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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第二章 ふたりめ
52/137

05巨獣の島(下)

 次の日の早朝。


 見張りの交代からそんなに時間が経ってないハズなのに、ユディくんがいきなりパチッと目を覚ました。


「ええっ、ユディくん、まだ夜が明けてないわよ?」


「ああ、うん、実は天からの贈り物を見るのが日課で…」


「日課!? それ早く言ってよ! そしたら先にユディくんに寝て貰ってたのに」


「大丈夫、気にしないで。最近わかってきたんだけど、僕は短時間の睡眠だけで動けるみたいなんだ。ちょこっと寝るだけで過ごしてきているけど、数年経っても不調が来ないし、たぶんそういう体質なんだと思う。夢も見ないし」


「体質って…。まあ、そういうカンジの人が居るってのは聞いたコトがあるケド。いいわ、じゃあ、一緒に見ましょっか、天からの贈り物。そんなに感受性が豊かでもないあたしですら、キレイって思える景色だしね」


「あははっ! ギュギュは自分のこと、そういう感じに思っているんだね?」


 話し込んでいるうちに、妖精ちゃんももぞもぞと目を覚ました。

 眠そうに目を擦りながら、パタパタとユディくんの肩に止まりに行く。

 …前から思ってたケド、妖精ちゃんは、黙ってると神秘的だし、かわいい。


 東の空が明けていく。

 隣を過ぎる風の中に、グラスをスプーンで軽く弾いた時のような、そんな涼し気な音が混じり始めた。

 紫紺色の夜の空気が陽明かりで結晶化し、小さな金色の塊になった風の一部が砕けていく音だ。


 考えてみれば、世界は毎日毎日、これを繰り返している。

 飽きたりしないんだろうか。

 いや、これに飽きるくらいなら、日が昇って沈んで、ってところから飽きるべきだろうか。

 こんなキレイなコトを、世界はずっと繰り返してる。

 きっと、サービス精神が旺盛なのね…と、やっぱり情緒の欠片もない感想しか抱けない。


 ちらりと隣を覗き見ると、ユディくんは、何か特別な感慨を持って、夜明けを見上げている。

 亀の頂といっても、やっぱり空はとても遠い。

 そんなどうでもいい感想を浮かべても、あたしはユディくんの横顔から目を離せない。

 何かを思い出しているのだろうか。

 なんとなく、深く聞くのはやめておく。


 やがて夜明けが終わり、ユディくんは何事もなかったかのように、すっきりした顔で振り向いた。


「さ、朝ご飯が終わったら、遠見筒で調査を始めよう。僕はまず東をやるから、ギュギュは西でいいかい?」


「オッケー、異論はないわ。昨日は夜だったからわからなかったケド、これで島の全貌が見渡せるといいわね。妖精ちゃんはヒマでしょうし、もうちょっと寝てたら? お昼には起こすわよ?」


