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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第二章 ふたりめ
57/137

10勘当の旅立ち

 あれから、ひと月が経過した。

 その間に、色々なことがあった。



 ギュギュと別れ、そして大陸情報倶楽部の引継ぎは、つつがなく終了した。

 意外にも、ユディの後を継ぐ三人の商人たちは、『創始者ディエル』という架空の存在をそのまま継続させることにしたようだ。

 ひとりは、希望のキャラバンの商人。

 ひとりは、海賊退治を紹介してくれた商人。

 ひとりは、希望の街の商人。


 商人のひとり、希望のキャラバンの商人は言う。


「組織は大きくなりました。そして、断言できます。大きすぎる組織は、いつか腐り果てると。だからこそ、百年経っても、二百年経っても、変わらず存在する創始者が必要なのです。ディエルの名を口にするたびに、我々は、ユディさんが最初に抱いた志を思い出すことになるでしょう」


 そして、互いを見張りあうために、権力は三つに分割された。

 商人三人の決定が無ければ、大きな決断はできないようにすると言う。


 続いて商人のひとり、希望の街の商人が、冗談めかして笑う。


「ユディさん、あなたは我々を信じすぎるのが弱点ですからね。だからこそ、我々はしっかりしなければならない。まったく、困った創始者です」


 ユディは、照れたように笑い返す。


「この星マークのコインは、使い続けてもいいでしょうか?」


 最後に商人のひとり、海賊退治を依頼した商人は、ユディの質問へと大袈裟に頷いた。


「もちろんだ。そのコインを見せれば、どこのタイジョウでも、無条件に利用できるようにしてある。そして、利用履歴も残らない。思う存分に使ってくれ。我々はいつだって、あんたの旅の成功を祈っている」


 その時、ユディの背後に立ち控えているリコリネが、そわついている気配を感じた。

 不思議に思ったユディは、会議を終えた後、リコリネに問いかける。


「リコリネ、このコインを見た時、やたらそわそわしてなかった?」


 言いながら、星マークのコインを掲げて見せると、リコリネは「見抜かれていましたか…」と恥ずかしそうにした。


「いえ、まるで『桜の代紋』のように感じて、心が震えたのです」


「サクラ…?」


「架空の花ですよ。最近、我が掘削の街で流行っている本の内容です。僭越ながら、説明をさせていただきましょう」


 リコリネが嬉しそうに話し始めて、ユディは、また何かが始まるな…と身構えた。


「『ファラウェイ・マウンテンのゴールドさん』というタイトルです。自らの体に桜の代紋というマークを刻み込んだ、暴れん坊のご老公が、犬、猿、そして豚と共に、西にあるガンダーラという国を目指して旅をする話です。彼はここぞという時に、こう言うのです。『このフラワー・ハリケーン、散らせるものなら散らせてみよ!』と。その瞬間、彼が一国の長であると理解した周囲の者がひれ伏す…という展開が、延々と続いていく話です」


「へ、へえ…」


「私は権力というものにそれほど興味がなかったのですが、あれは痺れますね。他にも風車のブイスリーや、アローボウ・フレグランスというヒロインなどが、悪党どもと丁々発止とやりあうなど、療養中の身であるため、そういった活劇には随分と救われました」


「あ、そうか。ずっと温泉で療養してたんだよね、リコリネは」


「…ええ、まあ。しかし、主がまさか、あのタイジョウの創始者であったとはと、いまだに驚いております」


「言っておくけど、ぼくだって驚いたさ。ウェイスノーさんの登録が、掘削の街から行われていたとわかった時にね。テリオ兄さんに問いただしたら、あの別れた時点で騎士をやめていたんだって?」


「……はい。ウェイスノー殿は、私の傍に居れば、三食昼寝付きになれそうだし…と嘯いておりましたが、今や賞金稼ぎとなり、私が活動しやすいようにと、忙しく動いています。あの時は、主をあれ以上追い詰めないようにと、嘘をついたようですね」


「……そう」


「とはいえ、上層部に嫌気がさしていたようですから、今や生き生きと人生を謳歌していますよ。先程言った『ファラウェイ・マウンテンのゴールドさん』も、ウェイスノー殿の本です」


