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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第二章 ふたりめ
51/137

04巨獣の島(上)

 巨獣の島に船着き場はないため、船は直接砂浜へと寄せられた。

 今のところ、巨獣の影はない。

 しかし、遠くに見える瑠璃色の植物が、既にでかい。

 いや、大きいので、遠くにあるように見えないほどだ。


 船を動かしてきた騎士の人は、ユディくんと二三の話をした後、すぐに船へと戻って行った。

 その間に、あたしはうーんと伸びをして、軽く柔軟体操をやっておく。

 島の空気は、植物の匂いが濃い。


 ユディくんは、真剣な顔でこちらに向き直った。


「さ、ここから三週間。まずは拠点を作る予定だったけど…。この大きさだと、ひょっとして拠点は作らずに、毎日転々と移動して行った方がよさそうかな」


「そーね。ユディくんが言い出さなかったら、あたしからそう言ってたわ」


「決まりだね。じゃあもう、ガンガン行こうか」


 ユディくんって、見た目は繊細そうなのに、結構豪胆だ。

 地図は、それぞれで簡易的なものを作る手はずになっている。

 そしてすべての探索を終えた後に、照合しようという話だ。


「ひとまず外周をぐるっと回ってみるコースを推奨するわ。見通しが悪い森は最後にしたいわね」


「そうだね。僕もそう思う…っと、リルハープ、どうした? 緊張してる?」


 妖精ちゃんは、ユディくんの肩で、妙にそわそわと周囲を見渡している。


「いえ~~…この島に上陸してから、なんだか……あっちのほうから、精霊サマの気配を濃く感じるのです~~」


 そう言って、妖精ちゃんが指さすのは、内陸の方だ。

 ユディくんもあたしも、首を傾げた。


「精霊の気配なんて、君の口から初めて聞く単語だね?」


「そ、そうですね~~、リルちゃんも初めて言った気がします~~っ。ですが、そうとしか言えないものを感じるのです~~!」


「はー、妖精ちゃんにしかわからない感覚ってコトかしら。…どちらにせよ、後回しって意見に変更はないわ。まずはこの島を様子見すべきよ」


 あたしの言葉に、ユディくんは頷いた。


「そうだね。ただ、島の中心部も、必ず探索してみる必要性が出てきたのは確かだ。お互いに、そのつもりでいよう。っと、その前に…」


 ユディくんは、持っていた旗を、ザクリと砂浜に立てる。

 深く突き入れ、それが倒れないコトを慎重に確認している。


「…よし、これが船着き場の目印だ。ギュギュ、何らかの理由ではぐれてしまったら、ここに集合って流れでいいね?」


「あら、入念ね。ありがたいわ」


「念のためだよ。使わないことを願っておこう」


 あたしは、細かいところまで気が付くユディくんの頼もしさを再認識した。



-------------------------------------------



「<それは、夜に星空を見上げた時の感覚だ。きらめきが、争うように、ひしめいている。あれが静寂というものだ。今、僕らにそれが訪れた。足音は行方不明で、周囲からは音が逃げ出し、気配はかすむ。静謐は、今日の月が、動かない月に齧られるまで続くだろう>」


 精霊道具の本を持ったユディくんの周囲に、ふわりと緑の燐光が舞う。

 まるで、暗号のような言葉だな、と思った。

 要約すると、動く月が動かない月に重なる時刻までは、あたしたちは存在や音を察知されにくい存在になった、というコトだろうか。

 答え合わせをするように、ユディくんが本を閉じてから喋り出す。


「これで、よっぽど大きな音を立てない限りは、見つからないと思うよ。まあ、巨獣は大きいらしいから、足元に居るだろう僕らが発見される可能性は低いだろうけど、一応ね」


 実際、ユディくんの声は、小声に聞こえた。

 あたしは指でOKマークを作る。



 最初は、調子を掴むためにゆっくり行ってみようというコトで、あたしたちはある程度歩いてから、地図記入タイムを取るという繰り返しで進んでいた。

 そのうち砂浜が途切れ、背の高い草むらが、あたしたちの姿をすっぽりと隠していく。

 潜伏するという意味では便利だが、一気に進みにくくなった。


 巨獣との遭遇タイムは、そこそこ早い段階でやってきた。

 正しく言うと、遭遇…ではなく、遠くからその姿を視認した、という感じだ。

 大きいので、遠くからでもフツーに見える。


 最初は、雲が低い位置にあるのかと思った。

 そのくらい大きな影が、草地の上をスーッと滑ってきた。


   ドスン!


