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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第二章 ふたりめ
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06潤の賢者

「こっちはダメみたいだ、テーブルの上に放置してあったからか……。日記みたいだったから、読みたかったな。なんていうと人間性を疑われそうだけどね」


 洞窟の小部屋で。

 ユディくんはまず、石の台の上にあった冊子を手に取ろうとした。

 しかしそれは、端に触れただけで、ぼろりと崩れ落ちていくほどに劣化していた。


「あら、いいじゃない。あたしの中では、死者に人権はないのよ。あたしの前で未来永劫プライバシーを守りたかったら、不死の体を手に入れるべきね!」


 そう言いながら、あたしは木箱の方に身をかがめた。

 そろりと蓋を開けていく。


「…こっちは保存状態がマシね。無事みたい。何かの資料みたいだケド……」


 三人で、紙束ばかりの木箱を覗き込む。


「まあ~~、インクがかなり薄れてしまっています~~っ。かろうじて読めそうな感じはしますが~~」


「さすがに明かりをつけた方がよさそうだ。こっちは…使えないか」


 ユディくんは、テーブルの上の錆まみれになったカンテラを諦めると、腰元から自前のカンテラを取り出し、火をつけていく。

 その間に、あたしは慎重に紙束を取り出し、そーっとテーブルの上に置いていく。

 丁寧に扱った甲斐あって、欠損は起こらなかった。

 別の木箱には、植物紙では足りなくなったのか、薄い色の木肌をそのままメモに使うような木簡も見つかる。

 最後に、束ねられていない、大きめの一枚を取り出す。

 こちらは植物紙ではなく、キチンとした羊皮紙だった。


「…あ! これ、この島の地図よ!」


 羊皮紙を広げて、思わず声を上げる。

 ユディくんは、テーブルにカンテラを置く。


「ということは、やっぱりこの人もこの島を調査していた…?」


「右下の端っこに、サインがありますよ~~! ウルって書かれています~~!」


 それは本当に小さい字で書いてあったので、妖精ちゃんじゃなければ見逃していたかもしれない。

 あたしは、首を傾げた。


「ウル…? フツーに考えたら、サインだし、名前よね」


 ユディくんは、思案気に地図を眺めていた顔を上げる。


「……そうか! うるうの賢者ウルナートだ!」


「…ええっ、ウルナートって、オオヤシガニとか、動植物の生態調査に人生を費やした人よね? なんでこんなトコに??」


「最終的に行方不明だったんだよね。たぶん、自らの最期を探求に費やしたんだ。誰のためでもなく、自分のために、思う存分に研究をした。だから、どこに発表するでもない資料を、こんなにも……」


