーだとアシュアゼに指示を出していた。
アシュアゼはアシュアゼで、リルハープの助言で森に自生している果物を採っては、「これで保存食の代金が浮いたな」と純粋に喜んでおり、徒歩での旅をとても楽しんでいた。
意外にもユディは、アシュアゼとの旅を楽しめていた。
アシュアゼはもっと我儘を言って困らせてくるのかと覚悟していたのだが、ちょっと注意すると、「そうか、従おう。旅ではユディエルの方に一日の長があるのだろうからな」と素直に受け入れてくる。
ひょっとしたら、根はいい人なのかもしれないな…とユディは思った。
いや、そもそもアクが強いだけで、アシュアゼは民を守る騎士の一人だ。
ユディは、そこに目を向けなかっただけだった。
「え……あれが騎士国家…?」
ようやく見えてきた建造物に、ユディは驚いた。
アシュアゼは、悠然と頷く。
「わかるぞユディエル。ワタシもそうだった。物語に出てくるような、巨大なキャッスルがそびえたっているのではないかと胸を躍らせていたところへコレだ。拍子抜けだろう」
遠目に見る限りでは、塀に囲まれた騎士国家は、そこまで他の街と違いがないようにしか見えない。
つまり、ここからでは、ほとんど塀しか見えないのだ。
もちろん、今まで見たどの街よりも塀は高く、堅牢で、その上を歩く見張りの騎士の姿も見える。
だが、突出して高い建物と言えば、細い塔のようなものが一本見えるくらいだろうか。
大きな城がドーンと突き出ているような光景はなかった。
サラルディンが言葉を添える。
「もちろん騎士王の住まいは我々庶民からすれば大邸宅なのだが、まあ、城かと言われると、微妙なところだろう。貴族や大商人の方が、よほど無駄のある贅沢な暮らしをしていると言える」
「なるほど…。本当に、『清貧』を旨とされているのですね。何代目の王かは存じませんが、代々でそのような志を受け継いでいるとは…ある種の感銘を受けます」
リコリネが、感嘆交じりに呟いた。
アシュアゼが、我が事のように、騎乗鳥の上で胸を張る。
「そうだ! だからこそ、厚くなるばかりでな、民の尊敬は! よく言うだろう、『真・人間は、人柄、人柄、そして人柄』。まさにこの格言を体現したような方が、騎士王なのだ!」
「そんな格言聞いたことがないですけどね…!?」
ユディが思わず言うと同時に、アシュアゼの肩に乗っていたリルハープが、パタパタとユディの胸ポケットに向けて飛んで行く。
「リルちゃんはそろそろ隠れる準備ですね~~っ」
「なんだ妖精よ、そこが定位置か。いいのだぞ、ワタシの羽根飾りに隠れても!」
アシュアゼも、なんだかんだでリルハープが気に入っているらしい。
「アシュアゼはどうせ女の子にキャーキャー言われて大注目を浴びますから、隠れ場所には向いていません~~っ! その点ご主人サマは路傍の石のごとき地味っぷりですから安心なんですよ~~! リルちゃん自慢です~~っ」
「リルハープ、自慢げに僕を貶めるのはやめてくれないかな?」
ユディはさりげなく傷ついている。
「いや、どうだろうな。傍目から見ると、リコリネ殿とユディエル殿の二人組は、妙に目立つものと思うが…。特に今現在の我々の状況などは、『四人はどういう知り合いなのか』と多くの者が疑問符を浮かべるのではないかと」
サラルディンの言葉に、リコリネは真面目に現状を振り返る。
「……そうですね。さしづめ、騎士が三人がかりで犯罪者を連行している場面でしょうか」
「リコリネ、犯罪者って僕のこと!!?」
「冗句です、冗句ですよ、主」
「ぶわっはははは! 言うではないか、リコリネよ!」
アシュアゼのツボにはまったらしく、メチャクチャうけている。
「いや、事実、ユディエル殿は、我々が三人がかりにならないと勝てない相手だろう」
サラルディンが、柔らかくフォローしてくる。
リコリネは、わくわくしながらアシュアゼを見た。
「アシュアゼ殿、今のは何百アシュアゼですか?」
「こら!? 何をしれっと単位を上げているのだ!? その手には乗らんぞ、もうアシュアゼポイントは廃止だ廃止…!!」
「そうですか、残念です……」
門番は、この騒がしい集団を遠目に見て、即座に七翼の一行だと理解したように、背筋を伸ばしている。
ユディはそれを見て、「七翼はみんなこんな感じなのか」と聞こうと思ったが、なんとなく知らない方が幸せに感じたので、黙って門番の隣を通りすぎていく。
(騎士王…。一体どんな人なんだろう)
緊張と共に、ユディは騎士国家に足を踏み入れた。




