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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第二章 ふたりめ
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17医療都市

 次の日から、ユディたちはじっくりと医療都市の観光を始める。

 医療都市は、湖に寄り添うような白い街だった。


「そういえばリコリネ、体調について相談したいこととかない?」


「主は本当に心配性ですね、大丈夫ですよ。いやらしい話をしてしまうと、ガッディーロ家は裕福ですからね。私の療養期間中に、既にこの街から高名な医者を呼んで診て貰っています」


「ああ、なんだ、よかった…」


「それよりも。先程、宿を出るときに街のパンフレットを貰って来たのですよ。どうやらこの都市には、医療区のほかに、心を鍛えるための瞑想区、そして気持ちを癒すための相談区、などがあるそうです」


「…なんていうか、渋い街だね?」


「そうでしょうか。私などは、瞑想区の百日説法などが気になりますね。時間があれば受けてみたいほどです」


「無理やり観光名所を作ろうとした感が否めませんね~~っ」


 リルハープはいつものように、ユディの胸ポケットからこそっと顔を出し、リコリネの言葉への意見を言っている。

 ユディは改めて、白い街並みを見渡した。


「やっぱり仁の大陸って言うだけあって、人と人との関わりに重きを置いた街づくりをしているんだね。リコリネは瞑想区、僕は医療区に興味があるって感じかなあ」


「いけません、主」


 リコリネが、珍しく強い口調で反対をしてきたので、ユディは驚いてフルフェイスを見る。


「医療区へは、お互いに近づかないようにしましょう。なぜなら、主は怪我人を癒せる能力を持ってしまっているからです。そして主は、百人のうちの一人を、気ままに選んで治療する、などという芸当はできない。また、必要とされれば、その分を動いてしまう。おそらく、倒れるまで。もちろんこれは、可能性の話でしかありませんし、怪我人が道端に野ざらしになっていることも無いとは思うのですが、念には念を入れたいのです」


「……確かに、君の言う通りだ。僕は去り時を見失って、この街に骨をうずめる可能性が高い」


「そうなりますね。ゆえに私は、断固として反対をします」


「わかった。それ以外を見て回ろう」


 ユディは強く頷くと、リコリネはほっと一息をつき、パンフレットに再び視線を落とす。


「あちらが、ハーブ園への道となります。薔薇園や、湖でボート遊びなどなど、景観の美しさで息抜きができるようにもしてあるそうです」


「へええ、それは仕事で疲れた人には嬉しい作りだね。医療都市っていうから、もっと堅苦しい場所なのかと思っていたよ。嬉しい誤算だ」


「よかったですねご主人サマ~~、リコリネと一緒に来るからって、仁の大陸や閃の大陸はあまり調べずにいましたからね~~っ」


「こらリルハープ! そういうのは黙っておいてくれないと…!」


 ユディとリルハープのやり取りに、リコリネはフルフェイスの中で、はにかむような気配を浮かべた。


「…ふふ、嬉しいです。しっかり満喫しましょうね、主。なにせ賞金が入ったばかりですから、遊びたい放題ですよ」


「リコリネ、すっかり所帯じみたことを言うようになって…。ひょっとして、まだ仕送りをしたかったりするのかな?」


「はい、そうですね。やはり孤児院というものは、そもそも儲かるような施設ではありませんので。ガッディーロの支援もありますし、ウェイスノー殿が頑張って賞金稼ぎをしてくださっていますから、大丈夫とは思いますが」


「ああ、そうか、そういう流れなのか…。じゃあ、後で騎士団の詰め所に寄って、賞金首の顔でも拝んでこようか」


「いえいえ、主、そこは私の方の事情ですので、お気になさらず。しばらくはたくさん遊びましょう。私もその方が嬉しいです。…とはいえ、今日のところはざっと計画を立てるくらいにしておきましょう。私事で恐縮ですが、ガッディーロの方に手紙を出したり、日記を送ったり…をしなければならないのです」


「えっ、リコリネ、もう日記を一冊書き終わったんだ?」


「はい。といっても、荷物になるのを嫌って、前回よりは薄い日記帳を購入してしまったからですが。しかし、これからは書き終わるごとに、ガッディーロの私室に送る手はずになっていますからね。たくさん書けますよ。もちろん、主には社交が無理だという旨も、早速昨日書き込みました」