 直後に、大きな着地音が響く。

 びっくりしてそちらを見ると、森の方から、ぽてんとモモンガが落ちてきていたらしい。

 大きさでいうと、リビングの絨毯くらいあるモモンガが。


「えっ、かわいい!」


 あたしはつい、感極まったような小声を出す。


「あれはちょっと、撫でてみたいな…!」


 ユディくんも立ち止まって、盛り上がっている。


「そうよねそうよね、毛に埋まりたいわ!」


 そんなことを言い合っていると、ユディくんの胸ポケットから、妖精ちゃんが顔を出す。


「リルちゃん的には、途方もない大きさに見えますので、潰されそうで怖いです~~!」


「あははっ! リルハープにとっては、この島はちょっと難易度が高いよね」


「でも大人しそうじゃない? 日向ぼっこに来たのかしら。それとも、向きを間違えて飛んじゃったのかしら」


 あたしは、くるくると毛づくろいをしているモモンガから目が離せない。


「試しに接触してみたくなるね。幸先がいいというか…意外に平和な島なのかもしれないな。実は、こっちの生き物も狂暴化しているんじゃないかと冷や冷やしていたんだけど」


「えっ、こっちの生き物も、って?」


 きょとんとユディくんを見ると、ユディくんは、少し難しい顔をしている。


「二年前から、各大陸で動物が狂暴化しているって情報が出ているんだ。特に、はんの大陸が顕著だったらしい。あそこは動物が多いから。最近は落ち着いてきたみたいだけど、一時期は凄かったって。ほら、ギュギュだって、オオヤシガニに追いかけられただろう? オオヤシガニがあそこまで育っていたってことは、かなりの人間を襲ってきていたって証拠だ。ギュギュが襲われたのは、その流れみたいなものだろうね」


「やーね。流れで襲われるなんて溜まったモンじゃないわ。情報通のディエルさんは、その原因について心当たりがあるの?」


「実は、ある。ただ、話が長くなるから、後でキャンプの時にでも話すよ。さあ、まずはあのモモンガをどうするか……」


   バサッ!!


 いきなり、すべてを無理やり遮るかのような、乱暴な音がした。

 それは、羽ばたきの音だった。


 見上げると、そこには影がそのまま浮いているかのような、大きな黒い鳥が翼を広げている。


   シュバッ!


 次の瞬間には滑空して、その鋭いかぎづめに、モモンガを咥えている。

 瞬く間に、その黒鳥は、翡翠色の空の向こうに跳び去って行った。


「「「………」」」


 三人で、茫然とそれを見送るしかない。


「少なくとも、肉食の生き物がいるとわかりましたね~~…」

「先が思いやられる情報ね……」


 妖精ちゃんにそう返すと、ユディくんの方を見る。

 ユディくんは、別のコトに驚いているようだ。


「…鳥って、あのくらいの大きさなんだね? もっと大きいかと思っていたよ」


「ええっ、かなり大きかったじゃない! 木こりの小屋くらいはあったわよ! どれくらいの大きさを想定してたワケ?」


「……背中に、集落が丸々乗るくらいの」


「大スケール!!」


 思わずそう言うと、ユディくんは、恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「仕方がないのですよ~~、前にそういう青い鳥の『夢』を見たのですよね、ご主人サマ~~?」


 妖精ちゃんが珍しく擁護している。

 あたしは、ウーンと唸った。


「……でも、わからないでもないかも。正確な情報が無いせいで、『巨獣』って単語が独り歩きしてる部分ってあると思う。人によって、浮かべる大きさがまちまちなのよね。現にあたしは今、あの鳥がどんな大きさであっても、受け入れてたと思うわ。ひょっとしたら、みんな必要以上に怖がっているだけな部分もあるのかもしれない」


「ああ、頭の中にあるものが一番強くて怖い……か。となると、やっぱり僕らのこの探索にはかなりの意味合いが出てくるね。まあ、最初からわかっていたことだけど」


「そうね、やりがいが増すのはイイコトだわ。とりあえず今日のところは、どんなに可愛い生き物が居ても、接触しないようにしましょう。指標ができるのも、かなりのプラス事項ね」


