09あたしの精一杯
ついに最終日だ。
あたしたちは、名残を惜しむようにゆっくりと、船が来る待ち合わせ場所へと向かっていく。
そこから船を移動して貰って、賢者の洞窟の傍まで来てもらう予定だ。
そこで、溜め込んだ物資を詰め込むという流れ。
だったのだが……。
「ウソでしょおおおおおっ!!!?」
デジャヴを感じる。
全力で逃げるあたしたちの後ろを、物凄く派手な色合いの巨大なコアラが、四足歩行で牙をむきながら追いかけてきている。
確かウルナート文献によると、獲物をびったんびったんと地面へたたきつけ、絶命させてから捕食していくという、獰猛な生態のヤツだ!
「よりにもよってコイツに見つかるなんて…!!」
「よくよく考えたら、リルちゃんたちの移動なんて、樹の上に居れば丸見えでしたね~~!」
ユディくんの言葉に返す妖精ちゃんは、びくびくしながら胸ポケットに隠れている。
「…あ、でも、見えて来たわよ、船! このまま行ってもいいかしら!?」
あたしは、前と後ろを忙しく交互に見ながら、ユディくんの意見を窺う。
ユディくんが目印にと、砂地に刺した旗が見えてきた。
「くっ、微妙なところだけど…!! どうやら早めに接岸していてくれたようだし、この距離ならギリギリ、乗り込めそうではあるかな!?」
「そういえば、船を動かしているのは騎士の人ですよね~~っ、こっちの様子を見て助け舟を出してくれる可能性が高いです~~! フネだけに~~!」
「妖精ちゃん、冴えてる! このまま行きましょっか!」
そう決めると同時に、船の上に、人影が立っているのが見えた。
逆光で、輪郭しか見えない。
その人は、妖精ちゃんの言う通り、こちらの様子を見て、加勢に来てくれるようだ。
その人は、武器らしきものを構えて、バッと船から降り立つと、全速力でこちらへ向かって駆けてくる。
瞬く間にお互いの距離が詰まり、騎士の周囲に、赤いオーラが立ち昇っているのが視認できた。
「力の精霊、ゴルドヴァよ―――!」
凛とした声が響き渡る。
その人は、ダアンと力強く地面を一蹴りすると、それだけであたしたちの隣を風のようにすり抜けて、コアラの方へと向かう。
ドッゴオオオオオオン!!!!!
大気がビリビリと震える。
あまりにも物凄い音が背後からしたので、あたしは驚いて振り向いた。
よく見ると、その騎士が持っていたのは、鈍色に光る、金属製の大槌だ。
それを、降りぬいた後のモーションのまま、騎士は満足げに空を見上げている。
その空には、先のコアラが放物線を描いて遠のいていき、キラっと星になっていくところだった。
え……スイングで、吹っ飛ばしたってコト…?
あの巨体を……?
「……リコリネ!!!?」
「リコリネ~~!!?」
驚くユディくんたちを振り返った騎士は、全身鎧だ。
「主、リルハープ殿、お待たせしました。弱体化して帰ってまいりました!」
「「「どこが!!!!?」」」
三人で総突っ込みをした。
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ひとまず落ち着ける場所に行こうというコトで、すぐに操舵輪を握る騎士へ地図を渡し、船で賢者の洞窟まで向かってもらう。
あたしたちは船上で、リコリネさんを囲んでいる。
妖精ちゃんは、ちょっと緊張しているみたいで、ユディくんの胸ポケットからリコリネさんをじっと見上げている。
「主、リルハープ殿、そしてあなたがギュギュ殿ですね、よくぞ御無事で…。ここは魑魅魍魎がはびこる危険な島と聞いておりましたので、慌てて馳せ参じた次第です」
リコリネさんは、胸に手を当てて、あたしに向けてきっちりと礼をした。
「遅ればせながら、私はリコリネと申します。ギュギュ殿のいさおしを称えられる時が来るのを、楽しみにしておりました。まずは島の制覇、おめでとうございます。この場に立ち会えたことを光栄に存じます」
「…!?」
リコリネさんは、思ってた人(※マサカリを振り回して海賊船を真っ二つにする蛮族)と、全然違った。
なんていうか…礼儀正しいのは騎士として当たり前なのかもしれないケド、それに加えて物静かな印象を受ける。
いや、コアラを殴り飛ばしていたのは物静かから程遠かったハズなんだケドね?