「そんなに面白かった!?」


「そうですね。考えてみれば、日記に書かずとも忘れないような出来事のような気もしていますが」


「まったく、書かれる側の気持ちも考えて欲しいよ。ってことは、今日は新しい日記帳を買わないといけないな。リコリネ、せっかくだし、一緒に選ぼう」


「! それは嬉しいです。この街でしか買えないデザインがいいです。ページごとに説法が添えてあるヤツを探しましょう」


「それ日記を書くスペースが狭そうではないですか~~!?」


 ワイワイしながら、楽しく街を歩いて過ごした。



-------------------------------------------



 しかし次の日のボート乗り場で、リコリネはすげなく搭乗を断られてしまった。

 係員のおじさんが、無言で『重量オーバー』という看板を指し示してくる。

 リコリネのショックの受けようと言ったらなかった。


「これは見た目には重く見えるかもしれませんが、とても軽い金属で作られているのですよ…!」


 必死で食い下がるリコリネに、しかし係員は頑として首を縦に振らなかった。


「ごめんリコリネ、僕はもうすっかり見慣れてしまっていたから、今更こういう可能性があるとは考えられなかったよ……」


「いえ……いいのです……この程度で傷つくほど、やわではありませんので……」


 リコリネはそう言いながらも、見るからにがっかりしている。

 ユディは元気づけるように、ポンポンとリコリネの鎧の背を叩いた。


「じゃあ、気を取り直して、他の場所に行こうか」


「そうですね、では相談区へ」


「傷ついているということでは~~!!?」


 思わずリルハープが口を挟む。


「冗句です。似合わないかもしれませんが、薔薇園に行きたいです。迷路になっている部分もあるそうですよ」


「あははっ! 君でも似合う似合わないを気にするんだね?」


 淡々とそう言うリコリネへ、ユディは思わず笑った。


「む……。主は私を無頼漢とでも思っていらっしゃるのでしょうか。これでもTPOはそれなりに気にしているのですよ」


「いつも全身鎧だよね!?」


「そうですね。なぜか、時と所と場合に適した服装がすべて同じという判断になるだけです。そこいらに主を襲う不埒な輩が居ないとも限りませんからね」


「リコリネってホント生きづらそうだよ……」


「いえいえ。私にとっては貴族の生活の方が、よほど生きづらいのですよ。さ、行きましょうか」


 先を歩く全身鎧の背を見てから、ユディは温かく微笑んで、すぐに隣に並ぶようについていく。




 薔薇園は、思った以上に本格的なもので、近づくだけで花の香りで満ち溢れていた。

 そして、入場料が必要な辺りも、本格的だった。


「いらっしゃいませ。こちらは、閃の大陸にある、香りの村に監修をして貰っておりまして、リラクゼーション・サロンのように使用される方もいらっしゃいます。どうぞ安らぎの一時をご堪能くださいませ」


 係員はそう説明してから、ユディたちを薔薇園の中へと通す。

 リコリネは、係員から薔薇園のパンフレットを受け取ってから、ほっと一息ついた。


「また追い返されるかと身構えておりました」


「さすがに騎士国家のある大陸だから、鎧をいぶかしんだりはしないんじゃないかな」


 薔薇園の中には、ちらほらと見学客がおり、白いガゼボの下で一休みをしている貴族らしき女性も居れば、普段着でうろついているアベックなど、様々だ。

 リコリネは納得したように頷いた。


「ああ、そうですね。高名な騎士の方も利用されていそうです。そう思うと、若干感慨深いですね」


「…あ、高名な騎士で思い出した。ほら、リコリネが好きそうな話があるって言ってたヤツ」


「…? なんでしょう?」


「英雄の村っていうところがあるんだよ。なんでも、騎士国家を築いた初代国王の出身の村だとかで、銅像が建っているんだってさ。最初は騎士国家の中心地に建っていた像が、だんだんと土地面積が足りなくなってきたとかで、村に移動させられたんだって」