「ええ? あの人、活劇が好きそうには見えないけど…」


「それがあの本には、毎巻必ず決まったページで、ヒロインのアローボウ・フレグランスの入浴シーンがあるのです。ウェイスノー殿は、すべてのシリーズを買いそろえ、そのページだけを見て満足しておりました。勿体ないので、私がお下がりを読ませてもらったという流れです」


「あの男は、時々馬鹿みたいなことをしますね~~…」


 リルハープが胸ポケットから顔を出している。


「ですが、大いに助けられたことは事実です。そこそこ暇を持て余しておりましたので、読書はすっかり趣味でしたからね。療養ついでに、ガッディーロの経営に口を出して改善させたり、孤児院を創設したりして過ごしておりました」


「暇だからやるようなこと!?」


「それが、ちょうど怪しい人物から資金援助が届いたのです。孤児院はあらかじめ建物だけは作っていましたので、背を押された気分で、やるしかないなと思いまして」


「!?」


 心当たりのあるユディは、しかし戸惑っていた。

 怪しい人物、という部分に。



~~~回想~~~


 テリオタークが、ユディの部屋にやってくる。


「ユディ。本日、私は非番なのだ」


「兄さん? よかったじゃないか、ワーカーホリック気味なんだから、ゆっくり過ごしなよ」


「…いや。だからこそ、困っている。ゆっくりする方法が思いつかないのだ」


「ええ…? 本を読むとかは?」


「もう読みつくしてしまった。ユディ、いつも忙しそうなのはお前もだろう。せっかくだ、私に何か指令を出すといい」


「指令って…」


 そこまで来て、これはテリオタークが気を使ってるのだと、ユディは理解した。


「…じゃあ、リコリネと、それから叡智の街の賢者、ライサスライガという人に、資金援助をしたいと思っているんだ。だけど現金を送る手続きって面倒じゃない? お願いしてもいいかな」


「その程度、造作もないが。だが、いいのか? お前も何かストレス発散に散財をすればいいだろう」


「ここの滞在費、兄さんが受け取ってくれなかったじゃないか。いいんだよ、思ったよりもタイジョウの上納金が溜まってきてて、たぶんこれからも溜まっていくだろうから」


「そうか。相分かった。すべてこの仮兄に任せるがいい。安心しろ、悪いようにはしない」


「かえって安心できない言い回しはやめてくれないかなあ!?」



~~~回想終了~~~



「リコリネ、怪しい人物って…?」


「はい。私とライサス先生に、『あしながおにいさん』という匿名の輩から、金貨百枚ずつの資金援助が届きました」


「……!!?」


「ちょうど孤児院における先々の運営費用が心もとなかったので、ありがたく使わせていただきましたし、先生も喜んで研究資金に使っていました。先生には、私の体調を見ていただく理由で、週に一度は会っていたのです。その資金援助はガッディーロ宛てではなく、直接リコリネの名に対して届いていたので、私もライサス先生も、心当たりはひとつしかない、という結論にはなったのですが…」


 リルハープが、物凄く笑いをこらえている気配が、胸ポケットの震えでわかった。


「しかし、『足は長かっただろうか?』ということに、一日を費やすくらいの議論を重ねてしまいました。未だに結論は出ておりませんが、主はどう思われますか?」


「……しばらく、そっとしておいてくれないかな……」


 その日ユディは、自室に引きこもった。



-------------------------------------------



「そういえば主、次に向かう先は決まっているのでしょうか?」


 もろもろ一段落が付いた頃を見計らい、リコリネが意見を窺いに来て、リビングで話し合うこととなった。


 リコリネは、テリオタークの家でも、相変わらず全身鎧の姿だ。

 一度ユディが、「たまには脱いでリラックスしたら?」と言ってみたのだが、何故かそれに返答をしたのはテリオタークだった。


「ユディ、淑女に脱げなどと、はしたない」

「兄さん、鎧の下は全裸だと思ってない…!?」


 それ以降、なんとなくユディの提案はお流れになった。


「次に行くところ…。そういえば、すっかり君と海峡大橋を渡ること自体が目標になっていたよ」


「…ふふ、それはそれで光栄ですね。では、この三年でお二人にどういった変化があったかを、今のうちに聞いておきましょうか」


「まあリコリネ~~、もう再会して何日経ったと思っているのですか~~、今更でしょうに~~」


 リルハープが、まったりと部屋を飛び回りながら茶々を入れてくる。

 しかしリコリネは、ゆっくりと首を振った。


「私は当初、お二人ともお変わりがないようで…と思っていたのです。ですが、蓋を開けてみると、主はテリオ殿と仮兄弟というよくわからない関係になっており、さらにはタイジョウの創始者だと聞かされました。その時、私がどれほど自分を恥じたか」