なぜか、そう感じる。
でも…。
あたしだったら。
たぶん、あたしがリコリネさんの立場だったら、まずはこう言っていただろう。
「あたしの主がお世話になったみたいで、感謝でいっぱいよ、まったくユディくんは手がかかって大変だったでしょう!」って。
そうやって、関係性をアピールして、マウントを取って、嫌な女になってたに違いない。
だからこそ、リコリネさんの人間のできた感じを前にして、あたしは自分が恥ずかしくなった。
同じくらい、この人に好感を覚えてしまう。
この人は…ステキな人だ。
ユディくんは、あたしが返事をしないのを不思議がりながら、申し訳なさそうに会話に割り込んできた。
「リコリネ、どうして僕らがここに来ていることを知っていたんだい?」
「はい。実は主には内緒にしておりましたが、私とテリオ殿は、ひそかに情報交換をしておりました。テリオ殿の近況の中に、ギュギュ殿のこと、そして主を三週間後に迎えに行く旨が書かれておりました故、これはサプライズのチャンスと思い、やってまいりました」
「ほんっと君はそういうところ変わらないよね。実際凄くびっくりしたよ、でも確かに、タイミング的には、もうじき三年が経つのか…」
「は。主の方も、あまりお変わりがないように見受けられます」
「む……。言わないでよ、背が伸びなかったのは、気にしているんだから」
「背…ですか? 主の背丈を気にしたことは一度もありませんでしたが、高すぎず低すぎず、いい塩梅ではありませんか。どのくらいを目標にしていらっしゃったのでしょうか」
「二メートル」
「大爆笑ですね?」
「せめて笑ってから言おうか!?」
「ふふ…すみません。少々寝不足なもので、多少テンションが変なのかもしれません」
「…眠れなかった?」
「はい。とても緊張しておりました。何が怖い、というわけでもなかったのですが」
「そうか…。僕の方も、いざ会う日程が決まっていたら、緊張をしていたのかもしれないな。話したいことがたくさんあるよ」
「私はあるような、ないような…よくわかりません」
その言葉に、ユディくんは息を詰まらせるように、深呼吸をして、リコリネさんを見据える。
「リコリネ……本当に、無事でよかった……。これからは、君にばかり背負わせたりしない。具合はどうだい。無理をしてない?」
「そう…ですね。今は大丈夫です。ただ個人的な都合で、あと一度だけ、ガッディーロの方に数日だけ戻る可能性はあります。ですがそれまでは、今までと同じように接していただけたら、と思います」
「そっか…わかった。実は命の精霊の祝福を与えられた水が手に入ったんだけど、本当は君に送ろうかと思っていたんだ。でも、元気そうで、本当によかった」
「そうですね…。では、その水は、ライサス先生に送っていただけないでしょうか。きっと喜びます」
「ああ、そうだね、そうしよう。先生は無事に賢者になったんだってね。叡智の街が懐かしいよ。…っと、見えてきた、あそこだ」
ユディくんは、残念そうに話を打ち切り、賢者の洞窟へと目を向ける。
妖精ちゃんは、そわそわしているのか、なぜか一言もしゃべらない。
いや、一言も喋ってないのは、あたしもだ。
でもリコリネさんは、そんな失礼なあたしにも、ちゃんと敬意を払ってくれる。
あたしは急いで言葉を探した。
「リコリネさん! 実はユディくんからたくさんアナタの話を聞いてて、ずっと会ってみたいと思ってたのよ。でも、ごめんなさい、イメージと違ってたから、びっくりして思考停止しちゃって」
リコリネさんは、あたしの方を見て、そっと首をかたむけた。
「イメージですか? それは興味深いですね。確かに圧殺鎧鬼の噂には、今や尾ひれ背びれがつきまとっておりますからね。悪鬼羅刹のイメージがあっても不思議ではありません」