「後半の情報はできれば聞きたくありませんでしたが、いいですね、行ってみたいです。いったいどのような益荒男なのか、実に気になります」


「よかった。じゃあ、そういう流れで旅をしようか。まずは薔薇園を楽しまないとね」


 ユディは優しく笑いかけると、色とりどりの薔薇が植わっている花壇へと足を進める。

 リコリネは、看板に書かれてある説明を、興味深く読んでいる。


「…面白いですね。品種改良をした青薔薇だそうですが、こうして見ると、葉っぱと同じ色なので、あまり目立ちませんね」


「確かに、色で言うとやっぱり赤薔薇とか、白薔薇が目立つんだね。あんまり見比べたことが無かったから、こうして並んでいるのは新鮮だなあ…。リルハープ、やっぱり蜜を飲みたくなる?」


 ユディは、歩いて回りながら、こそっと胸ポケットに話しかける。


「リルちゃんは、先程からブンブン飛んでいる蜂が気になって気になって仕方ありません~~っ!」


「あははっ! 確かにすぐ耳元を通りすぎていく時があって、それはビックリするけどね」


「リルちゃん、蜘蛛と蜂は苦手なんです~~っ」


「そうは言うけど、君の好きなプチヴェリーの果実だって、農家のひとは、わざと蜂を飛ばして受粉しているらしいよ」


「ええ~~っ、めんどくさがりすぎです~~、手でやってください~~っ」


「主、よくご存じですね」


 リコリネが、感心したようにそう言って、ユディは少し照れたように笑う。


「大陸情報倶楽部を作ったばかりの時は、まだ情報量が少なかったからね、よく生活に直接関係ない知識を集めて楽しんでいたんだ。最後の方は、情勢を知るための最低限しか追えなかったけど、特に必要なさそうな知識を集めていた頃が、一番楽しかったかもしれないなあ」


「…ふふ。主はお優しい方ですから、こうして花を育てたりする環境に身を置くのも、お似合いなのかもしれませんね。…しかし、先程から、男女一組になっている方々をよく見かけますね。何かジンクスでもあるのでしょうか」