「ほらまたリコリネは大袈裟な……」


「いいえ、大事なことです。ですから、改めて聞いておこうと思い至りました」


 ユディとリルハープは、顔を見合わせる。


「うーん、他に何かあったっけ?」


「知人の近況でいいのではないですか~~? リコリネはタイジョウに登録していないようですから、世情には疎いようですし~~」


「ああ、なるほど。となると…そうだ、デギーデジーさん。希望の街が順調に発展を遂げて、情報の館でかなり財源も潤ったんだ。そしたらあの人、いきなり『挨拶回りに行って参りまさあ』って、今まで盗みを働いてきたお店とかに謝罪して回る旅に出たんだよ。お金も倍にして返してきたんだって。すごくスッキリした顔をしていたよ」


「それは……」


 リコリネが、急に口ごもった。

 リルハープは、不思議そうにリコリネの顔の前をパタパタと飛ぶ。


「どうしましたか、リコリネ~~?」


「いえ…。そうですね、盗みなど、やりたくてやったわけではなく、できるなら改心したい人もいる…というのを、思い知らされます。しかし、私はこれからもちょこちょこと賞金稼ぎをやっていくつもりではありますので、若干、やりにくいなと感じてしまいました。もちろん、素晴らしい話ではあるのですが」


「リコリネ、まだ賞金稼ぎをやるつもりなのかい? 危ないからやめた方がいい。君が体を張る必要は、もうどこにもないんだ。お金だって、僕が何とかできるようにするし、君を大切にするための力を、僕なりに培ってきたつもりだ」


 ユディの言葉に、リコリネはかなり戸惑ったように、フルフェイスを彷徨わせた。


「しかし、主…。私はもう、多少の弱体化はありますが、元通りになって、戻ってこられたのです。これは、勝利のはずです。ですから、またいつものような旅を続けましょう。それをせずして、何が勝利と言えましょうか」


「リコリネは何と戦っているのかな!?」


「ですが…。そうでなければ、私が、戻ってきた意味が……」


 リコリネは、膝の上でそろえた手で、ぎゅっと拳を握り、うつむいている。


 そうか、とユディは思った。

 長い療養生活で、リコリネが、それだけを目標にしてきていたのだとしたら?

 そのために頑張ってきた日々を、他でもない自分が否定するのはあまりに酷だろう。

 そう思い直す。


「…わかった。僕だって、君のやりたいことを封じたいわけじゃない。じゃあ、いつも通りの旅を続けよう。ただし。リコリネ、これだけは覚えておいてほしい。君がこうして、僕と喋って、笑っていてくれるだけで、僕にとっては十二分に意味があるということを。君が僕を思ってくれるように、僕だって君を大事にしたいと思っているからね?」


「はあ……」


「それはどういう反応!?」


「いえ。この感じが、懐かしいなと思いまして。虫歯になりそうです。ですが、わかりました。私も主のご意見と、私の主張を擦り合わせられるように、いろいろと考えてみます」


「僕も若干懐かしいよ、この調子が狂う感じ…。で、そういうリコリネは、変わったこととかあった?」


「私ですか…? そうですね……。……。…ああ、大したことではないのですが。負傷のせいなのか何なのか、髪から色素が抜け落ちました」


「え!?」


「最初は一房だけだったのですが。まあ、徐々に…という感じでしょうか。しかし、長さはほとんど戻りましたからね。念願の絞殺までは、あと一歩ですよ」


 リコリネは、いつものように淡々とそう話す。

 しかし、あの黄金色の髪がもう見られないことに、ユディは思った以上のショックを受けていた。

 いや、ショック受けるのは失礼だ、とも思い直す。

 どんな色でも、リコリネはリコリネだ。

 だが、あんなに大事に伸ばしてきた髪に、本当に思い入れが無いのかを思うと、胸がつぶれそうだ。


「…申し訳ありません、言うべきではなかったのかもしれませんが。しかし、主がまた私の着替えを覗きに来た時、驚かれたら大変だろうなと思うと、きちんと告げておいた方がいいだろうと判断しました」