「まあ~~っ、賢者とは変わり者が多いのですね~~! 寂しくなかったのでしょうか~~?」


 妖精ちゃんの言葉に、あたしは首を振る。


「あたしには、チョットだけわかる気がするわ。彼も、人間があまり好きじゃなかったんじゃないかしら。きっとのびのびとここで生涯を終えたんでしょうね」


 ユディくんは、茣蓙に横たわった白骨に視線を移した。


「そう……か。…それでも、僕はこの骨を埋葬するよ。きっと余計なお世話と怒られるだろうけどね。そして、この資料の情報を、遠慮なく貰うよ」


「…手伝うわ。感傷に浸るためでもなく、人としてのただの義務として」


 あたしの返答に、ユディくんは、「ありがとう」と微笑んで、茣蓙ごと骨を運び始める。

 あたしと妖精ちゃんはいち早く洞窟の外に出て、骨を埋められそうな場所を吟味した。

 遠くを見渡せる場所がいいだろうという結論になり、洞窟の真上にある、岬の先端に決まる。


 あとは、意図的に無言になって、黙々と作業を進める。

 精霊様に死者を送り届ける祈りをささげる時だけは、真剣に声を出した。


 そうして小さな埋葬は終わり、岬の上には小さなお墓が建った。



-------------------------------------------



 そこから丸二日の間、あたしたちは資料を読みふける日々を過ごした。

 ただでさえ薄れている状態のインクが消えてしまう前に、念のため、ざっとでも頭に入れておこうというコトだ。

 ユディくんは仮に、この資料をウルナート文献と名付けた。


 ウルナート文献は、すごい…という感想しか抱けない。

 例えば、これだ。


===========================================


・岩獅子

 タテガミや肩から前足にかけてが岩になっている生き物。

 タテガミは靡かず、オス同士の力の誇示の為にぶつけ合い、縄張り争いにおいて、より固さを競い合っている様子。

 大きさは、最大で二階建ての家屋ほど。

 タテガミをぶつけ合う度に空気が震えるも、この島の岩盤は非常に硬く、土は固く粘り気のある粘土質な場所が多い為、島自体が揺れることはない。

 メスは前足のみが岩になっており、子供を守ったり、狩りをするために振るわれているようだ。


===========================================


 こんな感じで、数十種類の島の生物が、昆虫や植物に至るまで、事細かに書き記されている。

 少なくともあたしは、島の土壌についてなんて考えたコトもなかった。

 これが、賢者の視点…と舌を巻く。

 これを、誰に発表するでもなく調べ続ける胆力は、一体どこから来たのだろうか。


 やはりあたしたちが見かけた生物はほんの一握りでしかなかったらしく、角イノシシやアリクイ、黄金カブトなど、書き記された内容は、枚挙にいとまがない。


「というか、あの時々ドーンドーンって音がするのって、岩獅子がぶつかり合ってた音なのかしら?」


「うん、そうだと思う。二番目に怪しいのは、角イノシシだね」


「見てくださいご主人サマ~~、ウルナートの時代には、リルちゃんたちが登った亀の死骸、あれがこの島のボスだったらしいです~~!」


 資料を読むのには、妖精ちゃんも大活躍していたりする。

 とはいっても、必要事項を書き写すのは、もっぱらユディくんとあたしの仕事なのだが。



 途中で、地図の場所に食料にできる果物があるかどうかのチェックに行ったり、ついでに寝床にできそうな大きな広葉樹の葉っぱを集めたり、水浴びは欠かさずにやりに行ったり、この『賢者の洞窟』を中心にウロついていたら、あっという間に日が経っていった…という感じだった。


 次の日の夜には、明日の予定を話し合う。


「問題は、巨獣に見つかった時にどうするか…だね。実は、あの砂漠モドキを見るまでは、倒してもいいだろうくらいに思っていたんだけど」


「あら、あたしは今でもそう思ってるわよ。文字通りちっぽけな存在のあたしたちが何をしようと、この島の生態系に影響が出るとも思えないもの」


「あまり厳密に決めずに、なるべく避ける、くらいの気持ちでいいのではないでしょうか~~」


 妖精ちゃんの言葉に、ユディくんは頷いた。


「そうだね、それでいこう。臨機応変に。じゃあ、明日のことなんだけど。ウルナート文献のおかげで、この島全てを踏破する必要はなくなったと思う。だから、この賢者の洞窟を拠点にして、明日から森の方にちょっかいをかけてみようと思う」