「ああ、それは…。こういう場所は、デートスポットになるからじゃないのかな」


 ユディの言葉に、リコリネは焦ったように足を止めた。


「……あの。…違うのです、こちらへ誘ったのは……」


「…え? ああいや、大丈夫、わかっているよ、来てみたかっただけだよね?」


「そうです…! そうですよ、本来ならば、ボートに乗るはずだったのですから!」


 ユディは、意地の悪い顔をして、リコリネを覗き込む。


「ちなみに、ボートもデートの定番コースらしいよ?」


「! 主……面白がっていますね?」


「あははっ! バレタ」


「まったく…。さあ、キリキリと迷路に向かいますよ!」


「リコリネ、悪かったって、僕の方でもどっちも気になっていたから、君が誘わなければ僕が誘ってたって!」


 リコリネが速足で歩きだして、ユディは慌てて追いかけた。



「って、ひょっとしてこれ? 思った以上に大きいね」


 たどり着いた場所には、瑠璃色の生け垣が、ほとんど青い壁といった感じにそびえている。


「これは…丸一日遊べるかもしれませんね」


 リコリネが、生け垣の隙間から顔を出している薔薇に目を向けながら、ちょっと感動している。


「リルちゃんにかかれば、上から見られるのでイチコロですよ~~!」


「ダメだよリルハープ、こういうのはさ…マッピングをして完全攻略をしないと!」


 ユディは、いそいそと肩掛けカバンから、マッピング用のあれこれを取り出していく。

 リコリネは、嬉しそうなユディの様子に首をかしいだ。


「主はそういった地道な作業がお好きなのですか?」


「うーん、どちらかというと、本で読んだダンジョン攻略みたいで面白いなって。宝箱が備えてあれば完璧だったね」


「ああ、本当に主はフェンネル英雄譚がお好きですね。タイジョウで、隠された遺跡の情報などがあればよかったですね」


「そんなのがあったら、モノノリュウなんてそっちのけで籠ってしまって、きっと困っていただろうなあ」


 ユディは、冗談めかして返しながら、迷路へと突入を始めた。

 リコリネは、温かく見守っているふりをして、内心では冷や汗をかきながら、そっとパンフレットを後ろ手に隠す。

 このパンフレットには、薔薇園の迷路のマップがちゃんと書き込まれているのだ。


 隠した甲斐あって、ユディはとても精密な地図を作り上げ、楽しそうにしながら、ゴール地点にある噴水に腰かけ、一休みをしている。

 明かり雪の降る夕暮れの中、噴水の水面に浮かぶ薔薇の花びらが美しかった。

 リコリネはそっと、満足げなユディの横顔を見る。


 何かを言おうとする。

 だが、何も言えなかった。



-------------------------------------------



 次の日はハーブ園に行き、食べられる花が売りのコース料理を食べに行った。

 食事を終えると、いつものように雑談を始める。


「リコリネ、本当に薔薇の香水とか必要なかったんだ?」


「はい。戦いにおいて、ああいったものは不要ですからね。それに、獣に自ら位置を知らせるような真似をするほど、愚かではありません」


「ほんと、君って欲がないよね」


「そうでもありません。実際、今日はこのように美味しいものをいただいてしまいました。ハーブとは、お茶で楽しむものかと思っておりましたが、パンや乳製品など、色々なものに練り込めるのですね」


「そうだね。ぼくもこんなに香り高い食事は初めてだったよ」


「時に主、明日は別行動などを行うのはいかがでしょう?」


「……? リコリネ、僕は瞑想区でも何でも付き合えるよ?」


「……いえ。あまり付き合わせるのも、心苦しいなと」


「………」


 ユディは、ティーカップの底に残った最後のひと口を飲み干すと、じっとリコリネを見て、慎重に何かを考えこむ。


「……さては、賞金首を狩りに行く気だね?」

「!?」


 リコリネは、傍目でわかるくらい狼狽している。

 ユディは、はー…とため息をついた。


「じゃあ、君は西地区、僕は東地区を探して、賞金首を狩ろうか、と言ったら?」


「いけません! 別行動をして何かあったらどうするのですか!」


「ほらそれ! 僕もそういう気持ちなんだよ。それに、嫌々付き合うわけじゃない。もちろん、買い物だとかの別行動はありだと思う。だけど、賞金首を狩るのは、単独で行かせたくはない。リコリネ、この際だからハッキリ言っておくけど、君が本当に僕と別行動をしたければ、君はこう告げるべきなんだ。『主がうざったいし、顔も見飽きてきたので、たまには一人きりで過ごしたい』ってね。ほら、言ってごらんよ」


「………」


 リコリネは、膝の上に置いた拳をぎゅっと握りながら、フルフェイスをうつむかせる。


「……主は、意地悪ですね。私がそのようなことを微塵も思ってなどいないと、わかっているくせに」


「…馬鹿言うなよ、わかるわけないだろ。いつも心の端にある不安だよ、これは。僕は君が危なっかしくて放っておけないけど、君自身は放っておいてほしいと思っている可能性が常にある。三年は、良くも悪くも、長かったから」


 ユディは、拗ねたようにそっぽを向いた。

 リコリネは、一拍の間を空けると…。

 思わず吹き出してしまった。


「…ふふ、ふふふ…っ! お気づきですか、主。あなたはもう、ぼんやりさんではなくなっていますし、再会してからは一度も涙を流してはいないのですよ。私はそのことに、少なからずの驚きを受けていました。てっきりもう、あまり不安や恐れなどを抱くような人ではなくなっていたのかと、そう思っていたのですが…」


 ユディは、リコリネに目を合わせようとしないまま、頬を朱に染めている。


「…どうせ僕は、最後まで格好が付けられないよ。ほら、そうと決まれば、明日の準備に行こう」


 ユディは食事の代金を雑にテーブルに置くと、さっさと店を出て行った。

 リコリネは、まだ笑いの余韻が奥歯の辺りに残っているような気がして、…それを、そっと噛み潰した。




「それで、賞金首に対するリルハープ殿の妙案とは何でしょう?」


 翌日。

 街に出て、賞金首の掲示板の前で、リコリネはこそっとユディの胸ポケットを覗き込む。


「実はですね~~、リルちゃん、色々な人を見てきて、なんとなーく、これかな~~…という感覚が、わかってきたのです~~」


 ハテナを浮かべるリコリネに、ユディが注釈を添えてくる。


「ほら、リルハープって、人の負の感情がなんとなくわかるって話だよね。あれで、特に賞金首らしきものが見えてきた気がするって言ってるんだ」


「そうなんです~~。すごく複雑に、色々な感情が、特に強く混ぜこぜになっている感覚と言いますか~~、裏路地とかで、そういうのを追いかけてみたら、なんとなく行き当たる気がするのです~~」