「…そうですね~~、昨日はリルちゃん大活躍でしたから、今日の所はだらだらさせて貰います~~」


 言うが早いか、妖精ちゃんは花の寝床にパタパタと飛んで行く。

 ユディくんは、小声でこっそり、「ありがとう」と言ってきた。

 ホントに妖精ちゃんのこと、大事にしてるんだなあ…と、二人の関係を再認識する。




 午前中は、遠見筒での調査に時間のすべてを費やした。

 肉眼では無理だったが、遠見筒をかなり頑張って使えば、上手いコト大陸の端まで見えた。

 今日が晴れだったのが幸いしたのだろう。


 亀の甲羅の上と言ってもかなり広いので、東側担当のユディくんは、そこそこ遠くに居る。

 会話の相手も居ないので、簡易地図製作が大変はかどった。

 たぶん、実際に歩いてみたらまた変わってくるのだろうが、おおまかな形を知れるのは、かなりありがたい。


 遠くに、昨日の黒鳥が飛んでるのが見える。

 そして崖の上で、岩みたいなタテガミを持った獅子が、ガオーっと吠えてるのが、この距離でも聞こえて、チョットげんなりした。

 あんなものに見つかったら、どうやって逃げればいいのかしら。

 一瞬、ずっとこの甲羅の上で過ごしたいという誘惑が来る。

 いやダメダメ、攻略者がそんな弱気でどうする。

 弱気を振り払うように、遠見筒を覗いて見える色々な動物たちを、簡単な模写と共にメモしていく。


「ギュギュー、こっちこっち、面白い景色が見えるよ!」


 しばらくすると、ユディくんがわざわざ呼びに来る。

 「なになに?」と立ち上がって東側について行くと、東側には、遠くの方に山があった。


「…えっ、面白い!」


 なんと、山の片側にだけ雨が降っていて、反対側は晴れている。


「そっか、雨雲が山に当たって、降り始めたのね」


「そうそう、なかなか見られない光景だよね。こういうのを見てしまうと、ずっとこの甲羅の上で過ごしたくなってくるなあ」


「あたしもさっき、同じコト思ったのよ!」


 理由は違うケド!

 でもちょっと、嬉しかった。

 ユディくんも、嬉しそうに笑う。


「ふふふ。西側はどうだった?」


「こっちは運よく山が無かったから、がんばったら島の端まで見えたわ。西側は後回しにして、先に山で全容のしれない東側から手を付けた方がよさそうよ。それにしたって、雨雲が島全体を覆えないほどの大きさとはねー」


「まったくだよ。滞在期間が一週間だったら、ロクな調査もできなかっただろうなあ。よし、じゃあ、西と東を交代しようか。南は海だし、北側で合流ってことで」


「オッケー、あたしの方でも面白い景色があったらユディくんを呼ぶわね」


「期待してる。それじゃ」


 そうやって過ごしている間にも、また昨日と同じように、ドーン、ドーンと森の方から、何かがぶつかっているような音がする。

 あれは何なんだろう?

 細かな疑問が降り積もって行く頃に、妖精ちゃんが仮眠から目を覚まし、あっという間にお昼が来た。


「あの北側にあるのって、砂浜…じゃないわよね?」


 お昼ご飯をとりながら、二人で気になるところを言っていく。


「やっぱりギュギュも気になった? 砂浜にしてはちょっと内陸にあるよね。ここから見ると、公園の砂場みたいな感じなんだけど…」


「実際行くと、たぶんそこそこ大きいわよね」


「ということは~~、物語で言う、砂漠というものなのではないですか~~?」


 妖精ちゃんの言葉に、ユディくんもあたしもびっくりした。


「砂漠…。言われてみれば…。フィクションにしかないものかと思っていたよ。そんなに温度差があるように感じないし」


「じゃあ、温度差以外の原因なんじゃない? フツーに考えても、チョット食欲旺盛な草食動物や虫が異常発生するだけで、ハゲ山でしょ」


「まあ~~! そうですね~~、考えてみれば、大きさもアレですからね~~っ」


「じゃあ、たまたま食物連鎖が上手くいかない時期があったのかな。肉食が減って、草食が増え過ぎた。生態系も複雑そうだし、それはあり得るかもしれないな」


 ユディくんの言葉に、あたしは感動した。


「そっかそっか、食物連鎖とか、そーゆー考え方もあるのね! あたし、物語で砂漠って存在を知った時から、やたら太いおじさんやおばさんみたいなものだと思っていたわ」


「??? どういう意味ですか~~?」


 妖精ちゃんが、物凄いしかめっ面をして、首をかしげてくる。


「だって、そうでしょ。すっごい太った人って、『途中で気づかないのかな』って思わない? あそこまで行く前に、なにがしか気にするコトって、絶対あるわよ。食事の量とか、お酒を控えたりとか、運動したりとか。でも、結局ああなったんでしょ? 砂漠もそうだと思うのよ。途中で、緑が減らないように気を付けたりとか、木を植えてみようとか、思わなかったのかしら? 人間が共生してるのに、なんでああなっちゃうのかなって。だから、抗えない何らかの不思議な力が働いてるのかと思ってたわ」


「一緒かなあ…!!!?」


 ユディくんが、太ったおじさん=砂漠、の図式に苦悩している。

 妖精ちゃんが、ちょっと心配そうにこっちを見てきた。


「ギュギュは、太った人に何か嫌な思い出でもあるのですか~~?」


「そうね、普段は平気なのよ。気のいい人も多いし、気っ風もいいし、何より特徴的で覚えやすいから、仕事の上では没個性の一般人より好きよ。ただ、乗合の鳥車で一緒になった時にだけ、めったやたらに気になっちゃう。狭くなるんだもの。そーゆー思いをしたくないから、あたしは一番に、稼いだお金でペチュを買ったわ」