「僕が望んで覗きに行ったみたいな言い方はやめてくれないかなあ!?」


「ふふ、冗句です。あとは…そうですね。ファウラ殿には、先の孤児院の運営を任せています。ちょうど踊り子を引退することを考えていたので、いいタイミングだ、とおっしゃっていました」


「ああ、ファウラさんは暖かみのある人だから、そういうのは向いてそうだよね、天職だと思う…って僕が決めつけるのもどうかと思うけど、でもそういう印象だよ」


 ユディは思わず微笑んだ。

 リコリネも「はい」と同意して、言葉を続ける。


「弟は立派にガッディーロ当主になるべく頑張っておりました。意外なことに、弟が最も懐いているのは、ウェイスノー殿なのですよ。あの方の自由奔放さに憧れる気持ちは、私にも理解できます」


「へええ、ウェイスノーさんはすっかり掘削の街の一員って感じなんだね」


「ウェイスノーは適応能力が異常値くらいありそうですからね~~」


「リルハープ、それ褒めてる?」


「もちろんですよ~~!」


「…ふふ。主、ちょうど今からガッディーロの方に手紙を出してくるところなのですが、ウェイスノー殿に、何か一筆書かれますか?」


「あ、いいねそれ、よくも嘘ついたなって書こうかなあ」


 早速手紙に羽ペンを走らせるユディを、リコリネが静かに見守ってくる。

 なぜか、今、初めて、日常が戻ってきたと、ユディはそう感じた。

 幸せだった。




 ちなみに、ユディは『(`^´)』とだけ書いて送った。


 数日後、袋鳥便の速達で、ウェイスノーから返事が届く。


 『_(._.)_』とだけ書かれてあった。


 たったそれだけのやり取りが、無性に楽しかった。

 リルハープは、何かのツボに入ったのか、きゃらきゃらと大笑いをしていた。



-------------------------------------------



 リコリネに変調が無いかを慎重に見極め、いよいよ三人は、旅の再開を決意した。

 ユディは改めてテリオタークに、その旨を告げに行く。

 なんとなく、兄弟ごっこを見られるのはまだ若干恥ずかしかったので、ひとりで書斎を訪れた。

 テリオタークは書類仕事をやっていたが、すべてを聞き終えると、すっくと立ちあがる。


「……そうか、わかった」


「兄さん、今までありがとう。最初は戸惑ったけど、でも今は…」


「ならばユディ、お前は勘当だ!」


「極端!!!?」


 ユディは思わず叫んでしまった。

 しかしテリオタークは、厳しい表情を崩さない。


「ユディ。私は反対なのだ。侮るわけではないが、心優しいお前に、その厳しい旅が務まるとは思えない。お前と過ごすうちに、その思いは強くなる一方だ」


「兄さん…?」


「ユディ。この家での生活に、不満はないはずだ。ここに残るといい。私はリコリネ殿にもあまり戦ってほしくはないと思っているし、リルハープ殿も、あの小さな体で惑乱の大陸に行くのは酷だろう」


「それは……」


「ここにきて私がこう言い出すことに、お前は話が違うと思うかもしれない。だが、その道を行くというのなら、ここから先、話が違うことなどいくらでもあるだろう。まずは私を越えていくがいい」


「………」


 相変わらず、テリオタークは唐突で、勝手なことばかりを言ってくる。

 だが、もう、ユディにはどうしようもないくらいわかっていた。

 この人が、常に自分のためを思って動いてくれていることに。


   コツ、コツ。


 規則正しい足音と共に、テリオタークは、改めてユディの前に立つ。

 もはや隊長の威厳を兼ね備えた姿で、ユディを見下ろしてきた。


 ユディは…。

 一歩も引かない姿勢で、睨み上げる。


「…兄さん。この間、リコリネが言ったんだ。いつも通りの旅に戻りたいと。その時、僕は気づいた。僕の日常は、こうして兄さんの家で過ごすことじゃない。リコリネと、リルハープと、三人で旅をすることだって」


「………」


 テリオタークは、表情のない、貴族らしい視線で見てくる。


「なぜなら、まだ終わっていないからだ。まだ、僕たちの旅は、終止線を迎えていない。僕は、モノノリュウを倒しに行くよ。そうしたら、いろんな道が選べるってわかっているから。どんな場所でも暮らせるし、誰のところに行ってもいい」