「…なるほど。それは試してみる価値がありそうですね。リルハープ殿、今現在、その感覚はあるのですか?」


「はい~~。ハーブ園の近くの、裏の奥の方です~~!」


「ふむ…。ひとまず、歩いてみましょうか」


「そうだね。物は試しっていうし」


 リコリネの言葉にユディは頷き、急ぐでもなく、散歩の続きのような足取りで、二人は歩き出した。



 リルハープが、右や左という大雑把な指示を入れてくる中で、なんとかそちらの方角に行ける道を探し出すのは、最初は苦労をした。

 しかし慣れてくるとペースがつかめ、そこからしばらくして、道端に座り込んでいる男の姿を見つける。


 男は、口にくわえた葉っぱをくゆらせていたが、ユディたちの姿を認めると、ゆらりと立ち上がる。


「お兄ちゃんたち……こんなところへ来て……道を間違えたんだろう……な?」


 男は、そう問いかけながらも、焦点はどこにも合っていない。


「そして俺は……人生を間違えた……な。ただ、扱っている商品がヤバいだけの、ただの商人なのに……な?」


 会話をする気はないらしい。

 ただただ、独り言が続く。


「俺は“バッドラックのズローゼン”……街を渡り、バッドなドラッグを捌く売人……だ。ダウナーな葉っぱを燻らせて……己の不遇を今日も愚痴る……な」


 ズローゼンと名乗る男は返答を待たずにただ続ける。


「商品は逸品が良い。…みんな言ってる。良し悪し良し悪し良し悪し良し悪し。わか――」

「ハアアアアアッ!!」


   ドゴオッ!!


「!!!?」


 リコリネが問答無用で襲い掛かり、重たいボディブローを食らったズローゼンは、何が起こったかわからないままに倒れ伏した。

 ユディは茫然とそれを見ている。

 死闘を経たからなのか何なのか、昔と違って、躊躇が無くなっている気がする。

 リコリネの単独行動を心配する必要は、なかったのかもしれない。




「さすがですねリルハープ殿、まさかドンピシャで賞金首を当てられるとは」


 リコリネは上機嫌で、ザイルでぐるぐる巻きにしたズローゼンを引きずっていく。


「ふっふーん、いい具合に足腰の弱っている奴を見つけた辺りは、自分でも偉いと思っています~~!」


「私としては、もうちょっと歯ごたえが欲しかったですね。ただのヤク中など、おそるるに足りません」


「僕は話の通じない感じが地味に怖かったけどね……。まさか最初から話もせずに襲い掛かるのが効果的な攻略法だとは思ってもみなかったよ…」


「あの容赦のなさは、もはやどっちが賞金首かという感じでしたね~~」


 リルハープの言葉に、ユディは複雑な表情で、気絶しているズローゼンを見る。


「何を言うのですか、先制攻撃で奇襲をかけたならば、主が私を心配する暇もないでしょう。多少騎士道に反する行為のような気もしますが、主の心の安寧の方が優先です」


「あ、そういう流れだったんだね?」


 リコリネなりに考えてくれているんだなあ、とユディは思った。

 思ったが、前のめり過ぎる案だなとも思うし、結果的にハラハラする現状は変わらないという事実は黙っておいた。

 リコリネはいつものペースで、ぐっと拳を握りしめている。


「この調子で、“剛腕のルーゲル”などもお縄にしましょう」

「しましょう~~!」


「こら二人とも、調子に乗らない。たくさん捕まえる場合は、そうだなあ…。少し前から居る賞金首ならいいけど、これから張り出される賞金首に手を出してはいけないからね。タイミング的に、マッチポンプを疑われたらシャレにならない」


「! さすがです、主。そのような姦計、思いもよりませんでした」


 まったく、と言いながら、ユディはどうしても微笑んでしまう。



 そこから、リルハープが索敵、リコリネが奇襲、という流れを連日のように続け、剛腕のルーゲル、十村毀損のギランデ、家畜殺しのダッツォ、などを捕まえた。

 その辺りで、リコリネが圧殺鎧鬼だと身バレし、新人騎士などに握手を求められて大変だった。

 リコリネはそれに懲りたのか、それからは大人しく過ごしていく。



 結果的には、見るべき場所も多く、医療都市には思ったよりも長く滞在をしてしまった。

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