「圧殺鎧鬼ってリコリネさんのコトだったの!!? …あ、そういえば、キルゼムを倒したのって、そうか、そう繋がるのね…!!? 当時バラまかれた号外でたくさん名前を見たわ」
ユディくんが変な顔をする。
「ええ…? 名前よりも、二つ名の方が独り歩きしているのか。ギュギュはどんな噂を聞いたって?」
「そうね、母親が子供に、『悪いことをしたら圧殺が来るのよ?』って脅してたのは見たコトがあるわ」
「略称がかえって物騒な雰囲気を助長していますね~~!?」
妖精ちゃんがやっと喋ったと思ったら、それだった。
そうこうしているうちに接岸作業が終わり、ユディくんは急いで騎士数名へと荷運びの指示を出しに行く。
あたしもリコリネさんも手伝って、ちゃっちゃと作業が進んで行く。
賢者ウルナートの文献も、せっかくだから世に広めようというコトで、貰っておいた。
物資を集めるのには、あーんなに時間がかかったのに。
ウソみたいに、あっという間に片付いていく。
とはいえ、なんだかんだでもう、夕方が近い。
あたしは、なんにもなくなった賢者の洞窟を、ぼんやりと見つめる。
なぜだろう、全部全部うまく行ったのに。
ものすごくさみしい。
いや、そんなハズはない。
ここから、あたしの人生は花開いて、全部うまく行って、世界中に名がとどろくのだから。
全部、あたしの望み通りだ。
心躍る展開でしかないハズなのに。
たくさんの思い出が、目まぐるしく頭の中を駆け巡る。
ペチュを助けてくれて、いろんなコトを話して、たくさん笑って。
困った顔をしたり、怒るふりをしてみたり、感情を隠さずに見せてくる。
全部全部、ユディくんとの思い出だった。
そんなハズはない。
あたしは、ユディくんの、言ってみれば顔が好きだったハズだ。
王子様みたいって心の中で勝手に盛り上がって、それ以上でも以下でもなかったハズなのに。
「ギュギュ、名残惜しいのかい?」
隣にユディくんが立って、顔を覗き込んでくる。
ユディくんは、ハっと顔をこわばらせた。
「ギュギュ…!?」
「え……?」
あろうことか。
あたしは、泣いていたらしい。
慌てて拳で乱雑に顔をぬぐう。
「な、んでもない! チョット、忘れ物! 先に船に行ってて!」
逃げるように走り出した。
後ろから聞こえるユディくんの声は、もう遠い。
「あ、ギュギュ!? ちょ、リコリネ、リルハープと一緒に船に行ってて!」
あたしは、メチャクチャに走り回った。
本当は、なぜだか、わーっと叫びたかった。
でも、それは無理だ、巨獣に見つかる。
あたしは、ユディくんたちに迷惑をかけたいワケじゃない。
このよくわからない気持ちを何とか収めて、なんでもないって顔で、早く船に戻らなければ。
だけど、ユディくんはきっと、あたしを追いかけてくるだろう。
困ったコトに、そういう人だ。
追いつかれる前に、泣き止まないと。
なんとか、なんとか違うコトを考えないとと思うのに、ユディくんのコトばかりが頭の中を駆け巡る。
あたしは、ようやく足を止めた。
そこは、夕暮れに差し掛かりはじめた、『空を映す花畑』だった。
めちゃくちゃに走ったハズだったのに、ちゃっかりあたしの足は、思い出の光景を求めていた。
いや、そもそも、この島に思い出以外の光景なんて、無かった。
「……っ」
もう、どうしようもないくらい、逃げられない。
色々な事を話した。
いや、あるはずだ、全然関係ないコト。
気分転換になるようなコト、どうでもいいコト!
考えろ考えろ…!
ああ、大金持ちになれば、感情を制御できるようになるのかしら…!!
今は自分がもどかしい!
くそっ、あたしのバカ、悲劇に浸る材料にユディくんを使うな…!!
あたしのモットーは、『人生は演劇』なのに!
どーしても、今この大事な瞬間で、演技ができない…!!