「今、お前にその自由はないとでも言うのか?」


「…そうだね。少なくとも、僕の心は自由になれない。人間は、心の生き物だと、僕は思う。前向きでいれば何でもできる気がするし、悲しみにとらわれると立ち止まってしまう。僕も今、何かにとらわれているんだと思う」


「…それは、私にも、誰にも、どうにもできない何かか?」


「…そうだね。そうだとしか言えない」


「……そうか。わかった。ならば、行くがいい。そして、一度この家を出たならば。二度と敷居をまたぐことは許さん。我々はもう、赤の他人だ」


「………」


「それでもいいなら、行くがいい。見送りはせんがな」


 意外なことに。

 ユディは、それを嫌だと感じている自分に気が付いた。

 だが…。

 他のどこにも、道はない、とも感じていた。



 ユディは、深く頭を垂れた。

 そして、部屋を出て行く。


 テリオタークは、窓の外に視線を移した。

 外の世界は、拍子抜けするほど晴れやかで、何の悩みもないように澄み渡っている。

 それだけだった。



-------------------------------------------



 出立の日。

 急によそよそしくなったユディとテリオタークのやり取りに、リコリネもリルハープも、そしてジイヤも何も言わなかった。


 ユディは静かに、三年を過ごした家を出て行く。

 リコリネは無言で付き従い、リルハープは、胸ポケットという定位置に潜り込む。


「…主」


 しばらく行ったところで、リコリネが静かに声をかけてきた。

 ユディは黙って振り向く。


「もう、この街の観光はされましたか?」


「…ああ、うん。そうはいっても、海峡大橋の方には近づかないでいるとね、本当に、特に何もないんだ。ただ、宿屋の数と、酒場の数は、今までのどの街より多くって…交流を重視した土地なんだなって。面白いのが、商談用の施設があるんだよ。僕もタイジョウの関係で利用させてもらったりしたなあ」


「なるほど。パっと見たところ、畑などもありませんから、流通をし続けていなければ死が待つ場所だとは思っておりました」


「リコリネは息をするように死を匂わせますね~~……」


 リルハープは、いつものように、胸ポケットからちょこっと顔をのぞかせている。

 ユディは、リコリネに向き直った。


「だからこそ、三年前に君がこの街を守ったんだと断言できる。あんな無茶を二度とやらせる気はないけど、それでもそれが事実だ」


「……、……そうですね。誇りに思います」


「でも、次があったら僕も一緒に致命傷を負うからね?」


「…肝に銘じます」


 リコリネが委縮しているのが、鎧の上からでもわかる。

 ユディは、すぐに微笑んだ。


「ほら、見えてきた。行こう」


 ユディたちが近づくと、海峡大橋を守る騎士たちが、足を揃えて敬礼をしてくる。

 主に、リコリネに対してだ。

 そして、通行料を取るでもなく、両側に退いて、道を開けていく。


 リコリネも、胸に手を当てた騎士の礼を向けると、堂々と、橋の中央を歩き出す。

 しばらく行ってから、リコリネが感無量の言葉をこぼした。


「これは…いいですね。若干権力を感じます」


「その感想はいかがなものかと~~!?」


「リコリネは本当に『桜の代紋』が好きなんだね…。というか、ファラウェイ・マウンテンのゴールドさんってタイトルは、いつ回収されるのかな、その話は」


「ああ、話していませんでしたか。ゴールドさんは、ご老公の名です。ファラウェイ・マウンテンという場所に居を構えているようです。決め台詞がとても格好いいのですよ。『何の因果か、末法の手先―――だが、お前たちのように、心まで落ちぶれてはおらぬ!』と、悪人どもに対し、誰もが舌を巻くような拷問をなさるので、人々からは拷問様という名で親しまれているのです」


「親しめる要素はいずこ~~!?」


「ふふ、リルハープ殿、先程からまるで、必殺ツッコミ人ですね」


「…困ったな。まずはリコリネと同じ本を読むところから始めないと、話が通じないことが判明してきたぞ……すっかり本の虫になっちゃって」


 内輪ネタみたいなもので盛り上がるリコリネに、ユディは今後が思いやられながら……一度だけ、テリオタークの家がある方角を、振り返った。

 後は、何事もなかったかのように前を向く。

 それだけだった。

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