「ペチュとは、もうちょっと感動秘話があるのかと思っていました~~!?」


「あら、あたしとペチュが居れば、いつだってそこには感動の嵐が吹き荒れるわよ!」


「まったく~~。いいですかギュギュ~~、女性は子供を産むと体型が崩れることが多いですし、そもそも生まれつき太りやすい体質の人もいるのですよ~~! デリケートな問題を茶化してはいけません~~! リルちゃんは、今日のあなたを可哀想がってあげます~~っ。誰もあなたの口さがない所を叱らなかったのですね~~って」


 あたしは、びっくりして妖精ちゃんを見た。

 妖精ちゃんは、腰に手を当てて、言い含めるように人差し指を立てている。

 確かに、メって叱られたのは、初めてだ。

 すぐに笑いが込み上がってきた。


「アハッ、アハハッ! なーんだ、じゃあ、あたしも将来的には体型が崩れる可能性がゼロじゃないのね、知らなかったわ! ざまーみろね、あたし!」


「ギュギュ、そこは笑うところなんだ?」


 ユディくんは、蔑むでもなく、叱るでもなく、純粋に興味深そうな目を向けてくる。

 あたしは、頷いた。


「あたし、物語のジャンルだと、因果応報な話って好きなのよ。悪いコトをしたら、もっと悪いコトが返ってきたり、一番好きなのは、ゲスな悪役が、もっとゲスな方法で返り討ちにあう話! スカっとしない? 今日、初めてわかったわ。あたしは、自分がそういう目にあっても、スカっとする」


「…やっぱり、ギュギュは変わっています~~!」


「そうかしら? イイコトも、ワルイコトも、ブーメランなのよ。自分の行動が…ううん、自分自身が、どこかに組み込まれているような感覚がして、楽しいわ。きっとあたし、寂しがりなのね。でも安心して? 妖精ちゃんの気に障るとわかった時点で、あたしはもう二度とデブだのハゲだのの言葉は使わないわ。コダワリもないしね。妖精ちゃん、もっとあたしのコト、叱って正してくれていいのよ?」


「まったく、ギュギュは世話の焼ける子ですね~~! いいですよ~~、リルちゃんがドーンと面倒を見てあげます~~!」


 妖精ちゃんは、あきれたような言い方をしているが、目の奥には慈しむような光がある。

 何故かあたしは、しばらく、くすくすと笑いが止まらなかった。

 ユディくんは、そんなあたしたちを、じっと見守ってくれていた。



-------------------------------------------



 午後になると、目標地点が決まり、亀の甲羅を降りて、出発するコトになった。


 なんでもユディくんが言うには、東の端の潮目に、一ヵ所だけ不自然な点を感じたとか。

 説明を受けてから遠見筒を覗いてみても、あたしにはさっぱりわからなかった。

 どの道、東に行く予定ではあったので、ユディくんは昨日と同じように音精霊の祝福をかけて隠密行動をしやすくすると、先を歩き出す。

 そう、ユディくんは、さりげなくあたしの先を歩いて、背の高い草の中を、通りやすいようにしてくれるのだ。


「上から見た時には、休憩地の候補がいくつかあったけど、これは一番近い所で妥協しくちゃならなさそうだ…」


 しばらく行ってから、ユディくんはそう呟いた。


「そーね。まだ二日目だし、ペースを上げるにしても、明日からでいいと思うわ。幸い、島の全貌はある程度掴むコトができたし。なにより、水場と食料の確保は、早い方がいいと思う。さすがに三週間も保存食は持たないわ」