「そーね、異論はないわ。いつか通る道だもの」


「そうですね~~。ただ、明日は様子見で、浅い部分だけ見て回るほうが良いと思います~~っ」


「確かに、じっくり攻めた方がよさそうだ。じゃあ明日は、森の浅い部分で、特に足元を見て行こう」


「足元??」


 ユディ君の言葉を聞いて、あたしが首を傾げると、返事をしたのは妖精ちゃんだった。


「ギュギュ、素材集めのことを忘れたのですか~~? 一番の狙い目は、抜け落ちた鳥の羽根だと思うのです~~!」


「あ! そうだったわね、ウルナート文献が面白すぎて、すっかり失念してたわ!」


「あははっ! 僕も、もう半分くらい目的を達成した気分になっていたよ。巨獣の体の一部を集めても、この拠点に溜め込めるからね。ガンガン拾って行こう」


 三人で、やる気と共に頷いた。




 そして、翌日。


 大きな大きな樹が林立している。

 その間を歩いていると、自分が小人になったかのような錯覚を覚えた。


 しかしなんと、探索自体は驚くほど難航しなかった。

 ウルナート文献と、残された地図のおかげで、あたしたちは完全に優位性を保てていたのだ。

 文献を書き写したあの作業は、入念な下調べ、と言い換えるコトができる行動だったようだ。


 嗅覚の鋭い生物が居た時のために、地図にあった香りの強い花の群生地をまず通り、人間の匂いを消す。

 森の浅い場所というラインを判断するのは、妖精ちゃんだ。

 少しずつ、少しずつ、ウルナートの地図が描かれた時代から変化があるかないかを確かめて行きながら、神経を研ぎ澄ませて進んで行く。


 結果としては、物騒な獣に遭遇することはなかった。

 例え遭遇したとしても、常に隠れる場所に当たりはつけていたし、体格差もあるので見つかりにくいだろう。

 が、手に入れたのは、黒い鳥の羽が一枚だけだった。

 一枚だけなのに、あたしの背丈と同じくらいの大きさで、存在感は物凄い。

 だけど、ちょっと楽勝ムードが漂っていただけに、若干残念だった。


 夕方までには食料採取と水浴びを終えて賢者の洞窟に戻り、作戦タイムだ。

 ユディくんは小さく唸っている。


「今日は、扇状に探索をしたからね。明日は一本道をまっすぐ進んでみるのはどうかな。まだ早い?」


「ウーーン…! ムズかしいところね! 下手すれば失敗に直結しそうな決断って、これだから嫌なのよ」


「なんとか擦り合わせのラインを探りたいところですね~~!」


「じゃあ提案なんだけど、採取するのは植物の種とかも一緒にどうかな? かなり大きいと思うし、それだって研究者にとっては垂涎ものだと思うんだ」


「ああそーね、要するにこの島のすべてが珍しいワケだものね! いいわ、じゃあ明日は別ルートを行って、研究者が喜びそうなものなら何でも採取ってコトで!」


「そうですね~~、まっすぐは、その後にしましょう~~!」



 そうして、少しずつ島を攻略していく。

 ところが、生物の一部じゃなくていい、とか思った瞬間に、兜鹿の抜け落ちた角とか、幼イノシシの生え変わった牙とかが見つかったりした。

 ウーーン、僥倖と言えば僥倖なんだけど、微妙にフクザツね!



 そして、明日はいよいよ森の奥まで行くコトとなった。

 妖精ちゃんは、やはり気を張って疲れていたのか、貝殻のベッドで早々にすやすやしている。


「ユディくん。あたし、ユディくんの能力があれば大丈夫だと高をくくってるんだケド、問題はあるかしら?」


 念のための作戦会議だ。


「んー…。精霊の祝福の扱い方は、この二年で格段にスムーズになっているから、よっぽどのことが無い限り、倒れたりはしないと思う。ただ、ひとつだけ、明確に自覚している弱点があるんだ」


「聞かせて?」


「つまり…。『目の前で大切な人が死んだ時、その場で冷静に文章を頭の中で構築することができるか?』って部分だね」


「……なるほど。人である限り、ムズかしい部分ね」


「うん…。実際、僕は詰んだことがある。自分なりに頑張ってみてはいるんだけど、そういう部分をタフにするのはとても難しくて、正直どう修行すればいいか、まだわかっていない。そんな時、リコリネのことを思い出したよ」


 あたしは目線で、言葉の先を促した。


「リコリネはね、瞑想と称しての戦闘シミュレーションで、よく僕のことを何度も何度も殺害していたんだ」


「あたしリコリネさんのコト段々好きになって来たわ……ぶっ飛び過ぎてて」


「ホント、最初は何事かと思っていたんだけど。でも、今思えば、あらかじめそういう覚悟をしておかないと、いざという時に動けないと思っていたのかもしれないなって。まあ、だからってとてもじゃないけど真似はできなかったよ……辛過ぎる」


「…でも、できるだけのコトはしたんでしょ?」


「もちろんだ。少なくとも、何かに追われたり、予想外の襲撃を受けた時に取り乱したり…っていうことだけは、絶対にしないようにしようと思っているよ。ここだけは、意地でもタフにしてみせるし、あらゆるトラブルを想定しながら動いてみせる」