「ギュギュって前向きですよね~~!」


「くふふ! 図太いって言われるかと思ったわ!」


 こうして、あたしたちは気を引き締めて、島の攻略に挑み直した。



-------------------------------------------



 レポートを提出する必要があれば、あたしはこう書き記しただろう。

 『巨人が居ないのが不思議なくらいだ』と。


 たった一日で、それくらい多種多様の生き物を見かけた。


 六本足の獣が草原を駆け抜けていたり、三本の尾がある可愛い巨獣が二匹でケンカしていたり、角が兜のような形になっている鹿も居た。

 タツノオトシゴにコウモリの翼が生えたような形状の鳥(?)も見かけたし、葉っぱの裏に人の頭くらいある巨大なアブラムシが居た時は、悲鳴を上げそうになった。

 たぶん、探せば虫系はもっと見つかるだろう。

 あと、遠くから、ドーン、ドーンと何かがぶつかる音が時々響いてくるのも、なんだか怖い。


 みんな、のびのびと野生を満喫しているという印象だ。


 もちろん、生きているものばかりではなかった。


 波打ち際に、大きな岩山が見えると思ったら、それはものすごく巨大な亀の死骸だった。

 骨だけになった頭蓋骨の鼻の孔のところで、大きめのタコが生活しているのが見えたし、亀の甲羅の上には、色とりどりの花が咲いていた。


「ギブアップ! 情報量が多すぎるわ、今日はここまでにしたい」


 夕暮れが近づく前に、あたしは素直に音を上げる。

 両手をホールドアップさせているあたしを、ユディくんは優しげに振り返った。


「そういう風にちゃんと言ってもらえるのって、すごく助かるよ。じゃあ、休める場所を探そう。夜になるとまた生態系が変わってくるだろうし、…意外に、あの亀の甲羅の上は安全そうじゃないかって思うんだけど、リルハープ、どう思う?」


「そうですね~~、ひとっ走り、見てきてあげます~~!」


 妖精ちゃんは、返事も聞かずに、ぴゃーっと飛んで行ってしまった。

 まるで、頼られたのが嬉しいみたいだ。


 しばらくすると、ぴゃーっと戻ってくる。


「他の生き物が花を踏み荒らした気配は無いですね~~、タコも巣から出てこないようですし、遠くまで見渡せるという意味でも、良案かもしれません~~! ただ、甲羅の上の植物は、島に生えているのよりも、少し小さ目でした~~。ひょっとしたら、異常成育の原因は、土にあるのかもしれませんね~~っ」


「いいわね、このちょっとずつ謎が解けていく感じ、好きよ」


「僕もだ。じゃあ、行こうか」


 そこからは、ほとんど山登りだ。

 近くで見ると、本当にこの亀は大きい。

 鳥たちが普段飛んでいる空域よりも少しだけ高いくらいの位置に、頂上がある。

 登り切った頃には、すっかり日が暮れていた。


「なんとか、間に合ったわね!」


 清々しい顔で日暮れを見やる。

 が、内心では驚いていた。

 ユディくんは細身に見えるのに、あたしを補助しながら登れるくらいに、体を鍛えていたようだ。

 ひょっとしてそれも、リコリネさんを守るために鍛えあげた…というコトなのだろうか。


 そうは思うのだが、今度は胸が痛まない。

 だって、今ユディくんの隣に居るのは、あたしなんだから。

 少しくらい、この時を楽しんだっていいよね。

 いや、そもそもこの浮世離れしているユディくんに恋愛感情があるのかどうかも怪しいのだが。


「すごいな、丸一日ここで過ごしてみたいくらいだ…!」


 ユディくんは、ここから見える絶景に、感動してるようだ。


「わからないでもないわね。ユディくん、遠見筒は持ってる? あたしのを貸しましょうか?」


「あ、そうか、持っているよ。となると、ここで過ごすのもありなのかもしれないな」


「そうですね~~、一日とは言わないまでも、半日くらいなら良いのではないでしょうか~~っ。リルちゃん的には、花畑があるだけで嬉しいですからね~~! 今夜は御馳走です~~!」