「ギュギュ~~、一緒に水浴びしましょうね~~!」


 …なんとなくだけど、妖精ちゃんとは前よりも距離が近くなった気がする。

 一緒に過ごすっていうのは、そういうコトなのかもしれない。


 なんだかんだで、地上に降りた瞬間に、常に気を張った生活を続けなければならないので、目的地に着く頃には、思ったよりも疲労度が高かった。

 今日も、巨獣たちのコトは遠くから眺めるだけで済んでいる。

 たぶん、森の方に入ったら、この比ではないのだろうが。


 あたしたちが辿り着いたのは、森の近くで、小さな泉がある場所だ。

 あたしたちから見てもそこそこ小さいので、巨獣に需要があるとはとても思えない。

 実際、そこには水場を求める動物などは居なかった。


 妖精ちゃんが、パタパタと飛んで、水面を覗き込む。


「…この澄んだ感じなら、飲んでも大丈夫そうですね~~」


 お墨付きが出たので、早速あたしとユディくんは水をすくって口につける。


「!!」


 あまりのおいしさに、びっくりした。

 ユディくんもそうだったらしく、硬直している。


 なんだろう、おいしい味があるとか、そういうのではなくて…いや、ほんのりとは甘いんだケド。

 そうじゃなくて、体が求めるものをおいしく感じるって説があるじゃない? まさにあんな感じ。

 なので、お互い無言で、夢中で飲んだ。

 ふー、と一息つく。


「…なんだか…。心なしか、疲労まで回復してきたような気がするわ。美味しすぎたのかしら?」


「いや、僕もそう感じる。…ひょっとして、これが生き物の異常成育の理由…?」


「えーーっ、じゃあこれを飲み続けたら、あたしも巨大になるってコト!? 勘弁して欲しいわ!」


「あははっ、流石に成長期が終わってるから大丈夫じゃないかなあ?」


「リルちゃんは大きくなってもいいですね~~!」


「リルハープ、僕の胸ポケットに入れなくなるよ?」


「! だったら、このままでいいです~~っ」


 泉に口をつけようとしていた妖精ちゃんは、パっと飛び上がって、水辺に生えている大きな草の上に乗っかった。

 ユディくんは、真剣な顔で思案する。


「それにしても…この泉だけじゃなく、島全体の水源に何らかの力があるのだとしたら、リルハープが最初に感じていた、精霊の気配というのが無関係じゃないような気がするな」


「ほらほらユディくん、考え事は後にして! あたしたち、水浴びするんだから!」


 しっしと追い払う仕草をすると、ユディくんは慌てて立ち上がる。


「うわゴメンそうだった! リルハープ、果物の匂いは、この近くからするのかい?」


「あ、そうですね~~。ちょっと待ってください~~! ……。…あっちのほうからします~~!」


「あっちか、じゃあ行ってくるね、ごゆっくり」


 ユディ君の背が消える頃には、夕暮れのセピア色に、世界が包まれていくところだった。

 巨獣の島だ何だといっても、こういう世界の理は同じなんだなあ、と、明かり雪を見上げる。

 こうしてその日も、順調に過ぎ去った。



-------------------------------------------



 ユディくんが採ってきた果物は、腕で抱えるくらいに大きく、三人がかりで立ち向かっても、次の日の朝ご飯にもできたくらいだ。

 食糧難に陥ることはなさそう、というのは、実に僥倖な話ではあった。

 三日目は順調に地図を埋め、四日目にようやく、ユディくんが気にしていた場所が視認できる距離になった。


 そこは、島の果て…という印象を受けた。

 いや、外周をぐるっと回って行ってるわけだから、島の端っこという意味では、確かにそうなんだケド。

 それでも、草地以外の地面では必ずと言っていいほど見かけた、巨獣たちの埒外の足跡が、一つもない。

 この辺りは完全に、獣たちのテリトリーとか、習性の外側にある場所だと感じる。


 小さめの岬があるが、あたしたちが用のあるのは、その下側。

 ちょうど、島からは隠れるような、岬の裏側のふもと…といった場所。


 波打ち際に、洞窟があった。

 ユディくんは、洞窟の中に目を向けるよりも、先に海側の方を、じっと見ている。


「……人の手が入った跡がある」


「ええ? どういうコト?? ここ無人島よね?」


 あたしの問いに、ユディくんはスっと波間から見える岩を指示した。

 岩は一個ではなく、数個は並んでいる。

 船乗りが嫌う、岩礁地帯のようなものだ。


「あの工夫して寄せ集めたような岩の配置は、明らかに意図的だ。高波がこの洞窟に入ってこないように、簡易的な堤防の役割を果たしている。だから、潮の流れも不自然に変えられているんだ。ただ、元は大きな岩だっただろうけど、今はかなり波に削れているように見えるな……もう、随分と昔に作られたものなのかもしれない」


 そう説明するユディくんの横顔は、とても真剣味を帯びていて、カッコいい。


 あたしは、改めて洞窟の中に目を向ける。

 奥は暗がりの先にあり、実際に入ってみないと、全容はわからない。


「……チョット待ってて」


 腰元から、石ころ大の楽器を取り出し、指揮棒でそれに一定のリズムを与える。


   チリン、リン、リリン、リン!