「…くふふ! じゃあ、あとはあたしがユディくんの目の前で死なないようにするだけね!」


「あははっ、そうだね、頼むよ。ギュギュの能力は?」


「あたしの能力の弱点は、言ってしまえばパワー不足ね。一撃で倒すとかはムリ。補助とか、攪乱とか、そういうのが向いてるみたい」


「そっか。でも頼るよ?」


「まかせて! ユディくんの力の使い方よりは、時間もかからないしね!」


 英気を養うという言葉があるが。

 あたしにとっては、ユディくんとの会話が、それだった。

 よし、やる気出てきた!

 待ってなさいよ、巨獣の森!



-------------------------------------------



 なんていうか…。

 順調に行くときは順調に行く。

 それはわかる。

 でも、そうじゃないときに、畳みかけるようにアレコレと苦境が襲ってくるのは、本当にやめてほしいわ!

 順調な日が一個も無くていいから、一日につきイベント一個に分散してよ!

 その日、あたしは心からそう思った。



 その日は、翡翠色の空の下を、妙にたくさんのトンボの群れが飛んでいた。

 下から見上げているからかもしれないが、そのトンボたちは、この巨獣の島の生物にしては、そこそこ小さいように見える。

 その美しく透き通った羽は、妖精ちゃんの羽と瓜二つと言っていいほどに、色とりどりに透き通った色合いを見せている。

 たぶん、そんなコトを妖精ちゃん本人に話したら怒り出すだろうから、こっそりと胸の内に留めておく。


「なんだろう…? 水辺を追い出されたのかな」


 ユディくんは、トンボたちを見上げながら、思考を巡らせているようだ。


「ウルナート文献によると、結構な頻度で縄張り争いがあるらしいしねー。その関係かもしれないわ」


「縄張りですか~~。現在のボスはどんな生き物なんでしょうね~~」


 思い思いにしゃべくりながら、慎重に先を進んで行く。

 今日は真っすぐに進んで、森の中に切り込む日だ。

 プロを名乗るあたしとしては、絶対に油断なんてしてられない。


 いよいよ浅い場所を抜けて、森の奥へと踏み込んだ。

 妖精ちゃんの案内が無くとも、ここからが森の奥だと、なんとなくわかる。

 空気が、少し変わった気がするから。

 ひんやりとした空気は、吸うと味がするほど濃い。


 あたしたちは、なんとなく口数が減った。

 緊張してたのかもしれないし、静謐を壊したくなかったからかもしれない。

 だが、その静けさは、意外なものによって壊された。


   ガサッ、ガササササッ!!


 木々の合間から、何かが飛び出してきた。

 あたしたちはその瞬間に身を寄せて、大きな樹の後ろにさっと身を隠す。

 だけど、あたしは飛び出してきた何かを、一瞬にして見失った、と思った。

 全然異物が見当たらない。


 だが、違った。


「「「!!?」」」


 三人で、声を抑えて驚いた。


 ワッサワッサと、大きな笹が歩いている。

 いや、ちがう。

 歩くどころか、ヘイカモンというように、どこかの方角を見て、ポージングをとっている。

 ウルナート文献にあった、歩き笹だ。

 笹に擬態した生き物なのか、はたまた笹が動物のような構造に変化したのかはわからずじまいのようだったが、そのわからなさが心をわしづかみにしたようで、ウルナートのお気に入り生物の一つだそうだ。


「まずい、白黒が来る! 一旦ここから離れよう!」


 ユディくんが、有無を言わせずにあたしの手を取って走り出した。

 反対の手では、妖精ちゃんが零れないように、しっかりと胸ポケットを押さえている。


「白黒…? …あ、文献の! 白黒熊ね!?」

「どうやら僕らは食事タイムにお邪魔してしまったみたいだ!」


 背後を振り返ると、ドーンという音とともに木々が薙ぎ倒され、建物くらい大きい白黒熊が、ものすごく好戦的な鳴き声を上げて、獰猛なファイトを繰り広げようとしていた。

 互いの命を賭けた、食事バトルだ。

 衝撃音が響くたびに、どこからか、驚いた鳥たちがバサアっと飛んで行く音がしたし、大人の頭くらいあるサイズのハエが隣を逃げていくし、ボールサイズのダンゴムシが、大きな落ち葉の隙間からコロコロと転がっていく。