一人で勝手に詰んでいた、その時。
ふと、突然に、ユディくんの言葉が浮かぶ。
(そういえば最近、閃の大陸では、この日のことを……)
「エイプリル……」
呆けたように呟いたと同時。
「ギュギュ!」
息せき切らせたユディくんの声が、背後からした。
あたしは、返事もせずに、振り返りもしない。
ユディくんが呼吸を整える音がする。
だけど、そこからしばらくたっても、ユディくんも何も言わなかった。
それはそうだろう。
きっと、今何が起こっているのか、わかってもいないはずだ。
「……ギュギュ……」
それでも、ユディくんはあたしの名前を呼んだ。
それだけだ。
あたしは、問い詰められても当然のコトをしてるのに。
こんな時まで、ユディくんは優しかった。
「あたしね!」
語気を強くそう言って、前を見たまま。
その後、ようやく、ユディくんの方を振り向いた。
「あたし……ユディくんのコト……大嫌いだったんだ……」
ぼろぼろと涙がこぼれる。
「初めて助けてもらった時から、ずっと……大嫌い……」
「ギュギュ…?」
ユディくんは、戸惑うような表情を見せて、気分を害した様子は微塵もない。
そして、いつものように、慎重に、思案するような間を空けた。
あたしはもう、ユディくんの顔を見ていられなくて、視線がどんどんと下がってしまう。
その時、ユディくんが、ハっと何かに気づいたように、硬直する。
それからしばらくして、指が彷徨うのが見える。
正確に言うと、今の俯いたあたしの視界には、ユディ君の指しか見えない。
夕暮れのセピア色が、辺りを満たし始めた頃。
やがて、ユディくんは…。
ぎゅっと、指が白くなるまで、つらそうに、こぶしを握った。
「ギュギュ、僕は……」
息を吸い直す音。
「僕は…、君を、世界でいちばん、大事に思っている」
「………」
「これから先も、ずっと。君だけを、見ていくだろう」
シャリン、シャリンという音とともに、雲のすき間から、オレンジ色の光が降ってくる。
夕暮れの、明かり雪。
あたしは、顔を上げる。
「……知らなかったわ」
「………」
ユディくんは、とてもつらそうな顔をしていた。
あたしは、柔らかく微笑む。
「ユディくんは、残酷ね」
「……ギュギュ、」
ドッ!
ユディくんがそれ以上何かを言う前に、あたしはユディくんの胸の中に飛び込んだ。
ほかに、嗚咽をこらえる方法が、思いつかなかった。
ユディくんは、優しく抱きしめてくる。
そして、あたしが泣き止むまで、背中をずっと撫で続けた。
こうして、あたしの初恋は終わった。
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船に帰ると、リコリネさんと、リコリネさんの肩に乗った妖精ちゃんが出迎えてくれた。
が、なぜか、妖精ちゃんに涙の跡がある。
あたしも妖精ちゃんも、お互いに追及されたくなかったので、そこからはフツーに振る舞った。
今日はユディくんもあたしも、早々に船室で休ませてもらうコトにする。
リコリネさんは、「見張りはお任せください、この時を待っていました」と張り切っている。
船で襲われるコトなんて、滅多にないような気がするんだケド……!?
「そうそうユディくん、叡智の街の賢者だっけ? ホラ、こないだ話してた人」
数日後、海峡大橋が見えた頃には、もうあたしたちはいつも通りだ。
甲板の上にて、四人で和気あいあいと会話を弾ませている。
「ああ、うん、ライサス先生ね。どうかした?」
首を傾げるユディくんに、あたしは胸を張った。
「何か届け物があるなら、あたしがドーンと渡しておくわよ! どーせ物資をあすこの研究者に届ける予定だしね。ついでって言ったら言い方が悪いケド」
「まあ~~、そうですね~~、そういえばギュギュは運び屋みたいな職業でしたっけ~~」
「そーゆーコト! 妖精ちゃんもユディくんも、久しくその人に会ってないんでしょ? 言伝があるなら、それもあたしに任せちゃっていいわよ! 二人とも筆不精っぽいしね?」
「いやいや、筆不精はリコリネの専売特許だからね。僕がその称号を奪っちゃ悪いよ」
「む……。お言葉ですが主、私はもはや、かつての私ではありません。弱体化と引き換えに、筆まめを手に入れました。日記もなんと、新しいものになったのですよ。今日も、テリオ殿の屋敷にお邪魔した暁には、ガッディーロへと一筆したためる予定です」
「待ってリコリネさん、アレで弱体化って本気で言ってたの…!?」
あたしは思わず横やりを入れてしまうくらい、そこが気になった。