 妖精ちゃんは、さっそく大きな花に腰かけに行っている。

 たしかに、地上の植物と比べると、小さ目ではある。

 これなら、巨大なハチなどの生き物が居たとしても、物足りなく思って、地上の方へ行ってくれそうだ。

 ユディくんは、感慨深そうに花畑を見た。


「なんだか…変な感じだ。この花たちはこんなに綺麗なのに、誰に見せるためでもなく、ただ咲いているなんて。この島の生き物すべてが、本当に人間と関係のない場所で、奔放に暮らしているんだなあ……」


「あら、そうね、考えたコトもなかったわ。確かに、綺麗だねって言う誰かが居ないなんて、チョット勿体ない気すらするのに。頭のどこかで、花は人間のために咲く、なんて思いこんでたのかもしれないわ。本当は誰のためでもないでしょうに」


 ユディくんは、たまに驚くほど感性が瑞々しい。

 この人といると、自分が今までどれほど深く考えずに日常を過ごしていたかがわかる。

 困ったな、好きだなあ…。

 おへそ、見たいなあ…。


 慌てて思考を振り払い、勢い込んで「さあ、キャンプを張るわよ!」と言い張った。



-------------------------------------------



 キャンプと言っても、もちろんこんなところで火は焚かない。

 ただ、腰を落ち着ける場所を探って、黙々と地図を書く時間を取るだけだ。

 驚いたことに、月明かりで十分手元が見える。

 街明かりが無いから、空の明かりがくすまないというコトだろうか。

 それとも、ただ単に空気が澄んでいるだけか、その両方か。


「よし、書けた」

「あたしも! 同時ね!」


 傍らを見ると、妖精ちゃんは疲れ切ってて、すやすやと眠っている。

 やっぱり、小さな体に、この島の刺激は大きすぎるのかもしれない。


 ユディくんは、温かな目を妖精ちゃんに向けてから、すぐに島の方に視線を移す。


「ひょっとしたら、この亀がこの島で一番大きな動物だったのかもしれないね」


「あたしも同じコトを思ってたわ。ここから見下ろす景色からだと、そう判断できるものね」


 今のところ、森の方がガサガサ揺れているだけで、あの樹の上から生き物の頭が覗いてたりはしていない。

 樹上都市の樹も大きかったが、あれはたくさんの樹が寄せ集まって構成されていたコトを考えると、目の前のこの森は、一本一本の樹が大きいため、巨大樹と言っても差し支えないだろう。


「…それで、ユディくん。生物の狂暴化の原因って?」


 ユディくんに視線を戻す。

 ユディくんは、まだ森の方を見たまま、話し始めた。


「うん…。たぶん二年前のあの日、モノノリュウが、一度目を覚ましたんじゃないかと思う」


「…モノノリュウ?」


「そう。僕が倒すべき存在。ギュギュは、モノガリって知ってる?」


「知ってるわよ」


 あっさり返すと、ユディくんは驚きに目を見開いた。


「くふふ、自分から聞いておいてその反応! よっぽど色々な人に知らないって言われてきたのね。言っとくケド、伝承とか噂とかでぼんやり知ってるってワケじゃないのよ? あたしの出身地が辺境ってコトは気づいてるでしょ。すっごくムカシに、出たのよ。うちの村に。…モノモライってヤツが」


「モノオモイね。って、訂正をすると、僕が凄く名前にこだわってるヤツみたいで、若干恥ずかしいんだけど……」


「あら、そうだったっけ、ごめんごめん! まあそれで、昔話みたいな感じで、残ってるの」


「どんな話だったか、聞かせてもらってもいいかい?」


「構わないわ。あまり正確無比なものを期待しないでくれるならね。……ある日、村の住民に、唐突に餓死者が出たの。一人暮らしの男性よ。だけど、別に生活に困窮してたってワケでもないし、小さな村だから、食料を分け合うなんてフツーにやってきていたコトだから、餓死者が出るのはおかしいの。そもそも、その人の家には、まだ備蓄された食料があったしね」


 ユディくんは、こちらに向き直って、真剣に話を聞いている。


「そこから数日たったある日、今度は窒息死をした人が出た。これも、やっぱり一人暮らしの人ね。なぜか、喉には土が詰まっていた。一人でも変死体が出るのはおかしいのに、流石にいくらなんでもこれは変だって話になって。その数日後、旅人がふらりとやってきた。事件の前にその人が現れたなら真っ先に疑われてたでしょうね。でも、事件の後だった。なんでも街の方で、この村の状況を不気味がってる、買い付けの商人の話を聞いてきたとか」