 もはやあたしたちの周辺は、てんやわんやの大騒ぎだ。


 幸い、小さなあたしたちをわざわざ気に留める生き物もおらず、逃走に集中するコトができた。

 だが、背後で繰り広げられる乱闘音と、なかなか距離があかない。

 無理もない。

 あたしたちが夢中で走っても、彼らにとっては数歩分の距離だ。


   ガッッ!!


「うあっ!!?」


 いきなり、片足が何かに引っかかって、転んでしまった。

 咄嗟に、ユディくんを巻き込まないように手を離す。

 …信じられない!

 だって、足元はちゃんと見てたし、焦りも油断もなかったのに!

 だが、脛の部分が、確実にしこたまぶつけたぞと主張するかのように、ジンジンと痛い。

 素早く足首に触れ、捻ったりしてないのを確認しながらも、転んだまま動けない。

 そのくらい痛い。


「ギュギュ!」


 どうやらユディくんも同じだったらしく、なぜあたしが転んだのかがわからない、というような顔で、ザッと周囲を見渡しながら駆け寄り、あたしを助け起こしてくれた。


 数瞬後。

 あたしが足を引っかけた場所に、ぼんやりと何かが浮かび上がってきた。

 丸太のようなカメレオン。


「ウソでしょ!? こんなときに!?」

「ギュギュ、悪いけど担ぐよ!」


 ぎゃあ!!!!!?


 ユディくんに、抱き上げられた。

 しかも、軽々と走り出す。

 こんな時に、と、またもや思う。

 こんな時に、あたしは顔が赤くならないように必死に我慢しなければならなくなった。

 心臓が早鐘を打つ。


 これ、ひょっとして何かの罠なのかな。

 あたしにとって都合が良すぎるし。

 そもそも、あたしに恨みを持つ人物が差し向けた暗殺者なのかな、ユディくん。

 あたしにとって都合が良すぎるし!


 ぐるぐると、そんなしょーもない考えが頭を回り始めたのだが、次の瞬間に吹き飛んだ。


   ガオオオオオオゥッ!!!


 白黒熊と、その食糧との戦闘が、少し遠のいたかな、と思った時に、全く別の鳴き声が、横合いから浴びせられた。


「くっ…!!」


 ユディくんは、苦しげな声を上げながら、急いで反対側に方向転換をする。

 どう聞いても岩獅子の吠え声だったからだ。


 だが、あたしを抱えた上で、無理やり方向転換をしたがために、ユディくんのバランスは崩れてしまった。

 これは本当に仕方がない。


「……っ、ギュギュ! リルハープを!」

「妖精ちゃん!」


 あたしはユディくんに言われるよりも早く、妖精ちゃんをユディくんの胸ポケットから空中へと放り投げる。


「~~~~~~~っ!!」


 妖精ちゃんは、声にならない声を上げて、空中でパタパタと体勢を整えていく。

 間に合った。


 あたしとユディくんは、そのまま坂を転がり落ちる。

 いや、そこは坂ではなかった。

 河川敷の土手みたいなものだった。

 転がり落ちながらも、ユディくんはあたしを衝撃から庇うように抱きしめている。


    バッシャアアアアアンツ!!


 派手な水飛沫が上がり、あたしたちは巨大な河川の水流に流されていく。

 視界の端で、パタパタと必死にこちらを追いかけてくる妖精ちゃんが見えた。


 その時、あたしは見た。


   ガオオオオオオゥッ!!! (バサバサバサッ!)


 岩獅子の鳴き声を真似しながら飛びたつ、人間大のオウムの姿を。


「お前かーーっっ!!」


 悔し気に叫ぶあたしの声が、翡翠色の空の下、高らかに響き渡った。

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