「はい。以前の私であれば、あの趣味の悪い色をした獣など、脳漿を撒き散らすほどに四散させていたでしょう。しかし、原型が残っていましたからね。おそらく上手く着地を決めれば、あの獣は生き伸びているでしょう。まだまだです」
「そんなに殺したかったってコト!?」
「当然です。主とリルハープ殿に害をなすなどと、何者であろうと許されることではありません」
「はー。ブレないわね……頼もしいわ」
あたしが感心したように言うと、ユディくんは興味深そうに、リコリネさんが背負っている大槌に目を向けた。
「というか、リコリネ、武器を変えたんだ?」
「はい。鎧と同じ金属を使っておりますので、今度は武器を失うなどという失態を見せることはないでしょう。それにこれならば、正真正銘、圧殺できますからね。以前は称号詐称を若干気にしておりました」
「そんなところを気にするのはリコリネくらいですから~~!?」
「みんな、そろそろ着きそうよ! あーあ、ペチュ、あたしのコト忘れてないといいケド……って、アレってテリオさんじゃない…?」
あたしの言葉に、全員どれどれと、近づいてくる船着き場に目を向ける。
やっぱりそれはテリオさんで、彫像のようにどっしりとした構えで、船の方を見てきている。
「あれは歓迎されているのですか~~?」
妖精ちゃんが困惑している。
リコリネさんは、フォローするように言葉を継いだ。
「テリオ殿は、本当のところは主を巨獣の島まで迎えに行きたがっていましたからね。しかし隊長業務が忙しい時期で、それもかなわず。私が彼の屋敷を訪れた時には、主のことが心配で、夜もあまり眠れてはいないようでした」
「そこまで…!!?」
ユディくんがひたすら戸惑っている。
なんか、気のせいかもしれないケド、テリオさん→ユディくんと、ユディくん→テリオさんの気持ちの大きさに、ものすごい差異を感じるような……?
前者が砂糖で、後者が塩ね。
「あーあ、ホントならあたし、ここでパっとサヨナラできたらカッコいいのに!」
あたしは、ウーンと伸びをする。
ユディくんが、「こら」とたしなめてきた。
「ここから報酬のこととか、『ギュギュの地図』の扱いについて詰めて行かなきゃ。僕も明日中にライサス先生に伝言を頼むからさ。もうちょっと我慢してほしい」
「くふふ、ジョーダンよ! あたしも、採取した素材をどうやって運ぼうかーとか、段取りが必要だしね。あとチョットだけお世話になるわ。…そうそう、ユディくん、ひとつだけ、約束をしてほしいの」
あたしは軽い口調で言ったハズなのだが、ユディくんはとても真剣な顔をして、こちらに向き直ってくる。
「あたしのコトをね、今後タイジョウで調べるのはやめてほしいの」
「…どうして?」
「当然でしょ? わざわざ調べなくても、あたしの方から勇名をとどろかせるもの!」
胸を張ってそう言うと、ユディくんは、ふっと、いつもの優しい顔で笑った。
「そうだね、それはとても君らしい。わかった、約束するよ。…ギュギュ、僕からも、ひとつ話があるんだ」
「なーに?」
リコリネさんも妖精ちゃんも、あたしたちをじっと見守っている。
ユディくんは、何かを思い出すような目をしている。
「…僕にはね。ひとりだけ、とても大事な友達がいたんだ。だけど、目の前で死んでしまった。急にこんなことを話されても困ると思うけど…」
「…続けて?」
「…それで、僕は。別に、拗ねているわけでも、怖がっているわけでもなく、ただジンクスみたいなもので、絶対に、二度と友達は作らない、って思っていたんだ。死んでしまったら困るから」
「…過去形なのね?」
「うん。ギュギュと会って、たくさん話して、なんだかそれがバカバカしくなった。君は僕に無い言葉や音をたくさん持っていて、尊敬できるし、心を許せる相手で、話していて楽しい。僕には、そういった人と、わざと距離を取ることは不可能らしい。だから…」
「ストップ! そこまでよ」
あたしはわざと、あきれ返った表情を作ってユディくんを見上げる。
「最初に言ったハズよ。あたしとユディくんは、『仕事上で最高のパートナー』だって。それ以上でも以下でもなくて、でも、あたしにとっては、唯一無二で、絶対で、他に変えが効かない。ショックだわ、ユディくんもきっと、同じように思ってくれてると思ってたのに」
ユディくんは、ちょっと驚いた顔であたしを見る。
それから、色々な感情が綯い交ぜになったような顔で笑って、あたしに手を差し出してきた。
あたしは、それが当然のように、ユディくんと握手をする。
「あたしのコト、忘れちゃイヤよ?」
「当たり前だろ? 君と出会えたことを、誇りに思うよ」
手の平から伝わってくる熱が、とても暖かかった。