「鳴り響け、トライアングルの音!」


 指揮棒をピっと洞窟へと突き付ける。

 わんわんと、余韻のような音の反響が耳に届いた。

 波の音の中に、硬質な反響音が混ざる。


「……生物の気配は無いわ。何かが動いてる音もない」


 あたしの言葉に、ユディくんは感心したように手元を見てくる。


「面白いな、探知のために音を使うんだね」


「まーね。ソロだから、こーゆーのが楽なのよ。一人で何でもできるようにしとかないと。じゃあ、行きましょっか」


「待ってギュギュ、僕が先に行くから」


 ユディくんは、返事も聞かずにさっさと洞窟の中へと入っていく。

 妖精ちゃんは、ドキドキと言葉少なに、ユディくんの胸ポケットから顔をのぞかせている。

 こういう時に、必要以上に音を立てないようにする妖精ちゃんからは、やはり旅慣れている感じを受けた。


 しばらく奥に行く。

 道は緩やかに蛇行していた。

 暗がりに目が慣れてきて、明かりを必要とするかしないか、実にギリギリのラインで。


「ギュギュ、止まって。ちょっとショッキングな光景があるから」


 ユディくんが、片手を広げてあたしを制した。

 あたしは、わざと大きめのため息をつく。


「ユディくん。気持ちはありがたいケド、それは優しさじゃないわ。あたしが何年ソロで調達屋をやってきたと思ってるの? 平気よ。今の忠告で、大体わかったし」


 我ながら、可愛げのカケラもない反応をしてしまいながら、ひょいとユディくんの肩口から覗き込む。


 なんと、洞窟の突きあたりに、人が生活しただろう跡が残っている。

 横たわった白骨死体と共に。


 だが、あたしはまず、ユディくんに向き直った。


「ユディくん。この際だからハッキリさせておくわ。今あたしたちは、とても面白い関係なの。あたしはユディくんを護衛に雇い、ユディくんはあたしに、地図の作成依頼を出している。あたしはこれを、対等な関係だと受け取ってるの」


 ユディくんは、一瞬あたしが何を言い出したかわからないように瞬きをしたが、すぐに真剣な顔をして、向き直ってきた。


「あたしはユディくんを頼ってるわ。でも、ユディくんもあたしを頼ってよ。守る対象としてじゃなく、対等なパートナーとして」


「……ごめん、僕が君を侮ったと感じさせてしまったんだね」


「あら、勘違いしないで。気持ちが嬉しかったのは本当。女の子扱いされるのは、ショージキ言って、どうしても嬉しいわ。でもね、あたしには山よりも高いプライドがあるの。プライドが高いから、恥じらいもなく盗みもしないし、犯罪に走らないし、人の役に立ってみせる人生を選んでいるの。このプライドが、ただただ女の子扱いされることを拒む。あたしは、そういうふうにできてしまってるの」


 あたしは胸を張って、ユディくんを見据える。


「ユディくん。あたしと上手に付き合いたいなら、このプライドの部分を覚えておいて損はないわ」


 そう言い張っても、ユディくんは、全然ひるまなかった。

 それどころか、スっと目を細めてくる。


「じゃあ、一つだけ質問をしようか。君は、僕に、上手に付き合ってほしいのかい?」


「………」


 今度は、あたしがきょとんとする番になった。

 しばしの沈黙が流れる。

 やがて、かなわないな、と笑みを浮かべてしまう。


「…くふふ! 今回はあたしの負けね。そんなタイクツな付き合いなんて、ごめんだわ!」


「いいや、引き分けさ。君は僕にとって、守らなければならない女の子じゃなく、いささか手強い女の子という印象になったからね」


「光栄よ。さ、続きと行きましょっか」


 改めて、二人で洞窟の小部屋に向き直る。

 白骨死体よりも、目を引くものがあったからだ。


 テーブル代わりに配置された石の台の傍に、木箱が並んでいる。

 一体何が入っているのだろうか。


「どうやら、この島に挑むような変わり者は、僕らだけじゃなかったみたいだね」


 ユディくんは、静かにそう結論付けた。

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