 あたしは、話の合間に保存食を一口齧り、水を飲む。


「聞き込みをする旅人へ、今度は村の子供が泣きながら助けを求めた。お父さんの様子が変だ、って。村長と共に旅人が向かうと、その子の父親が、夢中になって、スプーンで川の水をすくって飲んでいた。お腹は既にパンパンで、膨らんでいたそうよ。…で、もうわかってると思うケド、その旅人がモノガリで、モノオモイはスプーンね」


「…なるほど。どんなものでも、夢のようにおいしくなるスプーンだったのかな」


「そーゆーコト。最初の餓死者は、スプーンがいきなり無くなって、あの味を求めすぎて、何も食べられなくなっちゃったみたい。二人目は、一人目の被害者の友人だから、たぶんスプーンを盗んだのね。それで、食料が尽きた後も、なんでも口に入れていたくて、土をお腹いっぱい食べた。三人目は、二人目の死体現場を片付けた村の若衆の一人ね。たぶん、落ちてたスプーンを拾っちゃったんでしょうね。あたしの予想では、そのスプーンは高価な銀製だったんじゃないかしら。そして、大好きなご主人さまから引き離されて、怒ってたとかね」


「ギュギュの代まで語り継がれるなんて、よっぽどショッキングな出来事として胸に刻まれたんだろうね…」


「そりゃそうよ、街だったとしても大事件だったんじゃないかしら? ただ、そのモノガリへの感謝の気持ちとかは、そこそこ薄れてると思うわ。怖い話って感じに残ってるだけだったし、何か不可解な事件が起きたらモノガリを頼ればいい、って教訓の意味でしかないんじゃないかしら。で、モノノリュウって?」


「モノノリュウは、物でできた竜と言われている。その事件で言うと、モノノリュウの夢がそのスプーンに宿って、悪さをしたって感じなんだ。竜の夢は特別だから。モノガリは、その竜の夢を、元の場所に還すか、それが叶わないなら、モノを狩るのが役目なんだ」


「はー、スケールの大きな話ね。二十年は生きて来たケド、知らないコトってまだまだあるのね…。…でも、その竜が目覚めたってコト? オオゴトに聞こえるケド」


「たぶん、一度目が覚めて、まだ見る夢が残っているから、また眠りについた。だから、生き物たちの狂暴化も納まったんじゃないかと思う。いや、ひょっとしたら狂暴化をしたんじゃなくて、怯えて暴れていたのかもしれない。そして、精霊にも影響が及んだ可能性がある」


「ああ…ありえない話じゃないわね。でも、なんだって唐突に目を覚ましたのかしら。人間だって、夜中にふっと目を覚ますコトがあるケド、そういう感じ?」


「わからない。何かがあったのかもしれないけど、それを知るすべは今のところ無いから。ただ、大陸情報倶楽部を通じて、この二年でモノオモイが発生していないかを調べていたんだけど、それらしき情報が全くないんだ。少なくとも、安定して夢を見る状況にはなってないみたいだ」


「…怖いわね。世界中に影響を及ぼせるってコトじゃない? そんな強大な存在が、どこかで眠りについてるなんて。この島だったりしたら絶望よ」


「ああ、それはないよ。僕はモノガリだからなのか、モノノリュウの気配がわかるんだ。たぶん、果ての大陸に居ると思う。惑乱の大陸の方が名前が知れているかな」


「ええっ、じゃあ、ユディくんは惑乱の大陸に行く気なの!?」


「うん、必要ならね」


「…そりゃ、肩慣らしに巨獣の島を選ぶワケね。納得したわ」


「ふふふ、頼もしくなった?」


「そうかもね」


 一緒に笑った。


 本当は、そこから話し込みたかった。

 だが、見張りの交代を考えると、さっさと寝たほうがいいという話になる。


 ユディくんは、ほんのかすかな音色で、オカリナを吹き始める。

 どっちが先に寝るか、なんて、話し合わせてもくれないようだ。


 かなわないな、と思いながら、あたしは花畑の中に、ゴロンと横になる。

 オカリナを吹く横顔を盗み見て、やっぱり好きだな、と思った。

 いい夢が見られる確信がある。

 だけど、残念ながら相当疲れていたらしく、夢も見なかった。

 モノノリュウも、疲れてたから夢を見なかったのかしら。

 そんな、どうでもいいコトを思ったような気がする。

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